『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親としても知られる坂口博信氏率いるミストウォーカーが手掛ける完全新作RPG、『FANTASIAN』。2021年4月2日、Apple Arcadeにて待望の配信開始を迎えた。

 プラットフォームは、月額600円[税込](最初の1ヵ月は無料トライアル期間)でゲームが遊び放題となる、Appleによるサブスクリプションサービス“Apple Arcade”で、限定配信となっている。iOSならばiPhoneシリーズやiPod touch、iPadなど、tvOSならApple TV、またPCのmacOSが対応している。

 本記事では、『FANTASIAN』を紹介してきた担当ライターが、配信直後より遊んでみてのレビューをお届けする。なお、iPhone 12 Pro Maxを使用してのプレイとなっている。クリアーまで遊んでいるが、物語のネタバレなどはないので、ご安心を。

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記憶を失くしたレオアの物語

 プレイヤーは主人公の青年・レオアの視点からゲームを進めていく。レオアは、とある目的のために冒険をしていたようだが、自身が引き起こした爆発の衝撃により記憶を失ってしまう。記憶がない中で謎の追手たちから辛くも逃げ出し、別次元の世界である辺境の街・エンに移動したところで少女・キーナと出会う。

 キーナは以前にレオアと出会ったことがあるようで、レオアの記憶探しの旅に付き合うことに。その中で、さまざまな人たちと触れ合いながら、レオアの本来の目的や世界の謎が明かされていく……というのが、おおまかなストーリー。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
主人公のレオア。父の存在や自分の目的を、旅をしながら思い出していく。
『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
ヒロインのひとり・キーナ。森の中に住んでいた少女だが、物語では重要な役割を担う。

 序盤に登場するヒロインのひとり、王女のシャルルは、記憶を失くす前のレオアにひと目惚れ(?)してしまった様子。しかし、レオアには記憶がなく、そのあいだにもレオアがキーナに目を奪われる瞬間もあったりと、キャラクターたちそれぞれの関係性も見どころとなる。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
もうひとりのヒロイン・シャルル。王女でありながらレオアたちと旅をすることに決め、みんなをグイグイと引っ張っていく。

 物語の中では、坂口氏が過去に手掛けた『ロストオデッセイ』を彷彿とさせる、文字アニメーションなどで魅せる小説的な演出も含まれており、冒険譚をより盛り上げてくれる。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!

 なお、本作は前編と後編に分かれており、今回配信された前編では、ストーリーの結末まではわからない。筆者としては、早く後編の物語が知りたい。本当に。早く。知りたい。

ジオラマ×宝箱が楽しい!

 本作最大の特徴とも言えるのが、ジオラマで作られたフィールドを旅するという斬新なグラフィックだ。これがもう、どこを取って見ても精巧に作られたジオラマなため、フィールドを歩き回るだけでもすごく楽しい。小物がいいんですよ小物が。

 牧歌的なロケーションはジオラマの雰囲気と相まって、暖かみを感じさせてくれる。そして機械的なところは、ジオラマならではの無機質感やメカニカルな部分がバツグンに感じられて、隅から隅まで見たくなってしまうほど。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
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 先入観で「ジオラマ写真の上を3Dキャラクターが歩くのは違和感があるのでは?」と思っていたが、プレイしているとまったく違和感がない。というか、何ならジオラマということを忘れてしまうほどに、ゲームにマッチしている。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!

 操作はタッチ操作のほか、コントローラーにも対応している。筆者はタッチ操作のみでプレイしたが、コントローラーの場合はスティックなどでキャラクターを動かすシステムになる。タッチ操作は、画面をタッチした場所にピンが刺さり、ピンの場所までキャラクターが移動してすることになる。

 一見、いち方面からのカメラで進行するゲームのようにも見えるが、奥まった場所などに行けばカメラがグルリとスムーズに移動してくれる。これがタッチ操作と相まって、何だか気持ちがいい。

 というのも、本作は奥まった場所、死角、“ちょっと入れそうな場所”に、必ずと言っていいほど宝箱やアイテムが落ちているのだ。「ここ行ったら、何かありそうだな?」と行けば、ご褒美がもらえるのである。気になるところはついつい探しちゃうのだが、これこそRPGの良さを感じさせてくれる要素といえよう。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
たとえばここ、なんてことないただの小道かと思いきや……
『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
グルリとカメラが回り、木に隠れていた宝箱が露見する。

