2020年11月10日にXbox Series X|S、2020年11月12日にプレイステーション5が発売され、ゲーム業界に新たな時代が到来した。『デビル メイ クライ 5 スペシャルエディション』や『バイオハザード ヴィレッジ』をはじめ、新世代ハード対応タイトルの開発を統括する竹内潤氏にお話をうかがった。

※本記事は、週刊ファミ通12月3日号掲載の特集“クリエイターから見る次世代機の姿”の一部を増補改訂したものです。

竹内 潤氏(たけうちじゅん)

カプコン CS第一開発部 統括。
『バイオハザード ヴィレッジ』、『デビル メイ クライ 5 スペシャルエディション』のほか、モバイルゲームなど、さまざまな開発チームが集うカプコンCS第一開発部のリーダー。

次世代機がもたらすロード時間とグラフィックの進化

――次世代機で魅力を感じているところは?

竹内ふたつのハードの魅力を感じている点は共通していて、その設計思想ですね。“高速のメモリアクセス”というのがいちばんの売りになっていると思うのですが、 そのおかげでゲームファンの皆さんには新しいゲーム体験をしていただけるのではないでしょうか。

 いままでのゲームは、 ロード時間があるのは当たり前だったのですが、 その感覚がここで払拭されるでしょうね。

――ロードの短さはすごいですよね。

竹内そうですね。 お客様のゲーム体験をロード時間で妨げなくて済む、というのはこんなにも違うのか、というのは作ってみて初めて実感できました。理屈としてはわかっていたつもりだったんですが(笑)。

――『デビル メイ クライ5 スペシャルエディション』を遊んでみて、驚きました。

竹内従来はロードがひと息つける時間、という感覚でしたが、 そういう風には使えなくなってしまいましたね。Tipsなども、いつ、どこに表示させようかっていう話になったくらいです。

 『バイオハザード ヴィレッジ』では、 やられてしまっても一瞬でリスタートできてしまうんですよね。 いままではロード時間がプレイの反省に使えたりしましたが、 本作では考えた後にリスタートボタンを押していただく、という感じになりそうです。

――いまお話に挙がりました、『バイオハザード ヴィレッジ』の次世代機のタイトルとしての見どころはどこですか?

竹内まずは、 グラフィックの進化ですね。ひと目で感じていただけると思います。 画面の密度がすごく高いゲームに仕上がっているので、 圧倒されるのではないでしょうか。 あとは、 先ほども話に出たロードの速さも、 プレイ体験に直接フィードバックされる設計にしたつもりなので、そちらもご注目ください。

――『バイオハザード』シリーズ特有の“恐怖感”に関しては、どうでしょうか?

竹内かなり増していると思います。 ただ、怖すぎるとプレイしてもらえない、 というのが悩みどころです。開発の初期段階は、 怖すぎて先に進めないという意見も出たほどで、バランスを取るのには苦労しました。

 次世代機になると、 どこまででも“怖い”表現を追求できてしまうので……。あくまでも、ゲームとして楽しめる領域から出ない、 ということを念頭に調整しています。

――先ほどお話にでたグラフィックの進化は、具体的にはどういった点が挙げられますか?

竹内いちばん大きいのは、“レイ トレーシング”を使った映像表現ですね。 いままでなら、暗くて先が見えないという感じだったのですが、 次世代機では「何かいるよな?」という気を持たせながらも見えない、 という雰囲気を演出できるんです。

 事前にどういう恐怖体験をしてもらうべきか、 つぎにどんな仕掛けを用意するか? にも検討を重ねました。ホラーであり、 エンターテインメントでもある、 という豪華さを実現させたかったんです。

――発表後の反響はいかがでしたか?

竹内ありがたいことに、 いろいろな声をいただいています。『バイオハザード』シリーズは、『バイオハザード7』から、ある意味“新章”が始まっていると受け取ってくださっている方が多いように感じました。

 そういった期待に沿いつつも、 サプライズのあるゲームにしたいと思っています。まだ製作中ではありますが、手応えは十分ですね。

――なんと! かなりの自信を感じます!

