最初に。

 今回紹介するゲームは、はっきり言って難しい。考えることが多く、一手のミスが命取りに。“ストレスなく遊べる爽快なゲーム”とは言いにくい。

 だからこそクセになる。作戦がうまくハマり、ギリギリで勝てたときのカタルシスたるや。難しいゲームは「高難度だが中毒性は抜群」などと紹介されがちだが、それとも少し違う気がする。

 要素をひとつひとつ整理したら、長めの記事3~4本分くらいのボリュームになってしまった。覚悟してお読みください。

TRPGの系譜を受け継ぐ新作『パスファインダー:キングメーカー』

 『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』など、日本ではさまざまなRPGが愛されている。その原点とされている作品が、テーブルトークRPG(以下、TRPG)の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、『D&D』)だ。

 『D&D』は時代とともに改訂を続け、第4版でルールが一新された。「別のゲームになった」と前の版を懐かしむユーザーの声に応えるようにして、“昔ながらの”『D&D』のルールを受け継ぐ新派生シリーズが誕生。それが『パスファインダーRPG』である。

 TRPGとはなんぞや? という説明は後ほどするとして、最初に言いたいのはただひとつ。原点の系譜を受け継ぐ『パスファインダーRPG』が、プレイステーション4(PS4)/Xbox One/PC向けの『パスファインダー:キングメーカー』という最新コンピューターRPG(便宜上、本稿ではCRPGと表記)になったのだ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー

 TRPGがCRPGになったとはどういうことか。まさに言葉の通りの意味である。多くの人は“世界設定や基本シナリオを活かしたRPG”を想像すると思うが、『パスファインダー:キングメーカー』は少し違う。

 TRPGをそのままゲーム機上に再現していると言えばいいだろうか。ありそうでなかった力技ではあるが、その手法に引き込まれてしまったのもまた事実。

 ゲームは2段階に分けて進行する。プレイヤーは大冒険の果てに英雄になり、荒野の国“ストールンランド”を統治する領主の座に就く。冒険を続けつつも国を導き、発展させていくわけだ。

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本作でプレイヤーが立ち向かうのは、強大なモンスターだけではない。国内の事件や諸国からの干渉など、さまざまな困難が矢継ぎ早に舞い込んでくる。

 本稿では、そんな冒険者と統治者を両立するおもしろさについてお伝えしていく。なお、前述したように難度は高く、国の発展にも数時間どころじゃない時間がかかる。ひたすら硬派。歯ごたえ抜群。だからこそ挑戦しがいのあるゲームなのである。

 ちなみに、筆者はTRPGプレイヤー。『パスファインダー:キングメーカー』をきっかけにTRPGファンを増やせるかもしれないので気合が入っている。

 TRPG愛ゆえに、厳しいことも書くと思う。それでも筆者の本音を聞いてほしい。

※編注:さだまさしさんの名曲『関白宣言』みたいになってしまいましたが、このまま続けます。

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なお、難度はいつでも下げられる。筆者は下げると負けな気がしてずっと粘っていたが、結局は下げた。

元祖TRPGのおもしろさを凝縮

 TRPGとは“テーブルトーク”の部分が示すとおり、複数人のプレイヤーが対話しながら遊ぶテーブルゲームの一大ジャンルだ。『D&D』は1974年にアメリカで書籍(ルールブック)として出版。ここからTRPGの歴史は始まっている。

 誕生のきっかけは、とある仲よしグループのやり取り。

「完成したストーリーを読むだけじゃ満足できない!」
「自分たちで異世界に入って冒険するゲームがやりたい!」

 そんな純粋な想いを粗削りながら形にしたことが、昨今のRPGの隆盛につながっている。

トークと空想で進む異世界のストーリー

 ゲームの中に飛び込んで自分自身が異世界の住人になるなんて技術は、VRが発達した現代でも実現していない。だが、技術の未発達など、1974年当時の彼らにとっては些事だった。それなら“空想”を利用すればいい。

 TRPGに機械は不要だ。ゲーム進行役の“ゲームマスター”という役柄についた人が、ほかのプレイヤーに「君たちの前には……」などと口頭で異世界を描写することで進行していく。

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CRPGでは画面に広がる草原や薄暗いダンジョンが描画される。TRPGの場合、この風景をゲームマスターが説明。口頭で、ときにはイメージしやすいように手書きの図や参照用イラストなども添えて。

