フィーチャーフォンでの開発から始まり、スマートフォン用のネイティブアプリ、さらにはハイエンドのAAAタイトルまで。時代の流れに合わせてさまざまな技術を駆使し、コンテンツを支えてきた、サイゲームス技術本部のエンジニア陣4名にインタビューを実施。タイトルごとの開発秘話や、多方面から注目される内製ゲームエンジンに関するエピソード、それぞれが考える“最高の技術”について、話を聞かせてもらった。

サイゲームス10周年記念 ファミ通.com特設サイト

芦原 栄登士(あしはら えいとし)

サイゲームス 取締役/CTO 最高技術責任者/技術本部 本部長

中村 克也(なかむら かつや)

サイゲームス 執行役員/技術本部 副本部長

多胡 順司(たご じゅんじ)

サイゲームス 技術本部 Cyllista Game Engine 統括マネージャー/『Project Awakening(仮題)』ディレクター

崔 林(さい りん)

サイゲームス 技術本部 サーバーサイドマネージャー

「おもしろさ」最優先のマインドが技術力を高めてきた

――フィーチャーフォン用のゲームというと、“簡単・お手軽”というイメージが一般的だった中、『神撃のバハムート』は細部まで徹底して作り込まれていて、話題になりました。御社は創立当初から、ゲーム開発に対しては、どういったスタンスで取り組まれていたのでしょう?

芦原渡邊(代表取締役社長・渡邊耕一氏)と木村(専務取締役・木村唯人氏)と私は、もともと同じ会社でプレイステーション3など、家庭用ゲームの開発に取り組んでいました。当時は、家庭用ゲームでは自分たちがやりたいと思えるゲーム機をなかなか作ることができない状況だったのですが、そんなときにソーシャルゲームという分野に興味を持ったんです。「この分野でいま、自分たちが持っている経験を活かせば、ヒット作が生み出せるのではないか」と思いました。

 渡邊は前職でもソーシャルゲームをヒットさせていたのですが、その後、新会社を作って完全新規のタイトルを開発することになった、という次第です。最初から我々の中では「ソーシャルゲームであってもクオリティーを優先して作りたい」という思いがあったんです。それが多くの方に受け入れていただけた結果、ヒットにつながったのではないでしょうか。

最高のゲーム体験を叶える最高の技術とは? サイゲームス10年間の技術の歩みをクリエイター陣に直撃!!

――新規タイトル開発時についてお聞きしたいのですが、“新しいゲームのアイデア”が先なのでしょうか? それとも“新たに構築した技術を活かすこと”を前提に、ゲームデザインを考えていくのでしょうか?

芦原そこは基本的におもしろいアイデアありきですね。だいたい、「こういうゲームを作りたいから、それを実現してほしい。技術的な部分は任せる」という感じで開発がスタートします。開発途中でも「こうしたほうが、よりおもしろくなりそうだから作り直してほしい」といった依頼が来ることもけっこうあります。

――具体的に言いますと?

芦原たとえば、それまでは2Dで開発していたところ、渡邊から急遽、「やっぱりいまの時代、3Dのほうがよいのでは?」という話が来まして。それまでの作業をすべて中止して、いちから作り替えたこともありました。そのころはまだ、技術本部でも3Dに関するノウハウが少なかったので、急遽、会社中のいろいろなチームから3Dの開発経験があるスタッフをかき集めて、作り直す作業にあたりました。

――ほかにも開発が進んでいく中で、大規模な変化が生じたタイトルはありますか?

中村これは、弊社のほぼすべてのタイトルに言えますね(笑)。2Dと3Dを同時開発したり、画面の向きを変えたり、アウトゲーム部分は開発中はつねに変化し続けています。最新作の『ウマ娘 プリティーダービー』も、よりおもしろくするために手を加え続けていたら、いつの間にか、当初の仕様よりもかなりクオリティーの高い仕上がりになっていました。

最高のプレイ環境を維持する技術の強み

――サイゲームスの作品はいずれも期待度が高いので、サービス開始時などはアクセス数が多く、サーバーへの負荷も相当かかりますよね? 毎回、大きなトラブルなく安定したスタートを切られていることがすごいと思うのですが、技術的に安定したリリースを実現するうえでこだわられている点を教えてください。

ウマ娘』でもそうでしたが、弊社では毎回、負荷テストを念入りに、あらゆるパターンを想定して実施しています。“最高のコンテンツをお届けする”という理念に対し、サーバー側でできる最高の仕事のひとつは“ユーザーの皆さんが安定して快適に遊べるゲーム環境を提供すること”です。すべてのタイトルに対して“サーバーを絶対に落とさない”という心がまえで業務に取り組んでいます。

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――負荷テストにおいて、サイゲームスでとくに力を入れていることはありますか?

