ファミ通ドットコム内のゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”が、ゲーム業界の最前線で活躍するゲームメーカーの経営陣やクリエイターを直撃。今回は、CRESTの代表取締役、梁 俊模氏と三上政高氏にお話を聞いた。
CRESTは、梁俊模氏と三上政高氏のふたり代表取締役体制で、2018年に設立。アニメ・ゲーム・音楽・グッズなどの幅広い事業を手掛ける企業。アニメは、企画・製作・投資・ライセンスなどを行い、ゲームは、企画・開発・パブリッシングなどに携わっている。手掛けたタイトルは、PC用RPG『ARIA CHRONICLE -アリアクロニクル-』や、スマートフォン向けパズルRPG『ヘキサゴンダンジョン:アルカナの石』など。2021年には、Nintendo Switch、プレイステーション4、PC向けローグライクアクション『メタリックチャイルド』など複数タイトルの発売が控えている。
梁 俊模氏(ヤンジュンモ)
CREST
代表取締役/CEO
(文中はヤン)
三上政高氏(みかみまさたか)
CREST
代表取締役/CEO
(文中は三上)
お互いが補いあう関係として、会社を設立
――まずは、CRESTを設立する前のおふたりの経歴を簡単に教えてください。
三上僕は、もともと映画の劇伴やBGMが好きだったんですね。で、ちょうど僕が学生だったころに『攻殻機動隊』や『地球少女アルジュナ』などが出てきて、いわゆる深夜アニメ帯で大人向けのタイトルだったり、作品性の強いアニメが出始めたんです。それに合わせて流される音楽も、明らかにそれまでのアニメとは違うテイストになってきていて、とても興味を惹かれたんです。で、エンドクレジットを見て、音楽プロデュースの仕事があることを知って、これを仕事にしたいと思ったんです。
――三上さんはアニメ音楽の仕事がスタートだったんですね。
三上高校は進学校に通っていたのですが、「音楽をやる」と宣言したら、親に自力でやるように言われまして。そこで学校を定時制に変えて、アルバイトをしながら東京に出るためのお金を貯めたんです。200万円ぐらい貯めて、東京に出て音楽学校に入ったのですが、けっきょくその学校は1年間も通わないうちに辞めてしまいまして、当時アルバイトで入っていたサイトロン・デジタルコンテンツ(※)にインターンで就職しました。当時19歳でしたね。
※サイトロン・デジタルコンテンツ:アニメやゲームミュージックを専門にしていた音楽、映像ソフト会社。かつては志倉千代丸氏も在籍していた。
――ヤンさんはいかがですか?
ヤン 大学の在学中にCom2uS(※)でアルバイトを始めて、そのまま大学を中退して同社に就職しました。
※Com2uS:『サマナーズウォー』などをリリースしている韓国のモバイルゲーム会社。
三上ヤンさんはCom2uSの社員ナンバーが3番なんですよ。
――まさに立ち上げのメンバーですね。
ヤンそうですね。3人くらいでスタートして、モバイルゲームというもの自体が登場してきたころから開発していました。当時、僕が企画書を書いたゲームが運よく大ヒットとなって、そこでまわりから「ゲーム作りに向いているよ」と言われて、大学を辞めて本格的にがんばろうと思ったんです。その後出張で日本に行かせてもらって、そのまま転職して、18年間韓国には帰っていないです(笑)。
三上長い出張ですよ(笑)。
――おふたりともコンテンツに心惹かれて人生の道筋が定まったみたいな感じですね。とても興味深くてうかがってしまうのですが、おふたりが若いころに影響を受けたコンテンツは何ですか?
ヤン僕が韓国にいたころは、まだ日本のゲームソフトが禁止されていて、輸入することを法で禁じられていたんです。それで、闇市場みたいなところに行ってゲームを探していました。お店に入って「『ファイナルファンタジー』のソフトはありますか?」と聞くと、店主がお店の奥からこっそり袋に入れたソフトを持ってきてくれたりしたんです(笑)。
――そんな感じだったのですね。そんな状況だと日本のゲームに対する思い入れもひときわだったのでは?
