2021年3月5日にSteam版がリリースされた、CAVYHOUSEが開発、PLAYISMが販売を行うダンジョン農地化ローグライク『くちなしアンプル』のレビューをお届けします。なお、本作は3月12日まで10%オフのセール価格で販売中です。

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『くちなしアンプル』Steamページ

 CAVYHOUSEは『わすれなオルガン』、『マヨナカ・ガラン』などを手掛けたインディー・同人ゲーム制作サークル。制作するゲームにはオリジナリティの高い世界観、アートスタイルや、中毒性の高いゲームデザインなどの特徴があります。ちなみに前々作にあたる『わすれなオルガン』は本作の10年後を舞台にしているとのこと。

 “不思議のダンジョン”シリーズなどに近い“ローグライク”のゲームとなっている『くちなしアンプル』。けれど、“ダンジョン農地化”ってどういうこと? と疑問に思っている方も多いと思うので、このあたりについても詳しく書いていきましょう。

安いモノには理由(ワケ)がある。格安中古ダンジョンは“事故ダンジョン”だった!?

 本作の主人公は新米錬金術師の女性・イレーヌ。ある日、イレーヌが通販ショップ“メルクリ”をチェックしていると、70%割引で販売されている“格安中古ダンジョン”を発見します。

 錬金術に必要な素材がたくさん眠っている自分だけのダンジョンを手に入れるのは、この世界での錬金術師の王道。母親を亡くしたばかりで悲しみに暮れていたイレーヌでしたが、お店を構える一人前の錬金術師になるため、気持ちを切り替えてダンジョン探索に向かいます。

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 住み着いた“エネミー”を倒しつつダンジョンを潜っていくイレーヌは、その先でなんと身元不明の男の死体を見つけてしまいます。この格安ダンジョン、正真正銘の事故物件、ならぬ“事故ダンジョン”だったのです。

 死体のすぐそばには、なんらかの事情を知っていそうな双子の子どもの姿が。しかし彼らは意味深なことを口にして煙に巻くばかりで、イレーヌが知りたいことは教えてくれません。しかたなくイレーヌは、ダンジョンのさらに奥へと歩みを進め、このダンジョンが何故こんなことになっているのか、調査することにしたのでした。

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 果たしてイレーヌは、トラブルだらけの事故ダンジョンの謎を解明し、一人前の錬金術師になれるのでしょうか?

探索・戦闘要素はシンプル、デスペナルティは少なめ

 前述の通り、本作はローグライクと呼ばれるジャンルのゲームです。自動生成で潜るたびに地形やアイテム配置が変化するダンジョンで、より深い階層を目指して進んでいきましょう。ダンジョン内はマス目で区切られており、イレーヌが1マス移動したり、攻撃を行ったりするたびに1ターンを消費するシステムになっています。

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多くのローグライク作品と同様、斜め移動も可能。戦闘時の位置取りで重宝する。

 ダンジョン内にはさまざまなエネミーが出現。イレーヌが移動や攻撃などひとつの行動を取るたびにエネミーたちもひとつの行動を取るというターン制での攻防を行うことになります。

 複数のエネミーに囲まれた場合、イレーヌが行動するたび取り囲むエネミー全員が1度ずつ攻撃を仕掛けてくるので、袋叩きに遭ってしまうことも。また、敵の攻撃で状態異常を付与されてしまうと、予想外の苦戦を強いられてしまうかもしれません。そういった不利な局面が、ランダム性によって避けられず生じることもあり、どのように対処するかがプレイヤーの腕の見せどころです。

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袋叩きに遭っている場面。行動回数減少の状態異常などを食らうと大ピンチ。
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狭い通路に誘い込めば、取り囲まれずに各個撃破を狙えるといった局面も。

 エネミー以外でダンジョン内に存在するものとしては、“エレメント”と呼ばれる素材や、“錬金具”(エレメントと錬金具の機能は後述)、そしてHPやMPの回復、状態異常の治癒などに用いる“アイテム”などがあり、これらは配置されているマスに触れることで入手できます。触れると即座に回復や能力強化などの効果を発揮する“魔法陣”が配置されている場合も。