 プレイヤーはゲームマスターの描写した情景・状況を想像し、その異世界にいる“キャラクター”の立場になって行動を考える。ゲームマスターに「そこではこうします!」と伝え、ゲームマスターはその内容を受けて状況を動かす。そして、「では、そうすると……」とつぎの描写を伝えていく。

 空想でならどんな世界にも行ける。どんな大冒険もできる。最新RPGのCGムービーですら表現できない場面さえ想像しうるわけだ。大作CRPG顔負けの冒険譚を、対話だけで紡ぐことができる。

 ちなみに、友人の家や貸し会議室など同じ空間に集まって遊ぶのが、TRPGの昔からの基本スタイルだ。昨今はオンラインでTRPGを遊ぶためのツール(Discordを始めとする通話ソフト)も発達したので、ネット越しでTRPGを楽しむグループも多い。

ルールブックが制限とおもしろさを生み出す

 空想の世界は何でもありだが、主人公が何でもできるようでは盛り上がりに欠ける。そこで重要なのが“判定”だ。TRPGでは、プレイヤーが成否のわからない行動を宣言した場合、サイコロ(ダイス)の目でその結果を決める。

 ダイスはTRPGの象徴だ。『D&D』ならびに『パスファインダーRPG』では、基本的には1から20までの数値がランダムで決まる20面体のダイスを振り、ゲームマスターが示した数値以上の数値が出せれば、その行動は成功したことになる。

 ちなみに、TRPGや『パスファインダー:キングメーカー』内では、どのダイスをいくつ振るかを“1d20”や“2d6”といった略語で表現する。“d”はダイスの略。前の数字がダイスの数、後ろの数字が何面体のダイスを使うかを示している。つまり“2d6”なら、6面体のダイスをふたつ振ってその出目の合計値を出すということだ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
攻撃が敵に当たるかどうか、当たった場合のダメージはいかほどかなど、戦闘の判定もダイスの結果で決める。

 同じ行動をするにしても、成否の確率は人によって異なる。たとえば“小さな崖の向こう側に跳ぶ”という行動を取るとして、幅跳び選手と一般人とでは成功率がまったく違うように。

 そうした「●●が得意だが▲▲は苦手」といった特徴を表現するために、キャラには“能力値”が設定される。

 ダイスでの判定にはこの能力値による補正がかかる。『パスファインダーRPG』の場合、20面体を振った結果に能力値などを基にした修正値が足され、得意分野の判定ではより成功率が高まる。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
STR(ストレングス:筋力のこと)などの身体能力が数値で表されるほか、技能として“交渉が得意”、“攻撃魔法が得意”といった得手不得手が肉付けされる。

 こうした能力値も天井を設けなかったら意味がない。能力値の決定方法やその異世界でできることの設定(文明レベルはどれくらいか、魔法は実在するのか、剣を持ち歩いても法律違反にならないのかなど)を書き記したものが“ルールブック”だ。

 『パスファインダーRPG』のルールブックには、剣と魔法のファンタジー世界でキャラを作る方法を始め、モンスターの能力や信じられている宗教、存在する国家などが細かに書かれており、プレイヤーとゲームマスターの空想をさらに掻き立ててくれる。

『パスファインダー:キングメーカー』はTRPGの再現率高し!

 さて。それでは肝心の『パスファインダー:キングメーカー』はどうなのか。本作ではキャラの行動(どこへ向かうか、誰に話しかけるかなど)を、口頭ではなくマウスやボタン操作で決定する。この辺は一般的なCRPGと同じだ。

 ゲームマスターの状況描写は、グラフィックやNPCのセリフが肩代わりしてくれる。これもほかのCRPGと同じである。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
TRPGにしても『パスファインダー:キングメーカー』にしても、すべてはプレイヤーの決定次第。
『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
キャラがどんな状況に置かれているのか、NPCのセリフを通じて理解できる。

 こう分解すると、CRPGとは“ゲームマスターをコンピューターが務めるTRPG”とも考えられると思う。攻撃の成否やダメージ量は、ダイスの代わりに機械的な乱数を使って判定しているのだ。

 ところが、『パスファインダー:キングメーカー』ではあえてTRPG成分を残している。乱数を『パスファインダーRPG』そのままに各種ダイスで決定。その判定の内容や成否を逐一メッセージ欄に表示してくれる。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
通路にある罠や隠し通路が見つかるかどうか、物音に気付けたかどうかなどの判定を自動処理。キャラが気付いた瞬間、ゲームが一時停止するので、どう対処するかはゆっくり決めよう。

