ワンダーアクションが生まれるまでの道程とは?
2021年3月26日、スクウェア・エニックスよりNintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC向け(Steam版は2021年3月27日配信)に発売された完全新作の“ワンダーアクション”、『バランワンダーワールド』。
舞台ミュージカルをモチーフに、80種類以上の衣装を着替えながら心象世界を冒険するというユニークな視点を持ちながら、王道で正統派の探索型3Dアクションとなる本作は、どのようにして生まれたのか?
今回、本作でディベロップメントプロデューサー兼キャラクターデザイナーを務めたアーゼストの大島直人氏と、プロデューサーを務めたスクウェア・エニックスの藤本則義氏に、開発の経緯や本作の狙いなど、アレコレを訊いてみた。
インタビューから見えてきたのは、『バランワンダーワールド』は数多の挑戦が盛り込まれた、かなりの意欲作であること。新たなアクションゲームを目指した道のり、本作に込められた“願い”をじっくりと読んでほしい。
大島直人氏(おおしま・なおと)
アーゼスト所属。セガ在籍時代の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』など、数々の作品でデザインを手掛けた、日本を代表するクリエイターのひとり。
藤本義則氏(ふじもと・よしのり)
スクウェア・エニックス所属。『ドラゴンクエスト』シリーズなど、数多くの作品でプロデューサーを担当。
プラットフォームゲームの集大成を本作で目指す
――大島さんはいままでにいろいろな会社とゲームを開発されてきたと思いますが、スクウェア・エニックスとの開発はいかがでしたか?
大島マーケティングも含めて、ゲームのことをしっかりと考えている印象です。プレイヤーにエンターテインメントのおもしろさを伝えるために、物語を大事にする姿勢を強く感じました。どの会社にもゲーム性であったりアクションであったりとこだわりがあるのですが、その中でも物語に対する熱量はほかにはないと感じました。
――確かに本作のストーリーはしっかりと描かれている印象です。
大島当初はセリフも入れないで、もっとシンプルに物語を描くことを考えていたのですが、ヴィジュアルワークス(※1)さんがアイデアを膨らませて、チカラの入った映像をつぎからつぎへと作成してくれたので、「こちらも負けていられないぞ」となって、どんどんいまの形に近づいていきました。
※編注1:ヴィジュアルワークス……スクウェア・エニックス内にある、ハイエンドのフルCG映像を専門に手掛けるチーム。
――実際にプレイしたときにセリフが少なめに感じたのは、その名残りですか?
大島セリフを削ってもストーリーを語ることができるのか、という表現にこだわっています。本作がセリフで雄弁に説明するような作品ではないのは確かですね。
――ムービーの絵コンテは大島さんが担当されたのですか?
大島最初に「簡単でいいから絵コンテが欲しい」と言われたので、2、3枚のコンテをちゃちゃっと描いたんです。歩いていると光が差している場所を見つけたので興味を惹かれて道に入ったら、そこに見たこともない劇場があって、中に入ると謎のマエストロが現れてダンスを披露する……という、物語冒頭のシーンですね。参考にしたいと言われただけなので10分くらいで描いたのですが、ヴィジュアルワークスさんの手にかかったら、体験版でも見られるオープニング映像に近いものが上がってきたので、びっくりしました(笑)。あんなに汚い絵コンテだったのに……。
藤本もちろん、ほかにも大島さんからたくさんのキーワードをいただいたので、それも映像表現の参考にして作りましたよ。
――映像だけでなく、音楽もすごくよかったです。
藤本言葉がなくとも全世界の人が感覚で理解できる表現なので、映像や音楽にも注力しています。
大島舞台ミュージカルを取り入れるアイデアも当初からありました。音楽はもちろん、有名なダンサーの方がモーションキャプチャーで参加したダンスシーンもすばらしいです。
藤本ロンドンのウエスト・エンド……アメリカでいうブロードウェイのような、ミュージカルの本場で活躍する方も参加していて、歌もすばらしいので、そこにも注目してください。驚くくらい歌がうまいんですよ(笑)。
――舞台ミュージカルというモチーフ以外にも、当初から決めていたことはありますか?
