2021年6月29日、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がフィンランドのゲームスタジオHousemarqueの買収を完了し、PlayStation Studiosの13番目のスタジオとして傘下に収めたことを発表した。

 Housemarqueは、今年プレイステーション5専用ソフトとして発売されたTPS(三人称視点シューティング)『Returnal』(リターナル)の開発スタジオ。プレイステーション4のローンチでも『Resogun』をリリースしており、いずれもストレートなAAA(超大作)タイプの作品ではないながらも、その折々の新型ハードの特徴を引き出した評価の高いタイトルに仕上げているのが特徴だ。

 今回本誌では、PlayStation Studios側の統括責任者であるハーマン・ハルスト氏とHousemarqueの共同創設者でありマネージングディレクターを務めるイラリ・クイッティネン氏へのオンラインインタビューを実施。『Returnal』だけでなく旧作の話も交えつつ、Housemarqueのどこが評価され今回の発表に繋がったのか、今後どのような展開を目指しているのかといった点について聞いた。

ハーマン・ハルスト

SIE PlayStation Studios 統括責任者。

イラリ・クイッティネン

Housemarque 共同創設者 兼 マネージングディレクター

『Returnal』の成功を経てSIE傘下で次のステップへ

――まず確認したいのですが、今回はDeviation Gamesなどとの間で発表されているパートナーシップ契約と異なり、Housemarqueを傘下に収めるということでいいですか?

ハーマンはい。簡単な答えになりますが、Housemarqueのイラリと彼の素晴らしく才能のあるチームをPlayStation Studiosに迎えるというものになります。つまり完全にSIEの傘下となり、PlayStation Studiosのフルメンバーとなるということです。ようこそ、イラリ!

――なぜHousemarqueを傘下に加えようと思ったのか教えてください。Housemarqueは『Resogun』をはじめ、比較的コンパクトでアーケード的な、しかしひねりのあるゲームで知られています。何百人もいるAAAスタジオとは異なる存在です。

 一方で『Returnal』には大きな飛躍があり、AAAゲームのような感触を持つセミAAA的な非常にユニークなゲームでした。またよく見ると『Resogun』のような美しいパーティクル(粒子)が飛んでいたり、『Matterfall』や『Nex Machina』のような部屋単位のゲーム構造を持っていたり、過去作と共通する部分を見いだせるのも面白い部分です。

ハーマンHousemarqueはいくつもの理由で私たちの求めるものにフィットする、とてもエキサイティングなスタジオです。確かに他のPlayStation Studiosのスタジオと比べると小規模な部類に入りますが、それ自体は問題ではありません。地理的なものや、チームサイズやジャンルの点でも多様性をもたらしてくれることが気に入ったんです。

 それと、Housemarque特有のアーケード的で激しい戦闘による手に汗握るゲームプレイのスタイルを追求しているところもすごくいいですね。革新的で自分たちのスタイルを次のレベルに持っていこうとしているところが私としても好きです。確かな志が感じられます。

 また今は比較的小さいですが、成長しているスタジオでもあります。それによってより進化を進めてクオリティを高めていくことと思いますし、そこが(傘下に収めることによって)私たちが助けたいポイントでもあります。イラリ、あなたから何か付け加えることはありますか?

イラリはい、確かに『Returnal』以前は特にアーケード的なゲームでよく知られてきましたね。自分たちとしてはああいったスタイルのゲームの灯をケイブやトレジャーといった日本のゲームメーカーから受け継いできた感じがしているぐらいですよ。

 そしてもちろん、自分たちをどんどん更新していこうという革新的な気風があります。あなたが気がついたように、『Returnal』には実は過去25年間に学んできたすべての要素を組み合わせていて、そこに3Dの新たな次元(※)を加えたものになっています。
(※編注:それまでの作品は見下ろし視点や横視点の2Dゲームプレイと3Dグラフィックを組み合わせていたが、『Returnal』はフルの3Dアクションシューティングゲームになった)

イラリこれは(パブリッシング側であった)SIEの助けがあってできたことです。この作品をどうしようかディスカッションが始まったのは4年以上前ですが、「カメラ視点を変えてみては?」「あぁ! でもそれは開発費が一気に増えてしまうし……。」とやっていたら、ソニー側の人たちは「それは心配せず、まずはやってみてどうなるか見てみましょう」という感じでした。

 その時に私たちが新しいビジョンを追求するのを信じてくれてとても良かったし、多分それが今日いまここに私たちが取材を受けていることにも繋がっているだろうと思いますね。

――ではこの新たな関係によってスタジオには何がもたらされるのでしょう? 『Returnal』の成功を受けてより大きく出るのか、それともどちらかというとスタジオの安定が大事なのか。そしてPlayStation Studiosの中でのHousemarqueの役割はどうなるのでしょうか?

