『アンジェリーク ルミナライズ』レビュー。この体験はもう、私の人生の一部。恋に仕事に、自分らしく輝ける場所がそこにあった

　あの日……プレイを開始したその瞬間から、ニンテンドースイッチの中の宇宙と、パソコンに向かい原稿を書いているこの場所とを行き来し、日々を生きる私なのです。

　2021年5月20日発売の『アンジェリーク ルミナライズ』（以下、アンミナ）は、現代の女性が突如、宇宙を治める次期女王候補に抜擢され、女王を支える“守護聖”9人との関係を深めながら、女王試験に臨む恋愛シミュレーション。

　女性向けゲームというと、いまは恋愛アドベンチャーが主流ですよね。シナリオ主体で、物語を読み進めるうちに登場人物と交流し、想いを定めたひとりとのハッピーエンドを目指すタイプのゲームです。では、恋愛シミュレーションとは？　疑似体験に近く、主人公として日々を過ごすうちに物語や恋模様を自分で紡いでいくタイプのゲームかなって思います。

　それが『アンミナ』。この記事では、疑似体験的であるがゆえ、あなたの人生の一部、もうひとつの現実になりかねない恋愛シミュレーション『アンミナ』の魅力をお伝えしていきます。

現代の社会人女性が自分を生きる異世界召喚ファンタジー

　主人公のアンジュ（名前は変更可能）は、ごく一般的な20代の独身女性。社会人3年目で、がんばってはいるけれど限界を感じているという設定に、親しみを感じる方も多いのでは。彼女にとって神話だと思っていた世界に、女王候補として迎え入れられる展開は、いわゆる“異世界召喚もの”と言えます。

　女王候補は主人公のほかにもうひとり。同じ都市からやってきた同い年、でもアンジュと違ってエリート社員のレイナです。唐突な展開にとまどうふたりですが、とにかく女王試験に挑戦し、どちらが女王にふさわしいかを競い合うことに。もちろん、お互い恋のライバルにもなり得るワケで……。

　このレイナも、身近に感じられる存在なのがいい。仕事はデキるけど友だちはいなくて、恋愛もさっぱりという設定。「私はレイナに近いかも」とか、「アンジュのような時期も、レイナのような時期もあった」なんて方もいるんじゃないでしょうか。同じ立場の女性どうし、友情を育むことができるようにもなっていて、心が温まります。

　そして、彼女たちが生きる現代と、神話の世界を結びつけるのが、ふたりの世話役サイラス。「あなたはここへ来る前、何がしたかったですか？　どのように生きたかったですか？　それを改めて見定めるための時間です」。まるでアンジュの向こうにプレイヤーを見ているかのような物言いは、これまでの『アンジェリーク』シリーズにはなかったエッセンス。ゲームに現実逃避して夢見る乙女になるのではなく、リアルでもファンタジーでも自分を生きることに光を見出せる、そんな新作だと感じました。

仕事に励むことで恋が芽生える……女王試験の日々

それでは、アンジュとなってプレイヤーが臨む、女王試験について説明しましょう。審査される項目は、次のふたつです。

1．大陸を発展させること
2．守護聖からの支持を得ること

試験は宇宙に浮かぶ“飛空都市”で行われ、試験期間中、女王候補と守護聖はそこで暮らします。ふたりの女王候補には、とある小惑星の大陸がひとつずつ任せられ、先に大きく発展させたほうが女王に選ばれるのです。定期的に行われる審査では、発展度を競うこともあれば、9人の守護聖がそれぞれ「どちらが女王にふさわしいか」を判断することもあります。

　この2種類の審査をパスするには、積極的に守護聖と関わり合う必要があり、そこに恋が芽生えるのは必然の成り行き！　恋の駆け引きなんてあざといことを考えなくても、女王候補としての務めを一生懸命頑張っていれば、そんな自分を見ていてくれるひとがいる、認めてくれるひとがいる……そんな環境はたまらなく居心地がよく、働きがいがあるんですよね。

　審査1の大陸育成には守護聖の協力が欠かせません。9人の守護聖は、それぞれ光、闇、風、水、炎、緑、鋼、夢、地の力を司っています。守護聖に頼み、それぞれの力を送ってもらうことで、大陸は発展していく仕組みなのです。基本的には9つの力をバランスよく送らなければならないため、全員のもとに足繁く通うことになります。

　また、審査2でひとりでも多くから支持を得るためには、日頃から各守護聖の前で、女王にふさわしい行動を取らなければなりません。

　そう、女王候補としての務めに励めば励むほど、八（九）方美人的にならざるを得ないのですよ。一途な恋をまっとうするのもプレイヤーの自由ですが、見てください！　誰もがまぶしい守護聖様方を（守護聖のことはつい“守護聖様”と呼んでしまいます）。揺れましょう、9人のあいだで、存分に。

恋も仕事もあきらめなくていい。でも、誰かはあきらめなければ

　女王候補としての暮らしでは、プライベートの時間を持つこともできます。守護聖様を訪ねてお話をしたり、守護聖様からデートに誘われたり、誘ったり……。こうした交流で親密度が上昇していくと、関係を一段と深めるイベントが発生。こうしたステップをいくつも経て、恋を成就させることもできるのです。八方美人的……いいえ、女王候補らしいふるまいを心がけていれば、同時に複数の守護聖様と告白の一歩手前まで関係を進めることも可能なのですよー。

