世界的にファンを持つアメリカの老舗ゲームスタジオBlizzard Entertainmentのエグゼクティブにインタビューする機会を得たので、その模様をお届けしよう。

 同社主催のファン向けイベント“BlizzCon”(今年はオンライン版の“BlizzConline”)最終日に行われたビデオチャットに登場したのは、初日のオープニングセレモニーに登壇した現プレジデントのJ.アレン・ブラック氏と、共同創設者のひとりであり初代社長でもあるアレン・アダム氏。

 Blizzardは、古くはアクションRPG『ディアブロ』や、『スタークラフト』や『ウォークラフト』といったリアルタイムストラテジー、そしてMMORPG『World of Warcraft』や最近ではアクションシューティング『オーバーウォッチ』やカードゲーム『ハースストーン』など、延々と遊べる濃いゲームをリリースすることで知られる。今回の取材では、そんな同社を支える考え方や日本展開を含めた戦略についてじっくり聞いた。

 なお、内容はBlizzConでの発表内容を踏まえたものになっているので、週末の発表をチェックしていない人は本誌のまとめ記事でおさらいしてから読み進めてくれると幸いだ。

J. Allen Brack(ジェイ. アレン・ブラック)

現Blizzard Entertainmentプレジデント。2006年に『World of Warcraft』のプロデューサーとして入社。後に同作の担当バイスプレジデントを経て、2019年より長年Blizzardを率いてきた共同創設者マイク・モーハイム氏の後任として現職に。

Allen Adham(アレン・アダム)

1991年、マイク・モーハイム氏、フランク・ピアース氏とともにBlizzard Entertainmentを創設。初代社長・会長であるほか、MMORPG『World of Warcraft』初期の監修およびリードデザイナーを務めた。しばらくBlizzardを離れた後、2016年より復帰。現職はシニア・バイスプレジデント。

Blizzardの新たな時代と日本戦略

――今年のBlizzConでは、Blizzardの日本市場への取り組みが本当に大きくなってきているのを感じて本当に驚きました。10年以上前と違い、いまや日本のPRスタッフがいて、オープニングセレモニーは日本語対応していて、『ディアブロII』のリマスターは新録の日本語吹き替えまで付きます。サプライズ発表から即日配信された『ブリザード・アーケードコレクション』も、家庭用ゲーム機でも日本でちゃんと同時発売されました。何が変わったのか、どういう戦略になっているのか教えて下さい。

ブラック 順位はともかく、日本は非常に大きなゲーム市場です。そして家庭用ゲーム機が強い。一方で私達は日本文化や日本のゲームに親和性を持っています。スクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジー』とかをやって育ってきているわけです。

 一方でBlizzardは元々家庭用ゲームの遺産がありますが、過去20年ほどは伝統的にPCゲームの会社で、最近ようやく家庭用ゲーム機にある種“帰ってきた”ような所があります。『ディアブロIII』は後から家庭用版にも展開する形でしたが、『オーバーウォッチ』では同時発売をすることができました。

ブラックそういった中で、「日本で受けそうなゲームが出てきたな」とか「ローカライズやパブリッシングをやる体制が整ってきたぞ」という感じも出てきました。そこにきっちり展開をやるに足るだけのタイトルも揃っていたという感じですね。

アダム私からは、私達のゲームをPCや家庭用に加えてモバイルに展開する事を考えるにあたって、日本は大変重要なモバイル市場でもあるということを付け加えておきたいと思います。なので私達が開発中のモバイルタイトルについて戦略を練る時には、「どうやったら間違いなく日本のモバイル市場をちゃんと捉えられるか?」といった事を考えます。

コロナ対応と、ゲームを通じて人々を繋げる使命

――私達は歴史上でも非常に難しい時代を生きています。政治的な摩擦もいろいろ大きいですし、さらに新型コロナがやってきた。そういった中でどうやって物事を進めていますか?

