先日、ソフトギアより3Dオンラインゲーム『FunHunt Online』が配信された。同作は、同社のサーバソリューション“Strix Cloud”を使用してオンラインゲームを開発するYouTube番組“オンラインゲームをつくろう!”の企画のひとつとして制作されたコンテンツ。番組のナビゲーターを務めるVTuberの須東りくちゃんは、いまゲーム開発者のあいだでも人気を集めているようだ。

 そんな気になる『FunHunt Online』の開発経緯について、ソフトギアの開発陣を直撃。気になるあれこれを聞いてみた。

VTuberりくちゃんも知らなかった!? Strix Cloudで作った『FunHunt Online』の秘密に迫る

青木健悟氏(右端)

ソフトギア代表取締役
大手人材派遣会社を経て、2000年マルチターム入社。2005年同社取締役就任。同社では大規模オンラインゲーム開発、通信ライブラリ開発のディレクションに従事。2008年2月にソフトギアを設立。

岩附氏(左からふたり目)

2020年に新卒でソフトギアに入社。6月からプランナーや企画などを手掛ける。11月から『FunHunt Online』のプロジェクトに参加。

久保氏(左端)

2019年にエンジニアとしてソフトギアに入社。『ファンタジーアース ゼロ』の運営スクリプトを経て、『FunHunt Online』にて初めてゲーム開発に携わる。

トム氏(右端)

イギリスで日本語を勉強しながら、「ゲーム会社に入りたい」との思いで来日。2019年にソフトギアに入社。『FunHunt Online』ではサーバー開発を担当する。

須東りく(中央)

VTuber。YouTube番組“オンラインゲームをつくろう!”のナビゲーター。
東京都出身の中学二年生(14歳)。まじめで負けず嫌い。趣味は歌、友だちとのおしゃべり、そしてゲームづくり。

『FunHunt Online』公式サイト
VTuberりくちゃんも知らなかった!? Strix Cloudで作った『FunHunt Online』の秘密に迫る

――まずは、2020年11月に立ち上がった“オンラインゲームを作ろう!”のプロジェクトの経緯からお話を聞かせてください。

青木ソフトギアでは、STRIX ENGINE(ストリクスエンジン)という、ゲームサーバ開発を支援するサーバソリューションを展開していまして、残念ながらタイトル名は言えないのですが、複数の人気タイトルで使用されています。そのダウンサイズ版にStrix Cloudというのがあるのですが、インディーゲームクリエイターの方を含めて、多くの方に使ってもらいたいと思っているんですね。それで、クリエイター向けの講演会などで訴求したりもしたのですが、ゲームを作ったことがない人には少しわかりにくいということがありました。

 それで、若い層にもStrix Cloudのことを知ってほしいということで、VTuberにオンラインゲームを作ってもらうという企画を立ち上げることにしたんです。

――須東りくちゃんですね?

青木14歳の中学2年生ですね。小学生や中学生にもStrix Cloudを使用してほしいとの思いから、同年代のりくちゃんに登場してもらいました。“中学生でも十分に作れる”というお手本になってもらいたいと思ったんです。

――Strix Cloudを使うことでオンラインゲームはそんなに簡単に作れるのですか?

青木10年くらい前まではゲーム会社のエースクラスが集まってやっと作り上げていたものが、いまは中学生くらいでもUnityを使って作れます。Unityのコンポーネントを少し触って、スクリプトを書くだけで、3Dのアバターでコミュニケーションを取ったり、遊びを入れることが十分にできるライブラリになっているんです。それを小中学生にアプローチするのに、オジサンだと無粋かなと思いまして(笑)。

――たしかに、りくちゃんが取り組んでいると心惹かれますね。

青木それで、目的もなく作りかたをレクチャーしてもおもしろくないので、オンラインゲームを作ろう!ということで、物語形式で展開しています。

YouTube りくのオンラインゲームをつくろう

――反響はいかがですか?