　守護聖様とのお話では、たとえ趣味や意見が合わなくても、親密度が上下することはありません。代わりに、共感するか興味を示すかという形で受け入れてくれるのを、とても幸せに感じるんですよね。相手に気に入られようとして、無理に自分を繕う必要なんてないんです。

　デートはですね、デートそのものより、その周辺に感情が渦巻くというか……。誘いを断わられてションボリするのはもちろんのこと、気になっている守護聖様とレイナのデートを目撃してモヤモヤしたり、せっかく誘いに来てくださったのに大事な仕事で断わらなければならなかったり、同時にふたりからお誘いを受けてどうするべきか悶々としたり。私としてはとくに、お誘いを断わらなければならない、どちらかを選ばなければならないというシチュエーションには、本当に胃が痛くなりました。八方美人の報いですね。

　さて、これまで『アンジェリーク』の世界では、恋を実らせることは女王候補の資格を失うことを意味してきました。しかし！　『アンミナ』でははじめて、守護聖様と恋人どうしになったあとも、女王試験を続行できるようになったのです。もう、恋を取るか仕事を取るかで悩まなくていい。そのぶん、誰と恋人になるか、誰をあきらめるのかで悩んでください。

水の守護聖カナタ――あなたと同じ星から来た少年

　ここからは、守護聖の魅力をお伝えしましょう。誰を紹介するかですご～く悩みましたが、『アンミナ』ならではのひとりとして、優しさをもたらす水の守護聖カナタを選びました。

　カナタは主人公と同じ故郷出身の高校3年生。最近突然、守護聖に選ばれて飛空都市へやってきたばかりで、主人公と境遇が似ています。ただ、女王候補は試験に失敗すれば故郷へ帰ることになりますが、守護聖は選ばれると断わることができないのです。そんなカナタは運命を受け入れられず、また、家族や友人に未練を残しています。ひととして当たり前ですよね。

　そのため、序盤では仕事をすっぽかしていて、会うことができないんですよ～。いくらなんでも無責任だと、彼を批判する守護聖もチラホラ。うーん、カナタのことが気になる!!　力になれるものなら、なってあげたい。

　ようやく会えたカナタは、主人公に弱みを見せ、心を開き、頼ってくるようになります。彼には私が必要なんだ！　そう強く思える存在です。ゲームやマンガが好きで、首にヘッドホンを掛けた姿は、聖地の守護聖様というより俗世の弟分ですが、主人公も女王候補らしいとは言えないワケで。同じような立場の彼と手を取り合い、一緒に困難を乗り越え、成長していけたらうれしいなって……。

　そのうち、主人公は故郷に一時帰省することができるようになります。きっと、あなたも「カナタを連れてってあげたい」って思うハズ。同郷の若者どうしだからこそ、溢れる想いを共有できる、ステキなイベントが用意されていますよ。

夢の守護聖フェリクス――美しく厳しい完璧主義者

　守護聖は十（九）人十（九）色。身近な年下の男の子・カナタと異なるタイプといえば、大人のロレンツォ、守護聖に選ばれたことに喜びを感じているユエなど数名が思い当たりますが、そのうち近寄りがたい雰囲気を持つ夢の守護聖フェリクスを紹介しましょう。

　12歳で守護聖となり、誰にも頼らずひとりで困難を乗り越えてきた自負のある彼は、自分にも他人にも厳しく、深く考えもせずに女王候補となった主人公のことも見下しているよう。だけど、プレイヤーとしてはのっけからグイグイいきたい気持ちが抑えられない！　だって……だってため息が出るほどキレイだから。

　いつも険しい顔つきで、まるで弱みなどないようにも見えるフェリクスですが、実際のところは彼の美学に基づき、弱みを見せないようにしているようす。責任感の強さゆえ、ひとりで何もかも背負い込んでしまうところがあるみたいです。

　素顔のフェリクスを見るためのアプローチは、攻略というより、信頼関係を築いていくかのようなやり取りに思えました。やがて、リラックスした微笑みを、主人公だけに見せてくれるように。そのときの天にも昇るような喜びを想像してください！

『アンジェリーク』がはじめての方、そしてファンの方へ

　世界初の女性向けゲームとして、シリーズ1作目の『アンジェリーク』が登場してから27年。恋愛ゲームのシステムも洗練され、『アンミナ』はいまにふさわしい完全新作に仕上がっています。とくに、恋愛の進行状況やイベント発生条件などを目視できる“戦略メモ”、女王候補としての仕事を自動で行える“マイコンシェル”は、現代風の仕組み。シリーズがはじめての方はとまどうことなくすんなり遊べて、ファンの方は便利に使いこなせることでしょう。

　もうひとつ、ファンにとっては1作目や『アンジェリーク ルトゥール』の世界とのつながりも気になるのではないでしょうか。ちゃんと作中で触れられていますので、お楽しみに。私はかつて、大食いブームに火を付けた番組『TVチャンピオン』のゲームの回に出演した際、「好きなゲームキャラクターはジュリアス」と自己紹介して失笑を買った口ですが（←知らんがな）、遠くに彼の存在も感じ取れて、温かい気持ちになれました。

　さぁ、『アンミナ』をはじめる心の準備はOKですか？　スタートした瞬間から、その体験はあなたの人生の一部となることでしょう。『アンジェリーク』の世界で、そしてこの現代で、恋に仕事に現実に、自分らしく生きてください。私もまだまだ、飛空都市での生活が続きそうです。