2020年12月26日(土)、ファミ通×ヒューマンアカデミーゲームカレッジのタイアップイベントが開催された。
本イベントは、“ゲームクリエイターの仕事の具体的な内容や必要なスキル、その魅力について学生たちやゲームクリエイターを目指す方々に知ってもらう”という目的から実現した催しで、ファミ通グループ代表・林克彦と豪華ゲームクリエイターによるトークセッションを全3回で実施するというもの。
記念すべき第1弾となった今回は、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』や『アストラルチェイン』の開発に携わったプラチナゲームズのディレクター・田浦貴久氏がゲストとして出演。「じつは人とコミュニケーションを取るのが苦手で……」や、「ゲーム業界を志した当初からディレクターを目指していた」など、自身のキャリア形成にまつわるさまざまな証言が飛び出した。本稿ではそんなトークセッションの内容を写真と併せて振り返る。
なお、講演の模様は以下の動画より視聴可能なので、本記事を読んで興味を持たれた方はこちらもチェックしてみてはいかがだろうか。
田浦貴久(たうらたかひさ)
2011年にプラチナゲームズに入社後、ゲームデザイナーとして『MADWORLD』、『MAX ANARCHY』、『METAL GEAR RISING REVENGEANCE』、『The Wonderful 101』、『The Legend of Korra』の開発に従事。おもにプレイヤーキャラクターや敵キャラクターのアクションに関するパートを担当。『NieR:Automata』ではシニアゲームデザイナーを務めるなど、アクション制作の要として活躍。2019年には、自身初のディレクション作品となる『ASTRAL CHAIN(アストラルチェイン)』が発売。(文中は田浦)
林克彦(はやし かつひこ)
1994年より『週刊ファミ通』編集部に勤務。ニュースページ担当デスク、副編集長を経て、2013年4月『週刊ファミ通』編集長に就任。ペンネームはフランソワ林。現在はファミ通グループ代表。
本記事はヒューマンアカデミーの提供でお送りします。
ゲーム制作に必要な17の職種をピックアップ
まずはゲーム会社の性質として大きく2種類ある、“パブリッシャー”と“デベロッパー”の説明からスタート。ちなみにパブリッシャーは、おもに企画や宣伝、販売、流通を担当する企業で、デベロッパーは開発を担当する企業を指す。大まかに言って
- パブリッシャー:販売
- デベロッパー:開発
をそれぞれ分担している。ただし、パブリッシャーが社内に開発部門を持つこともあるし、デベロッパーが自社でパブリッシングを行う場合もある。
田浦氏が所属するプラチナゲームズはデベロッパーとして多数の作品を手掛けつつ、2020年には初のパブリッシングタイトル『The Wonderful 101: Remastered』(Switch・PS4・PC)もリリースしており、ゲーム業界を目指すのであれば、著名なパブリッシャーだけでなく、デベロッパーを知っておくことも大切だと話してくれた。
続いて田浦氏は“ゲーム制作に必要なおもな職種”をピックアップ。各職種の役割について、端的にまとめつつ説明してくれた。
ここで挙げられたのは
- プロデューサー
- ディレクター
- ゲームデザイナー
- プログラマー
- コンセプトアーティスト
- キャラクターモデリングアーティスト
- エンバイロメントアーティスト
- アニメーター
- VFXアーティスト
- UIアーティスト
- シネマティックアーティスト
- サウンドデザイナー
- ミュージックコンポーザー
- 翻訳
- QA
- 宣伝広報
- 外部協力
の17種。
コンセプトアーティストやUIアーティストなど、“〇〇アーティスト”という職種の多さが気になるが、これについて田浦氏は
「昔はひとくくりにして“デザイナー”という呼称でしたが、ゲーム開発が複雑になるにつれ、デザイナーが担当する作業も膨大な量になっていきました。そこで、業務ごとに細分化して、各ポジションのスタッフを〇〇アーティストと呼ぶようになったんです」(田浦)
と説明。続いて、それぞれの職種が担う作業についてかんたんに解説していった。
開発では、ゲームの根幹をなす部分は社内で作り、その他の部分を外部企業に依頼する場合が多いそうだが、プラチナゲームズが開発し、2017年にスクウェア・エニックスより発売された『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』制作時はブッコロ・ヨコオタロウ氏を開発のトップ(ディレクター)として招くなど、例外も存在する。
ちなみに新入社員は、入社時にそれぞれ希望する部署があるはずだが、それがそのまま採用されることはあるのだろうか? こちらの質問に対しては、
「プラチナゲームズの場合、まずは研修期間中にすべての部署の仕事を経験してもらい、そこで本当にやりたいことを自分自身で見つけ出してもらうようにしています。そこから出た答えと、まわりから見た適性を照らし合わせて、最適な職種を担当してもらう感じですね」(田浦)
プラチナゲームズでは、ゲームデザイナー・プログラマー・アーティスト・サウンドという4職種の枠の中で、さらに細分化されたさまざまな業務を経験することができるようになっている……と、自社の例を挙げて説明した。
プラチナゲームズの職場環境を公開!
