『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』を手掛けたフランスのゲーム開発会社、DONTNOD Entertainmentの最新作『Tell Me Why』のレビューをお届けします。筆者の総プレイ時間は約11時間で、クリアー済み。すばらしい作品でした。

 本作は2020年8月27日にチャプター1が配信開始。同年9月3日にチャプター2、9月10日にチャプター3が配信され、完結を迎えています。

 パブリッシングはXbox Game Studiosが手掛けており、対応機種はXbox OneとPC。Xbox Game Passに加入していれば無料でプレイが可能になっており、後方互換によりXbox Series X/Sでのプレイにも対応しています。また、PC版はSteamでも販売中です。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作
『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作
GamePassでも利用可能

 今回のレビューでは必要最低限のあらすじ以外のネタバレは極力避けます。ただ、ストーリーが重要なゲームですので、自分でプレイするまでちょっとした情報も知りたくないという方はご注意ください。

 『Tell Me Why』は“タイラー”と“アリソン”という21歳の双子の若者を主人公としたアドベンチャーゲーム。10年ぶりの再会を果たしたふたりが、故郷であるアラスカの架空の田舎町“デロス・クロッシング”で、過去に起きた“ある事件”の謎を解き明かす物語が描かれます。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作

 LGBTQ(性的マイノリティを示す言葉のひとつ)に含まれる人物を主人公とし、家庭内暴力やトラウマといったテーマを扱っているため、“固めの社会派作品”であるという印象を受けるかもしれません。しかし本作は、それらを真正面から描きながらも、誰もが共感できる人間ドラマとして、感動できるストーリーに仕上がっています。

あらすじ:メリーアンは本当に酷い母親だったのか?

 物語は、幼い日のタイラーが警察署で事情聴取を受けるシーンから始まります。警察官に、「自分が母親を殺してしまった」と告白するタイラー。

 そして時は流れ、現在。更生施設“ファイヤーウィード”からの出所日を迎えたタイラーは、アリソンと再会。10年ぶりの対面ということで、ややぎこちなく挨拶を交わすふたりですが、もともとの仲のよさもありすぐに打ち解けます。

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 タイラーはいわゆるトランスジェンダー(身体の性別と心の性別が一致しない人、LGBTQのうちの“T”)の男性。幼いころはアリソンと同じく女の子として育てられていましたが、ファイヤーウィードにいるあいだに手術を受け、現在は外見も男性にしか見えない姿で生活しています。

 そして母親が亡くなった事件も、ある意味ではそんな彼の性別違和が切っ掛けで起こってしまったもの。

 彼らの母親、メリーアンは何かとタイラーとアリソンを抑圧するような言動、行動が多い女性でした。タイラーの性別違和による悩みについても、理解者はアリソンだけ。ふたりはメリーアンを“自分たちのことを理解してくれなかった母親”と認識しており、彼女の死もある程度“しかたのなかったこと”として受け止めているようです。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作
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 ふたりがデロス・クロッシングへ戻ったのは、メリーアンと暮らしていたかつての我が家を片付けてから売り払い、過去を清算して新しい生活をスタートするため。しかし母親の荷物などを整理しているうちに、ふたりの頭にはある疑問が浮かんできます。

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 それは“メリーアンは本当に自分たちを理解しようとしない酷い母親だったのか?”ということ。ふたりはもう一度過去と向き合うべく、かつてのことを知る人々に話を聞き、“メリーアンという人の本当の姿”と“あの事件が持っていた意味”について調べはじめる……というのが序盤のストーリー。

 本作はメンタルヘルスや性的マイノリティへの支援団体の助言をもとに制作されたとのこと。これもあって、タイラーの性別違和に関する描写や、彼らがメリーアンの仕打ちや事件で受けた心的外傷についても、大袈裟さやステレオタイプな描写を避け、現実に即した表現になっている印象です。

 この徹底したリアリティーがあるから描き出せる、繊細な心理描写、人間ドラマが本作の魅力のひとつとなっています。

細部のディテールが生み出す作品世界のリアリティ

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作

 ゲームとしては、フィールドを歩き回って人に話しかけたり、問題を解決したりしてストーリーを進展させていくアドベンチャーゲームである本作。『Life Is Strange』シリーズをプレイしている方なら、イメージしやすいかもしれません。加えて本作では、操作するキャラクターは進行状況によってタイラーとアリソンで自動的に切り替わります。

 過去作に引き続き見事なのが、住む者の生活感を感じられる建物内部のディテール。生きた人間が、個人的な趣味や関心のある物に触れながら日々を過ごしてきたと思える小物や雑貨類の雑然とした配置。それらの一部に用意されたテキストからも、持ち主の人生が垣間見えます。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作
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 こういったディテールを得意とするDONTNODと、“身辺整理”をテーマのひとつにしたストーリーは相性抜群です。

 では屋外の表現はどうかというと、冬を迎え、雪に覆われたデロス・クロッシングの風景は静謐な美しさがあり、キャラクターたちの吐く息の白さからも刺すような寒さが伝わってくるかのよう。こちらも作中のリアリティに深みを与えてくれています。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作