大事にしていることは3点あります。まず1点目は、開発の段階からリリース後と同等の環境で負荷テストを行っていること。本番と同じ環境だからこそ見えてくるボトルネックもあるので、コストがかかるからと妥協せず、毎回、同等の環境を用意してテストをしています。

 そして2点目は、負荷テストを専門で担当する部署があることです。ノウハウがどんどん蓄積されていくので、計測と改善のイテレーション(くり返し)が非常に速い。サーバーが安定すれば、プロジェクトのメンバーはよりコンテンツの開発に注力できるので、結果的に各タイトルのクオリティーアップにもつながっていくというわけです。

――「アクセスが集中するコンテンツを作っても、サーバー側が何とかしてくれる」という安心感があるのは、開発チームにとっても心強いですね。

そして3点目は、ヒット作が多いことです。膨大な量の過去のデータを参考にしたり、再利用したりすることができる。これまでのデータと照らし合わせて、「今回のアクセス数のピークはだいたいこれくらいだろう」と予測を立てられるので、より精度の高い負荷テストになるのも、弊社ならではの強みだと考えています。

『シャドバ』から『プリコネR』まで、技術面でのこだわりを徹底深掘り

――これまでにリリースされた数々の人気作についても、開発エピソードをお聞きしたく思います。たとえば『シャドウバース』で、技術面でとくにこだわられたところを教えてください。

芦原いろいろとこだわりはあるのですが、技術が企画につながった事例があります。最近の話なのですが、デバッグ(バグを見つけること)ではAI(人工知能)技術を使っています。本作の場合、カードの組み合わせだけでもものすごい数になります。しかもカードをどのタイミングで使うかで戦術のパターンはさらに細分化しますし、カードの種類もどんどん増えていきます。人の手のみだとデバッグが追いつかないため、機械学習の技術を使った、ゲームデバッグシステムを活用しています。このシステムによって2700人分のデバッグ作業をエンジニアひとりで運用できるようになりました。

 そして最近追加された、Strategy Pick(複数クラス横断でのバトル)は、このデバッグシステムを使うようになったので実現できました。いままでも複数クラス横断で実施するような企画の構想がありましたが、デバッグしきれないことがひとつの要因だったため、実施されていませんでした。これらはユーザーの皆さんからは直接見える部分ではありませんが、より快適なゲームプレイを実現するものです。このように裏側に導入する技術にも、我々エンジニアのこだわりが詰まっています。

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――ゲームをプレイしていて見える部分は、技術本部のお仕事のほんの一部というわけですね。続けて『プリンセスコネクト!Re:Dive』でも、技術面でこだわられた部分をお聞きしたいです。

中村アニメRPGという新たなジャンルを実現するために必要なリソース(画像などのデータ)の効率的な管理や、ロード時間の短縮を実現したことです。ただでさえ、リソースのダウンロード時間が長くなることが問題になっていた時代なのに、さらに多くのリソースが必要になるわけです。

 アニメRPGにするとなると、ユーザーの皆さんに動画を大量にダウンロードしていただくことになり、ゲームのテンポも悪くなってしまうことが予想されました。「それで本当にゲームとして成立するのか?」と、不安を抱えながら開発していました。

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――その結果、ユーザーの方々のプレイ体験が損なわれないようになったと。

中村ダウンロードに必要な時間をどうやって退屈にさせないかといった工夫はつねに考えて開発しました。ダウンロードで待たせてしまったぶん、アニメをふんだんに流しながらも、ゲーム自体は快適にサクサク進めるよう、バランス調整に尽力しましたね。あらゆる知見を駆使して、プロデューサーからの「アニメをバンバン見せたい」という要望に応えました。

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――2014年からサービス開始となった『グランブルーファンタジー』も大ヒットを記録していますが、こちらはブラウザゲームとしてリリースされたものだと思います。当時、ブラウザゲームとして開発をされた理由を教えてください。

芦原当時はゲームの主流がちょうどブラウザからネイティブに切り換わる時期でした。ネイティブアプリ1本でいくのもいいけど、ブラウザにはブラウザの強みがあるし、我々がこれまで培ってきたノウハウもある。だったらブラウザゲームの最高峰を目指そうと。「ネイティブにするべきでは?」という声もありましたが、結果的にそれでよかったと思っています。

これまで知見や技術をすべて集結『ウマ娘』開発の裏話を直撃!

