ヨーロッパ屈指のパブリッシャーであるKoch Media(コチメディア)が、2020年10月に日本法人を設立。今年はますます日本市場に向けて攻勢を仕掛けるという。Koch Mediaと言えば、日本では、同社のゲームブランドであるDeep Sliverで『シェンムーIII』や『Maneater』などを手掛けていることでもおなじみ。直近では、2021年5月27日にNintendo Switch版『Maneater』の発売が控えている。

 日本市場に注力するKoch Mediaの戦略とは? Koch Mediaのキーパーソンに聞いた。インタビューは2部構成で行われており、Koch Media(日本法人)取締役社長 アンドレアス・トブラー氏には、Koch Mediaという会社についての説明と戦略を、ジャパン・カントリーマネージャー ロベルト・ポントウ氏とマーケティングマネージャー 加古絢菜氏には、日本法人設立の経緯や今後の戦略などを聞いている。

アンドレアス・トブラー氏

Koch Media(日本法人)
取締役社長
(文中はアンドレアス)

ロベルト・ポントウ氏

Koch Media(日本法人)
ジャパン・カントリーマネージャー
(文中はロベルト)

加古絢菜氏(かこあやな)

Koch Media(日本法人)
マーケティングマネージャー
(文中は加古)

柔軟性を武器に急拡大を遂げるKoch Media

欧州パブリッシャーの雄Koch Mediaに日本戦略を訊く!『Chivalry 2』や『Rust』を筆頭に、この1年で20~30タイトルをリリース予定

――初めに、Koch Mediaがどんな会社なのか教えてください。

アンドレアスKoch Mediaは、1994年にフランツ・コッホ(※)と現CEOであるクレメンツ・クンドラティッツによって、オーストリア・ホーフェンとドイツ・ミュンヘンに設立され、パッケージソフトやゲームの販売会社としてスタートしました。2002年には、パブリッシングレーベルDeep Silverを設立して事業を拡大しています。その年以降、ヨーロッパおよびアメリカにも事業を広げて、2007年にはヨーロッパで映画事業を開始しています。

※ドイツではもともと、Kochを “コッホ”と読むとのこと。英語では“コチ”と読むことから、“コチメディア”の名前も浸透してきたが、海外では“コチメディア”と“コッホメディア”の読みかたが混在しているらしい。

 転機となったのは、2011年にDeep Silverブランドで発売されたゾンビアクションゲーム『Dead Island』で、当社で初となるミリオンヒットを記録し、最終的には世界累計販売本数が1500万本を超える大ヒットとなっています。

 2013年にはもうひとつの大きなマイルストーンがありました。旧THQブランドの人気IPだった、『セインツ・ロウ』シリーズと『メトロ』シリーズのすべての権利を獲得したことです。そのときに、『セインツ・ロウ』シリーズの開発会社であるVolitionも傘下に加わっています。

 その後、Koch Mediaは2018年にEmbracerグループの傘下に入っています。同じグループ内の現THQ Nordicとは、いまは兄弟会社の関係になりますね。

欧州パブリッシャーの雄Koch Mediaに日本戦略を訊く!『Chivalry 2』や『Rust』を筆頭に、この1年で20~30タイトルをリリース予定

――いま現在、どのような事業を展開しているのですか?

アンドレアス現在、Koch Mediaは4つの事業ディビジョンで構成されています。

1. Deep Silver、Milestones、Warhorse、Ravenscourt、Voxlerなどの複数の自社レーベルでのゲーム開発やパブリッシング事業
2.パートナー企業のパッケージ・デジタル両方のパブリッシングや販売事業
3. Koch Filmsでの、あらゆる分野の映画を扱うヨーロッパのパブリッシング、配給事業
4. Gaya Entertainmentでの、グッズ販売などの事業

 現在の従業員数は約2000人で、組織としてより成長し、買収による拡大も続けています。

欧州パブリッシャーの雄Koch Mediaに日本戦略を訊く!『Chivalry 2』や『Rust』を筆頭に、この1年で20~30タイトルをリリース予定
欧州パブリッシャーの雄Koch Mediaに日本戦略を訊く!『Chivalry 2』や『Rust』を筆頭に、この1年で20~30タイトルをリリース予定

――Koch Mediaの特徴を教えてください。

アンドレアス柔軟性がすべてです! Koch Mediaは、コンピュータゲームおよびビデオゲーム業界では(少なくとも欧米では)非常にユニークな会社です。Koch Mediaは、小規模なインディーゲームや中規模ゲームから、本格的なトリプルA作品まで、独自のコンテンツを開発しパブリッシングを行う一方で、50以上にも及ぶ、ローカライゼーション、QA、ファーストパーティサブミッション、レーティング、商品販売、ビジネスインテリジェンス、マーケティングおよびPRサービスなどのあらゆる分野でのサービスやソリューションなどを提供しています。

