サイゲームス設立10周年を記念して、同社のスゴさを知る業界関係者にインタビューを実施。本記事では、スクウェア・エニックス取締役執行役員である齊藤陽介氏にお話を伺った。サイゲームスと交流を持つようになった意外なきっかけや、同社の技術力、会社としての体制など、さまざまな切り口で語られたインタビューの全容をお届けしよう。

齊藤 陽介(さいとう ようすけ)

スクウェア・エニックス取締役執行役員。『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』や『NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)』、アイドルグループ“GEMS COMPANY”など、多数のプロジェクトをプロデュースしている。

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交流の始まりは『ニーア』シリーズ 最新作には渡邊社長の意見も反映

――まずは、齊藤さんとサイゲームスの交流のきっかけからうかがえればと思います。

齊藤NieR:Automata(ニーア オートマタ)』の企画がスタートした際、サイデザイネイションの吉田明彦さんにキャラクターデザインをお願いしまして。打ち合わせでお伺いした際に、親会社であるサイゲームスの渡邊耕一さんも同席され、そこから交流が始まりました。

――吉田さんといえば、もともとはスクウェア・エニックスに在籍されていましたよね。

齊藤そのころは、私は『ドラゴンクエスト』、吉田さんは『ファイナルファンタジー』シリーズに関わられていたということもあり、ほとんど接点がなくて。そうこうしているうちに退職され、サイデザイネイションの取締役になられたと聞いたので、「いまならいっしょに仕事ができるはず」と思い、お声がけさせていただいて。

――キャラクターデザイン=吉田明彦さんにこだわられた理由を教えてください。

齊藤前作の『NieR Gestalt/Replicant(ニーア ゲシュタルト/レプリカント)』は、ほかのシリーズものとは異なり、完全新規のIPだったので、すべてを新しい座組でやってみたいという狙いがあったんです。おかげさまで評判もよく、続編の『ニーア オートマタ』は世界で勝負するぞ……ということになって。

 ヨコオタロウさんやプラチナゲームズの方とも相談した結果、満場一致で「世界での展開を考えるなら、キャラクターデザインは吉田さんしかいない!」ということになったんです。そうして、ダメ元で連絡させていただいたところ、快諾していただけて、本格的にタイトルが始動することになったというわけです。

――その場に、渡邊さんも同席されていたと。

齊藤そうです。渡邊さんも『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』を遊んでくださっていたんですよね。提案事項も前向きに受け取ってもらえて、すぐに「やりましょう!」と言っていただけたのはありがたかったですね。

――初対面の渡邊さんに対して、どのような印象を持たれましたか?

齊藤「ダンジョンのボス!」という印象でした(笑)。ほとんどメディアに出られないので、どんな方か想像しにくいと思うんですけど、私やヨコオさんが通常のモンスターとするなら、渡邊さんは大型のボスモンスター。そういうイメージの方です。見た目はちょっと怖そうなんですけど、本当にゲームが大好きなおじさんで、話してみると楽しい方ですね。

――印象をお聞きして、ますますどのような方なのか興味が湧きました。渡邊さんとも直接、お仕事をごいっしょされたりしたのですか?

齊藤『ニーア オートマタ』のときはご挨拶程度でしたが、『NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)』の開発時は、いい意味でちょくちょく口出ししていただきました。開発はサイゲームスさんのグループ会社であるアプリボットさんなんですけど、定例会議にも何度もご参加いただいて。

 渡邊さんご自身も、「この作品をおもしろいモノにしたい!」と思ってくださっていたようで、いろいろなアイデアを出していただいて。ですので『ニーア リィンカーネーション』は、渡邊さん成分がかなり多めに入っています。

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スマートフォン向けタイトル『NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)』。

――会議にまで参加されるとは、すごい熱量ですね。ちなみに、いまくらい深く関わるようになるまでは、サイゲームスという企業に対して、どんなイメージをお持ちでしたか?

