ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウイークのおすすめゲームを語る連載企画。すでにゴールデンウイークは終了している気がしないでもないですが、連休気分が抜けないライターのキモ次郎が『スクラップフレンズ』を紹介します。

【こういう人におすすめ】

  • 数時間でサクッと遊びたい
  • やさしい気持ちになりたい
  • ハマショーこと浜田省吾のことが好き

キモ次郎のオススメゲーム

  • プラットフォーム:iOS、Android
  • 配信日:2021年4月23日
  • 開発元:ズィーマ
  • 配信元:ズィーマ
  • 価格:無料(アプリ内課金あり)
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凸凹ロボットコンビが荒野を行く

 背の高い緑色のロボットと、ゴミ箱のようなフォルムにキャタピラが付いた紫色のロボットが歩いている。道はまっすぐで、地平線が見えるほど果てしない。その姿とシチュエーションは『スター・ウォーズ』シリーズのC-3POとR2-D2を彷彿とさせるが、関係性はだいぶ違う。

 悪態をつきあっていたC-3POとR2-D2のコンビに対して、名も知れぬ緑と紫のロボットは一切言葉を交わさない。しかし、両者が強い信頼で結ばれていることは、固くつながれた手からも明らかだ(C-3POとR2-D2のあいだにも強い信頼関係はあるけど)。

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 緑と紫の2体が道を歩き続ける理由はわからない。道にはさまざまなゴミが落ちていて、理由は不明だが紫のロボットはそれを回収していく。道にはゴミ以外にも、うさぎのように飛び跳ねて移動する電子レンジ、小型のコンテナをぶら下げた磁石型のドローンなどが姿を見せる。緑のロボットは、手に持ったショットガンでそれらを撃つ。電子レンジからはチップのようなものが、ドローンのコンテナからは大量のゴミが撒き散らされるのでゴミ拾いがはかどり、紫のロボットはよろこんでくれる。

 緑は戦闘能力を有しており、紫は廃品回収を目的としたロボットのようだ。見た目も能力もまったく異なる2体が、どうして仲睦まじく道を歩いているのか理由はわからないが、その関係をよく思っていない者もいる。身の丈ほどもあるアックスを持ち、俊敏に動き回る黒いロボットだ。黒のロボットはたびたび2体の前に立ちはだかり、殺意を持って襲いかかってくる。

 緑はショットガンで応戦し、紫はその後ろで為す術もなく怯えている。無事に黒を撃退すると、緑は「やれやれ」といった様子で紫を見つめ、再び手をつなぎ2体は歩きはじめる。

ゲームの楽しさが凝縮された"たった数時間"

 合同会社ズィーマ(という名だが、実際は個人のゲーム開発)のiOS/Android向けタイトル『スクラップフレンズ』はクリアーまで1時間、収集要素を含めて3時間程度のミニマルな作品だ。つまり数時間でサクッと遊べるゲームなわけだが、“サクッと"と呼ぶのには抵抗をおぼえるほど、密度が高い数時間になっている。

 道(とその周辺)に落ちているゴミをタップで集め続け、定期的に現れる黒いロボット“処刑人”との戦闘ではタップで射撃を行って撃退する。本作でやることは、基本的にこのくり返しだ。

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 こうやって書くとすごく単調なゲームに感じるかもしれないが、実際には意外とやることが多い。緑と紫のロボットは止まることなく歩き続けているため、ゴミを効率的に集めるためにはつねに周囲を見まわしていなければいないし、前述のとおりうさぎのような電子レンジやドローンが出現することもあるので、プレイ中はスマホの上を慌ただしく指が動くことになる。さらに、決まったゴミを一定時間内に集めるとコンボが発生するなど、指だけでなく、頭のほうもだいぶ慌ただしいことになるのだ。

 処刑人との戦闘もただタップすればいいというわけではない。巨大なアックスによる防御を崩さないとダメージはほとんど与えられないし、戦闘を重ねるたびに動きは俊敏になり攻撃パターンも複雑になる。ボーッとしていると、あっという間に“処刑”されてしまうだろう。

 成長要素もあって、ゴミを一定数集めると新たなゴミが解放され、各種行動で経験値を貯めれば緑のロボットがレベルアップして戦闘能力などが向上していく。

 『スクラップフレンズ』はたった数時間のプレイタイムの中に、収集、シューティング、育成の要素がギュッと詰まっているのだ。

スマートなストーリー語りに魅了される

 とは言え、数時間で遊べてそれなりに慌ただしいゲームは、たぶん『スクラップフレンズ』以外にもそれなりにある。つまり、僕が同作についてのレビュー記事を書きたくなるほど心惹かれるサムシングは別の部分にあって、それはスマートな物語の描きかただ。

 本記事の冒頭で描写したとおり、本作の物語はなんの説明もないままに始まり、進行する。そして、セリフは一切ない。その代わりに、特定の条件を満たすたび、紫のロボットが“オモイデ”を獲得していく。

 オモイデの内容は1枚のイラストとタイトルのみで構成されていて、ソレだけを見てもなんのことかはよくわからない。しかし、いくつものオモイデを並べて見ることで、物語の背景がわかる仕組みになっているのだ。

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 オモイデはNo.00から36まであって、ナンバー順に話も進むのだが、獲得の順番はナンバーどおりではなく、ランダムでもない。ゲームの進行に合わせて、歯抜けの状態で獲得していくことになる。オモイデを獲得するための“特定の条件”は、たとえば“100個ゴミをひろう”といった感じなのだが、そのほとんどは“絶妙に意識しなくても達成できる”按配になっているのがじつに巧みだ。