イラリよりがっしりした組織を目指して、足りない点を埋めて新たな才能をチームに加えて、しっかりとした成長をしていきたいと思います。いきなり無理に大きくするような事は考えていません。ハーマンのようにこうしたステップを経験したことのある人からも学んでやっていきたいですね。

 また『Returnal』を作り上げる際においてもさまざまな部署からたくさんの助けを頂いたので、そういった連携はこれからもあるでしょう。PlayStation Studiosが持つ大きなリソースを活用することで、必ずしもすべてをスタジオ内ですべて済むように揃えなくてもよくなります。

ハーマンその通りです。HousemarqueがPlayStation Studiosの正式なメンバーになることで、技術的なものや、あるいは開発のマネージメントに関すること、従業員の福利厚生についてなど、さまざまな点において恩恵を得られますし、また貢献できます。

 開発連携の部分についてはいま話されたように、特に3D音響などのオーディオ周りについて、DualSenseコントローラーの活用をどう次のレベルに高めるかの模索してコラボレーションがより深く進んでいます。彼らのチームは非常に技術的に高いものを持っていて、あの素晴らしい音響効果で学んだことなどを共有してくれています。

 息を呑むような世界を作り出した経験をシェアしてくれているわけです。こうした蓄積はPlayStation Studiosのナレッジベース(知見データベース)に加わり、それは(内部で)誰もがアクセスできて自由にシェアされます。これは私もワクワクしています。

Returnal
『Returnal』は、3Dの空間音響や、DualSenseコントローラーの細かな振動とともに発せられる不穏なSEなども重要な要素のひとつ。

タイトなゲームプレイの追求と、確かな技術のコンビネーション

――スタジオの強みをどう考えていますか? 『Returnal』は非常に興味深いゲームでした。多分あの高速ローディングやDualSenseコントローラーの各機能の活用がなくても結構面白いローグライクTPSだと思うんですが、でもああいった機能が「PS5のゲームならでは」のユニークな違いを生み出していました。『Resogun』も似たような所がありました。PS3版やVita版もありましたが、やっぱりPS4版のあのパーティクル表現などが単なるコンパクトなシューティングゲームではない違いとなっていた。

イラリふたつの部分があると思います。私たちはいつもゲームプレイにまず集中し、それを技術によって駆動させるというゲーム開発者であり続けてきました。

 いま『Resogun』のパーティクルについて話されたようなことは、まさにそういった部分ですね。組み合わせが大事なんです。『Resogun』からあのパーティクルの爆発効果を取り去ってしまったら、それは『Resogun』ではない。

イラリオーディオと視覚効果双方のフィードバックは私たちがとても大事にしてきたものです。次々と連なっていくゲームプレイの中で、「あー駄目だったか」とか「やった、倍率上がった」といったように、自分がうまくいったかしくじったのかがすぐにわかるようでないといけない。こうした組み合わせは私たちが得意な部分だと思いますね。

ハーマン私はHousemarqueという名前を見た時に、とても技術的に高い能力を持ったチームだということがまず浮かびます。実際、私が初めてイラリと会った時、技術的な部分について助けてもらったことがあるんですよ。

 2006年、ゲリラゲームズで『Killzone:Liberation』(日本未発売)を作っていたころの話ですが、PSPで動かすのに非常に苦戦していたんです。そうしたらイラリが7人ぐらいのフィンランドの開発のコアチームとともにやってきてくれて、ちゃんと動くように助けてくれたんです。そのころからの繋がりなので結構長いですね。

 それとあのアーケード的な、非常に緻密な戦闘の作りにもいつも敬服しています。此処から先、野心的でありながらもあのDNAは持ち続けて欲しいですね。

 もちろん、(『Returnal』で)いまでは3Dの探索できる世界を作り出していますし、そこには何層にも重なったストーリーがあり、魅力的なキャラクターがいる。そういった領域を継続的に模索しています。

 でもその核にある、これまでと共通してきた部分は世界でも一番優れていると思いますし、それを守って育んでいくためにあらゆることをするつもりです。

――交渉はどのように進んだのでしょうか? 『Returnal』の開発中に「これは」と決断するようなものがあったのでしょうか?

イラリまず私から話しましょう。話が始まったのは2020年の早い時期です。ただその時はまずゲームの完成を優先して、あとからまた話そうということになりました。それで数ヶ月前に再開して、いまこうして決まったという形ですね。

ハーマンそうですね。PSファミリーに迎えることに非常に乗り気であるということを示すのも大事だったのですが、同時にスタジオがこれまで手掛けてきたものから大きな飛躍を遂げる『Returnal』のような意欲的なプロジェクトに取り掛かっているチームの気を散らしたくなかったんです。

 大きなビジョンと野心を実現しようというのに家から働かなければいけないという状況でしたから、何よりもサポートが大事でしたし、気を散らすようなことがあってはいけなかった。なので大枠の話を何度かやりつつも、何よりもゲームを完成させて最適化することが優先だということをはっきりさせていました。

余談:フィンランドのゲーム開発を支える気風

――ところでフィンランドにはRemedyなどの優れたゲームスタジオがありますが、何かフィンランドならではの強みがあるのでしょうか?