ヤンそうですね。当時の人たちはわざわざそういうところでゲームを探していたので、本当にみんなの思い出に強く残っていると思います。私は『ファイナルファンタジーIV』や『ロマンシング サ・ガ』が好きで、とくに『ロマンシング サ・ガ』は何十回もクリアーしました。その後日本に来ていろいろな仕事をしたのですが、独立して初めて手掛けた仕事が『ファイナルファンタジーXV』の制作でした。
――まさに好きだったシリーズの最新作に関わることになったのですね。
ヤンアプリ制作などを私のほうで担当させていただきました。そんな感慨深さもあって、当時のスクウェア(現・スクウェア・エニックス)のゲームにはものすごく影響を受けています。ファミリーコンピューターからスーパーファミコンに変わったときの進化にびっくりしましたし、シナリオや演出にすごく感動しました。スクウェア作品が、僕が日本に来ようと思ったきっかけにもなっています。
――ああ、そうなのですね。まさにコンテンツの力を感じますね。三上さんはいかがですか?
三上僕もスクウェアさんのゲームですね。『ファイナルファンタジーV』にはとくにハマった記憶があります。ヤンさんと少し違うところで言うと、『テイルズ オブ』シリーズも大きいです。夕方のテレビで『ドラゴンボール』、『幽遊白書』、『GS美神 極楽大作戦!!』などを見てきたなかで、ドット絵のゲームのオープニングでアニメーションがついて、主題歌まであるというのは、当時としてはすごく珍しくて、とても刺激を受けました。
――それでは、そんなおふたりが代表を務めているCRESTを立ち上げた経緯を教えてください。
三上まず我々の出会いからお話しすると、僕が前職でゲーム事業の立ち上げをしていたときに、共同でゲームの開発や企画ができる会社を探していたら、知人からヤンさんを紹介されたのが始まりですね。そこでヤンさんが持っていた企画を見せてもらって、お互いに意気投合したんです。ただ、けっきょくその事業は頓挫してしまい、僕が退社することになってしまったんです。
で、当時僕がFacebookに退職することを投稿したら、その1時間後にヤンさんから電話がかかってきたんですよ。誰よりも早かったです。「三上さん、退職されるならいっしょに仕事をしませんか?」と言われたのですが、半年間ヤンさんとはお会いしていなかったので、誰か分からなくて(笑)。話をするうちに、半年前に会ったヤンさんだということがわかって、僕が立ち上げた会社と、ヤンさんの会社とで、連携して仕事をすることになりました。
ヤン僕も、三上さんはいつか自分の会社を立ち上げるだろうと思っていたので、別の会社に行ってもいっしょに仕事ができたらいいな、と思って電話をしたんです。でも話しているうちに、お互いの持つ人脈だったりビジネス的な目標だったりが、すごく一致していることに気づいたんです。
三上当時はふたりともそれぞれの会社を持っていたので、ふたつの会社で連動していたのですが、どちらの案件なのか、わかりにくいものも出てくるようになって、「それならもうふたりで会社を作りましょうよ」となって、CRESTを設立するにいたりました。
――ビジネス的な目標が一致していたとのことですが、どういった部分で波長が合うと感じられたのですか?
三上僕はずっとアニメ業界で音楽を手掛けてきたのですが、ゲームの事業をやりたかったんです。しかもグローバルで。でも僕は国内にしかコネクションをもっていなかったんです。逆にヤンさんは、先ほどもお話しされていたようにゲームが大好きで、日本のアニメも好きだったんですね。
ヤンそれで日本に来ましたからね(笑)。日本に来た後は、サイバードやジークレスト、アトラス、ネットマーブル、NHNなどで企画やプロデューサーとして10年以上ゲームを作ってきました。ネットマーブルやNHNでは海外のゲームを日本でパブリッシングする仕事をしていて、次第にそこで得た韓国やアジア系の人脈を活かして、ゲーム以外のこともやってみたいという気持ちが出てくるようになってきたんです。
――お互いの領域に興味があったということですね。
ヤンゲームでは、さまざまなIP(知的財産)とコラボして、作品を成功させるケースが多いですよね。そのときに感じるのは、アニメというのは本当にすごいなということで、ゲームをアニメのようにIP化するのはすごく夢があると思ったんです。とはいえ、日本のアニメ業界は長い歴史と蓄積があり、新規で何かに取り組むというのはなかなかに難しい。
――そういうところはあるかもしれませんね。
ヤンそういった部分にハードルの高さを感じているなかで、三上さんとお話をしたときに、アニメに限らずゲームなどを含めたサブカルチャーをアジアで大きく展開していきたいということを話したら、三上さんも同じ気持ちだったんです。
三上逆に僕からすると、アニメ業界は国内でビジネスをするケースが多かったので、海外と事業的なつながりを持っている人が貴重だったんです。僕ひとりの人脈で事業を立ち上げたら、日本国内に集中してしまいがちになるのですが、ヤンさんといっしょに動けば、グローバルでの展開がしやすいと判断したんです。
――アニメ音楽とゲームという異なるジャンルで活動されていることは気になりませんでしたか?