齊藤私の中でいちばん心に残っているのは、テレビアニメ『神撃のバハムート GENESIS』ですね。同作の楽曲を演奏するオーケストラコンサート(※1)にご招待いただいたんですけど、アニメのクオリティーが高いうえ、こんなコンサートまで開催してしまう実行力といいますか。そういったところに驚愕したことが、いまでも鮮明な記憶として残っています。

 ゲームだけでなく、アニメやコンサートといったイベントも手掛けていて、しかもすべてのレベルが高い。これをガチで作る会社はヤバいなと思ったのが、サイゲームスさんに対する最初の印象です。そういった「何事にも全力で取り組み、いいものを作る」という情熱は、10年経ったいまでも変わらずに社風として息づいているなと感じています。

――いちばん印象に残っているのがゲームではなく、アニメというのが意外ですね。

齊藤もちろんそれ以前から、新興のスマホゲームを中心に展開されている会社だということは存じ上げていましたが、本当の意味でサイゲームスさんの“スゴさ”を実感したのは、こちらの作品からですね。

※1:オーケストラコンサート……2015年5月に開催された“神撃のバハムート GENESIS オーケストラコンサート”。

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そのアニメーションのクオリティーの高さから、アニメファンのあいだでも話題となった『神撃のバハムート GENESIS』。

『ウマ娘』やVRを用いた施策など、最新技術を生み出す姿勢にも脱帽

――交流を持つようになったことで、それまでと印象が変わったところはありますか?

齊藤それはまったくないですね。モノづくりに対する姿勢は変わらず、ずっといいものを作り続けている会社だなってイメージです。もちろん、内部では大小さまざまな変化があったとは思いますが、ひとつひとつの作品を大事に作っていこうとする変わらない姿勢は、ユーザーさんにも伝わっていると思います。

 今年の2月よりリリース開始となった『ニーア リィンカーネーション』も、すごく丁寧に作っていただいて。おかげさまであっという間に1000万ダウンロードを突破しましたが、「これからさらにがんばるぞ!」というときに、ものすごいスピードでウマが横を走り抜けていったのには驚きました(笑)。

――2月末リリースの『ウマ娘 プリティーダービー』ですね(笑)。

齊藤とはいえ、さまざまな問題をクリアーにして、無事にリリースできたことは素晴らしいことだと思います。ウチだったらおそらく途中で企画がつぶれていますよ。5年間ねばって完成に漕ぎつけるなんて、サイゲームス以外の会社では考えられないですね。

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――事前登録を3年近くやっていましたから、中止になっていてもおかしくないですよね。

齊藤そのあいだにアニメも第2期まで放送して。しかもこちらも、ヒットさせているんだからすごいですよね。言ってみれば『ウマ娘』も、いわゆる擬人化コンテンツのひとつで、そこまで目新しいものではなかったのに、それでもこれほどのぶっちぎりのすごい結果を打ち出したことには、ただただ驚嘆しています。

 これはもう、シンプルに“『ウマ娘』がおもしろいから”ということにほかならないですね。もう嫉妬もしないくらいですよ。本当に心地よい、どの企業にも真似できないタイトルですね。

――『ウマ娘』だけでなく、サイゲームスのタイトルはどれもクオリティーの高さに定評がありますが、技術的な取り組みですごいと思われるところはありますか?

齊藤ゲームからは少し離れてしまいますが、“グラブルフェス”(※2)で実施されたVRアトラクションのクオリティーがものすごくて。あれは見入ってしまいました。全身モーションキャプチャ―を始め、最先端のテクノロジーを積極的に研究・開発して、それを出し惜しみせず、ファンイベントで見せてくれる姿勢には本当に頭が下がります。

 私もGEMS COMPANYというアイドルグループをプロデュースしているので、いろいろと勉強させてもらっていて。いつか『ニーア』シリーズでも、サイゲームスさんに協力していただいて、VRアトラクションが楽しめるフェスをやってみたいですね。

※2:グラブルフェス……毎年年末の恒例イベントとなった『グランブルーファンタジー』のリアルイベント。昨年は初のオンラインでの開催となった。

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“グラブルフェス”にて、その技術力で存在感を見せた“Special Character Live”。ステージ上にキャラクターが登場し、リアルタイムでライブをくり広げるという光景に、多くのゲームファンが驚愕した。なお、写真は“グラブルフェス2019”のもの。

――技術面以外でも、会社としての姿勢や取り組みで印象に残っているところはありますか?