続いて、プラチナゲームズの職場環境を紹介するコーナーに進行。
各職種のスタッフのデスクまわりがつぎつぎに写真で紹介されていくものの、なかにはびっしりとフィギュアが置かれたデスクや、青竹踏みのうえに乗って、立ったまま仕事ができるようになっているデスクなどもあり、新しい写真が表示されるたびに会場には笑いが溢れていた。
なお、こうした職場環境も、コロナ禍の影響で大きく様変わりし、2020年12月の時点では写真のような状況になっている。
現在の社内の体制については
「現状では、同時に出勤できる人数は最大時の3割を上限としています。会社から各人にPCを支給して、在宅でも出勤時と同等の仕事ができるようにはしているのですが、通信環境は会社と家庭では大きく異なるので、データの取得に時間がかかってしまうというのがネックですね。慣れないうちは作業効率も落ちてしまいましたが、2020年後半になるころには勝手もわかってきて。ようやく春先までと同程度の作業ができるようになってきたところです。
逆に、出社時、直接顔を合わせながら会議や打ち合わせをするときも、“この人とつぎにやり取りができるのは数週間先になるな”と考えると、もっと具体的に資料をまとめてから参加しなければ……という気になるので、仕事に対する姿勢にもメリハリがついた気がしますね」(田浦)
と、コロナ禍での勤務体制について話してくれた。
ディレクターという職種に求められる能力とは?
話題はゲーム制作に戻り、田浦氏が務めるディレクターという職種の業務内容が説明されることに。
スライドでは、ディレクターの職務を
- イメージを思い描き、
- ビジョンを伝播し、
- チームを指揮して、
- 進むべき方向を判断し、
- 孤独に耐え、
- ゲームを完成に導き、
- ユーザーに届ける仕事。
と定義。そして、それぞれについて必要な能力である
- 探求力
- 発想力
- 伝達力
- 統率力
- 判断力
- 忍耐力
- 訴求力
- 運
などについて解説した。
どの能力も大切で、どれかひとつでも欠けているとディレクターとしての職務は全うできないという。これについては
「もし、統率力があっても判断力がなかったら、みんなをどんどん間違った方向に導いていってしまう可能性があります。アンテナを張ってアイデアを蓄える力がないと、おもしろい発想を生み出すこともできないだろうし、どれだけすばらしいアイデアを持っていても、それを実現するまで諦めない忍耐力がないと、ゲームを完成させることはできません」(田浦)
と、自身の経験も交えつつ説明した。
また、ディレクターが担う業務と、円滑に作業を進めるために、田浦氏が「意識するべき」と語るポイントは以下のスライド画像をご参照いただきたい。
ここで林氏より、
「田浦さんは最初からディレクターを志望してゲーム業界に入られたのですか?」
との質問が。田浦氏からは、以下のコメントが飛び出した。
「自分自身が考えたゲームを、実際に形にして作り出せたら楽しいだろうなという思いは昔からありました。なので、まずはデザイナーやプランナーを経験して、そこからディレクターに……という道筋は初期のころから頭にはあったのですが、じつは、僕はもともと人に考えを伝えたり、大人数を前にして話したりするのが、ものすごく苦手だったんです。
けれども、仕事をしていくなかでおもしろいゲームを作るには人との関わりが必要不可欠だと感じるようになりました。どれだけアイデアがあっても、それを形にしてくれる人がいないとゲームは生み出せないんですね。だから、自分にもそう言い聞かせて、本当はものすごく苦手だった“人とのコミュニケーション”を積極的に取るようにした結果、ディレクターを任せてもらえるようになりました」(田浦)。
なお、ディレクターだけでなく、どの職種においても、ゲーム業界を目指すのであれば身に着けておきたい能力は、
- センス
- 熱意
- コミュニケーション
の3点だという。
田浦D、ある日のスケジュール
ちなみに、ここまでの流れからは少し逸脱するが、ここで田浦氏の1日のスケジュールも公開された。スケジュールはおおよそ、3つのパターンにわけられるそう。
パターン1
パターン1では約11時間がゲームプレイに割り当てられている。とはいえ当然、それは遊びではなく、開発途中のタイトルの進行具合をチェックするためのもので、帰宅後は趣味のゲームに費やす時間もしっかり盛り込まれている。
パターン2
続いてパターン2は、1時間から数分単位で業務が細かく詰まっているスケジュール。さまざまなチェック作業をこなしつつ各部署にも指示を出す、もっともディレクターらしい1日の過ごしかたとなっている。
パターン3
そしてパターン3は、外部からの干渉がなく、ひたすら自分の作業に没頭できるスケジュールで、田浦氏いわく、パターン3の日がいちばん楽しく1日を過ごせるのだとか。
クイズ大会やQ&Aコーナーも
イベントの後半では、ゲーム業界の現状が理解できる“ゲーム業界丸わかりクイズ大会!”が開催。「世界のゲームコンテンツ市場シェアがいちばん大きい地域は?」など、5つの問題が出題され、会場は大盛り上がりとなった。
学生からの質問に田浦Dが答える
セッション終盤には、学生たちから寄せられた質問に田浦氏が答えるQ&Aコーナーが実施された。
Q.仕様書をうまく作るコツはありますか?