三上同じジャンルの人と組めば、確かに話している言語も近しくてやりやすいですが、それだと広がりがないんですよね。それに、業種が同じだといっしょに会社を動かしたときに意見の相違が出ると思ったんです。実際、2018年3月の立ち上げから2年と少し経っていますが、まわりからも「よくケンカしないでやっていられるね」、と言われるくらい順調にやれています。
――関わってきた事業が違うからこそのやりやすさがあるのですね。
三上さらに、僕はゲームに対して、ヤンさんはアニメやアニメ音楽に対して、それぞれお互いの領域にリスペクトを持っているんですよ。ですので、相手の領域の事業方針については揉めることもなくて、すごく綺麗に噛み合っている状況です。
――会社の代表が2名いらっしゃるというのも珍しいような気がしますが、大きな決断をするときはふたりで議論をするのですか?
三上そうですね。電話での相談はしょっちゅうしています。
ヤン極論を言えば、どちらかが単独で決断をくだしても同じ結果になるとは思うのですが、そこの信頼関係はすごく大切にしていて、必ず話し合うようにしています。
アニメとゲームにまつわるコンテンツ企業として
――おふたりで会社を設立されたとき、どんな会社にしていこうと思われていましたか?
三上ふたりともいろいろなことにチャレンジしたいタイプなのですが、中途半端にはしたくなかったので、まずはアニメとゲームにまつわるコンテンツ企業にしようと話していました。合わせて、日本だけではなく東アジアを中心に、グローバルでのパブリッシングをしていくことは、当初からの目標としてありました。日本の企業はみずから海外にコンテンツを持っていくことをあまりしないので、弊社ではそういったことをやっていこうと思っています。
ヤン日本も韓国も中国も大手企業は腰が重くて、「前向きに検討します」で終わることが多いです。ですので、我々は大手企業で働いていたことを活かして、大手企業どうしのあいだにある案件を検討だけで終わらせずに、実際にアクションを起こせるようになれば、すごく価値があることだと思ったんです。ですので、そういった企業と企業の橋渡し、つまりブリッジングのようなことも初期から進めていました。
三上最初は本当にブリッジングプロデュースの事業が多かったです、いまも、韓国の大手企業さんと日本の有名クリエイターをブリッジングして、そこに僕らがプロデュースで入って、世界設定を作り上げる……といったようなことをしています。
――なかなかフットワークが軽くなれない大企業どうしをつなぐ役割を果たしていたのですね。
三上CRESTのロゴが、橋あるいは門のような形になっているのも、そういったブリッジングのコンセプトを反映しているからです。CRESTという言葉は、紋章や兜などに付いている前立てといった 意味なのですが、僕たちは造語として、ギリシア語のクレース(要)という意味と、ストーン(石)を混ぜて、“橋の要石”という意味合いを込めているんです。「我々がその要になります」ということです。
――腰の重い大企業どうしをつなぐのはたいへんな仕事のように思いますが、そこに活きてくるCRESTの強みとは何でしょうか?