 過去を探るために会話をする町の住人たちの中には、子どものころと見た目の性別が変わったタイラーを見て動揺を隠しきれない者も。けれど、これをあからさまに嫌悪するような表面的な差別主義者はおらず、彼らからは不器用ながら人を思いやろうとする意志のようなものが感じられます。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作
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 同様に、本作には典型的な悪人のような人物も登場しません。皆少なからずメリーアンの死に対して後ろめたさや後悔を抱えていたり……。脇役にいたるまで等身大の人間臭さがあり、そんな彼らが垣間見せる優しさは胸に染みます。

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どちらの記憶を選ぶかで分岐するストーリー

 『Life Is Strange』ではわずかな時間を巻き戻す超能力が登場しましたが、『Tell Me Why』にもひとつ、非現実的な能力が登場します。

 それはタイラーとアリソンのあいだでのみ互いの“心の声”や“自分が見ているイメージ”が共有できるという能力。本作ではこれが“過去の出来事を思い出して互いのイメージを見せ合う”というストーリー進行のカギとなっており、展開を左右する“選択肢”としても機能しているのです。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作

 過去の出来事を思い出そうとするとき、タイラーとアリソンは自分たちが過去に見た光景のイメージをその場に浮かび上がらせて共有します。しかし、時としてふたりの記憶は食い違うことも。

 こういったときは、どちらのイメージを真実と捉えるか、選び取る必要があります。ここで生じる事件そのものへの印象や、タイラーとアリソンの互いへの信頼関係の変化が、その後の展開に影響を及ぼす場合も……。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作
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 記憶の共有に関する選択のほかにも、本作ではどちらが正しいかわからないような、思わず悩んでしまう二者択一の選択肢がたくさん待ち受けています。どの選択も、選んだ後に「本当にこれでよかったのかな?」と振り返りたくなってしまうはず。

 けれど考えてみれば、実際の人生だってそんな選択の連続です。

「あのとき別の進路を選んでいたら……」
「あの話をもし引き受けていたら……」
「あの人を許すことができていたら……」

 実際の人生と同様、どんな結果につながるかわからない選択を何度も突き付けられるタイラーとアリソンに、きっとあなたも思わず感情移入してしまうことでしょう。

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各チャプターが終了するごとに、ほかのプレイヤーが選んだ選択の割合を知ることができる。

思い出の“手作り絵本”が過去を解き明かす!?

 もうひとつ、本作のゲーム部分で特徴的なのが“絵本を使った謎解き”です。この絵本は、タイラー、アリソン、メリーアン、3人の手作り。女王様といたずら好きのふたりのゴブリン、そして森で暮らす動物たちが登場する物語になっていて、登場するキャラクターは、どうやら親子が現実で関わってきた人々をモデルにしている様子。

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 この絵本は、さまざまな局面でゲームを進めるヒントになります。絵本のおはなしがメリーアンによって仕掛けられたパズルを解くカギになっていたり、絵の中にパスワードとなる数字が隠れていたり……。タイラーとアリソンが知らなかった、知人たちの関係性が示唆されることも。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作
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 絵本は全ページを読もうと思うとなかなか膨大な文字数になりますが、謎解きのために読むべき箇所は一部。そして各章のタイトルなどがヒントになっているので、そこまで苦労することはないはず。また、ゲームらしい要素でありながら、登場人物の深堀りにもつながっているあたりが絶妙です。

リアルな心の痛みや葛藤に寄り添った最先端の物語体験

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作

 3つのチャプターからなる『Tell Me Why』の物語。エンディングまではじっくりプレイして10時間くらいのボリュームですが、その中で描かれるドラマは示唆に富み、心を動かされる瞬間がたくさんあります。

 注意点として、本作は『Life Is Strange』シリーズなどとは異なり、日本語へのローカライズは文章だけで、音声は英語のまま(ほかにフランス語、ドイツ語音声を収録)。またローカライズの質は決して悪くないものの、日本語の文章は少々硬く、ややわかりづらい箇所もありました。

 ですので、文章を理解しながらストーリーを進めていくのが苦手な方にはあまり向かないゲームでもあるかもしれません。けれど、苦手を乗り越えてでもじっくり咀嚼する価値のあるゲームであることも保証します。

 アクセシビリティ機能の充実も特筆すべき点。“字幕、フォントの大きさの変更”、“読書障害に対応したフォント”、弱視の人向けの“高コントラストの背景”など、より多くのプレイヤーが楽しむための設定項目がいくつも用意されています。

『Tell Me Why(テル ミー ホワイ)』レビュー。母親を殺してしまった双子の運命は? 『ライフ イズ ストレンジ』のDONTNOD最新作

 マイノリティに関する描写も非常に誠実で、現実的な心の痛みや葛藤をゲームという媒体で描いた作品としては、最先端のストーリーになっていると言えるでしょう。

 これから先、ストーリーを重視するゲームの表現が、どのように進化していくのか。本作はそのひとつの方向性を指し示す作品でもあるように思います。アドベンチャーゲームの未来を見定めたい方にはとくに、ぜひプレイしてほしい作品です。