ユービーアイソフトより、2020年12月3日に発売されたNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox One、Xbox Series X、PC用オープンワールドアドベンチャー『イモータルズ フィニクス ライジング』。

 Ubisoftケベックの『アサシン クリード オデッセイ』制作陣が開発を手掛ける同社の新規IPとなる本作。プレイヤーは主人公のフィニクスとなって、“テュポン”によって支配された“黄金の島”を取り戻し、ギリシャの神々を救うべく、立ちはだかる試練を乗り越えていく。

 そんな本作の発売に合わせ、開発者がゲームの魅力や見どころ、制作の裏側を語るオンラインイベントが開催。そこで挙がったおもなトピックと、彼らの発言をピックアップしてお届けする。

■出演者

  • Scott Phillips(ゲームディレクター)
  • Julien Galloudec(アソシエイトゲームディレクター)
  • Thierry Dansereau(アートディレクター)
  • Jeffrey Yohalem(リードナラティブデザイナー)
  • Michelle Plourde(リードシネマティック)
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新たなIP、新たなヒーローを作り上げる

ゲーム全体の狙いは?

Scott 『アサシン クリード オデッセイ』開発終了の少し前に、このゲームの開発に取り掛かった。本作はファンタジーのギリシャ世界を舞台とした、壮大なオープンワールドアクションアドベンチャーだ。『オデッセイ』でギリシャ史を3年間学んできたが、このゲームでギリシャのもうひとつのすばらしい要素である“神話”に取り組む機会を得た。

まったく新しいIPを作る際は、どこからスタートするのか?

Scott 本作は全く何もないところからスタートしたのではなく、全体として本作で何を達成したいかはわかっていた。このファンタジーとメカニクスをどう実現するかを考え、子どもから大人まで幅広い人たちに親しみを感じてもらえるビジュアル、ゲームプレイ、ナラティブのそれぞれスタイルを追求した。

Julien 当初目指したビジョンは、目的地への旅を困難ではあるがやりがいのあるものにすることだった。探索、挑戦、そして勝利が旅の途中にもある。これまでとは違うもの、新しいものを作るために開発者として自分が挑戦し、また楽しむことも大事だと思った。『オデッセイ』を開発しながらキュクロプスなどのギリシャ神話のクールなストーリーに出会い、これがきっかけとなって神話に深くのめり込むことになった。

Thierry 『オデッセイ』で得た知識を使って『アサシン クリード』とは違う、何か新しいものを作りたかった。チームとして、慣れ親しんだ快適な仕事を続けるのではなく、今までとは違う新しいものに挑戦しようと決めた。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

ゲームは最初に考えていたものと最終的なもので違ったか?

Thierry これまでとは違う新しいものにしたかったので、さまざまな参考資料を見てアーティスティックな刺激になるものを探した。スタジオジブリの映画、とくに『ハウルの動く城』のキャラクターが好きで、大きなインスピレーションを得た。どのようなスタイルにするかについては、現在のエンジンは物理ベース・レンダリングで写真のようにリアルなイメージを作ることにはすぐれているが、本作の新しいスタイルを作るのには苦労した。

Julien ゲームプレイでは、2000年代初期の『ジャック×ダクスター』や『バンジョーとカズーイの大冒険』のような小規模オープンワールドゲームを参考にした。パズル、プラットフォーム、コンバットをユニークな形でミックスしたものに戻りたいと思った。今はあまり見なくなってしまったゲーム要素のミックスだ。これが当初やりたかったことだが、そこからクールなコンバット、神話の要素、突飛でダイナミックなもの、ナビゲーション、プラットフォーム的要素などをバランスよく入れていくことになった。

Scott 柱となる部分であるワールド探索、コンバット、パズルについては多くの時間を費やした。課題は、これらの要素をどのように新しいものにするか。ナビゲーションについては、『アサシン クリード』に携わりながら何年も前から考えていたのは、“オン・オフ”の感じ。