青木まだまだこれからの状態なのですが、定期的に見てくださる方も増えています。「本気で作りたい!」という方や「インディーゲームを作っています」という方が視聴してくれていて、りくちゃんや弊社のライブラリのことをYouTubeで配信してくれていたりするので、そういった意味では浸透してきているのかなと思っています。

――想定していたよりは、年齢層は高めなのですね。

青木追々小中学生の方にも視聴していただきたいなと思っています。

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――で、“オンラインゲームを作ろう!”で作ったタイトルが、『FunHunt Online』なのですよね。

青木そうです。本作のもととなる『FunHunt』というのは、私がマルチターム(現LINE)に在籍していた2000年にサンプルソフトとして作った3Dアバターチャットです。そのころはまだVRM(※)などがローテクの3D空間で、リアルタイム同期がほとんどなかった時代でした。『FunHunt』はそんなときに作ったアプリケーションで、利用者どうしでコミュニケーションが取れて、簡単なアクションと同期ができるものだったんです。

※VRM……VRアプリケーション向けの人型3Dアバターデータを扱うためのファイルフォーマット

 『FunHunt』は無料のコミュニケーションツールとして提供したのですが、当時、東京ウォーカーなどのウォーカー系はすべて取り上げてくれたりして、想定以上に多くの方が遊んでくださったんですね。

――2000年というと、プレイステーション2が出た年ですね。

青木『FunHunt』は10年前に閉じているのですが、いまだにフォーラムを開いたり、ユーザーの方がオフ会を開いたりと根強い人気があるんですね。そこでユーザーさんが、「20周年で何かやろう」とコメントしているのを見まして、その期待に応えたいという気持ちがふつふつと湧き上がってきたんですね。そんなこともありまして、「皆さんが20年前に遊ばれたコンテンツを蘇らせてみたい」と思ったんです。

 そもそも『FunHunt』は弊社の著作物ではないのですが、新たに世にだしてみようということで、現代版を作ったんです。

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――2000年にリリースされた『FunHunt』は、どんなアプリだったのですか?

青木当時のチャットツールがあまりない2チャンネル全盛期の時代で、3Dで走り回るというのは、非常にコストがかかることだったのですが、とにかく“誰でも入れる広場を作りましょう”という発想からスタートしています。そこで、広場にいる人たちとコミュニケーションを取るというアプリですね。

 ただ、いまでこそSNSなどで直接面識のない人たちとやり取りをするのに抵抗はほとんどありませんが、当時はそうではなかったので、新しい友だちと作ったり、話しかけたりするのは、アバターと言えど難しかったんです。恥ずかしくて。

――そうでした! 当時は恥ずかしかった。

青木そこで『FunHunt』で導入したのが弓矢でした。なぜこれをやろうと思ったかというと、コミュニケーションって言葉だけではないと気づいたからなんです。『FunHunt』では、相手にちょっかいを出せるんですね。ときに、アバターの姿で誰かとチャットしているときに、いきなり後ろから矢を当てられて腹が立ったりしたりとか……。気になる人がいたときに矢をぶつければコミュニケーションが生まれるんです。

 いわゆる“どつきチャット”という部類でした。チャットでしゃべりながら弓矢でどつき合うという。当時はこういったものが一切なかったので、意外とおもしろかったんです。

――インタラクティブ性があるとか、そんな感じですかね。

青木矢を当てるのを難しく作ってあるので、“10回当てられたほうが負け”といった遊びを、ユーザーさんたちが好きに作ってくれたりもしたんです。イメージとしては、公園のようなフリースペースを作って、そこで自由に遊んでもらうという感じですね。

 自分のファンやコンテンツのファンを“ハンティングする”という意味で、『FunHunt』なんです。

 ちなみに、そのころの『FunHunt』の技術で作ったのが、『首都高バトルOnline』(2003年/元気)だったり、『ホームランド』(2005年/チュンソフト・当時)だったりします。20タイトルくらいありますね2016年から運営を開始した、ソフトギア開発、スクウェア・エニックスさん運営による『ファンタジーアース ゼロ』も同じテクノロジーで作られています。

――『FunHunt』で培われたテクノロジーは、連綿と受け継がれているんですね。

青木こういった仕組みを作るのは意外と難しいんですよ。とくに通信部分がたいへんで。たとえば、『FunHunt』は、ひとつのサーバーに2~3000人くらい入るのですが、これをほかのゲーム会社に「作ってください」と言っても、ほぼできないと思います。みなさん、Unreal Engineのdedicated serverとかを使っているのですが、dedicated serverはそういう作りではないので、どんなにがんばっても100人が精一杯ですね。

――そんなに差があるんですね。

青木そうなんです。これはUnreal Engineが劣るということではなくて、そもそもUnreal Engineがそういう作りだからなんです。コンセプトがぜんぜん違う。リアルタイムオンラインゲームを作るための基礎技術のベースとなるものが、『FunHunt』には盛り込まれているんです。

