2021年3月25日に発売した週刊ファミ通4月8日号には、特別付録としてN高・S高ガイドブックを封入。

 この小冊子は、2016年に開校したN高等学校と、この春に開校となるS高等学校のふたつの学校の魅力に迫る内容となっている。

VRゲームクリエイターが語るVRの魅力とは? 水口哲也氏・高橋宏典氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】

 N高・S高は、この春から、VRヘッドマウントディスプレイであるOculus Quest 2を活用した学習が行える“普通科プレミアム”の学科を新設。

 記事では、このOculus Quest 2の魅力に迫るべく、VRゲームクリエイター2名に登場いただき、インタビューを掲載した。

 本記事では、小冊子に掲載した水口氏と高橋氏のインタビューの全文を掲載。本誌では記事スペースの都合上カットされた部分もすべて掲載しているので、小冊子を見た人も必見だ。

水口哲也(みずぐちてつや)

 米国法人エンハンス代表。『ルミネスリマスター』や『Rez Infinite』など、“共感覚”の体験が楽しめる作品を多くリリース。2020年11月10日に、最新作の『テトリス エフェクト・コネクテッド』を発売した。

高橋宏典(たかはしひろみち)

 あまた代表。『どこでもいっしょ』( SCE(※)在籍時)を始め、最新のVR
タイトルも手掛ける。最新作の『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』では、プロデューサー兼ディレクターを務める。

※SCE……ソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

 なお、本冊子が付録となっている週刊ファミ通4月8日号は、以下よりバックナンバーが購入可能。N高・S高に興味がある人は、ぜひ購入してチェックしてほしい。

週刊ファミ通4月8日号 ebten(エビテン)で購入

水口氏の最新作『テトリス エフェクト・コネクテッド』

 『テトリス』に音楽と映像が融合した新感覚のパズルゲーム。

 本作は2018年に発売した『テトリス エフェクト』がベース。マルチプレイが追加され、より遊びの幅が広がっている。

VRゲームクリエイターが語るVRの魅力とは? 水口哲也氏・高橋宏典氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】
『テトリス エフェクト・コネクテッド』公式サイト

高橋氏の最新作『Last Labyrinth』

 プレイヤーは、ともに閉じ込められた少女カティアとともに謎の建物からの脱出を目指す。

 プレイヤーは椅子に縛りつけられており、カティアとは言葉で意思疎通ができない。プレイヤーにできるのは、頭に装着されたレーザーポインターを使ってカティアに気づいたことを知らせることのみ。

 罠の解除に失敗すると、ショッキングな死に様を体感することになる……。

VRゲームクリエイターが語るVRの魅力とは? 水口哲也氏・高橋宏典氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】
『Last Labyrinth』公式サイト

水口氏インタビュー VRでこれまでにない体験を

――水口さんのタイトルは、その時代の最先端技術を使ったものが多い印象を受けます。

水口新しい技術からアイデアやインスピレーションを得られることは多いです。「こういう技術がきたらこういうタイトルを作ってみたい」というアイデアを書き溜めていて、その新しいものがきたら、「待ってました」という気持ちでゲームを開発したりしています。

――新しいもの好きな一面があるんですね。

水口VRは、セガに入社する前から注目していた技術で、私がセガでいちばん最初に作ったプロダクトは、ゲームギアを改造したAR(※Augmented Reality(拡張現実)の略称。映像などを現実世界に合成するような技術)のヘッドセットだったんです。これを役員会で見せたのですが、「早すぎるね」って言われて却下されたことがあります。

――そんな昔からAR技術を!? 

水口N高・S高に通う人からすると私はお父さんの世代なのかもしれないですが、私が若い時代からいろいろな人が続けてきた演出的な挑戦とか、イメージ的な新しさとか、“体験の先にあるテクノロジー”みたいなものが、VRの登場で、ここにきてようやく現実的になり始めてきたんじゃないかなと思っています。

――水口さんの代表作としては『Rez』シリーズや『テトリス エフェクト』が挙げられますが、それぞれ、かなり個性的なゲーム内容になっています。

水口Rez Infinite』に関して言うと、もともとの構想は第1作の『Rez』から始まっています。『Rez Infinite』は『Rez』をベースに、さらに自由度が高くて、自由にVR空間を動き回れるというゲーム内容になっています。『Rez Infinite』に“Area X”というステージがあるんですけど、そのステージをプレイしていただきたいです。

 VR空間を気持ちよく飛び回りながら、プレイヤーのアクションによって効果音が発せられていきます。その効果音が、次第に音楽に発展していって、クライマックスのシーンではオペラみたいな壮大な空間へと発展していきます。そういった、創作性のある世界を体験可能なアドベンチャーゲームになっています。いままでにないような体験ができると思いますので、ぜひプレイしていただきたいです。