イラリまぁ答え方はいろいろあるかもしれないですけど、言ってしまえば夏が短くて暗い冬が続くからですね!(※編注:だからコンピューターと向き合うしかないので技術力が上がる、というステレオタイプ)

 まぁそれは冗談にしても、根本的な部分を話すと、フィンランドでサバイブしていくにはテクノロジーとそれをどう活かせるかに興味を抱く必要があるということですね。

 太古の昔の話だと、MS-DOS時代からデモグループ的なメンタリティ(※)がありましたし、1980年代から90年代にかけてコンピューターが広まっていくに連れて、フィンランドのゲーム産業も徐々に形作られていきました。それ以降ではモバイルの成功もありましたね。ノキアはフィンランドから始まりましたから。
(※編注:MS-DOS=Windows普及まで幅広く使われたOS、デモ=できるだけ少ないプログラムコードで映像や音楽のついたエンターテインメント表現を競うプログラミングシーン)

 でもその根っこにはやっぱり、新しい技術を受け入れてそれで何ができるか試してみる土壌があって、ホームコンピューターも例外ではなかったということだと思います。もちろんそこには高等教育を受けた人間が多いといった、その他のたくさんの要素が噛み合わさってのことだと思いますが。

 1980年代から親が子供にコンピューターを与えるということがあったんですよ。自分もそうでした。コモドール64を85年ごろに貰ったんです。コンピューターを貰ったら何をしますか? ゲームを遊びますよね。そうして私を含めたそのうちの何人かはゲームを作るようになる。

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2017年作『Nex Machina』では、『Resogun』に大きな影響を与えたレトロゲーム『Defender』の開発者である伝説的ゲームデザイナーのユージーン・ジャービス氏とタッグを組んでいる。

――間違いないですね。当時はゲームもいまほど複雑ではなく数も多くなかったですから、もっと楽しみたいなら自分で改造するか作ってみるという手がありました。(イラリ氏「その通り」)ちなみにいまスタジオの規模はどれぐらいですか?

イラリ80人強ですね。(「それを拡大していく?」)そうですね、先程言ったようにコントロールしながらですが、人材を拡大してより多くの人を迎え、将来のタイトル開発に向けて必要なすべての領域を強化していければと思っています。

ハーマン私たちにとって北欧で初のスタジオなので、そこもエキサイティングな部分ですね。さきほど出たような話にも通じる部分ですが、ヨーロッパのあのあたりには優れた人材がたくさんいますので。

 無茶な拡大をしないというのも支持したい部分です。大事なのはクオリティであり、クリエイティブなビジョンと次のタイトルで狙う野心のレベルに見合った成長にしっかり合わせることですから。

これまでの蓄積を踏まえつつ、『Returnal』のその先へ

――『Returnal』の反応についてはどうでしたか?

イラリそりゃもう、クリエイターとしては安心のひとことですよ! 「コレはいけるかも」と感じることはあっても、出してみるまでは人々が実際どう反応するかはわかりませんからね。でも本当に毎日のように、ニュースで扱われていたり、人々のツイートでプラチナトロフィーを取ったなんてのを見ていると、これはここ数年で最高の体験です。とても満足しているし、嬉しく感じています。

ハーマンHousemarqueがパンデミックの中であれだけの意欲的な作品を届けきったことには非常に誇りを持っています。革新的で、高速なSSDによる利点を活かした死亡からの素早い復活リスタートのサイクルのゲームを仕上げて、プレイテストもしてすべてをバランスよく調整した。それを家からやったというのはとてつもないです。労力の賜物であり素晴らしい仕事を成し遂げたと思います

――では最後に日本のゲーマーに……何か。新作のことは言えないでしょうが、何を期待していいですか?

イラリ次に何があるのか、『Returnal』がヒントになるんじゃないでしょうか。間違いなくあの先を進んでいくでしょうし、素晴らしいゲーム体験、忘れがたき体験を作っていきたいですね。今言えるのはそれが全部だと思いますが……たくさん爆発もあるかもしれませんね? 操作感のいいタイトなゲームプレイもお約束できます。私たちが26年間やってきたことです。

ハーマン彼の野望を実現できるようにすること、それが私の役目ですね。Housemarqueと言えば私にとっては、タイトなゲームプレイ、飛び交う弾幕、爆発、素晴らしいビジュアルエフェクト。そこに探索できる美しい3Dの世界が重なり、しっかりしたキャラクターや重層的なストーリーが重なってきます。彼らが次にやるものを目にするのが私としても楽しみです。