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――そういう意味では、りくちゃんはすごいものをぶん回していると言えますね。

青木そうですね。それくらい難しかったものが中学生でもできてしまうということです。そもそも遅延が起きたときに同期の処理をするのはけっこうたいへんなんですよ。でも、Strix Cloudにはそれが実装されているので、“同期をする”と宣言さえすれば、すぐに同期できてしまう。

 さらに言うと、Strix Cloudの場合、移動しても同期を紐付けられるんですね。歩くというのは、フィールドに対して二次元の座標展開で、これが空中だと三次元になるのですが、Strix Cloudには、三次元の移動互換なども全部入っているんです。

――空中の移動も簡単に紐付けられるということですね?

青木それくらいのテクノロジーが詰まっています。もっと言うと、中学生でもクルマは運転できますよね?

――まあ、F1レーサーは子どものころからカートに乗って、運転に親しんでいる人は多いですね。

青木教えればアクセルやブレーキを踏んで、ハンドルを回せる。それといっしょで、Strix Cloudはわかりやすいインターフェースで、いままで難しかったことが簡単に作れるようになっているんです。

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――今回の『FunHunt』の開発がスタートしたのはいつころですか?

青木実質的には昨年の11月中旬から12月にかけてですね。岩附と久保という新卒のプログラマーふたりに参加してもらって、あとはサーバー周りはトムに入ってもらっています。

――それは相当なスピード感ですね。

青木逆に時間を掛けすぎたような気もします。

――スパルタな(笑)。

青木何にいちばん時間がかかったかというと、キャラクターを動かすのは簡単なのですが、ゲーム内容に見合った動きだったりセンスだったりが必要になるんです。たとえば矢の軌道にしても、最初は直線に飛ばしていたのですが、それだと意味がなくて、放物線を描くようにしないといけない。そういったひとつひとつのリテイクを経て、ある程度時間がかかった感じですね。

――直線と放物線は分かりやすいですね。でもそれだけスキルが溜まったということですよね。

青木直線と放物線ではスキル的に難易度がぜんぜん違うので、そういう意味では少し経験値は溜まったかなと思います。

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――では、岩附さんと久保さんにお話をうかがえればと思います。

岩附はい。僕は4月にソフトギアに入社しまして、10月までは別のプロジェクトのお手伝い的なことをしていたのですが、『FunHunt』のお話をいただいて、ほぼゼロベースから企画を立てていかないといけなかったので、どこから手をつけていいか、正直わからない状態でした。そのへんは先輩たちに聞きながら、試行錯誤をして作り上げていきました。

――20年前のコンテンツなので、岩附さんが3~4歳のころですよね……。どのような方針で『FunHunt』を作っていったのですか?

岩附もともとの『FunHunt』はインディーゲームテイストで作られていたのですが、ずっと応援してくれているユーザーさんもいるので、同じテイストを踏襲したほうがいいのかなとは思っていました。それに加えて重視したのが、りくちゃんの思いですね。りくちゃんには友だちと遊びたいというモチベーションがあったので、マップのアセットを充実させて、自由に遊べる空間を設けることにしたんです。

青木『FunHunt』がリリースされた2000年当時はいまよりぜんぜんローポリだったのですが、ある意味親しみやすい記号化された当時のテイストを踏襲しつつ、幅広い世代に受け入れられるようななじみのある空間に仕立て上げていった感じですね。

久保ゲームとしての要素はミニマムで、ひとつひとつの要素を考えて作っていかないといけないという議論はよくしていたので、チャットひとつとっても、岩附やトムとずっと試行錯誤していましたね。

――具体的にはどのような?

久保このゲームのUI(ユーザーインターフェース)でいちばん大きな部分を占めているのがチャットになるのですが、最初に作っていたときは、チャットのUIの主張が強いものだったんです。“ここにチャットUIがある”という感じで。

 私は、最初それは見やすいしいいのではないかと考えていました。でも、このゲームって、先ほどお話にあった“どつきチャット”という弓矢の要素があるんですね。これとUIとの組み合わせを考えたときに、画面の中にぼったりと主張の強いUIがあったのでは弓矢が見づらいのではないかという気づきがあって、チャットのUIを薄く置くように変えました。それで、完成版ではUIに邪魔されることもなく、弓矢を撃つことができるようになりましたね。

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――トムさんはいかがですか?