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エレメントはできる限り拾っておこう。
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アイテムの所持数には限りがある。今後より必要になりそうなものを選ぼう。
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これはHP最大値アップの魔法陣。効果はこの探索時のみ有効で、脱出すると解ける。

 本作をローグライクのゲームとして見ると、探索部分は比較的シンプルかつ、シビアさはあまりありません。ダンジョンを出てもイレーヌのレベルや所持アイテムは引き継ぐことができ、潜るたびに強くなってさらに奥の階層を目指せます。かつて苦戦したエネミーを一撃で倒せるようになったときの快感はなかなかのもの。

 また、ダンジョン内でHPがゼロになって倒れると、入手したエレメントやアイテムの一部を失いますが、すべてが無に帰すわけではありません。失敗しても必ず次回以降の糧になるあたりの仕様もやさしい部類だといえます。

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途中で倒れたため、手に入るエレメントがだいぶ減ってしまった。くっ、くやしい……。
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特定のフロアではボス戦も。前の階層で警告されるので、自信がないときは引き返そう。

 とはいえ、なるべく無傷で帰還するのが望ましいところ。各階層では下の階層に続く穴を見つけると“つぎの階へ進む”か“イレーヌの部屋に戻る”かを選択できます。敵の強さや回復アイテムの残量を考慮しつつ、不測の事態に備え、少しでも不安を感じたら引き返すのが得策です。

 つぎの探索はまた地下1階からやりなおしになることもあり、どうしても「もっと先に行けるんじゃないか?」というチャレンジ精神が頭をもたげることと思います。けれど、慣れるまではそこをグッとこらえて、倒れることなくより多くのエレメントを持ち帰りましょう。

 なぜなら、本作の特徴である“ダンジョン農地化”をスムーズに進めていくためには、エレメントを効率よくたくさん持ち帰るのが非常に重要だからです。

エレメントの大量獲得とショートカット機能の向上が気持ちいい“農地化”システム

 ダンジョンから帰還し、次の探索に備える拠点となる“イレーヌの部屋”。ここではセーブ、アイテムの保管、スキルの習得、ダンジョンの開拓といったことができるようになっています。この中でエレメントが関わってくるのは“スキルの習得”と“ダンジョンの開拓”です。

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 “スキルの習得”は文字通りイレーヌがダンジョン内で使用できる新たな能力を習得する機能。イレーヌはレベルが上がるたびに新たなスキルを思いつくのですが、思いついただけでは使えるようにはならず、自室でスキルごとに設定された必要な数のエレメントを消費することで、はじめて使用可能になるのです。

 スキルは大きく分けて2種類。MPを消費してくり出す強力な魔法攻撃や範囲攻撃、回復魔法などのプレイヤーが使用したときに効果を発揮するいわゆる“アクティブスキル”と、能力アップや状態異常への耐性強化、1マス離れたエレメントを引き寄せて入手できるなどの常時効果を発揮するいわゆる“パッシブスキル”に分けられます。

 なおパッシブスキルは効果のオンオフの設定も可能。レベルアップによる基本的なステータスの向上とスキルの獲得が合わさって、イレーヌはどんどん強くなり、窮地を脱するための選択肢も増えていきます。

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戦闘が有利になるスキルだけでなく、探索の効率化につながるスキルも。

 そしておそらく字面だけではどんな機能かよく分からないのが“ダンジョンの開拓”でしょう。ダンジョンには階層ごとに“ファームレベル”と“マジックレベル”というふたつのレベルが設定されています。最初はどちらもレベル1から始まるのですが、特定のエレメントを一定数消費することでレベルが上昇。最大でレベル3まで上げることができます。

 ファームレベルが上がるとその階層で手に入るエレメントとアイテムが、マジックレベルを上げるとその階層でイレーヌにとって有利に作用する魔法陣がより多く出現するように。これらをくり返していけば、ダンジョン自体をイレーヌにとって攻略を進めやすい状態に変えていくことができるのです。

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ファームレベルが高い階層では、エレメントがたくさん出現する。

 ファームレベル、マジックレベルをどちらも最大値のレベル3にした階層は、さらにエレメントを消費することで、本作のジャンル名にもなっている“農地”にすることが可能に。