三上企業どうしだと立場やしがらみがありますし、海外になれば文化的な背景も商習慣も違ってくるので、実際のところ相当難しいんです。CRESTは国籍で言えば、僕が日本でヤンさんが韓国、ほかにも台湾のスタッフがいて、これからは北米の人材も入ってくる予定です。そのため、各国の事情がある程度わかるので、調整のしようが出てくるんです。
ヤン強みで言えば、プロデュース能力も大きいです。相手のビジネススキルや計画性がはっきりと見えないと、ビジネス的な決定を下すのは難しいと思うのですが、そのあたりをCRESTで固めてビジネスとして提案をさせていただいているんです。そのあたりのプロデュース能力は高いと思います。
三上大企業の方って、「なにかやりたい」とは言いつつも、自分で音頭を取ってほかの会社と動くのは苦手な方も多いです。ですので、そこに僕らが入って、企画作りや損益計算書の作成を行いつつ、両社のブリッジングをしてプロジェクト全体のプロデュースをしています。企業の規模としては、我々がいちばん小さいのですが、取りまとめは任せていただいています。
――それだけ信頼されているということですね。
三上大企業って、ある種恐竜とか怪獣みたいなもので、大企業どうしが本気で戦うと怪獣大決戦みたいになってしまうんです(笑)。おまけに国が違うとステークスホルダーの考えかたもまったく違うので、“その国の言語が話せる”、“国ごとの事情を理解している”ということに加えて、扱うコンテンツへの理解度の高さ、これもひとつの強みです。いちばん大事なのはその部分かもしれません。
ヤンただ、そういったブリッジングは会社の1年目にメインで取り組んできた事業で、いまはそこをベースに、CRESTのコンテンツ作りの体力を強くするために、アニメの制作の呼び込みやゲームのパブリッシングをおこなっています。世界的な状況もあって、いまゲームはとても活性化している分野だという認識でいます。それに、いまは世界に向けてゲームを出すには環境が整っているので、各国で効果的にゲームを配信していくための準備をしている段階です。
――ブリッジングも行いつつ、自社でのパブリッシングも進めているのですか?
ヤンそのためにも人材がほしいという状態です。日本だけでもリリースするゲームの本数は増えますし、アメリカや中国を含めて、少なくとも来年末(2021年)までにゲームを9本リリースする予定なんです。 けっこうな量になるので、それらをしっかりと形にするためにも人員が必要です。
とにかくストーリーや世界観にはこだわっていきたい
――今後行っていくコンテンツ作りにおけるこだわりを教えてください。
三上いまパブリッシングしているコンテンツにも一貫性があって、それがどういう風に受け止めていただけるかによって、CRESTのカラーみたいなものも決まっていくとは思うのですが、自分たちがどうしてゲームやアニメを好きだったかということを振り返ってみると、やはりストーリーがすごく重要なんです。
ヤンふたりで契約するゲームを選別するときにも、ストーリーテリングや世界設定がしっかりしている企画であるということが大前提としてあります。我々もそういったゲームを作っていこうとしています。私がいっしょにお仕事をしている開発者や開発会社にも、昔の日本のゲーム、『バハムートラグーン』や『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』が好きな人が多くて、やはりみんなシナリオが好きで、感動できるようなゲームを作りたいと話しています。やはり、ストーリーにはこだわっていきたいです。
三上最近のゲームって、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』のようなナンバリングタイトルになるケースが少なくなっているように思います。IP化されていないんですね。
――なぜそうなっていると思われますか?
三上たぶん、消費動向に合わせて商業化が進んでいるからなのだと思います。たとえばモバイルゲームだと終わりがないから、ストーリーにも終わりを作れないですよね。ストーリーを読ませるというよりも、ゲーム性やプレイの楽しさが主になっているんです。
言ってみれば、ゲームプレイの楽しさは進化していると思います。ただ、映画やアニメみたいに始まりから終わりまでキッチリと展開して感動していただいて、ユーザーの心に残るコンテンツにするといったことは、ムーブメントとしては廃れてきている印象です。
――とくにモバイルゲームはその傾向があるかもしれません。
三上もちろん国内でも『ファイナルファンタジーVII リメイク』のような作品は出てきていますが、基本ストーリーに力の入ったAAAタイトルは、海外から生まれてくるようになってきていて、新しいメーカーさんでそういったIPになるようなタイトルを作っているところは少ないように思います。僕らがそれをできているというわけではないのですが、そういう価値観が残っている人たちといっしょにゲームを作っていきたいという思いはあります。
ですので、日本でゲームを作るということにこだわる必要もないのかもしれないとも思っています。どの国のクリエイターと組んでも、けっきょくは僕らがそれをどういう風に日本や世界に届けていくのか、そこがパブリッシャーとしての重要な役割だと思っていますから。ゲーム自体がおもしろいことは前提としてあって、その上で世界観やストーリー、世界設定といった部分を大事にしていきたいです。
――心に残るゲームを作っていきたい、というのが大きいのですね。
三上僕らの世代は、自分たちが青春を過ごした作品について「あのゲームはよかったね」みたいな話ができますが、いま10代の子たちが20年後にそうやって語り合えるコンテンツが少なくなってきているのかな……と考えることもあって、いまのゲームユーザーにも、思い出として語れるようなゲームを残していけたらと思っています。
ヤン今年7月にSteamで発売して、2021年3月にNintendo Switchとプレイステーション4で発売する『ARIA CHRONICLE -アリアクロニクル-』は、プレイしてもらったユーザーさんからキャラクターや世界観、プレイのおもしろさを評価していただいているタイトルなのですが、CRESTの方針みたいなものを感じていただけるわかりやすい例だと思います。
――近年では韓国、中国の開発力も上がってきていますが、世界観やストーリーといった部分の制作についてはまだ日本のほうが優れていると思われますか?