 冒険を続けていくと、状況説明がされた後に選択肢を選び、その都度結果が判定されるパートも登場する。このパートでは判定の目標値が強調され、ダイスを自分の手で実際に振っているかのような感覚が味わえる。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー

 そもそも、キャラ作成のルールがまさに『パスファインダーRPG』そのまま。能力値や種族だけでなく、豊富なクラス(職業)と技能を選ぶことで、数えきれないパターンのキャラを作成できる。

 TRPG未経験の人にはどの数値が何に関係しているのか複雑で難しく見えるかと思う。わからない場合はバランスよく作られているサンプルキャラを選択するのもアリ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
レベルアップするたびに好きなクラスのレベルを上げて独自の能力を獲得可能。オススメのクラスや能力を自動で選んでくれる自動レベルアップ機能もある。

 TRPGの『パスファインダーRPG』に忠実な本作だが、むしろ進化している部分もある。TRPGではひとりずつダイスを振ったり行動宣言したりといったやり取りに時間がかかる部分を、CRPGらしく一括処理してくれるのだ。

 たとえば、炎に囲まれてしまったとする。TRPGだと炎の範囲内の全員がうまくダメージを抑えられたか判定するため、順番にダイスを振ってゲームマスターが成否を確認することになる。これだけで10分ほど短縮できるのは大きい。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
大量の成否判定を一気に行えるのはCRPGの醍醐味。順番待ちのストレスなく遊べるのはありがたい。

戦闘もTRPG版そのまま。難度が絶妙!

 TRPGそのままということを説明したところで、そろそろゲーム本編の解説に移ろう。本作の舞台は“ストールンランド”。古くから特定の統治者が生まれない動乱の土地だ。

 冒険のきっかけはストールンランドに隣接するレストフの統治者が出したおふれ。近年になって跋扈する盗賊たちの長“牡鹿の王”を討伐した者を、ストールンランドを治める男爵に任命するというのだ。

 主人公=プレイヤーは冒険者としてこの話に乗り、討伐依頼を受けることになる。ちなみに、理由はプレイヤー次第。一攫千金を夢見てか、あるいは力試しをしたいのか。空想に委ねられている点はいかにもTRPGだ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
牡鹿の王の正体も動乱の地に男爵を据え置こうとする理由も、徐々に明らかになっていく。この決定には、さまざまな国同士の思惑もあるのだ。

 同じ依頼を受けた冒険者たちとパーティーを組み、いざ冒険の旅へ。ライバルとなる別パーティーも活動する中、牡鹿の王を倒すまでのタイムリミットは3ヵ月。牡鹿の王の本拠地を探し、倒せるだけの実力を身に着けるために、ストールンランド各地をめぐる冒険が始まる。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
ストールンランドの拠点間は街道を使って移動する。移動だけでなく、休息にもゲーム内時間で数時間を要するため、ムダな移動はタイムリミットまでの猶予を削る。

 いざ冒険となると避けられないのが、盗賊やモンスターたちとの戦闘だ。

 『パスファインダーRPG』の戦闘は非常にシビア。それはCRPGの『パスファインダー:キングメーカー』も変わらない。

 敵味方が1回ずつ行動していくターン制なのだが、一手ミスっただけでもパーティー壊滅につながるレベルなのだ。“成功するかどうかわからない”というTRPGらしさが焦りを加速させる。

 だが、このひりつく接戦がおもしろい。往年のめちゃくちゃ難しいシミュレーションRPGや、リアルタイムストラテジーを遊んでいた頃の記憶が甦るようだ。思考に時間がかかりすぎるので、原稿の締め切りの関係上、途中で難度を泣く泣く下げたのだが、それをいまだに後悔している。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
本作はクォータービュー視点のターン制RPG。各キャラはターンごとに移動、主行動(武器での攻撃や魔法の詠唱など)、それらに含まれない軽い行動(薬を飲むなど)を行なえる。

 キャラのターンが回ってきたら移動地点を指定。攻撃できる範囲に敵がいれば指定して武器攻撃を実行する。

 その際に、ショートカットバーに入っている各種能力や魔法を武器攻撃の代わりに使用したり、あるいは行動を消費せずに能力のオン/オフをすることもできる。

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移動後に敵を攻撃できる場合、移動地点を指定せずにその敵を最初から指定すると、最短距離を移動してから攻撃してくれる。
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移動しすぎる(ラインが黄色くなる地点まで移動する)と、移動後に主行動ができなくなる。攻撃したい場合は移動距離を短めにしよう。

手強さその1。防御面がきつい!

