THQ Nordicより2021年5月25日に発売のプレイステーション4、Xbox One、PC用ケモノ系オープンワールドアクションRPG『バイオミュータント』。

 プレイヤーは、遺伝子を操作され人間並みの知能を持ったケモノとなって、荒廃した世界を救うための冒険をくり広げることになります。

 本稿では、スウェーデンにあるゲームデベロッパー、Experiment 101が、設立から6年以上の歳月を掛けて開発し、ついに発売となる本作のレビューをお届けします。

 本作に心から夢中になれる人、ちょっと合わないかもしれない人、そして現時点での日本語ローカライズの印象(※)など、多くの方が気になっているであろうことを余さずお伝えしようと思っています。ちょっと長いですが、最後まで読んでいただけたらうれしいです。

※今後日本語ローカライズは修正の予定があるとのこと。

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情報量が多く、密度の濃い、刺激に満ちたポストアポカリプス・ワールド

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 『バイオミュータント』を楽しみにしていたゲームファンの多くが、とくに期待していたポイント。それは、“ケモノになってポストアポカリプスなオープンワールドを冒険する”という、コンセプトそのものだったのではないでしょうか? 公式のプロモーションも、もっとも強く打ち出していたのはこの部分だったかと思います。そして、このコンセプトにワクワクしてしまった方の期待は、裏切られることはありません。

 旧文明の無残な痕跡と、たくましく草木をしげらせる大自然が同居しているロケーションの数々には、こうした状況にいたるまでの作品世界での歴史に思いを馳せたくなること必至。グラフィックにおける細部のディテールに関してはここ数年のトップレベルの作品には若干劣る印象ですが、トータルの風景として醸す風情には、オンリーワンの魅力があると言えるでしょう。その上で、起伏に富んだフィールドは似たような景観が続く印象はまるでなく、行動範囲を広げた分だけの新鮮な世界がプレイヤーを待っています。

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 視界に入ってくる“プレイヤーが干渉できそうなスポット”の情報量の多さも、特筆すべき点です。どんな探索要素が待っているのかと好奇心をそそられる旧文明時代の建物が各地に点在しており、ときとして地下に広がる空間につながっている洞穴や、マンホールが見つかることも。

 スクラップやサイキックポイントが入手できる特徴的な形をしたトーテム、この世界で通貨として使用されている“リーフ”が採取できる植物なども、絶妙な場所に配置されており、これらがもたらしてくれる恩恵にはメリットしかないため、遠くに見えたとき、プレイヤーは思わず駆け寄ってしまうはず。

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 メインストーリーを追うなどして目的地へと歩みを進めている最中でも、気になるものがたくさん目に飛び込んでくるので、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと、寄り道をくり返してしまうことでしょう。この“いろいろ目移りしてしまい、いつまで経っても目的地に着かない”感覚をオープンワールドに求めている人にとって、本作は満足のできるものになっているはず。オープンワールドの作品として、フィールドの規模は比較的コンパクトですが、その密度はかなり濃いです。

 主人公のケモノらしい移動速度の速さや、ファストトラベルの快適さもあって、探索がダレて嫌になるということは皆無と言って問題ないでしょう。

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ちょっとした謎解きも、探索のスパイスに。

 ほかに地味ながらうれしい仕様が、主人公が“どんなに高いところから落下してもノーダメージ”である点。軽く、しなやかな身体を持つケモノならではという納得感もありつつ、高低差の多いフィールドで、ダメージを負うリスクを気にせず高所から低所へと飛び降りれるのは気持ちがいいです。ゲームを進めてグライダー(主人公の相棒となるバッタ型の小型機械“オートマトン”の追加能力のひとつ)を手に入れると、少し離れた場所へと滑空で飛んでいけたりと、冒険はさらに快適なものになります。

 ただ探索をしているだけで、つぎからつぎへと新たなサイドクエストが舞い込んでくるのも本作の特徴です。世界各地に住むほかのケモノから頼みごとをされることもあれば、サイドクエスト発生のカギとなる対象に触れることではじまるものも。このとき、ワンボタンで新たなサイドクエストに目標を変更できます。

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 もともと追いかけていたクエストは目標から外れてしまうので、発生したサイドクエストの追跡をくり返していたら、いよいよ本来の目的をいつまで経っても達成できません。このクエスト供給過多でどこから巡るべきか迷ってしまう感覚も、また楽しいところ。

 メインストーリーを進めることで解禁されていく二足歩行ロボット“メクトン”や、電動ボート“グーグライド”、ワシャワシャと地面を這うように移動する機械仕掛けの手“メカフィングロ”なども、行動範囲を広げてくれたり、探索をいっそう楽しいものへと変えてくれます。

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 メインストーリーだけを追っていけば20時間強のボリューム、というと短い印象を受ける方もいるかもしれません。けれど、この好奇心を刺激する、発見に満ちた世界は、最短距離で世界を救うことなど、許してくれやしないのです。