田浦企画書や仕様書は人に伝えるために作るものなので、どうすれば見やすくなるか? 伝わりやすくなるか? という点を最優先で考えるべきですね。そうした能力を鍛える方法としては、さまざまな雑誌や看板などのデザインを見て、“どういった狙いでそのデザインにしたのか?”、“わかりやすく情報を伝えるために、どのような工夫をしているか?”といったことを、ふだんから分析する癖をつけるのがいいですよ。
Q.田浦さんは学生時代、どのように過ごしていましたか?
田浦ゲームはもちろんしていたけど、それとおなじくらいアルバイトもしていました。就職する前にいろんな経験をしたかったので、短期でいろんなバイトをしましたね。そこでコミュニケーション能力も磨けたように思います。
Q.アニメーター志望なのですが、効率よく作業をこなすコツはありますか?
田浦アニメーターの場合、動きのバリエーションをどれだけ知っているかが、作業効率にも影響してくると思います。映画やアニメをたくさん見てアクションをインプットする。そして、実際にアニメーションを作るときは、自分自身の身体を使ってアクションを確認することも重要かと。プラチナゲームズにも大きな鏡があるんですけど、アニメーターはその前に立って、自分で動きを確認しながら、よく可動域をチェックしています。
さまざまな質問に時間が許す限り回答した田浦氏。そうして最後には、以下の言葉で締めくくり、イベントは盛況のうちに終了した。
田浦いろいろとお話させていただきましたが、明確にこれが正解……という答えはないので、いろんな経験を積んで、自分なりの考えかたを見つけ出していってほしいですね。ゲーム業界の門戸って意外と広いので、難しく考えず、どんどん行動して道を切り開いていってほしい。皆さんといっしょにお仕事ができる日を楽しみにしています。
イベント終了後の田浦氏にインタビュー
――イベントを終えられての感想をお聞かせください。
田浦視聴者の方たちからたくさんのコメントが届いたことが嬉しかったですね。時間の都合上、すべてには答えられませんでしたが、こんなにも大勢の方に興味を持ってもらえて、ありがたかったです。
――ご自身の職種について、細かく分析しながら説明していただきましたが、こういった経験はかなり珍しいのでは?
田浦学生さんたちに向けて「自分の考えを人に伝えることが大事」と言っておきながら、自分自身がちゃんと伝えられなかったらどうしよう……と、かなり不安でしたが、何とか伝わったようでホッとしています。自分の仕事について考えるというのは初めての経験だったので、いろいろと気づくことも多くて。ふだん、何気なくこなしていた業務も、文字に起こすことで改めて意識するようになったので、いい機会をいただいたなと思っています。
ファミ通×ヒューマンアカデミーゲームカレッジタイアップイベント 今後の予定
第二弾:ゲーム企画のコツを伝授!視聴者限定で企画添削のチャンス!
- 2021年2月6日(土)14:00~15:30
ゲスト:原田 勝弘氏
バンダイナムコエンターテインメント エグゼクティブプロデューサー / ゲームディレクター - オンライン開催(無料)
第三弾:バンナム原田さん&ファミ通林さんによる「ゲーム企画添削会」
- 2021年2月27日(土)14:00~15:30
ゲスト:原田 勝弘氏
バンダイナムコエンターテインメント
エグゼクティブプロデューサー / ゲームディレクター - オンライン開催(無料)