大島私たちが“章キャラクター”と呼んでいる、ストーリーの中心となるキャラクターですが、ゲームに登場する“ハピネスクロック”に合わせて12人にすることは考えていました。先に言った通り、当初はセリフを使わないことを想定していましたが、12個の小さなストーリーを重ねることで大きなストーリーを描くイメージはありましたね。
――それぞれが小さなストーリーと言っても、描かれているテーマは軽くはありませんよね。
大島それぞれの小さなストーリーは、作家の川崎草志(※2)さんにもアイデアを出していただいて作りました。12個どころではなく、30から40個もストーリーを考えていただいて、その中からあまり重すぎないものを選んでいます(笑)。もっとヘビーな物語もありましたから。
※編注2:川崎草志(かわさき・そうし)氏……作家。2001年に『長い腕』で第21回横溝正史ミステリ大賞を受賞。本作のノベライズである『GAME NOVELS バランワンダーワールド ~謎のマエストロと不思議な劇場~』も手掛ける。
――大島さんのアートデザインがポップなので、シリアスな印象が薄まっているのかもしれません。
大島私だけでなく、遠藤(※3)を含めた才能溢れるチームでアートを担当しました。ポスターアートなどは遠藤が手掛けています。世界中の方が身近に感じられるようなデザインにすることは、つねに気にしていましたね。
※編注3:遠藤悠乃(えんどう・ゆの)氏……アーゼスト所属のデザイナー。
――80種類を超える衣装をデザインするだけでもたいへんだったのでは?
大島そうですね(苦笑)。私たちもたいへんでしたが、藤本さんもかなりたいへんだったと思います。
藤本80種類ともなると、ステージの中でバランスを調整するのが難しくて。「この衣装だとこのステージが簡単すぎないか?」となったりもして……。本作には“バランス”という重要なコンセプトがあるんです。ポジティブとネガティブのバランスというテーマだけでなく、遊び心地のバランスも重要だったので、レベルデザインには苦心しました。
――衣装の数だけ攻略法が生まれるわけで、それでも簡単すぎず難しすぎず……というバランスに注意したわけですね。ひとつのステージに複数の衣装が登場するのは想定内でしたが、その衣装をほかのステージに持っていけることに驚いたんですよ。この仕様でのレベルデザインのチェックって、なかなか終わりが見えないと思うのですが……?
大島そこは“挑戦”でしかありませんでした。ふつうは避けますよね。ひとつの衣装のチェックだけで何時間かかるんだ……となるので。
――衣装を着替えながらステージを進むというコンセプトも最初から?
大島最初からですが、スタート時点では衣装の数はもっと少なかったです。
藤本でも、早い段階で80種類以上の衣装を用意しようという話になっていました。本作のようなプラットフォームゲーム(※3)は、シンプルな操作でおもしろいアクションが楽しめることが大前提です。なので、衣装が多くなってもすべてワンボタンのアクションでプレイできるようにしました。そして、これまでのプラットフォームゲームの集大成を目指そうという狙いもあって、80種類以上の衣装を用意することを決めました。
※編注4:プラットフォームゲーム…… 移動とジャンプで足場=プラットフォームを進みながら目標到達を目指すゲームのこと。
――80種類以上という、その数が重要だった?
藤本選択肢を増やすことが遊びの幅を広げることにつながり、それで大人もお子さんも、ライトユーザーもコアユーザーも関係なく遊びやすい作品になると考えました。アクションを使い分けることでステージを攻略するというゲーム性も相まって、本作ならではのプラットフォームゲームが成立するのではないかと。
――ちなみに協力プレイも、『バランワンダーワールド』なりのプラットフォームゲームを目指すための一環ということですか?
藤本じつは、協力プレイを導入したのは開発の後半なんです(笑)。開発途中で「ふたりで進められたらおもしろくないか?」となって、後から実装しました。これでバランスを取るのがさらにたいへんになったのですが……挑戦してよかったと思えるものになりました。
大島いまのゲーム作りは工程をていねいに構築していくと思うのですが、昔は途中から変更したり追加したり、けっこう無茶なことをやっていたんですよね。今回は同じような空気を感じました(笑)。変なこだわりも詰まっているので、昔からのコアなゲームファンはどこかなつかしさを感じる部分があるかもしれません。
藤本プレイしてもらえれば、そう感じてもらえるかと思います。変なこだわりと言えば、いつの間にか舞台の楽屋をイメージした隠し部屋のような場所がステージの中に設置されていましたね。
プレイに合わせてバランスを調整するAIを構築
大島バランスについてですが、本作では私たちが“バランスAI”と呼んでいるメタAI(※5)を採用しています。スクウェア・エニックスの三宅(※6)さんのチカラをお借りして、構築しました。プレイヤーのスキルだけでなく、そのクセまで感知して、AIがエネミーをセットするんです。場所だけでなく、数も種類もプレイによって変わるので、アクションが得意な人しか会えない敵も出てきます。
※編注4:メタAI …… プレイヤーのスキルや状況を判断して、敵の配置や難度などのゲーム要素を調整するAI。
※編注5:三宅陽一郎(みやけ・よういちろう)氏……スクウェア・エニックス所属。デジタルゲームの人工知能開発などを専門としている。
―― なるほど!