自分だけのイカしたスタイルを追求できるなら、クラフトは最高に楽しい

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 オープンワールドの作品と聞くと、探索以外の面での自由度の高さも期待する方が多いかもしれません。この点については『バイオミュータント』の場合、“何をもって自由度と捉えるか”で、満足感は大きく変わってくると思います。

 本作は“どのトライブと協力関係を結んで世界を救うか?”という選択でストーリーが分岐。これに付随する形で、選択肢によって“光”と“闇”の属性値が変動するシステムも備わっています。これらによってNPCたちが主人公に掛ける台詞が変わったり、いずれかの属性値を一定数まで上げないと覚えられない“ミューテーション”(バトルで使える超能力)が存在するなど、べつの要素にも波及する影響力も持っています。

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 しかし、敵対組織以外に非道行為が働けるわけでもなく、ゲームプレイの大部分を占める冒険・探索部分でやれることは変わりません。極悪人としてロールプレイがしたい、というようなニーズで本作に触れると、やや肩透かしを食らう可能性は高いでしょう。

 では何を求めるプレイヤーならば満足できるかというと、豊富なパーツが用意されたクラフト要素によって、オリジナルの武器や装備品を作って身にまとい、キャラメイクや成長要素も含めて、“自分だけのスタイルで冒険を楽しむ”という部分に価値を見い出せる人、ということになると思います。

 前述した探索における寄り道が楽しいのも、「あそこに行けばよりよい武器を作るためのパーツが手に入るかもしれない」という期待によるところも大きいです。クラフト要素が魅力的だからこそ、開けられるボックスやトランクはひとつ残らず開けたくなるし、解ける仕掛けはすべて解きたくなり、壊せるトーテムはすべて壊したくなる中毒性につながっているのです。

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 クラフトは最大で6つほどのパーツを組み合わせればよく、ひとつのパーツを交換するたびにステータスの増減を確認できるので、複雑さはありません。ただ、武器種が異なればモーションが異なるため、ステータス面で優れていると感じた武器と自分の手になじむ武器は違ってくるかもしれないので、いろいろな武器種を実際に試してみたくなるはず。ゲーム後半になればバトルで苦戦することも少なくなってくるので、余裕ができたらステータス度外視で最高にイカしてると思えるデザインを追求してもいいでしょう。

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 そうしてイカした武器、イカしたファッション、イカしたバトルスタイルで大地を駆け巡ることに陶酔できるプレイヤーなら、本作に“自由”を感じることができるはずです。

アクション要素とRPG要素の融合が絶妙なバトルシステム

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 近接攻撃と遠距離攻撃、そしてミューテーション能力を使い分けることで多彩な立ち回りが可能となる本作のバトルシステム。この要素は、言いかたが難しいのですが、「アクション要素が非常に強いが、あくまでアクションRPG」といったバランスの調整となっています。

 敵の行動に合わせて、ガードや回避といった動作でリアルタイムに対処することが求められ、タイミングよくパリィからの打ち上げ、空中コンボを叩き込むなどの方法で撃破するといった楽しさは、かなりアクション寄り。とはいえ、アクションとしての駆け引きはやや大味で、とくに乱戦になってくるとある程度ステータスが物を言うため、格上過ぎる相手を敵に回すのは困難といったあたりは、RPG寄りといった塩梅です。その分、レベルアップや装備の充実がしっかり実感できるバランスになっていると言えます。

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 パリィで敵をひるませることで放てる空中コンボや馬乗り攻撃、特殊攻撃でゲージを3つ貯めることで使えるスーパー・ワン・フー、“気エネルギー”を消費して使用するバイオジェネティクスといった能力は、乱発こそできませんが、敵を一方的に攻撃できるため、突き詰めていくとこれらをいかに多用できる状況を作るか、といった戦いかたになっていくと思います。その構築方法自体はプレイヤーによって創意工夫の余地があるように思うので、発売後にどんなバトルスタイルが編み出されていくかが楽しみです。

 種族が違っていても、モーションは共通のものとなっている敵が多く、そのバリエーションはやや少ない印象。それでも、アクション面の爽快感と、成長要素による強くなっていく実感、新たな武器や能力を手に入れたときの試行錯誤の楽しさのおかげで、プレイしていてバトルに飽きるということはありませんでした。

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回復アイテムは、使用してから徐々にHPが増えていく仕様。気持ち早めに使っておいたほうがいいかもしれない。
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ボス戦はその多くが巨大な“ワールドイーター”との特殊戦闘になっている。巨大な彼らと対峙するスペクタクル感には興奮させられる。

 バトルに関して明確に気になったのは、出現地点からある程度離れた敵は、元の場所に戻ろうとするのですが、このときせっかく削った体力が全回復してしまう点。ひらけたフィールドでの戦闘中は、どれだけ激しく戦っている中でも敵の出現ポイントを覚えておいて、離れすぎないように立ち回るという、“ゲームっぽさ”を意識せざるを得ない戦いかたが求められます。