 本作ではシミュレーションRPGのようにキャラの位置関係が重要だ。前衛で敵を押しとどめて後衛を守ったり、相手を挟撃することで隙を作って味方の攻撃を当てやすくするなど、いくらでも工夫のしようがある。とくに後衛はしっかり守らないと、本当に一瞬で倒されてしまう。

 射撃攻撃や魔法の詠唱、背中を見せて逃げ出すといった“隙のある”行動を取ると、目の前の敵から自動で一回攻撃される“機会攻撃”が発生。つねに攻撃されるリスクを考慮しておく必要があり、これもまた歯ごたえをアップさせる一因だ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
この機会攻撃があるため、後衛キャラは敵にからまれると逃げることすら厳しい。

 また、防具の概念も難しさ向上に一役買っている(おかしな表現だが)。重量制限があるため、非力な後衛キャラは重い鎧を装備できないのだ。強力な鎧はそのぶん重いので、前衛キャラもある程度はSTR(筋力)を上げておきたい。

 本作には着ている防具一式の能力総計となる“アーマークラス”という能力値がある。敵の攻撃時、成否判定の目標値を決定する際の基準だ。素早いキャラはそれだけでアーマークラスに補正が加わるが、重い鎧を着込んだほうがアーマークラスは上がりやすい。

 鎧と盾でがっちがちにアーマークラスを上げたキャラに対して、弱い敵が攻撃を当てる際の目標値は、もろもろの修正を含めて“20”となる。つまり、20面体ダイスを振って20が出たとき(=5%)しか当たらないのだ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
目標値が20になっていると安心感が段違い。アーマークラスが低いキャラは目標値が6~7程度になる。

 ただし、攻撃の目標値は20が上限なので、どんな弱い敵からでもつねに5%の被弾率を覚悟しないといけない。しかも本作では、ダメージを軽減する“防御力”のような能力値は防具では上がらない。鎧や盾はあくまで攻撃をそらすだけのもので、いざ当たってしまえば鎧の有無をほぼ問わないダメージを負うことになる。

 このためアーマークラスが高い前衛キャラでも、いざダメージを受けると危機に陥りやすい。つねに100%の確率で攻撃を避け続け、傷を負わずにいられるような英雄など、この世界にはいないのだ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
ゲームの難易度を下げると敵から受けるダメージが激減するので、かなり楽になる。それでも数で攻められると相当キツイ。

手強さその2。魔法の使用回数が少なめ

 魔法の仕様も『パスファインダーRPG』そのままだ。TRPGに詳しい人ならこう言われた時点で「げぇっ!?」と思われるかもしれない。事実、「げぇっ!?」と言いたくなるほど『パスファインダーRPG』の魔法システムは個性的だ。

 本作の魔法は回数制だ。MPを消費して使うのではなく、魔法ごとに使用回数が決まっている。キャンプを張ったり宿屋に止まったりと、“休息”に時間を費やせば回復可能だ。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
僧侶系クラスが使える初歩的な単体回復魔法“キュア・ライト・ウーンズ”。アイコン右上にある数字のとおり、このキャラの場合は2回しか使えない。
『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
休むためにキャンプを張る。食糧を調達する“狩り”や、パーティーにボーナス効果をもたらす“料理”などの担当を決定。低確率でモンスターからの夜襲も発生するので見張り役も立てる。

 大半の魔法は、クラスのレベルやその魔法自体のレベルに応じて使用回数が決まっている。簡単に言えば、初歩的な魔法は3回くらい使えるが、高レベルの強力な魔法は1回しか使えなかったりする。

 さらに複雑なのが、ウィザードなどの魔法使い系のクラスの魔法だ。これらのクラスのレベルを上げると、各魔法レベルごとに魔法を登録できるスロットが一定数ずつ追加されていく。スロットに任意の魔法を登録し、その数がそのまま使用回数となる。

 たとえば、1レベル魔法のスロットが4つあるとする。1レベルの魔法なら好きなようにスロットに登録でき、同じ魔法を4つのスロットに登録すれば、4回使用可能。ただし、スロットに登録していないほかの1レベル魔法は0回……つまり、一切使えなくなるのだ。