 つまり、オモイデの埋まりかたは開発者のじぃーま氏によってしっかりと計算されていて、その埋まりかたがストーリーラインになっているということを意味する。このスマートな語り口によって、『スクラップフレンズ』はセリフが一切ないにも関わらず、プレイヤーに対して雄弁に物語る作品になっているのだ。

 ちなみに、僕はじぃーま氏の作品を遊ぶのは本作が初めてだったが、この機会に過去作もひととおり遊んでみた。いずれも個人開発らしいミニマルな作品で、『スクラップフレンズ』同様にシステム&ストーリーどちらも捻りが効いているものばかりだ。

 一方で、過去作と『スクラップフレンズ』とは決定的に違う点もあった。過去作はどれもとにかくテキスト量が多く、膨大なテキストの中から意外な物語のつながりを見い出す楽しみがある。物語の描きかたがミニマルな『スクラップフレンズ』と、マキシマムな過去作たち……どちらがよいのかはプレイする人の好みに拠るが、僕は断然、前者のほうが洗練されていると感じる。

そして、ハマショー感

 『スクラップフレンズ』はいわゆるポスト・アポカリプスの世界観だが、最後まで遊ぶと心が少しあたたかくなる内容となっている。たった数時間で終わるので、物語の詳細については触れないが、せっかくなので僕が本作をプレイして想起したことを最後に伝えよう。

 結論から言えば、『スクラップフレンズ』はハマショーだった。

 “結論から言えば”と言えば、なんかそれっぽい感じになると思っていたが、まったくもって意味不明なのでちゃんと説明しよう。

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 ハマショーの愛称で知られるミュージシャンの浜田省吾。70年代にデビューし、現在もバリバリ現役で活動を続けているレジェンドだ。バンダナ&サングラスがトレードマークのちょっとやんちゃなアンちゃん、というパブリック・イメージもいまは昔。近年はサングラス姿はそのままだが、バンダナは姿を消し(そもそもバンダナをしていた期間はそれほど長くないのだが、インパクトの強さ故にそのイメージが定着したのだろう)代わりに落ち着いたグレーヘアーで、大人の渋味をかもし出している。

 ワイルドからダンディへ、男が惚れる男として日本の音楽業界の第一線を走り続けているハマショーだが、じつはゲーム業界とも少しだけ関係がある。

 ソニー・ミュージックエンタテインメントから2003年にプレイステーション2で発売された『OVER THE MONOCHROME RAINBOW featuring SHOGO HAMADA』がソレだ。異世界を舞台に、ハマショーが北斗の某を彷彿とさせるレザーファッションで活躍するアドベンチャーゲームで、僕は未プレイなのだがファミ通.comのゲームデータには“異世界の人々を救うためのコンサートを成功させよう。捕まえた楽器獣の組み合わせによって、サウンドが変化するぞ”と書かれている。コンサートで世界を救う、じつにピースな感じだ。

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ためしにファミ通.comの過去記事を調べてみたら出てきました。老舗ゲームサイトのスゴみに震えます。

 話が少し脱線したが、そもそもが脱線している話なので、このままの調子で行こう。

 ハマショーのことを話し出すとどうにも饒舌になってしまう僕だが、じつはとくにファンというわけではない。ベスト版を2枚持っているだけで、恥ずかしながら代表曲しか知らないハマショー弱者だ。

 そんな極めて浅いハマショーものではあるが、混沌とした現代社会を生き抜くうえでハマショー的なものは欠かせないと考えている(ちなみに僕はこの文章を深夜の2時に書いている。つまり、そういうテンションの文だと理解してほしい)。

 ハマショー的なものとはなにか? 僕が知る限り、ハマショーは(あくまでハマショー弱者としての考えだ)ほとんどの曲において、何かの始まりを“歌わない”。

 デビュー曲の『路地裏の少年』から早くもノスタルジーが全開だったハマショー。アップテンポな『さよならゲーム』では退屈な日々をバックシートに投げ捨て、愛する人が去った日々を美しくも哀しい言葉で綴る『もうひとつの土曜日』はハマショー的なサムシングが凝縮された超超超超名曲である。

 “過ぎ去ったこと”と言えば『America』も忘れてはいけない。この曲の中で歌われるのは、あくまでアメリカであってUSAではない。かつての日本人であれば誰もが抱いていた(=いまはもう存在しない)アメリカへの無邪気な憧れを歌っているからだ。

 以上のとおり、ハマショーは徹底している。でも、誤解してはいけない。ハマショーがなにかの終わりや過ぎ去ったことを歌い続けるのは、感傷に浸るためではないのだ。

 終わりや別れのない人生はなく、今日を過ごすことは昨日が終わったことを意味する。前へ進むためには、現在地に別れを告げなければいけない。ハマショーはそれを伝えたいのだ、たぶん(いま、時計の針は3時を指している)。

 オモイデを収集しながらも、決して止まることなく進み続ける『スクラップフレンズ』のロボットたち。あまりにもハマショー的じゃないか!

 連休明け、心がどうにもポッカリしてしまって、なにもやる気が起きないかもしれない。そんなときは、前へ進むためにハマショー成分を補給しよう。『スクラップフレンズ』にもその成分はだいぶ入っている。大丈夫、僕が保証する。

ファミ通.com編集者&ライターによるゴールデンウィークおすすめゲーム