ブラック控えめに言っても挑戦でしたね(苦笑)。私はもともとリモートで効率的に物事が進むとは思っていない側の人間でした。だから何年も「リモートで働きたいんですけど」とか「ハワイに住みたい」とか言われるたびに「いやぁそれはうまくいかないんじゃないかな、有機的なやり取りとかちょっとしたゲームについての会話とかは欠かせないでしょう」と思っていたんです。自宅からとなるとオフィスで起こるそういった細かいコミュニケーションの多くが失われてしまいますから。

 ご存知の通り、パンデミックは強制的にどうやっていくか考えさせることになりました。強制的に自宅からの勤務でゲームを出してコンテンツを作って運営して……とやらなくてはならなくなったわけです。

 スタッフの対応と結束には非常に誇りを持っています。想像していたよりよっぽどうまく行きました。テクノロジーの助けやツールの助けが必要な部分もありましたが、なにより経験がなかったのを乗り越えてくれた。1年間なんとかやってきて、オフィスに戻れるまであともう半年ぐらいでしょうか、その頃にはもうどうやればいいか完全にわかってるでしょうね。

 なので今、「明らかにリモートでうまくやれるのがわかったのにオフィスに戻る意義ってなんだろう?」といったことを考えています。ずっとリモートでやりたい人、時々やりたい人はどうだろう、やっていけるだろうかと、そういう話し合いをしているところです。

アダム政治的分断の話がありましたが、昨年我々が学んだことのひとつとして、Blizzardで我々を繋ぐのはゲームだと言うことです。私もそうですし、チームの多くも一緒にゲームをプレイします。そしてゲームが世界中の人々を繋いでいるのを我々は見ています。コロナ禍ではもっとそうですね。そうやってつながっているわけです。

 そしてBlizzardにおける我々の使命のひとつは、素晴らしいゲームを通じて人々を繋げることなのだと思います。ですので我々の望みは、たとえ小さくとも我々のゲームを通じて世界中の異なる国、異なる宗教、異なる信条の人達を繋げられるようにすることですね。ゲームを通じて共通する部分や理解を得られれば、世界はよりよい場所になるんじゃないかと思います。

Blizzardのゲームかくあるべし、という3カ条

――Blizzardは数年前にマイク・モーハイム氏などの中心的なメンバーが退社し、新しい時代に踏み出しています。そのような中で、Blizzardのコアとなるものはなんでしょう? それは変わったのでしょうか、変わりないのでしょうか?

ブラックそれは「Blizzardのゲームとはどんなものであるべきか?」という問いになってくると思います。そこでまず明確に意識しているのは、次々と繋がったいいゲーム体験がそこにあることです。

 それともうひとつは協力的にも競争的にも遊べるマルチプレイの側面ですね。初代『ウォークラフト』から、ほぼすべてのBlizzardタイトルにそういう部分があると思います。

 3番目としては私達が“ライフスタイルゲーム”と呼んでいるもので、何千時間も遊べてフルタイムの趣味のようになるものです。

 これらの特徴が、私達がBlizzardのゲームであるべきと考えているもので、25年以上そう信じてきました。それを踏まえて家庭用ゲーム機にも拡張して考えると、「何千時間もマルチプレイで遊びたくなるようなゲーム」というのは、今は可能ですが少し前には家庭用ゲーム機では難しいものでした。

 そして先程アレン(・アダム)が触れたように、今ではモバイルもここに入ってくるわけです。モバイルの技術が、私達が目指しているようなものを実現できるような領域まで成長してきた。25年間Blizzardのゲームはこうであるべきだと導いてきたある種の価値観は、かつてなく力強いものになっています。そしてこうした考え方が、これからも私達を導いていくと思います。

なかなか発売日を発表しない理由、新世代機へのアプローチ……。

――それではゲームの話をしましょう。『オーバーウォッチ2』も『ディアブロIV』も発売日が発表されませんでした。一説にはアクティビジョンの四半期報告の内容から2022年ではないかと言われています。自分は体験版ぐらいは出ると思ってましたが、それもありませんでした。どういう判断だったのかを教えて下さい。

ブラックリリースタイミングをどこにするのがいいか、いつなら過ちなくちゃんとやれるのかということを考えていました。というのも昨年、『World of Warcraft』のShadowlandsエクスパンションにおいて「いついつに出します」と言ったにも関わらず、すぐにコロナ禍でそれは難しいということに気付かされ、もろもろ検討した結果、最終的にもっと時間が必要だという決断に至りました。

 正しい判断だと思っていますが、コミュニティの皆さんには聞きたくない事だったと思います。私達はああいったことを繰り返したくない。ですので、発売日に関しては間違いのないプランが立った時にしたいと思っています。