 探索するときはフリーフォームでどこでも自由に行けるようにしたい。あるところに行きたいか行きたくないかを決める自由がある。これまでの私たちの経験は、崖の上に立ってスティックをホールドしてボタンを押し、目的地へ行くまで待つというやりかただった。これとはまったく違う経験にしたかったので、プロセス全体も違うものになった。崖の上を見て、あそこへ行けるかと考え、スタミナと秘薬は足りるか、生き延びられるか、たどり着いたらその先はあるのか、と考える。これによってワールドの見かたが大きく変わる。

 探索に新たな要素も加えた。また動きについても危険度、速さ、慣性が増している。グライディングはその一例だ。崖まで登ったらそこからダイダロスの翼で滑空して飛行を楽しめる。本作ではアクティブでダイナミックな縦走と神話の世界とを結びつけることができたと思う。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

パズルはどのように作ったのか?

Scott パズルをひとつの新しい柱にしたかった。『シンジケート』や『オデッセイ』でも少し取り入れているので、そこから出てきた発想だと思う。最初のプレゼンでパズルをやりたいと言ったが、本社の反応はあまりよくなかった。そこで多くのプロトタイプを作り、どんなことが可能なのかを検討し、どのようにワールドをパズルで埋めていくかを考えた。プレイヤーに多くのオプションを提供し、コンバットやワールド探索から一時的に離れて欲しかった。3つ目の柱を持つことでゲーム体験にバラエティが生まれた。メインパスから離れ、ちょっと休憩して5分でも30分でも違うものをやってもらうことで、プレイのペースに変化を持たせられる。

タルタロスの迷宮について教えて欲しい。

Julien タルタロスの迷宮は、記憶、理論、操作、物理的性質、プラットフォーミングなどいろいろな手法でプレイヤーに挑戦を迫る。レベルデザインとゲームプレイから生まれるカスタムチャレンジであり、それぞれがユニークなものになるよう努力した。プレイヤーはツールの使いかたを学んでマスターしていくが、つねに新しい挑戦、コンビネーションを提供して、プレイヤーがパズルを解く際にサプライズがあるよう工夫を凝らした。また、その知識を使ってワールドにある神話パズル、神話チャレンジを解くことができる。これは特定のチャレンジであり、リラの音楽チャレンジ、オデッセイのチャレンジ(輪の中に弓矢を撃つ)、ナビゲーション・チャレンジ(時間内にさまざまなナビゲーション・ムーブを使ってプラットフォームでパルクールの最後まで到達する)などがある。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

キャラクターについて

ストーリーラインについて説明して欲しい。

Julien 大地の子であるテュポンは、ゼウスを滅ぼし、オリュンポスの王座を奪うという企てを持って牢獄から出てくる。そこでゼウスは従兄弟のプロメテウスに助けを求める。プロメテウスは山頂で鎖に繋がれており、自由ではないので、ゼウスにある賭けを申し出る。プロメテウスは、「モータル(人間)にしかテュポンを倒すことはできない」と言い、もし自分が間違っていれば、ゼウスを助けてテュポンと戦うと誓う。だが、もし自分が正しければ、鎖を切って自分を自由にするよう要求する。ゼウスは人間は役に立たないと思っているので、これに同意。プロメテウスはこうして、ヒーローらしからぬ人間のヒーロー、フィニクスのストーリーに入ってくることになる。

 フェニックスは盾を持つ兵士で、ギリシャの戦場を見たこともない。船が座礁して不思議な浜にたどり着くが、ほかの乗組員は全員石にされてしまい、彼らを救わなくてはいけなくなる。そこにオラクルが現れ、あるヒーローがテュポンを阻止してオリュンポスの神々を助けることができると予言する。それを聞いていたミステリアスな通行人は、フィニクスこそがそのヒーローだと言うが、フィニクスの挑戦はあまりにも過酷だ。島は攻撃され、神々は行方不明、半神たちは堕落し、人間は石にされてしまっている。フィニクスは子供のころからのアイドルである神々に会えるとワクワクしているが、島の神々は姿を変えられており、テュポンを倒すためには彼らを元の姿に戻さなくてはいけないことを知る。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

ヒーローとストーリーはどちらが先に生まれたのか?