大島ステージをクリアーするとスタンプをもらえるのですが、うまい人のスタンプは赤、ふつうは黄色、あまり得意ではないなら青とスタンプの色が変わるので、それでメタAIが自分の腕前をどう判断しているのかがわかります。道中で見つかるコスチュームボックスの数なども変化しますよ。
――プレイヤーが苦戦を重ねると少しやさしくなるとか?
大島そうです。たとえば右回りのルートを選びやすいとAIが判断したとき、あまりうまくない人なら右回りのルートにアイテムを出しやすくして、アクションが得意な人なら逆に左回りのルートにアイテムを出すように調整することもあります。メタAIの導入も本作の挑戦のひとつなんです。
――くり返し遊んでいたら、どんどん敵が増えて強くなることもあるというわけですね。
藤本たいへんなことになると思います(笑)。ただ、メタAIは難度を調整するだけではありません。敵をなるべく倒さないで進むプレイを続けていると、「そういうプレイが好きなのね」とAIが判断して、敵の数を抑えてくれます。「とにかくエンディングまで急ぎたいんだな」と判断した人には、なるべく快適にストーリーを進められるようにバランスを調整するなど、アシスト的な役割を果たしてもくれます。
―― それは新しい要素ですね。
藤本メタAIが持つ性能すべてを反映しているわけではなく、本作のゲーム性に合う性能を取捨選択して構築しています。敵やティムなどそれぞれもAIで動いているのですが、それも含めてゲーム全体をディレクションするのが、本作のバランスAIになります。プラットフォームゲームでこういったAIを使っている作品は、ほかにはないかもしれません。
――そうなってくると、ステージの設計もさらに気を抜けませんね。
大島3Dマップを作る場合、スタート地点でここがどんな世界かがわかって、先に待つギミックがなんとなく予想できるようにすること、プレイヤーが気になる場所……たとえば塔のてっぺんなどにゴールを設定することが、私は大事だと思います。ふつうに歩いても楽しいマップがあって、そこにトラップなどのギミックを加えていく。それから、敵の組み合わせなどを考えます。その後はメタAIに任せるという作りかたにしました。なので、全部が組み合わさったときにどうなるか、プレイするまでドキドキしました。
――プレイしていると、「ここはあの衣装があれば道が開けそうだな」とか、気づくことが多かったです。
藤本とくに寄り道の部分に関しては、特定の衣装がなければ進めないような場所は少なくて、できるだけ衣装の選択の幅を持たせるようにはしました。プレイヤーの発想次第で攻略が増えるというコンセプトも大事にしています。
――坂道からのジャンプが続く場面では、身体を膨らませて浮遊できる“ソアリンシープ”を多用したりと、衣装に愛着が湧いてくるのも楽しいですよね。ほかにふさわしい衣装はあるのかも、とも思うのですが。
藤本わかります(笑)。ソアリンシープでの移動は気持ちいいですから。ステージに持ち込める3つの衣装に必ず入れたくなる衣装なども出てきますよね。
大島アクションや探索も重要視していますが、ティムの育成や協力プレイ、さらに隠し要素もあるので、相当なボリュームになっていると思います。
藤本本編をクリアーすることで開放される要素などもありますよ。
――お話を聞けば聞くほど、開発がたいへんだったことがわかりますが、その中でもいちばん苦労された部分は?