――『Rez Infinite』については、VRだから制作できたゲームなのでしょうか。

VRゲームクリエイターが語るVRの魅力とは? 水口哲也氏・高橋宏典氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】
VRゲームクリエイターが語るVRの魅力とは? 水口哲也氏・高橋宏典氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】
『Rez Infinite』。『Rez』の進化版として2016年に全世界一斉にリリースされた、新感覚のVR対応アドベンチャーゲーム。

水口“VRならでは”というところをすごく考えてチューンナップしたので、それはすごくありますね。ゲーム性は進化したと同時に『Rez』独特の体験や気持ちよさは変わらないことが証明できた気がしています。

――根底にあるおもしろさやゲーム性は変わらなかったと?

水口人の心を揺さぶる力のある“体験”って、時間が経ったとしても劣化しないと思うんです。『Rez』の根底にあるおもしろさは、いまプレイしても変わらずにおもしろいなと。

――そういったおもしろさのアイデアの源泉は、どこから湧き出てくるのでしょうか。

水口自分でもよくわからないんですね(笑)。ゲームクリエイターって、誰もが新しい体験からくる新しい感動を生み出したいって思っているはずなんです。世界中に、これだけ音楽が好きな人がいて、これだけゲームが好きな人がいて、それがハイレベルに融合する体験があるとすれば、それがいったいどんなものなんだろうって、自問自答するところから、私のゲームの企画はスタートしています。

 ゲームをプレイして魂が揺さぶられるとか、新しい感動に達するとか、泣いてしまうとか。昔の解像度が低かったゲームでは表現できなかったような感動体験が、いまなら表現できると思っています。じゃあ、どうすればそれができるんだろう。そんなことばっかり考えていくと、こういうゲームのアイデアが突然降ってきたりすることがあるんです。

――まさに“神が降りてきた”みたいな感覚なんですね。『テトリス エフェクト』についてもお聞かせいただけますか?

水口もともと『ルミネス』というゲームがあって、そのゲームのおもしろさを『テトリス』に当てはめていくと、どういうことが可能になるのか。そこにいろいろな要素を加えたりしていくとどうなるのか。『テトリス』は、誰でも知っているくらい超有名なゲームですが、その『テトリス』を進化させて、テトリスで泣くとか、感動するみたいなゲームがあれば、それってどういったものなんだろうという問いかけから始まっています。『テトリス』って白黒の画面でもおもしろいですが、それをVRの3Dゲームにしたらどうなるんだろうって。

 “パズルゲームで泣く”っていうのは考えにくいと思うんですけど、すごい真面目に考えたらできるんじゃないかって思ったんです。音が自分の操作によって音楽に変わっていって、さらなる操作によって変化していく。だんだん世界が音楽に反応し始めて、ビジュアルも変化していく。これはそれなりの映像の解像度がないと表現できないことだと思っています。

――こちらもVRという技術があったからこそ実現できたというわけですね。水口さんは、どんなところがVRの魅力だと考えていますか?

水口いままでは四角い画面の中でゲームを作っていたわけですが、その枠がなくなったことで、表現できるものにも際限がなくなりました。そこがいちばんの魅力ですね。そもそも没入度みたいなものもぜんぜん違うし、これだけの自由度と制約のない世界にユーザーを誘うとなると、これまでとは異なるゲームの作りかたをしなくてはいけません。

 いままでの2Dのゲームの考えかたでいくと全然うまくいかないと考えています。僕らはもともと3Dの世界に生きている生き物だから、100年くらい続いているテレビゲームの画面って不自然なものなんですよね。そう考えると、ようやく本来の形に戻ってきたといえるかもしれません。

――VRは今後、どんな進化を遂げていくと考えていますか?

水口デジタルとアナログの融合が起こると思います。リアルな世界とバーチャルなものが混ざり合って、新しいゲームやサービスが登場するのではないでしょうか。

――N高・S高では、Oculus Quest 2を使った学びかたがスタートしますが、ご自身が考えるOculus Quest 2の魅力を教えてください。

水口いよいよ、自由度の高いVRヘッドセットがお手頃な値段で出てきたなというのがいちばんの印象です。皆さんが言うことだと思いますが、まずはワイヤレスなことがいちばんです。あと、ほかに何かを用意しなくてもVRが楽しめるオールインワンなところも魅力ですね。スタンドアローンなのに値段も安くて、解像度やハードウェアの性能もそこそこいいですし、すごいなと。

――N高・S高は“ネットの学校”で、すべての授業をインターネットを通じて行います。ネットの高校の需要やメリット、魅力について、水口さんはどう考えられていますか?

