次世代のゲーム体験をもたらす最新技術の秘密

 2020年11月12日、世界中のゲームファンが待ち望んだプレイステーションの次世代機、プレイステーション5(以下、PS5)が発売される。“Play Has No Limits”(遊びの限界を超える)をテーマに、従来のゲーム機を遥かに上回る性能と、いままでにないアイデアを取り入れて開発されたPS5には、 超高速SSDや新型の専用コントローラDualSenseなど、驚きの新機能が満載だ。

 これらの新機能は、いかに開発され、実装されたのか。知られざるPS5の開発秘話を求めて、PS5のハードウェア開発を統括する、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)の取締役 副社長 ハードウェアエンジニアリング&オペレーション本部長の伊藤雅康氏にお話をうかがった。

伊藤氏

伊藤雅康氏(いとう まさやす)

ソニー・インタラクティブエンタテインメント 取締役 副社長 ハードウェアエンジニアリング&オペレーション本部長

1986年、ソニーのオーディオ事業本部に入社。2000年にソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)の技術本部に異動。キャリアを重ね、現在はSIEの取締役 副社長、ハードウェアエンジニアリング&オペレーション本部長、ソニーの執行役員などを兼任。

PS5

ゲームへの没入感を高める数々の仕掛け

――PS5は、約5年の時間をかけて設計・開発に取り組んできたそうですね。5年というのは、歴代のプレイステーションハードと比べて長いのでしょうか、短いのでしょうか?

伊藤プレイステーションは、どのモデルも5年くらいかけて設計・開発を行っています。2020年は新型コロナウイルスの影響を受けましたが、それでもPS5の開発期間が特別長かったという感覚は、あまりないですね。

――ではPS5をどんなマシンにしようと考えたのか、開発のコンセプトを教えてください。

伊藤PS5は、UX(ユーザー体験)をどのようにしたいか、というところからテーマやコンセプトを考え始めました。西野(商品企画・UIデザイン統括の西野秀明氏)を始めとした企画のメンバーからいろいろ要望を聞き、そのうえでPS5にはどのような技術が必要なのか、技術的なアプローチをしています。

――西野さんは、ゲームへの没入感を重視したとおっしゃっていました。

伊藤昔と比べて、いまは日々時間に追われながら生活している方が多いと思います。貴重な時間を使ってゲームをプレイしていただくからには、ローディングなどのムダな時間を可能な限り削ぎ落として、ゲームに没入していただく時間を多くしたいと考えました。

 とにかくムダはいらない。皆様の貴重な時間を大切にしたいというコンセプトのもと、ハイパフォーマンス、ハイスピードを実現できるハードとして、PS5を開発しています。

――超高速SSDや高性能なCPU、GPUは、そのコンセプトの実現に必須だったのですね。ほかにどのような技術が必要だと考えましたか?

伊藤プレイヤーの没入感を大事にしたかったので、ゲームの世界に入り込めるような技術を採用するように心掛けました。具体的に挙げると、“Tempest”3Dオーディオ、ハプティックフィードバックやアダプティブトリガーに代表されるDualSenseワイヤレスコントローラーが、没入感を高めてくれる技術にあたります。

――DualSenseは、いろいろな新技術が搭載されているにもかかわらず、ワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK 4)とサイズがほぼ同じで驚きました。

伊藤ありがとうございます。ハプティックフィードバックやアダプティブトリガーのもととなる技術は以前からありましたが、これらをコントローラのサイズに落とし込むのは、かなりハードルが高くて実現するのに苦心しました。

 没入感を高める機能はもちろん、触り心地にもこだわっていて、DUALSHOCK 4と比べると、サイズと重量が若干アップしていますが、同じような感覚で遊んでもらえると思います。

――コントローラに違和感がないのは、没入してプレイするうえでありがたいですね。

PS5

伊藤また、静音性にもこだわりました。ゲームの世界に入っていただくときに、本体の音がうるさいと没入感が損なわれてしまいますからね。PS4と比べてどれくらい静かになったのかは、数字でお伝えするのは難しいのですが、実際にPS5を遊んで体感してもらえるとうれしいです。

――静音性と言えば、デザイナーの森澤さんが、静音性や排熱性を考慮して生み出した本体のデザインが、伊藤さんたちエンジニアチームが提案したものとほぼ一致していて感動した、と驚かれていました。

伊藤弊社にとっては珍しいことなので、森澤が驚くのも無理はないと思います。これはPS5に限った話ではありませんが、ソニーはデザイナーも非常に優秀で、エンジニアとデザイナーの考えが食い違うこともあります。製品をお使いいただくユーザーのために、できるだけ品質を高めたいという強い思いがあるゆえに、両者が引かずに意見がぶつかり合うこともあるんです。ただ、PS5に関しては、我々と森澤の考えていたことがうまく一致しました。

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ユーザーや開発者が驚いたPS5の新機能

―― 価格発表後には、Twitterで“PS5安すぎ”がトレンドワードになりました。やはり高性能な中身を考えると、PS5は相当、“がんばった”価格設定にしているのでしょうか?

