RPGを初めてプレイするときはいつだって、「これからどんな冒険が待っているんだろう?」と、ワクワクしながらゲーム機の電源を入れていたものだった。現実を忘れて非日常の世界に没入するあの幸福な時間は、人生に欠かせないスパイスだと思う。

 だがしかし。

 ゲームを始めて30分。いきなり世界が崩壊。

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 人類も滅亡。

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 しかも自分の分身である主人公が悪魔になってしまうなんて……。

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 刺激が強すぎるだろ!!!

 そして、これでもかというくらい絶望的な状況の中で、新たな旅が始まるのだった。

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 『真・女神転生III ノクターン』は、アトラスの人気RPG『真・女神転生』シリーズの第3作として2003年2月にプレイステーション2で発売された。ナンバリングでの前作にあたる『真・女神転生II』からはじつに9年のブランクがあり、続編ではなく世界観やシステムなども一新して制作されている(なお、『真・女神転生IV』はそれからさらに10年後に発売された)。

 荒廃した終末世界を舞台に、運命に翻弄されながらもみずからの行動を通じて立場を決め、歩む道を選んでいく……という、シリーズ伝統の“流れ”は踏襲しているものの、ここまで衝撃的な始まりかたをする作品はほかにはない。

 本稿では、そんなRPG史上に輝くトリックスターをHDリマスター版として令和に蘇らせた『真・女神転生III ノクターン HDリマスター』(発売日:2020年10月29日、対応ハード:Nintendo Switch/PS4、以下、『真III』)のレビューをお送りする。

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アトラスの象徴“プレスターンバトル”の元祖

 まずはシステムについて整理していこう。

 『真III』最大の特徴であり魅力となっているのが、この作品で初めて登場し、後に『ペルソナ』シリーズや『デビルサバイバー』シリーズ、『幻影異聞録#FE』などさまざまなアトラス作品でも採用されることになった“プレスターンバトル”システムだ。

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“うまく”攻撃できれば行動回数が増え、失敗すると減る、いまやアトラスのRPGではおなじみとなったシステムと言える

 自パーティーにターンが回ってくると画面右上に残りの行動回数を示す“プレスターンアイコン”が表示される。そして、基本的には何か行動をするとこのアイコンがひとつ消費されるのだが、そこで相手の弱点を突いたり、クリティカルヒットを出すとアイコンの消費量が減って実質的な行動回数が増えるという仕組みになっているのだ(最大8回まで行動可能となる)。

 敵の弱点はスキル“アナライズ”を使うとわかる(同時に耐性や使ってくるスキルなども判明する)ので、それを把握しつつ弱点を突けるスキルを持つ“仲魔”をパーティーに入れて戦いに臨むことでバトルを有利に進められるようになる。

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 ちなみに仲魔というのは、“仲間の悪魔”のこと。『真III』では、主人公以外の仲間は基本的にバトルで悪魔と“交渉”を行って加入させる。毎回、何度も何度も金品やこちらのHPなどを要求してくるうえに、要求どおりにあげても仲魔になってくれるとは限らない。人の世以上に悪魔の世は世知辛いのである。

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 プレスターンバトルのおもしろいところは、敵にも同じルールが適用されること。つまり、こちらの回避率を上げたり敵の命中率を下げるスキルを使って敵の攻撃を空振りさせたり、敵のスキルの属性に対して無効、反射、吸収などの防御特性を持つ仲魔を入れてそのスキルを使わせるなどすれば、敵の行動回数を減らせるのだ。

 もちろん、手強いボス戦でもルールは同じ。『真III』の難易度はザコ戦を含めてNormalでもなかなかに難しく、これを活用できるとできないとで、難易度は天と地ほど変わってくる。裏を返すと、このルールをマスターして攻略法を見付ければ、毎回気持ちよく戦えるということ。

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ボス戦の基本戦術“スクカジャ重ね掛け”で、敵の攻撃をヒラヒラかわし、ずっとこっちのターンにしてやろう

計画的な悪魔運用が攻略のカギに

 バトルへの準備として“悪魔合体”の活用は必須となる。悪魔合体とは、仲魔の悪魔どうしを合体させて、新たな悪魔を作り出すというもの。基本的にはより上位の、能力の高い悪魔が生まれることになり、もっとも手っ取り早く戦力増強をする手段でもある。

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 『真・女神転生』シリーズではおなじみの要素だが、『真III』ではプレスターンバトルの存在があり、そこで活躍できるような、各属性のスキルが使用可能な悪魔をカスタマイズする……という意味合いも大きい。