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単なる攻撃魔法だけではなく、蜘蛛の糸で相手をからめ取ったり、相手の身体のサイズを変えるといったユニークな魔法が多い。何を登録するか、つねに悩まされる。
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魔法使いや吟遊詩人であっても、射撃武器(弓、クロスボウ)を装備できる。これだけでも、かなり魔法を節約できるはず。

 回復魔法に限りがあるので回復薬を大量に持ち歩きたいが、個人用とパーティー共用のアイテム袋の両方に重量制限がある。アイテムを拾っているうちにいつしか“重量過多”となり、移動できなくなってしまう。

 そもそも、各キャラが戦闘中に使用できるアイテムは自分の“ベルト”のスロットに登録した5つのアイテムのみ。回復薬も最大5個までしか戦闘に持ち込めない。魔法の使用制限に加え、回復手段の少なさもまた、本作の手強さを後押ししている。

手強さその3。戦闘はあくまでもひとつの障害

 魔法の使用回数の回復にはキャンプがベターだが、それすらもひと筋縄でいかない。ダンジョン内ではキャンプを張ると敵の奇襲を受けて休めないことが多いからだ。

 筆者の場合、ダンジョンで1回の戦闘を全力でこなし、野外に戻ってキャンプを張り、またダンジョンに潜って……という、地道なくり返しが基本となった。デフォルト難度でこれだから容赦がない(褒めています)。

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ダンジョン内のキャンプでは“狩り”が不可能なので、休息に必要な食糧(これまた重い)をあらかじめ持ち込まないといけない。

 一度倒したダンジョン内のモンスターは復活しないため、少しずつ討伐していけば先へ先へと確実に進める。とはいえ、レベルアップに必要な経験値はモンスターを倒してもあまり得られず、各地のクエストで経験を積んだほうが効率的なので、ムダな戦いを避けることも重要だ。

 また、モンスターを倒すと皮などの戦利品も得られるが、これは売ってもあまりお金にならない。盗賊のような人型の敵からは武器や鎧を入手でき、これらはそれなりの値段で売れるのだがとにかく重い。

 ダンジョン内の宝箱から得られる装飾品は軽くて高額なので、お金集めにおいてもモンスター狩りよりも宝探しと依頼解決の報酬がメインとなる。

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強力な魔法の武器や防具を入手できるのは、一部ボスの討伐時くらい。“高品質”の装備はそれなりの値段で売れるので、これだけは重量制限が許す限り持ち帰ろう。

 こうなると、あまり稼ぎにならない戦闘に時間をかけたくない、と思うプレイヤーもいるかと思う。ターン制バトルでキャラひとりずつに移動先や行動を指定していくと、ひとつのダンジョンを攻略するだけでもリアルで3時間くらいかかったりする。

 そんなときは、いつでもリアルタイム制のオートバトルに切り替え可能だ。このモードでは敵味方ともに全キャラが同時に、かつ自動的に行動。移動と武器攻撃を行なう。

 一時停止をかけて魔法やアイテムの使用などを指定できるが、基本的にはスマホRPGのオートバトルのように、弱い敵しか出ない場所で武器攻撃に絞って使うことをオススメする。なにしろ敵も一斉に行動するので、こちらが壊滅するのも一瞬なのである。

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魔法は“セーヴィングスロー”という判定に成功すれば効果を抑えられるが、被害をゼロにはできない。オートで範囲攻撃魔法を連発されると、一瞬で壊滅することも。

 戦闘は冒険するうえである程度避けられないが、あくまで冒険の一環であって、本作を楽しむうえでのスパイスだ。しかし、だからこそストイックに極めてみたくなり、伝説級のアイテムが眠るダンジョンに入るためにはそうした強さが必須となる。逆に透明化する魔法などでとことん戦闘を回避するのもアリだ。頭脳派の冒険者気分を味わえる。

 まずは手段を問わず、強大な“牡鹿の王”一味を倒せるだけの戦闘力や戦略を身につけるべく、90日間以内でできるだけ冒険をこなしてパーティーを強化しよう。

 何が「まずは」なのか。その言葉どおり、この段階も本作では入り口にすぎないのだ……。

王国の管理と冒険を同時にこなす

 見事に“牡鹿の王”を倒すことができれば、主人公はストールンランドを治める男爵として認められる。しかし、ストールンランドは荒廃し切っており、首都すら牡鹿の王の砦を流用しているだけの状態だ。