伊藤PS5は5年前にプロジェクトがスタートしたときに、だいたいの想定価格を設定していて、我々はそれに向けて開発を進めてきたので、がんばった価格設定にした、という感覚はありません。

それに、できるだけ多くのユーザーの皆さんがお求めになりやすい価格に設定するのは、プレイステーションのポリシーのひとつだと考えています。

PS5
PS5の価格などが発表された9月17日、午前11時時点でTwitterアプリで見た東京圏のトレンド。PS5の話題一色だった。

――もうひとつ、ユーザーの反応を見ると、サイズが予想よりも大きいと感じた人が多かったようです。

伊藤そうですね。PS5は、PS4よりも性能が上がっていますので、当然ながら消費電力も上がります。性能とコストのバランスを考えたときに、本体のサイズを少し大きくしたほうが、コストを抑えながら静音性や排熱性をより高めることができると考えました。

――PS5の分解動画では、“液体金属”がトレンドワードになるほど話題になりました。液体金属は扱いにくく、コストもかかると聞きますが、これを採用したメリットとは?

PS5
分解動画より。

伊藤おっしゃる通り、液体金属そのものは少しコストが高いのですが、液体金属を採用することによって、ヒートシンクなどほかの部品のコストを抑えることができて、冷却機構全体では低コストにできるんです。

 扱いにくさという点では、我々は液体金属を採用するにあたり、2年以上の歳月かけて検証実験も行いました。液体金属の安全性や信頼性をしっかりと検証し、PS5に特化した液体金属を作り出せたと自負しています。

――PS5の分解動画と言えば、内部が隙間なくきれいに収まっていて、緻密で無駄のない設計に驚嘆した人が多かったようですね。

伊藤美しい設計も、プレイステーションのポリシーのひとつです。美しい設計を行うことによって、部品点数を少なくできますし、ひいては製品の品質の安定性にも貢献できると、我々は信じています。

――ゲーム開発者の反響はいかがでしょうか。開発現場からの声は届いていますか?

伊藤私たちは、PS4を含めた過去のプラットフォームでも、デベロッパーの方たちとは頻繁にコミュニケーションを取っています。そんな中で、「とてもいいものを開発してくれた」と、ポジティブな意見が多くてホッとしています。PS4のときに高評価をいただいた理由はいろいろあると思いますが、ゲームの開発のしやすさも、評判がよかったポイントでした。

――たしかに、PS4は開発がしやすいと評判でした。その点は、PS5も継承している、というわけですね。

伊藤PS5は、PS4と同じアーキテクチャを採用していますので、基本的にPS4のときと同じ開発手法が使えます。PS5自体も開発しやすいように設計を行っていますが、PS4と同じ手法で開発できるという点も、非常に評判がいいですね。

――ちなみに、PS5を開発するにあたって、ゲーム開発者からの要望を受けて取り入れた要素などがあれば教えてください。

伊藤デベロッパーさんたちの声を聞いて実装したというわけではありませんが、SSDやレイトレーシングなどは、要望を多くいただいていました。レイトレーシングは、最初から採用したいと考えていたものの、どうやって実装するか難しいところもありましたね。結果的に実装することができたので、満足いただけたのではないかと思います。

――個人的にUSBポートが増えたのもうれしかったです。多少コストがかかってでも、USBポートを増やした理由を教えてください。

伊藤USBポートが多いほうが、周辺機器を付け替えなくてもいいので、プレイするのが快適ですよね。フロントにふたつ、後ろにふたつ、合計4箇所のUSBポートを設置することで、利便性の向上を図りました。

――今回お話をうかがって、細部にいたるまで、とことんユーザーのことを考えて設計・開発されたハードだと、改めてわかりました。

伊藤くり返しになりますが、PS5はゲームを遊んでくださる皆様が、とにかくゲームの世界に入り込んでいただく没入感を重視して設計・開発を行っています。超高速SSDによるロード時間の短縮だけではなく、“Tempest”3DオーディオやDualSenseの機能によって、プレイヤーの五感に訴えかけるようなゲーム機に仕上がったと自信を持っていますので、ぜひ新次元のゲーム体験を堪能してください。

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ファミ通.comのPS5特集記事

11月12日発売の週刊ファミ通でPS5を特集!

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