Julien ほぼ同時だった。フィニクスとストーリーの両方がないと成り立たないからだ。カスタマイズ可能なフィニクスというキャラクターは初期に作っていて、ホメロスが書いたストーリーもある。これら初期に作ったものの中に、フィニクスがタイタラスの顔の上に降り、立ち上がってぐるっと回ってカメラに向かってキスをするシーンがあり、とてもおかしかった。大笑いして、「これはいいかも」、「ゲーム全体がこんな感じだったらどうか」と思った。ここからストーリー全体を形作るものが生まれた。

ゲームにユニークなトーンをもたらしているものはほかにもあるか?

Scott ビデオゲームを作る際、普通はヴィランとヒーローがいて、ヒーローがヴィランを倒すという構図を使う。今作でもその構図を使うことはわかっていたが、ナレーターを使うアイデアも持っていた。ナレーターがストーリーを語り、積極的に関わる。単にAからZにいたるストーリーを語るのではない。ふたりのキャラクターが語る中でストーリーが変化し、対応し、逆転し、トーンを明るくする。ナレーターがフィニクスのストーリーをねじ曲げることもあり、フィニクスもそれに気づくときがある。より積極的なユニバースができるので、この構図はとてもユニークだと思った。これによって本作が特別なものになった。

フィニクスのインスピレーションになったものは?

Julien 私の妹はいろいろな苦難にも負けず戦って克服してきたので、彼女から刺激をもらった。また『オズの魔法使い』シリーズのドロシーも参考になった。子どものころに自分が読んだ本は、女性が異国で何かに立ち向かい、征服するという話が多かった。ドロシー、イーディス・ネズビットの作品、『ナルニア国物語』など、パワフルな探索者が登場する。こうしたものをライティングに活かせたのだと思う。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

どうやってプレイヤーが親しみを持ち、感情移入できるキャラクターを作るのか?

Michelle ゲームでも映画でも、感情移入してもらう方法はいくつかある。まずはスクリプトで明確な人物像とスタイルが説得力を持って描かれていることだが、ジェフリーはトーンとナラティブをしっかり書いてくれた。ふたつ目は演技だ。声優がそれぞれの役になりきってくれて、セリフのひとつひとつが作者の意図に沿うよう大事に演じてもらうようにした。

 3つ目が自分の担当であるシネマトグラフィーだが、これは特定の時間にある方法でアートを見せたりフレームを付けたりすることで、見る人にある感情を引き起こす。見る人にフィニクスの苦悩や悲しみ、喜びや成功がわかるようになってほしい、そして同時に笑ってほしいとも思ったが、これはナレーションで成功させることができた。コメディのタイミングをぴったり合わせることも大事だった。笑いは聴衆と繋がるいちばん手っ取り早い方法だと思うし、プレイヤーはキャラクターに親しみを持つようになる。

『オデッセイ』のように男女を選ぶだけでなく、自分好みのフィニクスを作れるようにしたのはなぜか?

Scott Ubisoftケベックでは、つねにプレイヤーが主人公となるヒーロー、ヒロインとの繋がりを感じてもらえるよう努力している。そのためにヒーローのカスタマイズには身体のタイプ、声、皮膚や髪、目の色など、できるだけ多くのオプションを用意する。プレイヤーにはゲームの一部となり、ゲームの中に入ってきて、そこで起きていることに繋がってほしいと思う。もちろん完全ではないので毎回努力しているが、いつかは実現できていると思う。ビデオゲームは相互作用が可能な唯一の創造的媒体。映画、書籍、テレビなどではできないことなので、これをうまく相互作用させたいと思った。

フィニクスは、勇気があっておもしろく、友達にしたいような肯定的な性格だが、すべてのヒーローはこうあるべきか?