大島開発はいつ終わるのか……と思ったことでしょうか(笑)。マルチプラットホームなので、どこかでバグが見つかったら全ハードでチェックしないといけない。何か起こるたびにすごく時間がかかったのは、たいへんでした。ハードごとに開発の特性が違うので、それを把握して進めるのがもう……。
藤本新しいハードの性能をチェックしながら開発を進めるのも難しかったですね。マルチプラットフォームを選択した時点でそれは仕方のないことなので覚悟はしました。また、80種類以上の衣装をどのステージにはめ込むのか、そこは最後まで悩みました。
最後まで遊んで物語に込めた願いを感じ取ってほしい
――ティムの存在もユニークですよね。色が変わるのはなぜなのでしょうか。
大島ドロップを食べれば食べるほど、基本的に色が濃くなります。赤が強くなるとより多くのネガティを攻撃してくれたり、ピンクだとアイテムを多く集めてくれたり、黄色だとティムタワーをより成長させるなど。色によってティムの能力は異なるのですが、最終的には“究極ティム”になります。究極まで育てるとどうなるのかは、実際にプレイして確かめていただきたいですね。ひとつ言えるのは、レインボードロップが究極ティムの成長に関係しています。レインボードロップはステージ内に“マザーティム像”というものがあり、そこで入手できたりもします。
――ティムの成長もやり込み要素のひとつになるということですね。
藤本ティムは“TIME(時間)”の“E”を抜いて名付けたのですが、ティムが減って“ハピネスタイム”が止まるとティムズエリアの住人たちから幸せな感情が消えてしまうんです。ティムを増やすためにドロップが必要で、ティムタワーを成長させて幸せな感情をどんどん増やすことが住人たちにとって重要となります。その時間を止めるのが“ネガティ”という存在なんです。ちなみに、じつはティムには“寿命”と呼べるような制限があるので、新しいティムを生み出すことも大事です。また、ティムを1匹抱えてステージに入れるので、好きなティムを連れていくことも攻略のひとつとなります。
――それは知らなかった。はっきりと説明されないことがたくさんあるんですね。
藤本もちろん知らなくても攻略に大きな影響はありませんが、知っておくと少し役立つポイントはたくさんあります。
大島プレイヤーが「こうしてみよう」と思ったことがプレイに何かしらの影響を与えるような“気付き”を意図的に入れているので、いろいろ試してほしいですね。後半に進むと、プレイヤーが気付かないうちにティムが食虫植物のようなものに捕食されて、ティムを助け出さないとクリアーできないことも起こります。
藤本道を戻ると口をもごもごしている食虫植物があるので、ティムを助け出さないといけないんです。
――掘れば掘るほど出てきますね(笑)。ストーリーの話に戻るのですが、本作の物語を通してプレイヤーに伝えたいことは?
大島“どんな時でもムダではなかった”ということです。いいことも悪いことも、自分の経験はムダにはならない、と。
藤本抱える悩みや小さな喜び、そのすべてがハッピーにつながるということをこのゲームで感じてもらえたらうれしいですね。
――だからこそ、お子さんにも遊べるようにしているのでしょうか。
藤本全年齢対象にしたのも、バランスAIで初心者でも遊べるようにしたことも、ワンボタンのアクションにこだわったことも、お子さんから大人まで、すべての人が最後まで遊んで、本作に込めた願いを感じ取っていただけるようにしたかったからです。
――クリアーするだけだったら、誰でも大丈夫な感じがします。
藤本まあ、スタチューをすべて集めるのはかなり難しいのですが(笑)。ふつうにプレイしていればクリアーに必要な数は集められると思います。
――体験版を配信されていろいろな意見が寄せられたと思いますが、そのフィードバックは本編に反映されているのでしょうか?
※体験版の配信は終了(Steam版の体験版は2021年4月16日午前2時に配信停止)しています。
藤本プラットフォームゲームとしての爽快感が足りないという意見をいただいたので、発売日当日にパッチをあてていくつかピックアップして改善することにしました。爽快感に直結する部分で言いますと、移動速度や加速度などを調整しました。難易度に関しても、ただ難しくするのではなく、バランスを調整しながら気持ちのいい手応えを感じられるようにしています。全体的にテンポアップしている印象を受けると思います。
大島つぎの行動にパッと移れるようになりました。カメラについても、オートカメラを調整して改善させています。
――プレイフィールが変わるのは大きいですね。最後に、プレイヤーへのメッセージをお聞かせください。
大島アクションゲームという部分はもちろん、バランやランスの目的が徐々に明らかになっていくストーリーにも注目していただきたいですね。ステージに登場する大きなキャラクターにも驚いてください(笑)。
藤本あれはびっくりしますよね。心象世界という特性を活かしたステージなので、ふしぎな光景をたくさん目にされると思います(笑)。私からのメッセージですが、最後までプレイしていただければ「こういうことだったのか!」と気付くこともあると思いますし、プレイした方によって印象の変わる物語になっています。衣装を探す楽しさ、クセのある衣装を使う楽しさも、本作ならではと思います。小説やサウンドトラックなども併せれば、より楽しさが増すと思いますので、そちらもぜひ!
こちらもチェック