――『ディアブロII』リマスターはプレイステーション5とXbox Series X|Sにも対応するとされています。新世代機へのアプローチに関する戦略はいかがでしょう? どちらも後方互換機能がしっかりしていることと、Blizzardのゲームが基本的にそこまでヘビーではないことを考えると、(互換ベースで対応していく)ゆるい移行を選んだとしても驚きはないですが。

ブラックいい質問ですね。実際、PS5にフルに対応するかPS4の互換機能にするか、それが自分たちにとって何を意味するのかというのはまだ検討している段階です。恐らく『ディアブロII』リマスターの開発の終盤にかけて固まっていくのではと思いますが、現時点では詳細は後日という形になります。

情熱のあるスタッフからのボトムアップで進む

――今年のBlizzconはディアブロ一色でした。数年前のBlizzConの会場マップで『ディアブロIII』のスペースがコンベンションセンターのデカいトイレのサイズまで小さくなっていたのを思い出すと隔世の感があります。なぜ今ディアブロなのでしょう?

アダム今日見ていただいたものは何年も前から準備してきたものです。開発が始まったのも何年も前ですし、プロジェクトとして進める判断はさらにその前のものになります。開発のサイクルはそんなものです。

 ではなぜ今それらのディアブロタイトルが進んでいるのかと言えば、ディアブロについて熱心なスタッフたちがとてもたくさんいるからです。ワイアット(・チェン)は『ディアブロ イモータル』(モバイル版『ディアブロ』)、ロブ・ブライデンベッカーは『ディアブロ II リザレクテッド』(リマスター版)、メインタイトルの『ディアブロIV』チームは多くのスタッフが率いています。

 Blizzardで開発するタイトルはしばしば、こうやって一部のスタッフの情熱から始まって正式に決まることがあります。いまも他のプロジェクトがたくさん動いていますが、いくつかトップダウンで進んでいるものもあるものの、多くはボトムアップで出てきたものです。

 他のIPの新作に取り掛かっているチームもたくさんいます。単に『ディアブロ』に集中しているというわけではなくて、過去何年間かにやってきたことの積み重ねが幸いにも『ディアブロ』にこうして重なったという形ですね。

RTS系タイトルの未来と、各フランチャイズに対する考え方

――次の質問に答えられてしまったようなものですが、『スタークラフト』はいまそれにふさわしい扱いを受けていません。『ウォークラフト 3』のリマスターはいろいろと問題もありました。『Heroes of the Storm』も活発ではない状態にシフトしています。ストラテジーゲームについての計画はいかがでしょうか。

ブラックストラテジーはBlizzardの歴史と成功において重要な部分です。自分自身、初代『スタークラフト』が出た時にはBlizzardファン・RTSファンとして初日に買いましたし。それで、『スタークラフト』はBlizzardのSFフランチャイズとしてまだ語るべきストーリーがたくさんありますし、未来のRTSとはどうなるべきかといった議論もしています。

 アレンと自分はある程度年齢を重ねていますから、いろんなゲームジャンルがやってきたり去っていったのを見てきています。例えばアレンの好みはテキストベース/グラフィカルアドベンチャーゲームとかで、自分はスペースコンバットゲームで、成長に合わせてあらゆるものをやってきました。最近はあまり見ませんよね。

 そういった経験もふまえつつ、RTSの新たな時代はどうなるのかというのはすごく興味深い問いだと思うんです。なにか別の形になったりするのかとか。

ブラックでも同時に、次の『スタークラフト』作品が必ずRTSゲームとして出てこなきゃいけないとも思わないんです。すべての私達のフランチャイズやIPに言えることですが、フランチャイズという切り口で見れば、これらはいろんなゲームの形にはまりうると思います。

 例として『ウォークラフト』を挙げたいと思います。元々はストラテジーゲームのシリーズで、やがて巨大なMMOになり、そしてターンベースのストラテジーとも言える『ハースストーン』がそこから生まれました。すべて『ウォークラフト』という旗の元でです。というかまぁ大雑把に言えば、もっと他のゲームジャンルでもWarcraftユニバースに当てはまるじゃないですか。ともあれフランチャイズについてはそういう考え方をしています。

無茶なことも聞いてみた

――ところで、BlizzConにはどれぐらいお金をかけてるんですか? しかも今回は無料イベントじゃないですか。普段とどっちがお金かかるんです?