 これらのサービスは、グローバルでも展開もできますし、ローカルできめ細かく対応することも可能です。パートナーの要望や異なるニーズに柔軟に対応できるのが強みなのです。これにより、私たちのパートナーやクライアント、ユーザーなどすべての人にとってウィン・ウィンの状況を作り出し、長期的な成功を保証するわけです。

自社ブランドの訴求のために日本法人を設立

欧州パブリッシャーの雄Koch Mediaに日本戦略を訊く!『Chivalry 2』や『Rust』を筆頭に、この1年で20~30タイトルをリリース予定

――Koch Mediaが日本オフィスを設立するにいたった経緯を教えてください。

ロベルトKoch Mediaは、以前からスパイク・チュンソフトやスクウェア・エニックス、DMM GAMESなどの日本のパブリッシングパートナーを通じて、日本で活動してきました。日本に拠点を設けたのは、2017年にDeep Silverブランドで『シェンムーIII』の全世界パブリッシングの契約を結んだことがきっかけになっています。『シェンムーIII』は独特なIP(知的財産)ということもあり、自社パブリッシングで進めることになったんです。そこで日本にオフィスを設立して、私が『シェンムーIII』のKoch Media側のプロデューサーを務めることになりました。

――なぜ、日本法人を作ることにしたのですか?

ロベルト2018年になって、Koch MediaはEmbracerの傘下に入ったのですが、日本での存在感をさらに高めるというKoch Mediaの戦略と、地域型を目指すEmbracer全体の戦略が合致して、“Koch Mediaの全ゲームタイトルを日本のプレイヤーにお届けしたい”という方針になったんです。そのためには日本法人の設立が不可欠との判断になりました。日本法人の設立のときは、ちょうど2作目の自社パブリッシングタイトルである『Maneater』のリリース準備とタイミングが重なってしまって、てんやわんやでした(笑)。

――『Maneater』も話題になりましたね。

ロベルト『Maneater』は、日本で正式に発売するより以前から、かなり人気がありましたね。オープンワールドでサメとなってプレイするという斬新なゲーム性が注目を集めて、輸入盤だけで10000本は売れたとも言われています。ただ、当初は現地のスタッフによる日本語ローカライズがあまりにもひどいことも話題になっていました(苦笑)。私たちは、ローカライズをいちからやり直して2020年12月に正式にリリースしたのですが、輸入版を上回るヒットとなったことはとてもうれしく思います。

 ファミ通・電撃ゲームアワード2020など、日本でふたつの賞を受賞できたことも誇らしいことでした。

加古日本で『Maneater』のパブリッシングを体験できたことは、私たちのような若いチームにとってすばらしい経験になりました。販売パートナーであるハピネットが、販売だけでなくマーケティングも含めてサポートしてくれたので、大いに助かりました。

 5月27日にはNintendo Switch版『Maneater』がリリースされますので、まだプレイされたことのない方は、ぜひお手にとってみてください。

――『Maneater』で手応えを掴んだということですね。ところで、お聞きしておきたいのですが、『シェンムー』シリーズのつぎなる展開はいかがでしょうか?

ロベルト私としてもぜひともやりたいのですが、会社の判断となりますので……。現時点では未定です。

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Koch Mediaのさらなる訴求に努める

――では、今後の日本市場での戦略を教えてください。

ロベルト日本には当社のタイトルやIPの熱狂的なユーザーが多くいると実感しています。私たちの目標は、そのようなプレイヤーたちとつながり、当社の商品をもっと紹介して、欧米発の最高のゲーム体験を提供することです。 そのために、日本市場をもっともよく理解し、私たちのコアなファンが求めるものを提供できる、日本のパートナーと引き続き協力していきます。

――日本メーカーにパブリッシャーを担当してもらうタイトルもあるのですね。

ロベルトはい。私たちはまだまだ若いチームで人数も少ないです。出したいと思っているタイトル数がけっこう多くて、それを全部自社パブリッシングでやっていくのは現実的に考えてきびしいので、これまでお付き合いのあるパートナーさんとは、良好な関係を継続したいと思っています。『メトロ』シリーズは、これまでスパイク・チュンソフトさんにパブリッシングしていただいているのですが、とても仕事が丁寧で、お任せしてきてよかったと思っています。せっかく日本法人を設立したので、当社のタイトルについて日本の企業さんといろいろなビジネス展開をしていきたいと思っています。