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王国のスタート時の様子はこんな感じ。中央地区であっても建物は数軒しかなく、商店は全部露店だ。
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国の名前はプレイヤーが決められる。それだけ愛着が湧くと思うが、この国を栄えさせるのは冒険よりもさらにたいへんだ……。

 王国の混乱を鎮め、まだ平定しきれていない首都郊外へと領地を広げるには、とにかく国力を高めるしかない。

 国を治めるために、まずは摂政、評議員、将軍、財務官、大神官という5つの顧問のポストに誰かを据えなくてはならない。牡鹿の王を倒すための旅の途中で出会った仲間たちがその候補。彼らは顧問になると個別の考えかたで、それぞれが関わる内政を進めてくれる。

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 首都の謁見の間に入ると、顧問や国民たち、あるいは他国からの使者など、さまざまな人々が主人公を訪問。国内のトラブルを解決する“イベント”と、国を発展させるための“プロジェクト”という、2タイプの任務が発生する。

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イベントはモンスターの襲撃など、解決に急を要するもの。特定の顧問を担当に任命し、一定の日数が過ぎると解決の成否判定が行なわれる。
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プロジェクトは急は要さないが、そのぶん解決のために長い日数を要する。解決できれば国の施設が増えたり国庫が潤ったりと、メリットが大きい。

 イベントは判定に失敗すると国のデータ(国力)が下がってしまい、解決せずに一定日数が過ぎると自動的に失敗扱いとなる。序盤のうちは顧問の手が足りず、しかも日数が経つたびに新たなイベントがぞくぞくと出現するので、てんやわんやになってしまうかと思う。

 忙しいのでなかなかプロジェクトに顧問を回せないが、最初は気にしなくても大丈夫。そもそもプロジェクトには増築などに使う“建造ポイント(BP)”が大量に必要となるからだ。

 BPは国の発展度合いに比例した量が1週間ごとに得られるので、まずは地道にイベントをこなしつつBPが溜まるのを待つのが先決。ちなみに、所持金をBPに変換することもできるが、変換効率は悪い。

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急ぐなら国政の管理画面の右上にある“1日スキップ”ボタンで日付を進め、イベントをさくさくと片付けよう。スキップせずに冒険に出たついでに日数を経過させる手もある。これなら一石二鳥だ。

 イベントの中には、顧問ではなく主人公に直接解決を依頼するタイプも数多く含まれている。これらは特定の地域に出向いて探索や戦闘をこなすクエスト形式なので、すぐに仲間とともに首都を発って解決しよう。

 ただし、その旅程でかかった日数だけ他イベントの期限が厳しくなる点には要注意。さらに、首都を離れている間に別の国から連絡があると無視する形になって、国同士の関係性が悪くなることもある。

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重大な事件が多発するが、国政を放っておくわけにもいかない。正直、牡鹿の王討伐の90日間のタイムリミットのほうが全然優しかった……。

 国の管理と冒険を同じ時間軸で両立するのは、なかなかにたいへんだ。イベントの多くは成功率が50~60%ほど。国力が増減をくり返してやきもきさせられる。

 さらに、冒険で解決するイベントを通じて、この国に残された謎の“呪い”の存在や、他国とのしがらみや企みも明らかになっていき、悩みは尽きることがない。

 冒険のみならず、主人公は国政においても苦しい決断を何度も迫られることになる。本作はRPGだが、同時に『三国志』や『信長の野望』のような、他国に囲まれた立地での興亡記を体験できるゲームでもあるのだ。

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首都や郊外の村などにBPを使って施設を建て、国力を増強する要素もある。これがまた奥深くておもしろいのだが、ここまで語っていると記事の長さがさらに倍になるので泣く泣くカット。

考えることの多さも難しさも、すべてがTRPGの魅力

 キャラメイクやレベルアップによる成長の幅広さ、冒険と国政の両立など、“難しさ”極振りに感じるかもしれない。

 これこそがTRPGのおもしろさだ。考えることが多く、ことあるごとに決断を迫られる。アクションとは別ベクトルの、ひりひりした難しさ。ソウルライクアクションが人気を博しているように、難しさがおもしろさにつながることはたしかにある。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
1体でパーティーを壊滅させるような強敵ともよく遭遇する。救済措置があるとすれば、セーブデータを読み込んでやり直すくらいのもの。いまどきのゲームとしては厳しすぎるような……?