三上世界観やシナリオ作り、コンテ作りなどについては、まだ日本のほうが圧倒的に強いです。ただ、ゲームそのもの開発力や映像を作る能力に関しては、コストパフォーマンスやクオリティー、制作スピードなども含めて、韓国や中国がかなり強くなってきています。そのへんは、日本の企業で最前線に立っている方々もひしひし感じているとは思うのですが、自分たちが同じ金額で同じゲームを作れるかといったら、いまは作れないです。
――技術力では、海外の伸びがかなりすごいということですか。
三上アニメーションも、フランスなどにすごく優秀なスタジオができているんです。あちらではまだアニメーションを放送するマーケットが多くないので顕在化していないだけで、能力のあるところは多いです。
ヤングラフィックや開発力はある程度参考にできるので追いつきやすいのですが、シナリオなどのモノ作りはそうもいかないんです。たとえばラーメンなんかは、お店が違うと見た目は似ていても味はまったく違いますよね。そういう意味で、韓国は世界観作りなどについては、まだ少し弱いんです。そこは、長年コンテンツを作ってきた日本ならではの強みです。
三上たとえばグローバルでヒットしたヨコオタロウさんの『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』は、モノクロの世界観にああいうシックな衣装デザインを持ってくるというのが、ものすごく独自性が高いですよね。中国や韓国の企業だと、開発力はあってもキャラクターや世界観はヒットした作品に似せて作る傾向があるんです。
ヤン同じように、ベルトをそこかしこに付けたようなビジュアルのキャラクターを描いてもらったとして、日本の場合は各パーツに意味や狙いがあって、そこがおもしろいんです。でも、中国や韓国の場合は、「格好がいいから」という理由しか出てこないんです。そういう、モノに込める思いや考え、狙いの発想が、海外はまだ弱いです。
三上日本だと、自分が好きなものや感動したポイントを言語化する趣味とかが許容されていますよね。コミックマーケットがいい例だと思うのですが、人がクリエイティブに対してこだわるものを、ちゃんと周囲が評価する流れがあるんです。漫画にも制作の制限はないですし、文学で言ったら紫式部の時代からずっと同人誌を作っているわけじゃないですか(笑)。
――確かに、そういった意味で文化的な土壌の違いは大きいかもしれないです。
三上最近だとハイブリッドになってきてはいるのですが、韓国と日本の大きな違いはゲームを作る流れにもあります。韓国の場合、キャラクターを作って、世界観を作って、その後にシステムを作るんです。そこまでは、キャラクターにストーリーがないんですよ。でも日本は逆で、キャラクターとストーリーのコンセプトを作って、最後にシステムを作るんです。
――韓国ではストーリーよりも先にシステムがくるのですね。
三上コンソールゲームを経ていない国の人たちは、MMORPGみたいにゲームをずっと楽しく遊ぶというのが発想のメインなので、ゲームシステムはすごいぶん、ストーリーはそこまで重視されていないんです。まあ、コンソールと非コンソールの違いもあるとは思います。
ヤン逆に言えば、だからこそ、日本のゲームはキャラクター性や世界観がすごく強いのだと思います。それこそ、『モンスターハンター』のモンスターですら、フレーバーテキストや設定を見て楽しめますし、それで好きになれますからね。そういうところから作品への愛情も湧いてくると思うんですよ。
他人事ではなく自分事として考えられる心を持つことが大事
――ここまではコンテンツ作りなどの事業について伺いましたが、ここからは組織作りについてのお話をお聞きしたいと思います。おふたりが組織作りでこだわっているポイントは何でしょう?