トム僕はこれまでUnityのUIとかクライアント部分を作っていたのですが、このプロジェクトで初めてサーバーを作るようになって、負荷テストなどがたいへんでした。クライアントではそこまでやらないので……。

――ちなみに、古くからのファンの皆さんは、『FunHunt』が20年ぶりに蘇ると聞いて喜んでいましたか?

青木はい、喜んでくれている感じはします。ちょうど昨年のクリスマスの時期に『FunHunt』が蘇る旨を告知したのですが、ファンの皆さんが共有している掲示板には、盛んに書き込みがありましたね。いいクリスマスプレゼントになったのではないでしょうか。

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――岩附さん、久保さん、トムさんが、今回『FunHunt』に携わってみてどのような気付き得たものがありますか?

岩附得たものでいうと、ほぼすべてが初めてだったので、経験したものはすべて得たものになります。たとえば、今回サウンドについては『モンスターハンター』シリーズを担当された甲田雅人さんがいま所属しているデザインウェーブさんにお願いしたのですが、そのやり取りも自分のほうに任せていただいたので、そのへんのやりかたも知ることができました。

 あとはUIのデザインや絵をデザイナーにお願いしている部分があって、その辺の指示の出しかたひとつとってもアウトプットが違うんですね。どこまでディティールを伝えて、こちらが意図しているものをデザイナーにどうアウトプットしてもらうかが、プランナーとしての経験値が大きかった気はしています。キャラクターの動きひとつとっても、「これはおかしいんじゃないかという」というプログラマーとのやり取りも、現場でディレクションを取る身としては、大いに経験になりました。

――すべてが血となり肉となった感じですね。

岩附本当にそうです。

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――久保さんはどうでした?

久保私はエンジニアとして、コーディングして実装していくのが作業のメインだったのですが、実装する側として、デザイナーさんが作ってくださったモーションだったり、アニメーションやモデルなどを、「今回はこういう仕組みで実装するので、この設計でモデルを作ってください」「アニメーションを作ってください」といった感じでリクエストを出して連携を取っていく必要がありました。

 私はいままでほかのプロジェクトに参加していたことはありましたが、そこではあくまでお手伝い的な立場であって、主体的に考える余地はあまりなかったんですよ。それが、今回そうした機会をいただいて、実際にデザイナーさんと直接やり取りをして決めていくという過程を経験できたのは、すごく大きな糧になっています。

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――トムさんにとって今回のプロジェクトはどうでしたか?

トムサーバー開発を初めてやらせていただいたのですが、システム全体の設計も全部やらせてもらって、正直とても楽しかったです。チームの中で、みなさんとコミュニケーションを頻繁に取るようにはしていましたね。

――みなさんは、今回のプロジェクトを通してチームでモノを作ることの楽しさと苦労を知ったと言えるかもしれないですなあ。

久保そうですね。

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青木今回の『FunHunt』のプロジェクトで言えるのは、みんな初めての取り組みをしたということがひとつと、自分で主体的に動いたということですね。うちは基本受託会社なので、メインのプログラマーがいて、設計するメンバーがいてと、どうしてもタスクをこなしている感じなんですね。それでスキルを積んでさらにつぎへ……となるのですが、今回はむちゃぶりで仕事を投げられて、自分たちで考えるしかない状況に追い込まれた。そういう意味ではいい経験になったと思います。無茶振りしておいて言うのもなんですが……(笑)。

 『FunHunt』自体が、オンラインゲームの本当にミニマムパッケージだと思うんです。基本的なことはすべて入っていて、これを拡張していけばどんなオンラインゲームでも作れるくらいのパッケージにはなっています。基礎を押さえられたという意味でも、いい経験になったと思います。

――『FunHunt』が20年ぶりに蘇って、オリジナルの制作者として、3人の仕事ぶりを評価すると何点くらいですか?