 なお、鍵が掛かって開けられない宝箱も、冒険の中ではいくつか登場する。それらは1度調べておけばマップに記録されるので、後で取りに来るときにわかりやすくなる。開けられなくとも必ず調べておくのがオススメだ。

 タッチ操作での自動移動はかなり便利だが、本作は“入れそうな場所”を探すことが多いので、細かいところや奥まった場所をタップしがちだ。そうすると、意図していないところに行ってしまうことが多少なりともある。また、ピンが話しかけたい人、調べたい場所にうまく刺さらないので、何度かタップする……みたいなこともしばしば。「コントローラーを使えば?」という話ではあるが、そういった微調整のために、オーソドックスなバーチャルパッドも用意してほしかったのが正直なところ。

ミニマップから便利な移動も

 本作は、ジオラマ自体がミニマップになっているのもポイントだ。探索すれば宝箱の位置なども記録され、ショップやマップ間の移動ポイントも表示される。さらにそこをタップし、移動ボタンを押せば自動でそこまで歩いてくれるという、便利な機能もある。

 サブクエストも多数用意されており、サブクエストが受けられるようになるとミニマップ上にクエストアイコンとして表示されるので、探す手間が省けるのはありがたい。

 ただ、自動移動で進んでみたいルートのあいだに、梯子など調べないと登れない場所が挟まっていた場合、その梯子に進むのではなく、その進行方向に自動移動したのち、壁にぶつかってストップしてしまうのでご注意を。

爽快! ディメンジョン・バトル

 バトルはコマンド選択式で、選択しているあいだの時間は止まるので、じっくり行動を考えられるもの。タッチ操作の場合、コマンドの選びかたが特殊で、キャラクターの左右に表示されるボックス型のコマンドを引っ張るようにして行動していく。

 たとえば、回復アイテムを使いたければ、使いたいアイテムを選び、それからボックスを選んで、使いたいキャラクターに投げるといった感じ。これが直感的かつ、回復アイテムを本当に渡しているような感覚が味わえたのが新鮮だった。

 攻撃時は、多彩に分かれた攻撃範囲を駆使して、いかに敵を巻き込んでいくのかを考えながら戦うのが基本。レオアは直線貫通型、キーナは曲線貫通型、シャルルは範囲円型といった形のスキルが使える(正確に言うと、魔法攻撃ならば曲がるなどと決まりがある)。通常の敵(いわゆるザコ)とのバトルは、それらの範囲攻撃でたくさんの敵を巻き込めるので、サクサクと進んでいってかなり気持ちがいい。

 また、ディメンジョン・バトルを使えば、エンカウントした敵を別の次元に溜め込んで、あとでまとめて倒すことが可能だ。上限となる30体まで溜め込んで戦うと、だいたい10体ぐらいが先に出現し、その敵を倒すごとに増援として30体までが出てくるイメージだ。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!

 30体もの敵と一度にバトルすると聞くとたいへんそうに思われるかもしれないが、、ディメンジョン・バトルでは“再行動”や“攻撃力アップ”などの恩恵を受けられる“ギミック”というものが存在するため、多数の敵を倒すのは案外ラク。溜め込んだ敵を一網打尽にして、一気に経験値を得るのはかなり爽快だ。

 ディメンジョン・バトルを“オン”にしていれば、敵とのエンカウントを一時的にスキップできるのも利点。探索中の不意なエンカウントで、テンポ良く探索できない……というのは、エンカウント式RPGの良いところでもあり悪いところでもある。本作はジオラマ世界の探索が本当に楽しいので、バトルでそこが阻害されないというのはうれしいポイントだった。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!

ボスバトルはどれも骨太!