ヤンコンテンツに対する想いを持ってくれる人を優先したいので、基本的にそういった想いを持ったプロデューサーやディレクターをメインに据えて、そのなかで意思決定ができるようなチームを作りたいと考えています。
三上僕らが取り組んでいるのはプロの仕事ですから、プロフェッショナルであってほしいです。コンテンツに対して責任感を持って、他人事ではなく自分事として考えられる心を持つことが大事だと思っています。そのうえで重要なのは、挑戦して失敗したときに、その失敗自体を責めないということですね。
ヤンそうですね。予算やルールのなかで自分のやりたいことに挑戦することに意味があると思っています。挑戦をせずに「これは私の仕事ではないな」みたいになるよりも、「攻めて、攻めて、こういうことにチャレンジしましたけど、失敗しました」となることが多い組織にしたいです。
三上責任感を持ってコンテンツに愛情を注ぐと、その人なりに死ぬほど考えたうえで、ベストだと思うものを提案してきますよね。そのうえで失敗したのならば、反省したときに「ここがうまく刺さらなかった」、「ここのプロデュースの仕方が違った」というポイントが見えてくるのですが、惰性でやっていると考えていない選択肢が多すぎて、何がダメだったのかがわからないんですよ。
――考えて動けば、失敗してもつぎにつながるわけですね。
三上そうです。納期が、発注先が、みたいに問題がわかっていれば、それは潰していけますから。コンテンツを100%ヒットさせることはできませんが、どんなものでも真面目に考え抜いて作るということは共通してできます。
ヤンプロフェッショナルになるまでの経験が浅くて、考えが及ばずに失敗してしまうこともあると思います。でも、そういう意味では、僕ら社長陣も業界の先輩方からするとまだまだ浅いですし、僕らも考え続けています。ですので、考えて失敗するぶんには大歓迎ですが、逆に考えるのを止めて、その結果失敗したら僕たちは怒ります。
――ずばり、おふたりにとってプロフェッショナルとは何でしょうか?
三上仕事において考えを止めない、少しでもよくする、少しでも成功の可能性を上げるためにチャレンジし続けること、そしてその物事に対して考え続けることだと思います。
ヤン考えることをあきらめたらいいモノはできませんが、考えれば考えるほどいいモノが出てきますからね。もちろん納期などの関係で切り上げるタイミングもありますが、その期間の中で妥協せずに考え続けることですね。
――となると、今回求められている人材も考え続けられる人ということになるのでしょうか?
三上コンテンツに愛情を持って、コンテンツのことを考えて、その考えを実行できる人ですね。自分が関わるものに愛情や誇りを持てたら、自然と実行までつながっていくと思うんです。ほかの人に「俺、奥さんのこと大事にしているんだ」と言っているだけじゃ何も伝わらないですけど、本当に大事にしている人は、行動が伴っているじゃないですか。
ヤン実行と言っても大げさなことではなくて、自分の考えを発言、発信してほしいということです。会社としてもそういった発言の場は用意しているので、たとえばプランナーが集まった場などで、こうしたい、こうすべきじゃないか、といったことを発信していってほしいんです。そこで自分の考えを発表できれば、チームでそれを実行していけますから。
三上簡単な話、たとえばあるキャラクターの髪の色について、「こういう理由でこのキャラクターの髪はピンクにしたほうがいいと思う」という発言をしてもらえたら、それを実際に作り上げるのはデザイナーの仕事になります。考えを実行するというのはそんな小さなことでもよくて、それが何百、何千と集まってゲームができていくんです。そういう意味で、コンテンツに愛情を持って、考えて、実行できる人材がほしいです。
――その人がプロフェッショナルになれるかどうか、といった部分はどのように判断されるのですか?