齊藤弊社でも近いことはやっているんですけど、ちゃんと結果を残したチームは評価しているところがいいですね。社長賞を出すとか、そういうことができる会社って、じつは意外と少なくて。そうした取り組みを会社の内外に周知できているのは素晴らしいと思います。

――スタッフを讃えたり、労う姿勢が大事であると。

齊藤大事だと思いますよ。会社として、成果を上げたスタッフは評価して。ちゃんと見ているよと言ってあげるのは大切なことですよ。

――スタッフにとっても励みになる、やりがいを感じられる職場環境を作り出すことが大切なんですね。ちなみに、今後のサイゲームスの展開について、注目していることはありますか? また、今後もし、共同でゲームを開発することになった場合、「こんなゲームを作ってみたい」といったアイデアはありますか?

齊藤渡邊さんは歴史もののシミュレーションゲームがお好きなので、サイゲームスが手掛ける、そういったジャンルの新作タイトルも見てみたいです。それと、もしごいっしょする機会があるなら、そのときは家庭用ゲームを共同で作ってみたいですね。

――サイゲームスとスクウェア・エニックスが手掛ける家庭用ゲーム、楽しみです! ほかにも、サイゲームスが手掛けるコンテンツで、気になるものや印象に残っているタイトルはありますか?

齊藤渡邊さんから勧められて観たんですけど、『ゾンビランドサガ』はおもしろいですね。完全新規のIPで、あれだけヒットさせるのはすごいですよ。私も観ていて、ドライブイン鳥(※3)に行きたくなりました(笑)。

※3:ドライブイン鳥……『ゾンビランドサガ』に登場する鶏料理店。実際に佐賀県にあるお店で、作中に登場したのはドライブイン鳥 伊万里店。『ゾンビランドサガ』の聖地のひとつとなっている。

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アニメ第2期『ゾンビランドサガ リベンジ』も好評。

――それでは最後にお聞きしたいのですが、齊藤さんからご覧になられて、サイゲームスとは業界内において、どのような立ち位置の会社ですか?

齊藤これまでは“よきライバル”という見かたでしたが、『ウマ娘』の圧倒的な結果を突きつけられたいまだと、“簡単には勝てない会社”というイメージが強いですね。とはいえ、まだまだ家庭用ゲームの分野では負ける気はしないので、これからもお互いに競い合い、おもしろいタイトルを作っていきたいです。

 それと、ゲーム業界全体を見渡した中での立ち位置としては、“今後の伸び代が無限にありそうな会社”の筆頭になるんじゃないですかね。モノづくりに対する真摯な取り組みや、長期的な展開にも耐えられる資本力とか。そういったところも総合的に見て、これからの成長が非常に楽しみな企業と言えますね。

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[インタビューこぼれ話]イチオシタイトルは『シャドバ』。その魅力は絶妙なバランス調整にあり

 齊藤氏のイチオシは『シャドウバース』(以下、『シャドバ』)とのこと。GEMS COMPANYとのコラボ企画(※4)で多数の動画をアップしているが、じつは齊藤氏自身もトレーディングカードゲームが大好きで、『マジック:ザ・ギャザリング』などを箱買いしていたそう。

 そんな『シャドバ』の魅力について聞いてみた。「トレカをやったことがない初心者や、ゲームが苦手な方でも、難しく考えることなく気軽に始められるところがいいですね。長期にわたる人気シリーズだと、カードの組み合わせだったり、効果を発動するタイミングなど、途中でどんどんギミックが増えて“初心者お断り”といった雰囲気になりがちですけど、『シャドバ』にはそういったところがなくて。

 運営期間が長くなるとどうしてもベテラン勢との実力差が出やすくなりますが、デッキを工夫すれば、けっこういい勝負ができるバランスになっているんです。カードが増えてくると、どうしてもバランスを取るのがたいへんになりますが、そこをしっかり調整しているのが素晴らしいです。『ドラゴンクエスト』開発陣にもファンは多いですよ」。

※4:GEMSCOMPANYとのコラボ企画…… スクウェア・エニックスプロデュースのアイドルグループ“GEMS COMPANY”とのコラボ企画で、『シャドバ』大会優勝者がボイスキャストとして出演する権利が与えられるという企画があり、齊藤氏もガチデッキで参戦していた。

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GEMS COMPANYと『シャドバ』のコラボ企画に、齊藤氏も参戦。

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