 通常の敵とのバトルは爽快なものだが、ボスはそれぞれ異なるギミックを持っており、戦略性が重要になる骨太な戦闘になることが多い。スキルをどう使うか、いつ回復するのか、攻撃の狙い(エイミング)をどうするのか……などなど、昔ながらのコマンドRPGらしい味わいが楽しめる。それぞれギミックのヒントはキャラクターたちがセリフで教えてくれるので、基本的には戦略の糸口に頭を悩ますというよりは、1ターンごとの行動に頭を使う感じ。

 どのボスも個性的な味付けがなされていて、ボスと戦うたびに「こう来るのか!」とワクワクしたし、新鮮で驚きのあるギミックも多い。序盤で登場する、攻撃範囲が重要となる本作だからこそふさわしい“100体の敵と戦う”などのボスギミックには、もはや笑ってしまうほどに驚いた。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
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王道のRPGを彩る植松伸夫氏のBGM

 坂口氏が制作しているからこそ、やはり『ファイナルファンタジー』シリーズとの親和性は語るべきところ。本作は全体的に『ファイナルファンタジーIX』を彷彿とさせる世界観となっており、あの雰囲気が好きなファンにはたまらない。蘇生アイテムも“不死鳥の羽”だったり、武器やアイテム、スキルの名前でニヤリとするところも多かった。

 また、たとえば“宿屋の裏側から話しかけたら怒られた”、“置いてある着替えを調べて赤面するレオア”、などなど、「あぁ、そういうのがあったなあ」というネタが、いたるところに散りばめられている。RPGや『ファイナルファンタジー』が好きであればあるほど、筆者と同じような感覚が味わえるだろう。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!
『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!

 そしてそんな本作を大きく盛り上げているのが、本作の全曲を作曲した植松伸夫氏によるBGMだ。ファンタジー的なところではファンタジーらしく温和なBGMが流れたりする一方で、機械的な場所ではプログレッシブ感満載のBGMになったり、さらにはSFらしい音色が流れたりと、曲のバリエーションがものすごい。サウンドトラックの発売を望む。

後編に期待大!

 ゲームは基本的に装備とレベルアップのみで進んでいくが、中盤以降になると各キャラクターに成長マップが開放され、より自由なキャラクターのカスタマイズが可能となる。そこまでの道のりは基本的にシンプルなので、もしかしたら物足りなさを感じるかもしれないが、そこはご安心を。

 唯一気になったのは、本作はシナリオ進行、サブクエストなども“同じ道を再度探索する”というシーンが多々あること。たとえば豪華客船のウズラ号は何度前方と後方を行き来したのか、わからないくらい走ることになったし、クリアーしたエリアにサブクエストが登場し、受注すると再度そのエリアの奥まで行く必要がある、などということが多かった。メインとサブを同時にこなせたほうが、おそらく気持ちがいいはず(ワープ開放である程度は緩和される)。

 ただ、これは気持ちがすごくわかる。おそらく、フィールドがジオラマだからだろう。単にゲームを進行させるという意味では、作り込まれたジオラマも単なる背景でしかなく、人によってはササッと通り過ぎる場所も少なくないはずだ。せっかく作ったジオラマのフィールドを、しっかりと見てもらいたいからこそ、そういったシーンをあえて多くしているのだろうと予測する。

 ……と気になる点はありつつも、全体的には大満足。行くたびに驚きが待つジオラマのフィールド、とにかく止め時がわからないストーリー展開、その物語を邪魔せずにレベリングができるディメンジョン・バトル、ストーリーの区切りに待ち受ける骨太なボスバトル……。すべてがシンプルかつ王道的ながらも、新鮮味を感じさせてくれる内容になっており、RPGファンならばハマること間違いナシ。

 前編はリニアにゲームが進んでいくストーリーだったが、後編は『ファイナルファンタジーVI』の世界崩壊後的な、自分で自由に行く場所を決めて解決していくゲーム展開になると、坂口氏が公言している要素も楽しみなところ。Apple Arcadeは1ヵ月無料トライアルが可能(詳細はこちら)なので、気になる人はとりあえずトライアルで遊んでみてはいかがだろうか。

『ファンタジアン』担当ライターによるプレイレビュー。謎に包まれたレオアの物語を、爽快なディメンジョン・バトルとジオラマの世界が包み込む!

『FANTASIAN』
プラットフォーム:Apple Arcade
対応端末:iPhone/iPad/iPod touch/Apple TV/Mac
コントロール:キーボード+マウス(タッチパッド)/ゲームコントローラー
言語:日本語/英語(全世界150ヵ国以上で配信)
プレイ総時間:前編20~30時間、後編20~30時間(前編のみ配信、後編は2021年後半に配信予定)