欧州パブリッシャーの雄Koch Mediaに日本戦略を訊く!『Chivalry 2』や『Rust』を筆頭に、この1年で20~30タイトルをリリース予定

――日本法人を設立したからこそ、きめ細かいアプローチができるわけですね。

ロベルトたとえば、日本でのビジネスをさらに拡大していき、過去に『Mighty No. 9』や『シェンムーIII』で行ったように、日本のオリジナルタイトルへの投資もしたいです。

加古日本法人のメンバーが揃ってきたばかりで、まだまだこれからの段階です。私としては、ローカライズのクオリティーをさらに上げたいと思っています。パッケージの文章ひとつとっても、ともすると海外のゲーム感が強くなってしまうので、そこを日本のお客さんが手に取りやすいような形に直していきたいと、強く思っています。

 プレスリリースひとつとっても、英語に直訳に近くなってしまっていて、ノリがちょっと違うので、少しでもたくさんファミ通さんに取り上げていただけるようにがんばります。

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――(笑)。言ってみれば、すべてが挑戦ということですね。

加古Koch Mediaという名前もまだなじみがなくて、「どんな会社なんだろう?」と思われる方も多いと認識しています。ゲーム自体はユニークな作品が多いので、それをどうやって日本の皆さんに伝えていくかが大きなテーマですね。ゲームの魅力を伝えていって、少しずつよさがわかっていただけるようにしていきたいです。

ロベルトKoch Mediaの各ブランドを日本のゲームユーザーにも浸透すべく、とにかくたくさんのタイトルをリリースしていきたいですね。2020年、2021年のラインアップは、皆様が待ち望んでいたタイトルも含む、さまざまなジャンルのものを予定しています。それはKoch Mediaが所有するDeep Silverから出るものだったり、MilestonesやWarhorseからリリースされるものだったりと多岐にわたるかと思いますが。

――ちなみに、今年は何タイトルくらいリリースされる予定ですか?

ロベルトファミ通さんのインタビューを受けるからということで、昨晩数えてみたのですが、この1年で20~30タイトルくらいを予定しています。その中には、『Dirt 5』や『Kings Bounty 2』、『Iron Harvest』といったタイトルも含まれています。

――20~30タイトル!

ロベルトこのひと月でも3、4タイトルは出しますよ。いま日本オフィスのスタッフは5人なので、手が回らない感じです(笑)。

――そのうちでパッケージ版はどれくらいに?

ロベルト3分の2くらいですね。おそらく50%は超えると思います。最近は日本でもデジタル版を購入される方の比率が増えましたが、欧米と比べるとまだまだパッケージ版が強いという印象があります。何よりも、私もパッケージ版が好きなので、日本のユーザーの皆さんのご要望に応えるためにも、できるだけパッケージ版を出していきたいと思っています。

加古この先3ヵ月くらいを見ても、期待作が続々と控えています。たとえば、先日発表させていただいたばかりの『Chivalry 2』と『Rust』。『Chivalry 2』は、アクション性の高いタイトルで、一人称視点の近接戦闘オンラインゲームのすべての要素を備えています。中世の壮大な戦いを最大64人のプレイヤーで体験できます。

 『Rust』は、世界崩壊後の謎の島を舞台にした、最大100人まで参加できるサンドボックス要素のあるマルチプレイヤーサバイバルゲームなんです。ぜひ、お手に取っていただけたらうれしいです。

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ロベルト私は個人的にはふたつのタイトルを楽しみにしています。『Hot Wheels Unleashed』と『GUNGRAVE GORE』です。

 『Hot Wheels Unleashed』は、今年の初めに発表されたばかりで、発売はまだ数ヵ月先ですが、子どものころ“Hot Wheels”で遊んだ思い出がたくさんある私にとって、このシリーズに携われることはとてもエキサイティングなことです。また、アーケードレーサーとして、『マリオカート』が好きなカジュアルプレイヤーもこのカラフルなタイトルを楽しむことができると思います。ひとつ注意すべきことは、尋常ではない速さのレース体験が満喫できることですね(笑)。

 『GUNGRAVE GORE』については、残念ながら現時点では、2020年にKoch Mediaが本作の全世界パブリッシャーになると発表されたこと以外はお話することができません。私は、本作のプロデューサーを担当することになったのですが、デベロッパーである韓国のIGGYMOBがすばらしい仕事をしていて、シリーズファンや原作者である内藤泰弘氏のファンに納得していただけるものであることを保証します。いまから完成されるのをワクワクしています。

欧州パブリッシャーの雄Koch Mediaに日本戦略を訊く!『Chivalry 2』や『Rust』を筆頭に、この1年で20~30タイトルをリリース予定
韓国のメーカーIGGYMOB開発による『GUNGRAVE GORE』は、記者も発表からずっと追いかけているタイトルだけに気になる1本。2021年に発売されるのかしら……。