――満を持してリリースされた『ウマ娘』が大ヒットを記録していますが、本作で新たに導入された技術はありますか?

芦原これもまたいろいろとあります。アニメが公開されているので、見た目や表情を再現するために工夫していたり、3Dサウンドを取り入れていたり、ライブでキャラクターごとに歌い分けしてみたり。でも個人的には、いちばんがんばっているなと思ったのは最適化のところですね。

――どのように最適化されたのでしょうか?

芦原『ウマ娘』はたくさんキャラクターが走ったり歌ったり踊ったりします。でも処理は重くないので、スマホが熱くなってしまうようなことはそれほどありません。それは“最適化”、つまり負荷軽減に注力したからです。

中村シーンによって解像度を変更するなど、さまざまな工夫によって負荷を軽減しています。また、ひとつのモーションを形状の異なるいろいろなウマ娘たちに使えるように、IK(Inverse Kinematics:逆運動学の略。3DCGキャラクターを動かすための制御方法のひとつ)にコリジョン(ある物体が別の物体に当たったかどうかを判定するプログラム処理のこと)を持たせて、衣装によって手が埋まらないようにしています。これは見た目の最適化ですね。

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――とにかくすごいことをやっているのだと理解しました(笑)。3Dサウンドはどのあたりに使っているのですか?

中村ウマ娘が走っているときの吐息や足音が3Dサウンドになっていて、ヘッドホンで聴くと臨場感が出る仕組みを導入しています。オススメなので、ぜひ試してみてください。

サーバーに関しては、新しいフレームワークを使えたのも大きいですね。フレームワークとは、アプリを開発する際にベースとなるプログラムの雛型のことです。いままでは既存のものを使っていましたが、自社タイトルの開発に最適なフレームワークを数年前から作り始め、『ウマ娘』に導入しました。ゲームに必要のない機能を削ぎ落としたシンプルな構造のフレームワークで、より開発しやすくなっているので、全体的に開発の効率が上がりました。

 また、いままでサーバーの構成はクラウドかオンプレミス(自社運用型)のどちらかでしたが、『ウマ娘』はクラウドとオンプレミスのハイブリッド構成になったのもひとつの特徴です。対障害性、拡張性など、それぞれの特性も存分に活かして、より多くのリクエストを安定して捌いています。バックエンドはサイゲームスの集大成のひとつと言えますね。いつでも安定して素早いレスポンスのサーバーを提供するため、いままでどこでもやったことがないさまざまな工夫を行い、日々新たな改善を行っています。

――モバイル開発において、技術面での今後の展望や、挑戦してみたいことがありましたら教えてください。

芦原基本的にはいままでと変わらず、おもしろいものを作るために技術を高めていきたい、と考えています。昨今のAI技術、機械学習技術は、ゲーム開発にも役立ちそうなので、ここも強化していきたいですね。AIが単純作業を担って、空いた時間のぶんだけ人間がおもしろさの部分を作り込めるようになるのが理想です。

 また、いままでは技術先行でのゲーム作りをしてこなかったのですが、今後は新しい技術を活かしたゲーム作りもできたらとも思います。そのために、サイゲームスの企業内研究所である、サイゲームス リサーチで研究を進めたり、ゲームエンジンを内製で開発したりしています。

――新しい技術で、新しい“最高におもしろい”ゲームを生み出すわけですね。

芦原もともとは「とにかくすごいゲームを作りたい。そのためにはゲームエンジンから作らなければ、ほかと同じようなゲームになってしまう」という考えのもと、内製ゲームエンジンであるCyllista Game Engineの開発が始まりました。ですので、Cyllista Game Engineを使う開発部署は技術先行で、どんどん新しい技術を詰め込んでいるところです。今後の展開にもご期待ください。

エンジンから新規IP開発まで!挑戦し続ける技術本部の今後の展望

――Cyllista Game Engineおよび、そちらを用いて開発中の『Project Awakening(仮題)』について。それぞれの開発状況を教えていただけますか?

多胡現状、エンジンと『Project Awakening』のチームは、完全に一体となって開発に取り組んでいます。「ゲームがこんな方向性だから、エンジンもこういう風に作ろう」といった感じで、お互いに影響し合いながら開発を進めているところです。僕自身がゲームのディレクターであり、エンジン開発チームのリーダーも務めているので、ゲームとしてやりたいことと、技術的にやりたいことを両方取り入れながら、形にしています。

最高のゲーム体験を叶える最高の技術とは? サイゲームス10年間の技術の歩みをクリエイター陣に直撃!!