Julien そうではないと思う。フィニクスは完璧な人間ではなく、(故意にそうしているが)これは私にとって非情に大事なことだった。SNSなどでつねにカメラに晒されている昨今、私たちのヒーローはつねに完璧ではない状況に置かれる。彼らは私たちと同じように不器用であったり、ぎこちなかったり、おもしろくなかったり、自分勝手だったりする。同時に人々はインスタグラムやニュース配信を並べることで、自分の人生や人間関係、食事が完璧であると言いたがる。私たちは圧力鍋の中にいるようなもので、完全に完璧であることを求められる一方、つねにカメラが回っているのでそれは不可能だ。このゲームでは故意に完璧でない、人間的なヒーローを作りたかった。不完全さもいいことに使えばヒロイズムになる。フィニクスは私たちと同じように不器用で、嫉妬心があり経験不足だ。そしてこの素質こそが、フィニクスのヒーロー像を作り出している。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

本作におけるギリシャ神話と伝説

なぜギリシャ神話なのか?

Scott 『オデッセイ』で3年間ギリシャ神話と歴史に親しみ、ギリシャも訪問し、歴史家と話をして学んできたことが、いまだに新鮮に残っている。『アサシン クリード』シリーズは史実にフォーカスしたものなので、ゲームでは神話にはあまり触れていない。多くの人は映画、音楽、テレビ、書籍などを通じてギリシャ神話のストーリーに親しんでいてよく知られている。神話をさらに深く掘り下げて、『アサシン クリード』とは異なる新しい方向へ持っていけたら、と思った。

一般的なギリシャ神話とは違うが、現代風のひねりを加えたのか?

Jeffrey ギリシャ神話というのは現代にも通じるものだと思う。古代ギリシャ人にとってはエンターテイメントであり、リアリティ、あるいはテレビだったと言える。神々は完璧ではなく相互に複雑な関係を持ち、人生についてあれこれと教えてくれる。こうするべきだという観点から作られているわけではない。困難に出会って、間違いはこのようにして起こり、それに反応し、成長していく過程を描いている点で現代に通じる。神話のこの部分を取り上げてひねりを加える。例外もあるが神々は大きなひとつのファミリーであり、コメディやドラマにはぴったりの素材だ。人生について学びながらワクワクして見て楽しめる。

ギリシャ神話は人気があるが、どこからインスピレーションを得たのか?

Scott ストーリーやスクリプトを読んで頭の中にイメージを膨らませ、ジェフリーから『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の参考資料ももらった。救済が成功しなければワールドが終焉を迎えるという深刻で重要なトピックだが、キャラクターたちはリアルでおもしろく、アドベンチャーを楽しんでいる。本作もトーンは快活だが壮大なストーリーがあり、ギリシャ神話の魅力そのものが表現できていると思った。

神話はどのようにゲームに取り入れたのか?

Jeffrey 最も大切なのは出典に忠実であることだ。ゲームのストーリーを神話の生地に編み込んでいく。“ティーターノマキア”というゼウスおよび神々とタイタン族との戦いを描いたものがあるが、フィニクスのストーリーにはそれを取り入れている。キャラクターの背景や相互関係、ワールドの神話のストーリー、パズル、島の背景そのものは神話の一部だ。神々の真の姿は残したまま、現代のプレイヤーに響くように変更することに苦労した。神話の中にはダークで歪曲されていて、現代人には合わないものもあるが、それを無視するのではなく、改めて現代のレンズで見て、神々の歪んだ行為の責任を問うようにした。たとえば、アフロディーテとヘパイストスの結婚がある。ヘパイストスはゼウスを脅して結婚を無理強いしたが、ゼウスは古い考えでこれを許し、アフロディーテを守った。だが彼女は、けっきょくゼウスのほかの子供であるアレスとも結婚する。ここは掘り下げて展開している。