ヤン我々が採用する人の基準で言うと、経歴がない人の場合、その場で自分の好きなコンテンツについて語ってもらうんです。極論、釣りが好きで、それはこういう理由で、みたいに明確に説明ができれば、それでいいと思います。
三上そこで論理的な分析や説明ができている人は、そのコンテンツに対して自分の感情がどう動いているかを理解しているんです。そういう人は、自分が任されたコンテンツに対しても理解を深めようとします。自分が何かを好きになるときの感情のメカニズムがわかっていないと、自分たちが出すものを誰かに好きになってもらうプロセスもわからないですから。
ヤンたとえば、私は『超電磁マシーン ボルテスV』が大好きなのですが、それは超電磁コマの動きがすごく格好いいからで……、みたいに好きになるシチュエーションがあったりすると、聞く側としても納得できますよね。そういう部分を理解していることが大事だと思います。
CRESTで働くことで、プロデュース力が身につく
――コンテンツへの愛を持っているということが前提のうえで、スキル面などではどのような人材を求めていますか?
ヤン経験者では、実際にゲームを完成させるところまでいったことのある人を探しています。完成までを経験しているだけでも、大きな違いがあります。完成させたものが成功したかどうかは関係なくて、“ゲームを完成させた”という経験がある人材がほしいです。あとはどの職種でも、ゲームの運営に関わったことがある、という方は大きいですね。
三上運営ディレクター、プロデューサー、マーケティングですね。とくにマーケティングは、いまCRESTでは本当に人が少ないので、急募しています。マーケティングについてはゲーム関連が未経験でも、マーケティングの経験があれば大丈夫です。売り出す商品が変わるだけですから。
――何かを売り出した経験があれば、問題ないということですね。
三上僕らのゲームやコンテンツは、基本的に4ヵ国語以上のローカライズをおこなっているので、英語圏や中華圏などのマーケットに対して自信がある方やチャレンジしたいという方はぜひ来てください。英語や中国語ができるスタッフはいるので、言語はとくにできなくても問題ありません。そこから情報を得て、「このマーケットにはこういう宣伝が合っているのではないか」ということを考えられる人材を期待しています。
――ちなみに、マーケティング人材は業界的に不足しているのでしょうか?
三上ほかの会社さんはわかりませんが、グローバルなマーケットに対してマーケティングをかけようとしている方が少ないのは確かだと思います。国内のマーケティングは、みんなゲームなどを好きな人が担当しているので、コンソールやモバイルのマーケットが理解しやすいんです。でも、中華圏、英語圏で同じゲームを出したときに、それがそこでどのように評価されるかがわからないんです。
そこを飛び越えて海外でのマーケティングをしたいという人は、日本人であってもなくても大歓迎です。
ヤン弊社としては海外マーケティングだけではなくて、国内マーケティングの人材も求めています。本当にマーケティングの人材が不足しているので(笑)。何かのマーケティングをしたことがあるという方は、ぜひ門を叩いてもらえればと思います。
――CRESTで働くことで、どのようなスキルアップが果たせるとお考えですか?
ヤンまずひとつ言えるのは、プロデュース力はものすごく上がると思います。物事について自分でちゃんと考えたり、何かを成功させるためだったり、ユーザーに届けるために取り組む能力はものすごく付くと思います。
三上いまの組織形態をどこまで続けるかは悩んでいるところなのですが、いまはフラットになっています。各ゲームの担当者は振り分けていますが、全員には「すべてのゲームに対して意識を持ってください」と言っています。それは、自分が担当していないゲームに対しても気を配るということです。
――それはなぜでしょうか?