ブラック物理的なショーをイメージできますか? 巨大なコンベンションセンターを借りなきゃいけなくて、従業員のためのホテルルームやフードやケータリングや演者やライティングや何千台ものコンピューターを用意しなければならなくて……ものすごい費用だというのがわかるかと思います。

 昨年、BlizzConをできるだろうと思っていた時、30周年を始めるのにふさわしいものにしようと考えていたんです。それが物理イベントとしてやるのは無理だとなった時に、コミュニティとお祝いするBlizzConのスピリットを受け継ぐものをやるのは自然でした。

 幸運だったのは、もともと(会場に来れるファンだけでなく)BlizzConをオンラインでも楽しんでもらえるようにさまざまな要素をオンラインでも提供するようになっていたことですね。それをさらに進めて今回はフルにオンラインで、みんなが無料で参加できるものにしました。

――『World of Warcraft』を日本に持ってくる予定は?

ブラック『World of Warcraft』は新しい言語に対応させるには難しいゲームなんです。『ロード・オブ・ザ・リング』何冊分かわからないですけど、まぁそういう規模のローカライズ量で、ボイスは1000人とかになるわけですよね。

 だから絶対ないとは言いませんけど、特に難しいゲームです。『ハースストーン』とか『ディアブロIII』をやってきて、これからも出せるものについては見ていきますけども。なので「無いとは言わない(ネバー・セイ・ネバー)」、でもちょっと大きすぎるという感じですね。

――『ディアブロ』の映画を作ったりする予定はありませんか? 『スタークラフト』はどうでしょう? あるいは『ウォークラフト』の映画の続編はまだ進んでいますか?

ブラックアランたち創業者が会社の名前を考える時に、すごく明示的なものを選びました。それはBlizzard “Entertainment”で、Blizzard “Games”ではなかった。その事を考えると、どんな表現がありうるかとか何を作れるのかというのは(ゲームだけでなく)いろいろありうる。

 なので映画版『ウォークラフト』を大スクリーンに出せたのは非常に大きなことで、本当に契約書にサインしてからそこに至るまで10年規模のことでした。そういったことからも、さまざまなメディアを通じて表現するのが好きなのがわかるかと思います。私達自身、映画やTVドラマが好きですしね。

 それに新しいメディア形態も増えてきました。Netflixだとかリミテッドシリーズ(数話限定のミニシリーズのような形態)とか『ゲーム・オブ・スローンズ』のヒットだとか、いろんなありようが主流になってきています。

 だからいま現在そこにフォーカスしているということはないですが、いつかそういったものをやるとなるのを想像するのは難しくないですね。私達のストーリーやIPや世界設定やキャラクターは他のメディアで表現するに足るものがあると思います。

アダム完全に偶然だけど、ここ南カリフォルニアでは丁度今日『ウォークラフト』の映画がテレビで放送されたんですよ。だからいい質問ですね。

――まったく予算とか考えなくていいとしたら、次にリマスターで何を選びますか?

アダムうーん、もうやるべきものはほとんどやってしまったからないというのが正直な所だ。となるともうゲームはしばらく新作になるというのがいいニュースになるかもしれないね(笑)。

ブラックやっていないものと言えば初代『ディアブロ』かな。『ディアブロII』のリマスターはいまやっているけど、あれはシリーズの一種の頂点と考えているからでもあって。今はそういうこと(リマスター)は話してないですね。アレンが言うようにほとんどやってしまった。初代『ウォークラフト』とか『ウォークラフト2』もあるけども。

――では最後に、日本のゲーマーとBlizzardファンに何か伝えたいことがあれば。

ブラック私達が日本市場へのローカライズなどを進めてきているのは、私達自身の多くがゲーマーとして日本からやってきたゲームとともに過ごしてきたという事とも関係があります。ゲームを通じてある種のお返しが日本のゲームコミュニティにできているのは非常にうれしいことです。

 個人的にも本当に色んな日本のカルチャーを任天堂や『ファイナルファンタジー』とか他の様々なゲームを通じて消費してきましたからね。だから日本のファンや市場に自分たちが作ったゲームを見せられるというのは素晴らしい機会です。

アダム間違いないね。私もカプコンやコナミや任天堂のゲームで育ったんで同意しておこう。それらのゲームが私達を作り上げたし、Blizzardのアイデンティティを形作るDNAの中に入っている重要な部分だ。

ブラック私達はミヤモト(宮本茂氏)をゲームデザイナーの長、ゲーム業界の設計者として尊敬しているしね。だから影響されているとのと同じぐらい、ゲームデザイナーたちとそのゲームのファンなんです。