日本語ローカライズについて

 本作の日本語版を評価する上で、ローカライズの問題は避けて通れない部分でしょう。コラム記事で、特殊攻撃の技名が表示された画面写真を掲載したとき、そのフォントに衝撃を受ける反応も多く見られましたし、これが本作最大の不安材料であると感じている方は多いのだと思います。

 先にこの技名のフォントについて触れておくと、確かに最初は多少面食らったものの、プレイの体験を大きく阻害するようには感じられませんでした。個人的には、慣れれば気にならなくなってくるように思います。なお、オプションで技名の表示をなくすこともできますが、特殊攻撃を敵にヒットさせることは“スーパー・ワン・フー”の発動条件にもなっているため、画面に大きく技名が表示されたほうがゲージの増加を感覚的に把握しやすい印象です。

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 続いては、現時点での日本語化の品質について。率直に書くと、この点において本作はお世辞にも高品質とは言えません。日本語化されたテキストは、シチュエーションなどを考慮に入れずに訳されたと思われる部分が散見され、何を伝えたいのか飲み込みづらい局面も多々見受けられました。

 加えて、本作は登場人物が現実には存在しない架空の言葉で喋り、これをテキストとともにナレーションの音声によって我々に分かる言葉で伝える、という形式が採用されています。このナレーションの音声もすべて日本語化されているので、結果として、違和感のあるテキストが、プロのナレーターによる耳触りのいい発声によって読み上げられることで、かなり珍妙な味わいが生じているのです。

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 こと言語情報から読み取れる物語性に関しては、日本語版はおそらく本来備わっていたテイストとは少々異なるものになっていると思われます。ストーリーに期待している方は、この点をある程度納得した上でプレイしたほうがよいかもしれません。

 幸い、クエストを進行するためのナビゲーション機能が優れているので、ゲームプレイを進めていく上で「何をしたらいいのか分からない」という状況になることは、エンディングを迎えるまで一度もありませんでした。また、世界設定に関する説明なども、理解が困難というような的を外した翻訳にはなっていません。本作の魅力を世界観と、その中でくり広げる冒険にあると感じている方ならば、現時点でもプレイをためらう必要はないと断言してよいでしょう。

2000年代後期:オープンワールド発展期を思わせる荒々しい魅力が感じられる一作

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 筆者はゲームジャンルとして“オープンワールド”という言葉が登場して以降の、このジャンルの進化の歴史は、かなりざっくりではありますが、だいたい5年ごとに以下のように分類できると考えています(筆者の自説であり、ファミ通.comの公式見解ではありません)。

  • 2000年代前期:オープンワールド黎明期
  • 2000年代後期:オープンワールド発展期
  • 2010年代前期:オープンワールド成熟期
  • 2010年代後期:オープンワールド革新期

 2000年代前期にオープンワールドという言葉が使われはじめ、2000年代後期に現在にも通じるいくつものフォーマットの“型”となるシリーズが登場。2010年代前期に発売された無数のタイトルによってそれらの型を使った手法は完成の域に達しつつも、マンネリの兆しも見え始めました。

 2010年代後期は、これまでの手法を換骨奪胎して新たな価値を生み出したタイトルや、ディテールを突き詰め、ほかでは真似できない高みに到達したタイトルなど、飽和したジャンルに一石を投じる作品が、オープンワールドの新たな可能性を示しました。

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 2020年代前期である現在がどんな時期であるかは、今後数年の動向を知るまで断定できるものではありません。そんな中、『バイオミュータント』はどういった位置づけをすべきタイトルでしょうか?

 『バイオミュータント』は、成熟期、革新期に生まれたノウハウも取り入れながら、総合的な体験としては2000年代後期:オープンワールド発展期の香りをあらゆるところから感じるタイトルとなっています。

 それはちょっとおかしなキャラクターたちの挙動や、まだ現在のように手法が確立されていなかったころを思わせる、少々不格好なローカライズといった、若干の引っ掛かりを覚える側面もあるからこその印象かもしれません。

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 けれど、まだ海外産の大作タイトルから、荒々しくて、とっつきづらくもありながら、得体の知れないパワーを感じられたあの時代……。「この世界で好きに生きろ」と突き放されたような、ユーザーフレンドリーとは言えないファーストインプレッションからはじまって、すべてが刺激に満ちていたゲームプレイ。

 間違いなく最新のゲームでありながら、あのころへの郷愁すら感じさせるオープンワールド。これは、ここ数年でも唯一無二の体験であったことは間違いありません。

 角が取れた、欠点のないゲームを探しているなら、『バイオミュータント』はふさわしくないかもしれません。けれど、手探りでその世界の感触を確かめていくような、ほかにない刺激を求めるなら――このゲームは、期待に応えてくれることでしょう。

『バイオミュータント』PS Storeページ(PS4版) 『バイオミュータント』Microsoftストアページ(Xbox One版) 『バイオミュータント』Steamページ(PC版)
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