竹内期待していてください。プレイステーション5版では、3Dオーディオにも対応していて、音の演出もしっかりできています。

――現行ハードでの開発も検証中だとお聞きしました。状況はいかがでしょうか?

竹内先ほどの話とは真逆で、 ロードをどれだけ短縮できるかという点に頭を悩ませています。 あとは、 表示できるオブジェクトの数を前作よりも増やしているので、 現行機でもその密度感を保てるかどうか検証中です。

――次世代機はまだ入手しづらい状況ですし、現行機で遊びたい方も多そうですね。

竹内作品を発表したときに寄せられた意見でとくに多かったのが、「現行機で遊べないの?」という声でした。現行機で遊びたい方も多いことはわかっているので、 並行して検証を進めていますが、 次世代機でのベストな体験を作ってからの作業なので、 考えていた以上に難しいですね。

――『デビル メイ クライ 5 スペシャルエディション』の見どころもお聞かせください。

竹内高速のロードはもちろん、レイ トレースで臨場感が非常に上がりました。処理速度が上がったことで60以上のfps(1秒間の描画数)も選べる、というのもかなりの魅力だと思います。

 高いフレームレートで遊ぶと「アクションゲームって、まだまだ進化する余地あるな」とお感じいただけるはずです。

――臨場感がすごくなりますよね。

竹内そうなんです。 グラフィックの質を向上させるのも重要ですが、 アクションゲームだとフレームレートを上げるのが“生っぽさ”を演出する最良の方法ではないでしょうか。

――高いフレームレートに対応するモニターを用意する価値はあると。

竹内120FPSに対応したモニターとなると、まだまだ選べる機種も多くないですし、安くない買いものですが、先行投資としてはその価値はあると思います。今後も、対応するソフトがたくさん出てくるでしょうから。

 投資したぶん、ハイクオリティな体験をお返しできると思います。欲しい性能が揃ったモニターを調べたり、探すだけでも楽しいですよ。

――試遊した際、 水面や鏡などに映り込む表現には思わず息を呑みました。

竹内それはレイ トレースの真骨頂ですね。ハードと同時発売なので、レイ トレースが気になっている方にもピッタリの1本です。

――ハードといっしょにとりあえず買うソフトはコレ! といった感じでしょうか?

竹内まさしく(笑)。 価格的にもお安くなっているので、おすすめです。

――新難易度“レジェンダリーダークナイト”の敵の多さにも驚かされました。

竹内ただ映像がきれい、 というだけではなく、 次世代機のパワーを感じていただけるモードを追加したいね、 という話になり搭載したモードです。 ごちゃっと敵がいて難しそうですが、楽しんでいただけると思います。

――ちなみに、本作について、シリーズファンからはどんな声が寄せられましたか?

竹内ファンがいちばん喜んでくださったのはバージルの追加ですね。 やっぱり人気のあるキャラクターなんだなと思いました。

――お話ししていただいた2作品について、ほかにも次世代機ならではの機能や技術があれば、可能な範囲で教えていただけますか?

竹内口頭ではお伝えしにくいですが、 コントローラが進化していていろいろなことに使えますね。『バイオハザード ヴィレッジ』でも、 かなり楽しめる感じで使わせていただいているので、プレイステーション5を買われた方はぜひ体験していただきたいです。

――おお!? 具体的なお話を聞いてもよろしいですか?

竹内使う銃によってコントローラのトリガーの感触が変わるんですよ。 高性能な銃だと押しやすい、 といった感じです。 トリガーを押しにくくて連射しにくい、 などのいままでの『バイオハザード』にはない体験ができます。

――ちなみに、両作品ともこれまでのタイトルに引き続き”RE ENGINE”で開発されているのですか?

竹内そうですね。次世代機向けにチューンアップしたものを使っています。

バイオハザード ヴィレッジ

カプコンCS第一開発部統括・竹内潤氏インタビュー。PS5とXbox Series X|Sの登場で何が変わった? 「いまはハードの進化において“ステップ”の段階」
サバイバルホラーという新ジャンルを開拓した『バイオハザード』のナンバリングに相当する最新作。前作に引き続きイーサンが主人公で、シリーズを代表するキャラクターのひとり、クリスも登場。物語は、平穏な生活を取り戻したイーサンを、クリスの部隊が襲撃するところから始まる。目覚めたイーサンがたどり着いた村で目にしたものとは…… !?

