スクウェア・エニックスが手掛ける、スマートフォン向けシングルプレイRPG『OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー) 大陸の覇者』(以下、『大陸の覇者』)。2020年10月28日にいよいよリリースを迎える同作について、開発スタッフにインタビュー。昨年3月の先行体験版配信から約1年半、リリースにいたるまでにどのような試行錯誤があったのか。そして満を持して登場する『大陸の覇者』の見どころは? 詳しくうかがった。

※本記事では、Nintendo Switch/PC向けタイトル『OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー)』のことを、『オクトパストラベラー』、もしくは“前作”と記載しています。

スクウェア・エニックス 浅野智也氏(あさの ともや)

『オクトパストラベラー』や『ブレイブリーデフォルトII』の企画・プロデュースを手掛ける。

スクウェア・エニックス 横山祐樹氏(よこやま ゆうき)

『オクトパストラベラー 大陸の覇者』のプロデューサー。

配信日を遅らせてまでこだわったクオリティーとコンテンツの物量

――先行体験版の評判はかなり高いものでしたが、そこからリリースまでに1年半以上を要したのは、どのような理由があったのですか?

横山『大陸の覇者』を楽しみにしてくれていたファンの方々には、配信をお待たせして申しわけなく感じていますが、時間がかかったのにはもちろん理由があります。先行体験版の配信後、運営タイトルとして『オクトパストラベラー』の新作をスマートフォンで楽しんでいただくために何が重要かを改めて考えたときに、“RPGのキモであるメインストーリーを定期的に追加していく必要がある”という結論にいたりました。ですが、当時はストーリーのストックが少なく、当時のスケジュール通りに配信しても、ファンの皆さんの需要に供給が追いつかなくなるのは明らかだったので、会社に「体制を立て直すための時間がほしい」と相談しました。

――それで配信を遅らせたのですね。

横山はい。我々の希望通り、開発期間を延ばしてもらえたので、そこで開発の体制だけではなく、サービス開始後のスケジュールも見直しました。メインストーリーは、リリースした段階でエンディングを用意していますが、1、2ヵ月に一度のペースで、新たな物語を追加していく予定です。

――それはかなりのハイペースですね。ストックが持つのか、ちょっと不安です……。

横山すでに2年先のメインストーリーまで考えているので大丈夫ですよ(笑)。

―― 2年先! 『大陸の覇者』のサービスを長く続けるという決意を、改めて感じました。

浅野僕が言うのも変な話ですが、『大陸の覇者』チームはすごいなと感心しています。2年先まで計画を建てて、クオリティーも物量も、ゲームファンの期待するものに応えるべく努力を重ねていて、なかなかできることではありません。

――とはいえ、今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響も少なからずあったと思います。開発は春以降、どのように進めたのですか?

横山今回、体制を整える中で、大幅な開発スタッフの増員を行ったのですが、その過程でコミュニケーションツールの整備を行い、リモートでも開発を進めやすい環境を作りました。そのため、新型コロナが流行り始めた春以降も、スムーズに開発を進められたんです。

――リモートワークに自然と移行できたのですね。浅野さんが率いる、家庭用のチームはどうでしたか?

浅野僕らは『ブレイブリーデフォルトII』の開発を進めているところですが、『大陸の覇者』チームのように、リモートワークの環境を整えていたわけではないので、苦労しましたね。緊急事態宣言に合わせて半ば無理やりリモートワークへ移行し、その解除に合わせて3密に注意しながら出社して……とバタついています。

新生『大陸の覇者』を旅するうえでおさえておきたい項目をチェック!

――先行体験版で寄せられたユーザーの声をもとに、100以上の項目を改善したそうですが、とくに注目してほしい変更点はどこですか?

横山バトル中の行動順を表示する機能です。もともと前作に搭載されていた機能ですが、本作はスマートフォンで配信することもあり、バトル中に気にする要素が増えすぎないよう、あえて実装していませんでした。ただ、我々の想像以上に「あったほうがいい」という要望が多かったので、追加しています。

――本特集を作るにあたって、ひと足早くテスト版をプレイしましたが、バトルのプレイ感覚は、前作とかなり近いと感じました。ただ、パーティーメンバーが8人になるなど変更点もあるので、調整は苦労したのでは?