青木とても難しいのですが、前回と同じものを作ると言う意味では100点です。ただ、コンテンツもシステムも十分発達したいまの世の中にあって、100点は落第点だと思っています。

――きびしいですね(笑)。

青木私はお客さんに100点以上のものを提供できるかどうかというのが、自分たちのクリエイティブだと思っています。『FunHunt』をいまに蘇らせるという意味では、この2ヵ月で作り上げたことに対しては100点を付けられますし、ここでがんばったことも含めて、この経験を活かしてつぎのステップで、同じ期間で100点以上のものを作ってもらえればいいかなと思います。この2ヵ月の半分は気付きの期間だったと言えると思います。

 ただ、実装するだけだったら実装できてしまうのですが、いざ世に問うとなるといろいろなところに気を配らないといけないことも事実なんです。先ほどの矢が放物線を描いて飛んでいくのはその一例で、たとえば歩いていると足の裏に影が見えたりするのですが、そういったことにも気を配らないといけない。うちは製品になるものを作っている会社なので、「細かいところにも目を配る」というところでも気付きはあったかと思います。とはいえ、岩附、久保、トムともどもがんばってくれました。

 さきほどもお話にあった通り、岩附はサウンドを担当したデザインウェーブさんの窓口を担当したのですが、サウンド周りの知見が高かったという、知らなかった能力を見せてくれました。向こうの社長さんからの評価も高くて、仕事が丁寧だったかと思います。

 久保もロジックを考えたプログラムを作ってくれて、たぶん2ヵ月前の久保といまの久保とでは、“その前の1年間は何だったんだろう”と思うくらい、エンジニアとして変わっているハズなんですよ。今回のプロジェクトで、“いまだにできていないことのリスト表”ができたと思うので、わかったからこそ、いまからの成長が早いと思います。

 トムも、今回サーバーを担当したのですが、ロジカルだし、プロジェクトに対してすごくポジティブでした。ディスカッションも上手で、プロジェクトを成功させる上で、チームを作る能力は高いと思いましたね。

――優秀な人材が揃っているということですね。

青木世の中みんな優秀だと思うのですが、けっきょくはモチベーションや気づきがなければ優秀になれないし、優秀なことはできません。『FunHunt』が起爆剤になって、彼らが将来的にもこの業界でスターになってくれればいいなと期待しています。

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――ところで、『FunHunt』は今後どのような展開を見せるのですか? 2月に配信を開始して、独立したコンテンツとして引き続き楽しめる?

青木そうですね。引き続き『FunHunt』を楽しんでいただけます。あと、『FunHunt』はStrix Cloudのサンプルの位置づけではあるので、場合によってはソースコードを公開することも検討しています。これは、彼らのソースコードがきれいかどうかによりますけども(笑)。

――あら(笑)。

青木ソースコードが汚いようでしたら、恥ずかしいから出さないですし、セキュリティー上の問題があるかどうかもチェックして……という感じです。

――『FunHunt』のプロジェクトはこれで完結なのですか?

青木完結はしないです。ちょっと言いかたは悪いかもしれませんが、手が空いたときやあるいはつぎの新卒の教育用にとかで、新機能を順次付け加えていって、少しずつ展開していければと思っています。

――となると、りくちゃんもまだまだ活躍の場が広がりそうですね!

青木りくちゃんも、これからもゲームを作っていきます。いま“オンラインゲームを作ろう!”では、『FunHunt』で使われた機能をひとつひとつ紹介しているのですが、まだまだお伝えし切れていない部分がたくさんあるんです。

 あと、りくちゃんですが、じつはインディーゲーム界隈で人気が出てきていて、ソフトギアには聞けないことでも、りくちゃんには気軽に聞けるということで、“Strix Cloudってどんなことができるのか?”という質問を、直接りくちゃんに投げかけてくださるお客さんもたくさんいるんですね。

――なんと、りくちゃんのほうが聞きやすいのですね(笑)。

青木オンラインゲームが簡単に作れるということで、Strix Cloudのことを評価してくださる方もいらっしゃって、ゲームを作る人が増えてくれることを期待しています。

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――そうですね。インディーゲームでも、気軽にオンラインゲームが作れるような世の中になっていきそうですね。今日は楽しいお話をありがとうございました。最後にひと言ずつお願いします。

岩附『FunHunt』は、自分たちが新卒から入ってゼロから作った、いわば第1作目になります。小中学生から60代の方まで、幅広い方に楽しめるようにこれからも運営を続けていきますので、ぜひ一度お友だちなどを誘って、チャットなどをしながら楽しんでみてください。

久保ゲームという枠組みで言えば、私がイチから形にした最初のタイトルですので、多くのお客様に触っていただきたいです。いろいろなお客様からの声をいただけると、私たち自身も新たな気付きが得られると思うので、遠慮なくご意見をお寄せてください。今後の『FunHunt』を、きびしくも温かく見守っていただければと思います。

トム『FunHunt』をさまざまなお客様に遊んでいただけるとうれしいです。コンセプトはコミュニケーションですが、遊びかたがいろいろあると思うので、お客様がどのような楽しみかたをするか、見るのが楽しみです。

青木弊社の理念に“未来貢献”という言葉があります。Strix Cloudが小中学生の道具となって、彼らの柔軟な発想を形にして、新しい未来を見せてくれるととてもうれしいです。その第一歩として『FunHunt』があるので、まずは触れてみてほしいです。Strix Cloudが中二病を具現化する手助けになれば、これに勝る喜びはないですね。

――では最後に、りくちゃんからもコメントをお願いします!