 “農地化”した階層はエネミーが出現せず、以前は迷路のようだった地形が一直線になり、そこに大量のエレメントが配置されているという、通り抜けるだけでエレメントをがっぽり入手できるフロアへと変化。その後のエレメント収集の効率が大きく向上するのです。なお、最初のうちは農地化できる階層に制限が掛かっており、これは特定のフロアに配置されている“錬金具”を入手することでアンロックされていきます。

 この“敵との戦闘のリスクがなく、一直線に駆け抜けるだけでエレメントをがっぽり獲得できる階層”のことを本作では“農地”と呼ぶわけです。

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農地化するとその階層の開拓は終了。
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農地にした階層はリスクなくエレメントを一挙に入手できるうえ、最後にアイテムや魔法陣も配置されている。

 加えて、連続する階層を農地化すれば、それらの階層は“ひとまとまり”となり、まとめた農地はひとつのフロアで複数の階層分のエレメントを一気に入手できるように。エレメントの獲得はますます効率がよくなっていきます。

 この度重なる効率化の連続が短期的なモチベーション維持と達成感につながっており、本作のゲームプレイをやめどきの見つからない、中毒性の高いもの足らしめていると言えるでしょう。

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地下18階を農地化して……。
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地下1階~20階の農地が“ひとまとまり”に!

 将来的には何十階層という規模の農地が“ひとまとまり”になります。エレメント入手の効率化だけでなく、その分は探索がショートカットできるので、イレーヌがどれほどダンジョンの奥深くに行けるようになっても、一度の探索に掛かるプレイ時間が大きく跳ね上がることはありません。これも農地化システムの利点のひとつ。

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数十階層分のエレメントを一気にゲットできるのは快感!
  • イレーヌの強化 → より深い場所の探索
  • ダンジョンの開拓・農地化 → エレメント収集の効率化、探索のショートカット

 この両輪となるサイクルを回していく部分に、本作独特のおもしろさ・気持ちよさが宿っているのです。

先が気になるストーリーも中毒性の一因! 世界観が気になったらぜひプレイを

 ここまでシステム面での独自性について書いてきましたが、ダンジョンの奥深くに進んでいくことで展開される、謎が謎を呼ぶストーリーも本作の魅力のひとつ。

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 凶器と思われる石や、ダイイングメッセージなどの殺人現場の状況から、イレーヌは錬金術の知識を頼りに推理を試みます。しかし、そもそもこの死体が誰なのかさえ、なかなか手掛かりがつかめません。

 死体と同じフロアにいる双子が何らかの秘密を抱えているのはもちろんのこと、農地化した場所に現れ、勝手に農地の管理人を名乗る謎の生き物“管理人さん”も、親切で礼儀正しい反面、謎めいていてちょっと不気味。果たしてすべての謎は解けるのか!?

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管理人さん。農地のことになるとものすごいテンションになる点も含め、若干怖い。

 本作は主人公のイレーヌの声を声優の伊藤静さんが演じており、ダンジョンで出会うほかの登場人物の台詞もすべてフルボイスとなっています。

 かつてヨーロッパにあったという博物陳列室“驚異の部屋(ヴァンダー・カンマー)”をモチーフにしたという妖しげな世界観や、エネミーをはじめとした無機質なデザインからはやや人を選ぶ、尖った印象を受ける本作。けれど実際にプレイしてみると、イレーヌのカラッとした前向きな性格や声優陣の血が通った演技によって、見た目よりはポップでとっつきやすいテイストに仕上がっています。

 プレイを続けていれば着実に成果の出るゲームデザインも含め、間口はかなり広いゲームと言えるのではないでしょうか。

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カラッと前向きな性格のイレーヌ。好感を持つプレイヤーが多いはず。

 いくつものローグライク系の作品をやり込んでいる方には多少物足りないかもしれません。また、名称やアイコンの性質上、HP回復アイテムとMP回復アイテムを間違えて消費してしまいやすいことや、メニューを開かずスキルを使用できる機能の枠がもっとあればゲームプレイがより快適になったであろうことなど、いくつか気になる点もありました。しかし、それらは些細なことです。

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 ついついプレイを続けてしまう中毒性の高いゲームシステムと、妖しげな世界観の中でくり広げられる謎が謎を呼ぶストーリー。これらの要素に少しでも心惹かれた方には、ぜひ手に取ってみてもらいたい作品です。