ほかの神話クリーチャーやヒーローについて教えてほしい

Scott ゲームプレイにおいては、ギリシャ神話は材料が豊富ですばらしい。地獄の門をガードする3つの頭を持つ犬や、ゴルゴンというツルツルヌルヌルしたクリチャー、ハーピーなどの飛行するエネミー、大小さまざまなサイズのサイクロプスなどを使って、思い切りのいい神話のコンバットを実現することができた。また神々がテュポンを倒すために集めた多くのヒーローたち(アキレス、オデッセウス、ヘラクレス、アトランタなど)は、テュポンによって堕落させられており、神々の新しいヒーローであるフィニクスと戦うよう仕向けられる。プレイヤーは彼らと何度も戦うことになるが、勝利して彼らを解放しなくてはいけない。本作ではこうした著名なヒーローたちを生き生きと描くことができたと思う。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る
『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

とくに好きなキャラクターは?

Scott ヘラクレスとの戦いは楽しい。身長4.5メートルの身体と巨大なハンマーを持ち、性格が見えるようなバトルスタイルを披露する。映画で俳優ケヴィン・ソルボが演じたヘラクレスとはまったく違う。

Jeffrey ナルキッソスとエーコーのストーリーが気に入っている。ナルキッソスは悪名高きナルシストで、自己愛のために罰せられ、水面に映る自分の姿に夢中になって死ぬ。彼に恋をしてしまったエーコーは、嫉妬したへラの呪いで誰かの言ったことをくり返すことしかできず、自分の気持ちを伝えられない。水面に映る自分の姿を見つめるナルキッソスを前にしても、警告することや助けることもできず、彼女は姿を失って声だけが残る。これは最もダークな恋ではないかと思う。

既存の話からストーリーを作るのは苦労したか?

Jeffrey どんな時代もアートに新たなトラウマやテーマを提供してくれる。古い話を取り上げて新しいレンズで見直せば、新鮮な見かたができる。神話はとてもおかしいと思うが、過去の作品ではその部分は抑えて、もっとシリアスなものと捉えられることが多かった。私たちはそこに新鮮なコメディっぽいスピンをかけた。ダークなテーマのゲームはたくさんあるが、ストレスが多い昨今、快活でモダンで新鮮なものを作るいい機会だと思った。

ゼウスとプロメテウスをナレーターにしたのはなぜ?


Jeffrey ナラティブには、つねにドラマと闘争を求めている。ふたりは仲のいい従兄弟同士で、タイタンに対峙してともに戦ったこともあるが、いまは仲違いしている。しかし、ゼウスはプロメテウスの助けが必要だ。これによって、ふたりのやりとりが過去の因縁にもおよんでおもしろくなる。社交クラブメンバーのようなゼウスと、インテリで頭でっかちのプロメテウスの組み合わせは、コメディにぴったりな奇妙なカップルと言える。またゲームでは通常、主人公は自分に話しかける必要がある(「ドアが閉まっているので先に進めない」など)が、ナレーターがジョークを言いながら自然に説明してくれるので、これをしないで済む。プレイヤーが何かをしたときにインタラクティブな瞬間が生まれ、起こっていることがコメディになる。

Scott このふたりのナレーターは、スポーツ・コメンテーターのような存在。ひとりがストーリーを語り、もうひとりがコメントを付け加える。プレイヤーが見逃したものを教えてくれたりもするので、ストーリー全体が無理のない形で進行する。このナレーションを入れたことも、ゼウスとプロメテウスというキャラクターのチョイスもよかったと思う。

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新たなアートスタイルを作り上げる

ワールドはどのように作っていったのか?