三上「ほかのチームは関係ない」とシャットダウンしてしまうと、チームで断裂が起きてしまうんです。僕としてはチーム全体で評価をするので、「自分の担当がいちばん大事なのはわかりますが、お互いにどのゲームにも参加できるようにしておいてください」とは伝えています。僕らみたいな小さな会社だと、誰かが休んだりしたときに、まわりがそのゲームについて何も知らないというのは、ある種リスクでもありますし。
――たいへんそうにも聞こえますが、一方でヤンさんの言うプロデュース力を付ける要因のひとつにもなりそうですね。
ヤンそうなんです。プランナーでもマーケティングのことを考えたり、マーケッターでもイベントについて知見を広げたり、そういう風にすごく広い範囲で見ていくのは、プロデュース力につながっていくと思います。分業には分業のよさがあると思いますが、CRESTではみんなでいっしょにモノづくりを考えるので、“みんながプロデューサー”というのに近いと思います。たいへんなぶん、やりがいもありますよ。
三上本当に自分に向いている仕事がなにかということが、みんなわかっていないと思うんです。でも、プランナーだけどマーケティングの仕事もおもしろいかもとか、マーケッターだけどイベントの企画も楽しそうというのは、実際に経験してみないとわからないですよね。
――確かに、分業が進んでいる環境だとそういった経験を得るのは難しいですしね。
三上そういった機会があるのと、あとは相手の仕事を知ることで、たいへんさが理解できて、相手を思いやれるようにもなるんです。そういう意味でも、広く見ることのメリットは大きいです。そのなかで、自分のベストなポジションを見つけて、いまとは違う職種につきたいなら、そのために勉強をして、僕らや人事にプレゼンをしてくれれば、ジョブチェンジは考えるようにしています。最初の職種でずっと固定、みたいなことはないです。
――先ほどお話にもありましたが、来年までの時点で9本のリリースを予定している ということで、多くの開発を経験できるというのも求職者の方からすると魅力的ですよね。
三上そうですね。僕らは自分たちで開発や共同開発することもあれば、できあがった作品をパブリッシングだけすることもありますが、どの場合もお客さんに届けるまでのフェイズは同じです。その数をこなしたり、より多くのチャレンジができるんです。作って、広めて、お客さんから反応が帰ってくるというフェイズを多く経験できるのは、他社さんにはない魅力です。
ヤンCRESTに来てくれる人の転職まで考えるわけではないですが、ゲームを発売まで持っていくという経験は、弊社も重視するように、他社さんでも重視されるポイントだと思います。そういった経験を積むという意味では、弊社はいちばん大きな機会を得られると思いますよ。
世界に向けたコンテンツのパブリッシングという最終的に向けて人材を募集中
――ところで、会社の雰囲気はどのような感じでしょうか?
ヤンオフィスでは、ゲームチームが全体でひとつのブロックにまとまっているので、それぞれが意見を交わしたり、悩んだりする機会は多いです。社長どうしも現場に入ってくるので、その場で話したり、電話で相談なりをしたりすることも多いです。
三上ただ、どちらかというと自主独立性を求めるので、組織の駒として動きたいというよりは、周囲の人と協調性を持って積極的に動ける方のほうが合っていると思います。たとえば隣でやっている仕事が楽しそうだと思ったら、自分の仕事もしつつ「ちょっと手伝うよ」と言ってしまうくらいの人がいいですね。それで自分の仕事が疎かになってしまったらダメなのですが(笑)。お互いに相談しやすい雰囲気は作っていきたいと思っています。
――「ちょっと手伝うよ」というのは、なかなかの勇者ですね。
三上もちろん、その人がやるべき仕事はその人にやってもらわないといけないのですが、そうでない部分はまわりがフォローに入って……という感じです。そこのバランスは難しいのですが。
ヤンとくに会社として強要しているわけではないのですが、そういう動きを自主的にできる状況がいいですね。極端な話、自分のプロジェクトを終えたプロデューサーが、別プロジェクトのアシスタントプロデューサーとして動けるぐらいの感覚を持ってもらえたらうれしいです。
――最後に、現在転職を考えている人に向けてアピールをお願いします。
三上僕らとしては、世界に向けたコンテンツのパブリッシングという最終的な目標があります。日本も含めて世界にプロデュース、マーケティングをしていきたい人にはすごくおもしろい会社だと思います。そこに共感してもらえる方は、ぜひCRESTの門を叩いてもらいたいです。
ヤンゲームとアニメ、アニメ音楽を両方経験できるというのは、ほかの会社ではなかなかできないことだと思います。CRESTでは、ゲーム事業を担当しながらも、社内でアニメとコラボしたり、アニメ関係の仕事を取りまとめたりすることができるので、そこはほかのゲーム会社と異なる大きなアピールポイントですね。
そういう近さもあって、社内のゲームとアニメで柔軟な連携を取れるのもCRESTの特色のひとつです。ゲームとアニメのプロデュースを同時にこなすというようなことはないのですが、たとえばゲーム側のクリエイターとして入ってもらった人が、その後アニメ側にスイッチングしていくこともできます。そういった内部で多くのコンテンツを作る会社ならではの部分に魅力を感じてくださる方は、ぜひ弊社に来てみてください。
株式会社CREST
- 代表取締役/CEO:梁 俊模、三上政高
- 設立年月日:2018年3月14日
- 従業員数:30名(2020年11月30日時点)
- 事業内容:アニメ、映画、ゲームなどのコンテンツの企画、制作、販売、配信、運営など