――ふたつのポジションを兼任されていると!

多胡そこがこのプロジェクトの特徴的なところです。技術屋が「これまでにないエンジンを作るぞ!」と気合を入れても、そのこだわりがゲームのおもしろさとかけ離れていたら意味がない。逆に、ディレクターが注力したいポイントであっても、それがエンジンの性能と関係のないところだったら、せっかくのこだわりも十分に活かせなくなる。

 今回のプロジェクトでは、僕自身がそうした両面を把握し、同時進行で開発しているので、うまくかみ合ったものを目指したいと思っています。

――具体的なCyllista Game Engineの特徴を教えていただけますか?

多胡フォトリアル(写実的な表現)を追求して開発を進めています。『Project Awakening(仮題)』自体が、そうした表現を目標としたタイトルなので、タイトルが目指す表現ができるようにエンジンを調整しています。そもそもの開発のきっかけが、「AAAタイトルを生み出せる究極のエンジンを作ろう」というところだったので、大規模開発を行える設計になっており、現在100名を超えるチームで開発を進めています。

芦原フォトリアルは、サイゲームスとしてもいままでになかった要素なので、完成を心待ちにしているところです。このエンジンが本格的に機能するようになれば、より写実的な、光の表現にもとことんこだわったゲームの展開も可能となります。

最高のゲーム体験を叶える最高の技術とは? サイゲームス10年間の技術の歩みをクリエイター陣に直撃!!
Cyllista Game Engineによるゲーム開発画面。実際のゲーム画面での動きを再現しながら、ステージの編集やキャラクターの配置といった調整をする。
最高のゲーム体験を叶える最高の技術とは? サイゲームス10年間の技術の歩みをクリエイター陣に直撃!!
こちらもCyllista Game Engineによる開発画面の一部。ゲームの演出に必要となる“炎”や“水”、“風”といったエフェクトを編集する。

――そうした展開もある一方、『グランブルーファンタジー リリンク』など、別のエンジンを用いた開発も同時進行で進められていますよね。

芦原そうなりますね。自社開発のエンジンがあるとはいえ、作品ごとに最適なエンジンは異なるので、どれかひとつに絞らないといけないとは考えていません。開発効率も考えて、うまく使い分けていければ……と考えています。

――とはいえ、Cyllista Game Engineが完成すれば、家庭用ゲームだけでなく、スマホゲームの開発にもいろいろと変化が生じるのでは?

芦原そうですね。まだ明言はできませんが、将来的には家庭用ゲームもスマホゲームも、違いはどんどんなくなっていって、どちらか一方に絞らなくても、ゲーム開発はできるようになるのではないか? と考えています。

多胡スマホの性能も日々進化しています。実際に「家庭用ゲームのクオリティーをスマホでも再現できる」となったとき、両方に対応できるエンジンがあれば即座に対応できるのでは……というのも、いまのうちからエンジン開発に力を注ぐ大きな理由のひとつですね。

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――ここで改めて、サイゲームスのビジョン“最高のコンテンツを作る会社”に則って、技術本部が考えている“最高の技術”とはどのようなものかを、お伺いしたく思います。

芦原ふだんからスタッフに向けて「最高の技術で、最高のコンテンツを作ろう」と言ってはいるものの、具体的にと聞かれると、その答えをひとつの言葉に定めることはしていません。ブラウザで作っていたころは、「究極のブラウザゲームを作ろう」という気持ちで開発していましたし、ネイティブアプリが主流になったら、今度はそこで最高のゲームを作ろう! と変わり続けてきました。

 これから先も、ゲームの開発環境はつねに変化していくので、それに適応して、自分たちがいちばんいいと思えるものを作り続けていく姿勢でいます。変化に対応していく能力こそが、最高の技術なのではないかと思います。

――現存の技術を到達点に定めるのではなく、つねに最高のものを目指して、技術を向上させていく姿勢が大事であると。

芦原いまある最新の技術も、10年後はどうなっているのか、わかりませんからね。10年前はガラケー用にゲームを作っていたわけですし、10年後はスマホではなくなっているかもしれませんよ(笑)。

 いずれにせよ、新しい技術が出てきたときに、否定するのではなく、「それを使って、いままでにないものを作ってみよう」というスタンスでいたい。サイゲームスとしても、そんな気持ちを持つ人たちにどんどん集まってほしいと考えています。そうして最高の技術というものを、より高度なものへと高めていきたいですね。

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