Thierry 最初に決めたことは、『オデッセイ』とは違う外見と感覚を持ったものにしたいということだった。まずは『アサシン クリード』には見えないように特別なスタイルであるもの、生き生きとしたカラフルなものにしたいと思った。チーム内で、宮崎駿の映画のような世界をゲームで作れないだろうかと検討した結果、やり慣れた居心地のいい仕事の枠を超えて違うものに挑戦することになった。ワールドはテーマパークのようにエリアよってまったく違うものにしたいと思ったので、神々を各エリアに置いた。たとえば、愛の神であるアフロディーテのエリアは愛を表現する木々、花、川、果物がある。戦いと知恵の神で人間との関わりの深いアテナのエリアには、人間が働く農場があり、ギリシャの典型的な神殿も見られる。鍛冶職人のエリアには大きな炉や風車がある。それぞれのエリアはカラー、パターン、建物のスタイル、生物群系も異なる。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る
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アートスタイルにインスピレーションを受けたものは?

Thierry 環境、世界観については宮崎駿の影響を受けたが、最終的には2Dではなく3Dなので独自のものになった。さまざまなプロセスを経てスタイルを確立していき、ビジョンが明確になっていった。キャラクターについては日本のゲームやエンターテイメントとは違うものにしたかった。私たちがいちばんよく知っている3Dでキャラクターを作ると決めて、ピクサーなどからインスピレーションを得たり、『アサシン クリード』での経験を生かしたりした。さまざまなものからインスピレーションを得て、これまでの経験を大いに役立ててできたゲームだ。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る
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ティエリーさんが設定したものにシネマティックはどのようにフィットしていったのか?

Michelle アートの方向性が決まったら、各部門はそれに合わせて調整する。ワールドをいっしょに作っていく際にはプレイヤーが本物と感じるようにしなくてはいけないが、これはシネマトグラフィーも同じだ。今作では壮大ではあるがコメディ的な部分があって、『オデッセイ』とは違うものにしたいと思った。

最初から超リアル志向のトレンドから離れたいと思っていたのか?

Thierry チームとしてこのプロジェクトでは既存の『アサシン クリード』とは違うものにしたいと考えていて、またUbisoftがこれまで作ってきたものとも違うものにしたいと思った。Ubisoftのタイトルはリアル志向のものが多いが、それとは違うサプライズ的なものを作ってはどうかと思った。

Michelle Ubisoftはリアルなものを作ることに長けており、私たちもそれに慣れている。今回はそこから離れていろいろ経験し、学ぶところが多かった。基本に立ち返って『オデッセイ』のときとは違う光を当てて、本作のビジョンを実現するためにどうやったらいいかを考えた。おっしゃる通り、私たちはリアル志向のゲームの実績があるが、違うものに挑戦する機会を得て達成できたと思う。

新しいことに挑戦するうえで、とくに難しいと感じたことはあるか?

Michelle コメディ的なトーンと、壮大なアドベンチャーについて、それぞれが行き過ぎず、バランスを取ることが難しかった。ダークなストーリーではあるが、神話とコミカルさがうまくミックスするように調整することが難しかった。

Thierry まず新たなスタイルを構築することが難しかった。これまでやったことがなく、慣れていないので学習する必要があった。正しいレシピが見つかるまで何度もテストした。またワールドの構築もこれまでとは違い、テーマパークのように分けられている。「クレイジーになってやってみよう」、「リアルでなくてもよい」と考えて、作業をしていたので楽しかった。チームはアートの概念としてスタイル、単純化、形、言語、パターンなどのすべてを理解し直さなくてはならなかったが、その制作過程はすばらしい経験になった。この仕事を通して自分たちもアーティストとして成長できていたらいいと思う。

『イモータルズ フィニクス ライジング』新ヒーロー“フィニクス”誕生の裏側を開発者が語る

幅広い層が楽しめる本格アクション!

 『イモータルズ フィニクス ライジング』は、全体的にアクションのテンポがよく、軽快ながら歯ごたえあるバトルが楽しめる作品。ほどよく難しい謎解きが豊富で、アクションRPGのパズルが好きな人にもおすすめ。幅広い層が楽しめる作品に仕上がっており、絵画的なグラフィックで彩られた世界や、ファンタジー作品でなじみ深いギリシャ神話をモチーフとしている点も、ゲームとしての間口の広さを感じるところ。これからプレイする人は、下記のレビューを参考にしてほしい。