水口私自身は、とてもおもしろい試みだなと思っています。アメリカにもミネルバ大学という学校がありますが、そこも授業はすべてオンラインで行うんです。実地の授業としては、ボランティアをやったりとか、世界中の都市を回ったりして、オンラインとオフラインのいいところを取り入れたカリキュラムになっています。それってすごくステキな話だと思うんですよね。

 あと、世界中どこにいてもクラスメイトに出会えることも魅力だと思います。北海道の人と東京の人が同じクラスメイトになるとか、そういうすごさがある。自分の住んでいるところのコミュニティーとか地域を大事にしながら、インターネットというグローバルな場所で学ぶことができる。すごく未来な感じがするので私はすごく好きです。

――世界的に見ても、最先端の学びが体験できるのは、ひとつの魅力ですね。

水口コロナ禍みたいなきっかけはあったと思うんですけど、世の中がなるべくデジタルに移行しようと変わっていく時代の入り口に、我々は立っていると思います。日本中や世界中の人と出会い、自分の好きなことを突き詰めていきながら、その先の人生を設計していくみたいなことができる時代になってきました。そこには自分のことを律する責任感みたいなものも要求されますが、N高・S高は、いろいろな意味でおもしろい試みなんじゃないかと思っています。

 そこから世界に羽ばたいていくとか、地元に貢献するとか。自分の選択の幅が広がると思うので、生徒の方々にはがんばっていただきたいなと思います。先端の技術に触れられるのもすごいことだと思うし、N高・S高の人たちが活躍するこれからの世界を見てみたいですね。

高橋氏インタビュー VR体験はより身近な時代へ

――高橋さんの手掛けるゲームはその時々のハードウェアの最先端なテクノロジーを使われていますね。

高橋じつはそのつもりはなくて、その時々に開発のお声がかかったものが、偶然そうだっただけだったりします。自分がおもしろいものが作れそうな方向性を選びたい性分だというのもあると思いますが。

――高橋さんの最新作『Last Labyrinth』も遊べるOculus Quest 2は、どのような部分が優れたハードだと考えられますか?

高橋『Last Labyrinth』をプロモーションするときにも感じたのですが、従来のVRってすごくハードルが高いものだったんです。ハイスペックなPCが必要だったり、揃えるハードが多かったり、理由はいろいろあります。ですがOculus Quest 2は、これだけ買えばすぐにVR体験が楽しめます。このわかりやすさはいままでなかったものですよね。また、ケーブルがなくなったというのも大きいかと。

――ケーブルがないというのは、大きな革新だったのですね。

高橋我々もVRゲームを開発していて思ったのですが、無意識にケーブルの存在を意識しているなと。ケーブルがあるから慎重に腕や頭を動かしたりしますし、そもそも、重いからかぶるのが面倒ですよね。Oculus Quest 2は完全なスタンドアローン機なので、快適さとか、ケーブルを気にしないことによる没入感の高さは段違いだと思います。

――ケーブルがあるのとないのとでは、心理的抵抗感や快適さが段違いですしね。

高橋若い方には伝わらないかもしれませんが、固定電話がコードレスになったときのような、すごい感動がありました(笑)。

――今後VR機器には、どういった進化を期待しますか?

高橋Oculus Questに関して言うと、1から2になったときに3Dの表示能力が劇的に上がりました。3Dのグラフィックをキレイに出力するためにはハードスペックの向上が必須なので、3でも、その点には期待しています。あとは大きさや軽さはもちろんですが、カラーバリエーションもほしいですね。

――カラーバリエーションですか?

高橋VRハードは、スマホみたいなものになると思っています。一家に1台ではなく、ひとりに1台。もっと軽く、フィットしやすいことも重要だともいますが、自分の気に入ったデザインであることや、好きなカラーから選べるようになることも、普及に貢献すると考えています。

――ゆくゆくはメガネのサイズまで小さくなってほしいですね。

高橋何世代かあとになれば、必ずそうなると思います。ふつうのメガネになるのは時間がかかりそうですが、すこしゴツいメガネくらいなら、もう夢ではない時代になってきています。

――そのほかに望むことはありますでしょうか。

高橋ARグラスやMR(Mixed Reality(複合現実)の略。目の前に映像を映し出し、そこにタッチして操作したりできるような技術)グラスなども進化を遂げていますが、いつかはAR、MR、VRがオールインワンになったハードが出てくれないかなと夢見ています。ARモードやVRモードなど、切り換えて使うことができるんです。