デビル メイ クライ5 スペシャルエディション

カプコンCS第一開発部統括・竹内潤氏インタビュー。PS5とXbox Series X|Sの登場で何が変わった? 「いまはハードの進化において“ステップ”の段階」
2019年に発売された『デビル メイ クライ5』のパワーアップ版。レイトレーシングや最大120FPS(1秒間に120回)で映像が描画される“ハイフレームモード”、 ゲームスピードが通常の約1.2倍になる“TURBOモード”などを完備。シリーズファン待望“プレーヤーバージル”を搭載し、超人気キャラクターのバージルを操作して各モードを遊べるのだ。

いまはハードの進化において“ステップ”の段階

――次世代機で開発を進めていての発見はありましたか? また、これまでのハードと比べて、開発のしやすさはどうですか?

竹内とにかく次世代機は賢くできてるな、と思いました。いままのハードからは「ハイエンドPCの能力をどうやってゲーム機に盛り込み、処理速度をどう上げるか」といった印象を受けていたのですが、今回は「ゲームを楽しんでもらうにはどうあるべきか」っていうことが追求されているように感じます。 ぶっちゃけて言うと作りやすいですね。

――やはり、 ロードが高速になるというのはゲームを作る側にとっても大きいですか?

竹内そうですね。 極力ロードを短くするノウハウ、 メモリ管理のノウハウは積み上げてきましたが、 そういった悩みから一気に解放される感じはあります。 そもそも積まれているメモリが大きいというのもいいですね。

――ロードがなくサクッと遊べるというのは、プレイする側としてもうれしいです。

竹内ストレスなくプレイに没頭できると思いますね。 あとは、 ドライブレスのハードも用意されている点も大きいと思います。

――次世代機向けのソフトを開発していて新たに発生した問題などはありましたか?

竹内いままで以上に、 どこまででも作り込めてしまうところですかね(笑)。 まさに果てしないので、どこで止めていいのかわからず、作り手としては悩みのタネです。

――今後はどんなゲームを作りたいですか?

竹内すでに発表していますが『プラグマタ』という新しいIPに挑戦しています。 これはいままでのカプコンの作品とはまったく違うアプローチの作品になっています。

 次世代機のパワーを使って、狭く深く作り込んでいくとこんなことができる、ということにチャレンジしています。「カプコンはこんなゲームも作れるのか!」と感じていただきたいですね。

――竹内さんがこれまでハードの移り変わりを経験してきた中で、今回感じたことは?

竹内なんとなくですが、今回はホップ・ステップ・ジャンプの“ステップ”の段階なんじゃないかと感じています。手探りだったいままでとは違って、かなり進化の方向性が定まっているように思いますね。ここからさらに加速したら、すごいことになる予感がしています。

――いつか訪れる“ジャンプ”に期待していると。

竹内僕らの想像の斜め上をいってほしいです。今回のハードの進化を見ると、つぎのイノベーションにも期待できそうですね。この新世代のゲームをたっぷり楽しんだうえで、つぎの世代に備えよ、という感じがあります。

――最後に、ひと言メッセージをお願いします。

竹内最近のカプコンは、いままで以上に皆さんに「これがほしかった!」と思ってもらえるゲーム作りを心がけています。さらに、いい意味でファンの皆さんが驚くゲーム作りをしていきたいので、今後も期待してください。

プラグマタ

カプコンCS第一開発部統括・竹内潤氏インタビュー。PS5とXbox Series X|Sの登場で何が変わった? 「いまはハードの進化において“ステップ”の段階」
重厚な世界観とシナリオで、 ディストピアと化した近未来の月面世界が描かれる、アクションアドベンチャー。レイ トレーシングを利用したグラフィック、 徹底した物理演算など、次世代ハードでしか実現できない表現方法がふんだんに盛り込まれた意欲作。ストーリーや登場人物の詳細などはいっさい不明で、続報は2021年、リリースは2022年の予定だ。
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