 悪魔合体すると、素材となる2体の悪魔が習得しているスキルから、ランダムでいくつかが合体後の悪魔に継承される。その際、たとえば火炎属性が弱点の悪魔にもアギ系のスキル(火炎属性)を覚えさせられるなど、継承できるスキルにはほぼ制限がない(一部の特殊スキルは継承が不可能)。悪魔によって継承しやすい、しにくいスキルはあるものの、何度も根気よく選択→キャンセルをくり返せば、思いどおりのスキルを継承させられるのもうれしいところだ。

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 とくに、ボス戦で必須となるバフ系スキル(“○○ジャ”系)やデバフ系スキル(“○○ンダ”系)+属性攻撃スキルor回復系スキルのような、使える組み合わせを持った悪魔は、悪魔合体で意図的に生み出さないとほぼ手に入らない。ただ、そういった便利な悪魔を作り出せば、ふつうに挑んだら手も足も出ないくらい手強いボスとの戦いも、意外にアッサリ勝てたりする。『真III』のバトルは、準備段階で半分は終わっていると言っても過言ではないのだ。

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なお、悪魔合体は各地の街にある“邪教の館”で行うことになる

 一方、主人公自身の成長システムもなかなか独特。レベルアップ時に任意の能力を1ずつ成長させられるシステムで成長の方向性を自由に決められたり、“マガタマ”と呼ばれる特殊な装備品で能力値や防御特性をサポートさせ、スキルを習得させるといったこともできる。

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 仲魔も含めて、じつは全体的なシステム要素はそれほど多くないのだが、それぞれが自由度が高く、工夫のし甲斐に溢れているのが『真III』のシステム面の特徴だと言えよう。

主人公に自己投影しやすい、計算し尽くされたストーリー

 開始30分で世界滅亡なんて衝撃的な始まりかたをするストーリーだが、もちろんその後もそれ以上に楽しめるようになっている。

 『真III』では、ヒジリなどの協力者はいるものの(ヒジリにしても、一方的にこちらを利用しているだけの気もするが……)、全編を通して孤独な戦いが続いていく。

 いきなり日常が崩壊し、ボルテクス界に放り込まれてわけのわからぬまま半人半魔の“人修羅”にされてしまった主人公。どうすればいいかもわからないまま、とりあえず出会った人や悪魔たちの頼みを聞いて各地を旅することに。

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かつての東京が姿を変えた世界であるボルテクス界。2Dマップを移動中にはかつてそこにあった東京の地名が表示される

 ストーリーの流れが見えてくるのは、世界観やバトルの仕組みにだいぶ慣れたころ、プレイ時間にして10時間くらい経ったころだろう。どうやら、各地に異なる思想“コトワリ”を持った勢力が存在しており、新たな世界を創ることを目指しているらしい……と、それらの勢力と接触して何となくわかってくる。

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勢力のトップは、生き延びた数少ない人間だったり、悪魔だったりする

  “ボルテクス界”や“アマラ深界”、“ニヒロ機構”など、ゲームオリジナルのさまざまな世界や勢力、用語が出てくる『真III』だが、ストーリーを通じてさりげなく細かく説明してくれるのは、さすがRPGのヒットメーカー・アトラスといったところ。

 そして、各地で断片的に関わってきたことが、絶妙なさじ加減でつながっていくため、だんだんと形が見えてくる世界観に魅了されていくことになる。現実ではあり得ないの極みであるストーリーなのに、気付くと自分を投影してハマってしまうのだ。

 それは、自分勝手すぎるクラスメイトたちなど、登場する“人間”たちがまったく親しみの湧かないキャラクターであることも大きいかもしれない。主人公が周囲に頼れる人(悪魔)がいないように、プレイヤーも主人公以外に共感できる選択肢がないから。必然的に主人公の視線にだけ集中できるのだろう。

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なかなかエッジの効いたキャラクターのふたり。ここまで徹底していると、逆にすがすがしい

 原作の『真・女神転生III ノクターン』では、後に『ペルソナ3』などの世界的ヒット作を生み出し、現在もアトラスを牽引するクリエイターである橋野桂氏がディレクターを務めているのだが、げに恐るべき構想力である。

 ぶっ飛んだ世界観、展開ながら没入しやすいストーリー、そしてプレイヤーの工夫次第で大きく難易度が変わる、やり甲斐のあるバトルと育成システム。『真III』は、普遍的なゲーム性と個性を高いレベルで両立させた、RPG史上の名作と言っていい。10数年の時を経て、また現行ハードでプレイできるようになったのは、ゲーム好き、RPG好きにとっては僥倖である。クセはだいぶ強いけどね!

週刊ファミ通2020年11月12日号では、『真III』を大特集!

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