――それが実現すれば、まさにSFの世界が現実のものになりますね。

高橋ソフトウェア面では、VRヘッドセットをかぶって出勤するバーチャルオフィスや、バーチャルなカンファレンスなどが行えるソフトにニーズがあるんじゃないかと考えています。さまざまな起業がリモートワークを行っていて、業務は効率化していますが、社員どうしの交流などは減ってしまっていますよね。交流から生まれるビジネスやアイデアってかなり多いと思うんです。

 また、カンファレンスやショウなども昨年からオンライン化しましたが、リアルに行うショウの場合、お目当て以外にもおもしろいものを見つけたり、意外な人に会場に出会ったりすることも多いですよね。

――リモートワークで失われてしまったオフラインのいいところを、ソフトウェアで補完するわけですね。

高橋そういった出会いや交流からおもしろいものが生まれることって多いので、どこかでこの文化が復活してほしいなと思っています。

――『Last Labyrinth』についてもお話をお聞かせください。まずは、本作の魅力となるところをお聞かせいただけますか?

高橋『Last Labyrinth』は、VRの脱出アドベンチャーというカテゴリーのゲームで、プレイヤーはなぜか車椅子に縛りつけられて閉じ込められているところからスタートします。カティアという女の子がいっしょにいるのですが、言葉ではコミュニケーションが取れないので、ジェスチャーを駆使しながら、いっしょに謎解きをしていきます。VRゲームならではの体験を詰め込めたんじゃないかなと思っています。

VRゲームクリエイターが語るVRの魅力とは? 水口哲也氏・高橋宏典氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】

――操作によっては、かなりショッキングなゲームオーバーを迎えることになりますよね。

高橋ゲームとしては、カティアの繊細なアニメーションやリアルなコミュニケーションに注力して開発しました。かなり生き生きとしたキャラクターにできていると思うので、その分、謎解きに失敗したときの死にかたがショッキングに映ると思います。

――開発当時にはOculus Quest 2はまだ発表されていませんでしたが、発表されたときのお気持ちはいかがでしたでしょうか。

高橋Oculus Quest 2は非常に画期的なハードで人気が出ると予想しており、その通りとなりました。いまは、Oculus Quest2に向けて、新しいゲームを作ることを考えてワクワクしています。

――VRゲーム開発者から見た、VRの魅力をお聞かせいただけますでしょうか。

高橋やはり、“そこにいる”という感覚が味わえる部分だと思います。“プレゼンス”とか、“存在感”みたいな言いかたをしますが、液晶モニターでプレイする平面のゲームとは、まったく異なる臨場感が味わえるのがVRのいいところだと思います。

――ゲームの作りかたは、通常のゲームとは異なるのでしょうか。

高橋いちばん異なるのは、ムービーシーンやカットシーンですね。いままでのゲームだと、ムービーシーンは映画のように作ることができましたが、VRは画面=プレイヤーの視点なので、場面転換をして異なるカメラの映像を目の前に映すみたいなことができないんです。ふつうのゲームだと、ここでキャラクターの悲しそうな顔をアップにする、みたいなこともできますが、VRだとアップにするというのができないんです。VRの映像は、映画よりも演劇に近い作りになるのかな、と思っています。

――今後も、VRゲームを開発される可能性はあると思いますが、こんなゲームにチャレンジしてみたい、という夢みたいなものはありますでしょうか。

高橋『Last Labyrinth』は、プレイヤーはまったく動けないというシチュエーションのゲームでした。今後チャンスがあれば、Oculus Quest 2のケーブルがなく自由に動くことができるハードという特性を活かし、体を動かしてプレイするゲームの開発にチャレンジしてみたいと思います。

――N高とS高では、このOculus Quest 2が教材として活用されます。こういった取り組みがご自身が学生のころにあったら、魅力的に感じられたと思いますか?

高橋すごく興味が惹かれる学校だと思います。VR空間なので、例えば恐竜とか、ふだんは持ち込めないサイズの教材なども、リアルなサイズで確認できますよね。情報の脳へのインプットのされかたも違うのではないでしょうか。恐竜は体長何メートルだと教科書には書いてありますが、実際に見ることができれば、興味も湧きますし、覚えやすそうですよね。歴史とか科学みたいな授業では、毎回博物館に行くような授業が行えるのって、とってもステキなことだと思っています。

――N高とS高はオンラインで学ぶ学校なのですが、そういった取り組みについて、高橋さんはどうお考えでしょうか。

高橋コロナ禍の影響もあり、ライフスタイルもビジネスも急速に変化していっています。自分に合ったペースとか、自分の好きな形で勉強できるというのはすごく“いま向き”ですね。オンライン教育というのはすごく先進的な取り組みだと思うので、たくさん勉強していただいて、その後の自分の人生で役立てていってほしいです。息抜きをするときには、ぜひうちのゲームで遊んでください!