りく本日はありがとうございます! 今回私が作った『FunHunt』というゲームはオンラインゲームに必要な機能をたくさん盛り込んだサンプルプロジェクトになっています。Strix Cloudの使いかたや可能性を、ゲーム開発者の皆さんに伝えることができるのではないでしょうか。ゲームとしても『FunHunt』を楽しんでいただきたいのですが、開発者の皆さんにも、お力になれるひとつのきっかけになればいいなと思っています! これからもよろしくお願いします。

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――最後に、せっかくの機会なのでStrix Cloudの魅力を教えてください。

青木第一にアプライアンス性(※)が高いことです。素早く使える点は非常に有効です。とくにサーバーに関しては非常に高速です。たとえば、いまあるUnrealやフォトンの専用サーバー(dedicated server)などと比べて、リアルタイムコンテンツにおいてパフォーマンスは圧倒的にStrix Cloudのほうが上であり、これこそがある意味証明できるコンテンツですね。

※アプライアンス……特定の機能や用途に特化していること

 あとは、Strix Cloudは確実にちゃんと動きます。じつは意外と動かないソリューションが多いんですよ。できると言いながら実際はできなかったり、10000人入れますと謳いながら、サーバーが200台必要ですみたいな……。それだったら誰でもできるわけで、そうではなくて、1000人、3000人が入る中で、それをサーバー一台でまかなえるのは、Strix Cloudならではのすぐれた点ですね。

――ちなみに、Strix Cloudがよりパフォーマンスを発揮できるジャンルというのはあるのですか?

青木ほぼオールジャンルです。もっと言うと、ゲームだけに限らず何でも真価を発揮します。たとえば4人プレイのFPSがあったとしたら、だいたいひとつのサーバーで10000人くらい遊んでいるんですね。その場合、メッセージというのは、ひとつのゲームになっているマルチキャストに対して二乗で増えていくんです。4人だと4人のトラフィックが倍になっていくのですが、Strix Cloudだと二乗になっていかないんです。

 たとえば、Strix Cloudでスマホゲームのルーム作ろうとなると、サーバー一台で下手をしたら10000ルームくらい作れてしまうんです。そういったこともできますし、今回開発した『FunHunt』だと弓矢を撃てますが、中には「弓矢は飛ぶスピードが遅いのでラクなのでは」という人もいるのですが、違うんです。その放物線すらすべて同期されていることが重要で難しいことなんです。弓矢を何本も撃とうが全部同期されていることが重要なことで、Strix Cloudではそれができます。

 RPGだと3Dのキャラクターが歩いているのをイメージしやすいかと思うのですが、そういったMMOタイプのものも作れます。まさにオールマイティーに使えるものです。

 ただ、物理演算や派生オブジェクトに対しての完全同期などはUnreal Engineとかのほうが優秀です。Unreal Engineは、みんながそこに持っているものを全部計算しているので、情報としてすべて一致しているんですよ。物理演算に対して、すべてシミュレーションをしているのですが、Strix Cloudは、ベクトル計算に対するシミュレーションを行うので、ずれが生じてしまうんです。そういったことでいうと、圧倒的にUnreal Engineなので、場合によってはフレーム単位で同期しないといけないような格闘ゲームとかに関しては、Strix Cloudではなくて、Unreal Engineのほうがうまく作れるのではないかと思います。でもそれ以外はオールジャンルで、とくに大人数でやることに関しては圧倒的にStrix Cloudが強いです。

 一昨年の東京ゲームショウでは、Strix Cloudを“国内最強”として打ち出しましたが、国内では、これ以上の技術を持って作られているエンジンは存在しないと思います。

りくちゃんからのビデオメッセージも!

 今回特別にりくちゃんからのビデオメッセージもいただいたので、ご紹介!