 そもそもTRPGでは、たとえ悪役に敗れたり、任務に失敗しても、そのゲームプレイ自体は“失敗”ではない。TRPGは参加者の間で勝敗を決するゲームではなく、目標はあくまで空想の中で自分たちだけの物語を描き出すこと。

 例として、ホラー映画を思い浮かべてみてほしい。最後に主人公たちが怪物に敗れて全滅したり最後に世界が滅んだりする映画の中にも名作は少なくない。勝敗や国の盛衰は数多い展開のひとつであり、『三国志演義』における蜀ように、滅亡までの道程が物語となっているケースもある。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
登場人物の観点から見れば勝敗にこだわるかもしれないが、結果としては物語が盛り上がったのなら、それはそれでオーケー。

 そんなTRPGそのものを目指したからこそ、『パスファインダー:キングメーカー』はギリギリの線を意識した作りになっているのだと思う。デフォルトの難易度でプレイすると、ボロ負けしても「あの魔法を使えば……」、「あそこであっちの選択をしていれば……」と思える結果が続出。ほんの一手で失敗を覆せたら、何とも気持ちいいはず。

 そんなこと考えていたら、セーブ地点からのやり直しの連発で、さらにプレイ時間が伸びていったのはご愛敬だ。夢中になって気づいたら時間が経っているのもTRPGらしい(さすがに強引だろうか)。

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複雑なキャラ育成の方向性や冒険で得られるアイテムの中に、解決策が潜んでいることも。成長させたうえでのやり直しも可能なので、難易度を下げずに最後まで考え抜いて挑むのもいい。

 ちなみに、TRPGは空想のゲームということで、“自由度が高い”、“一本道に縛られずに行動できる”などとも評されるが、対話によるゲームである以上、ほかのプレイヤーに迷惑がかからず、なおかつルールブックに記された範囲内での自由であることを忘れてはならない。

 逆に言えば、ルールとマナーの範囲内であれば結果を気にせず、どこまでも自由なこともたしかだ。本作では王国の滅亡を阻止するために必要なクラスを習得するもよし、好きなプレイスタイルで愛するキャラを育てて滅びを迎えるもよし。この難度があってこそ、自由の尺度がわかりやすい作品になっているとも感じる。

『パスファインダー:キングメーカー』はっきり言って難しい。だからクセになる。名作TRPGをコンピューターRPGにして王国運営SLGをプラスした怪作を正直にレビュー
筆者は召喚魔法で動物や精霊を呼び出し、盾で守りに特化させた複数の前衛キャラで動物たちを支える戦法を愛用している。ガチガチに守りを固めると、今度は魔法での一網打尽が怖いのだが……。

 『パスファインダーRPG』を吸収し、CRPGという形でその魅力を再現した本作。元祖TRPGの系譜がどういうものなのか、TRPGに興味が沸いた人は、ぜひ本作でその空気に触れてほしい。

 その際は、少し工夫してTRPGっぽく遊ぶのもオススメだ。複数人で通話しながら画面を共有してプレイし、ダンジョンの分かれ道や国政の選択肢のシーンで相談したりすれば、かなりTRPG感が出ると思う。

 『D&D』の系譜はあくまで“古きよき”ゲームだ。昨今はビギナーでもわかりやすい入門用のTRPGルールブックもたくさん出版されている。ここまで煽っておいてなんだが、TRPG=難しいものと怯まず、気軽に関連書籍やWeb記事などからTRPGの門戸を叩いてみてほしい。

『パスファインダー:キングメーカー』概要

  • タイトル名:パスファインダー:キングメーカー
  • ジャンル:RPG
  • 開発:Owlcat Games
  • 販売元:EXNOA LLC(DMM GAME PLAYERダウンロード版・PS4パッケージ版)/ Koch Media(PS4 ダウンロード版・Xbox Oneダウンロード版)
  • 発売日:2021年5月13日
  • 価格:DMM GAME PLAYER 5060円[税込] / プレイステーション4・Xbox One 8778円[税込]
  • PC版推奨動作環境:
    • OS:Windows 8.1/10
    • CPU:Intel Core i7 CPU 920 2.67GHz以上
    • メモリー:8GB RAM
    • グラフィック:NVIDIA GeForce GTX 960M以上
    • DirectX: Version 9.0c
    • ストレージ:30GB利用可能
  • PS4版、Xbox One版必要動作環境
    • HDD容量:30GB以上
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