横山前作のバトルは、敵をブレイクさせてから、ブーストを叩き込むのが爽快でした。この感覚を本作でも感じてもらえるように調整するのは、確かにたいへんでしたね。それに浅野が作るゲームは、バランスが難しめに調整されています。スマートフォン向けのタイトルではありますが、ファンの方でも満足していただけるように、難度の調整にもこだわりました。

『オクトパストラベラー 大陸の覇者』開発者インタビュー

――バトルのほかに、とくにこだわった点は?

横山フィールドの移動には苦労しました。前作はある程度自由にフィールドを移動できましたが、スマートフォンでプレイするなら、もう少し手軽に移動できたほうが遊びやすくなるのではないかと考えました。そこで操作方法をシンプルでわかりやすいものに調整しつつ、ある程度オートで移動できるようにしています。

『オクトパストラベラー 大陸の覇者』開発者インタビュー

浅野僕は正直、先行体験版の段階でけっこうできあがっているなと感じていたので、「ここまで作り込むのか」と感心していました。じっくり時間をかけて完成度を高めているので、ファンの方たちも喜んでくれると思います。

横山『オクトパストラベラー』ファンの方々や、『大陸の覇者』のサービス開始を心待ちにしてくれた方のためにも、絶対にがっかりさせない作品にしようとチーム全員で奮起しました。

――ストーリーも『オクトパストラベラー』らしさを感じましたが、とくに意識した点は?

横山メインストーリーは、前作の製作フローに沿った形で作っています。スマートフォン向けのタイトルなので、ひとつひとつのイベントは少し短めに設計してはいますが、プレイ感覚は似たものにできたかなと。

浅野シナリオのためのゲームにしない。ゲームのためのシナリオであるべきだ。というのが『オクトパストラベラー』の思想としてあります。単純化すると、遊びやすいRPGのお約束として、タウン→イベント→ダンジョン→ボス、これのくり返しとなります。そこにサブシナリオがたくさんあって、プレイヤーが好きな順番でシナリオを追いかけられる、という構造です。『大陸の覇者』でも、その“ちょうどよい自由度”が実現されていて、『オクトパストラベラー』らしさを感じてもらえる要因になっているのではないかと思います。

――らしさを感じた一方で、メインストーリーは、全体的に「話が重い……」とも感じました。いずれも、見ていて胸が苦しくなるような展開で……。

横山前作は8人の主人公をベースにそれぞれのメインストーリーが作られていますが、本作はボスをフィーチャーしていて、富、権力、名声のメインストーリーが展開します。大人が楽しめるシナリオを意識しボスを際立たせた結果、全体的にシリアスなテイストになっています。

浅野大人の方たちにも楽しんでもらえるシナリオで、敵をちゃんと描こうとすると、悪人としてしっかり描く必要がありますから。

――その一方で、個別のトラベラーストーリーは明るめのエピソードが多いですよね。

横山メインストーリーが全体的に暗くなりがちだったので、トラベラーストーリーには明るいエピソードを多く収録しています。

浅野前作もプリムロゼとトレサでは、シナリオのトーンが全然違いました。リリースするまでは不安なところもありましたが、想像以上に喜んでくれた方が多くて。シナリオの幅が、そのまま作品の幅にもなったのでよかったです。

――本作は64人の旅人が登場するので、個別のストーリーを考えるのは苦労したと思います。

浅野もともと手間のかかる作業なのに、僕が前作と同じく、仲間になるキャラクターはみんな主人公にしてほしいとお願いしたので、余計に苦労したと思います。たいへんだったよね?

横山そうですね(苦笑)。スマートフォン向けのタイトルなので、旅人にレアリティはあるのですが、★3だから短い、★5だから長いといった差はつけていません。どの旅人も主人公としてしっかりキャラクターを掘り下げています。

――★3の旅人の中だと、とくに八つ子が強烈でした。懐かしの旅人にも会えましたし。

横山八つ子は、64人の旅人の中でも新米トラベラーという位置づけです。そこで、トラベラーストーリーの中で、彼らを導いてくれる先輩の旅人を登場させることにしました。また、前作に登場した一部の町人を本作の主人公に抜擢しています。ほかにも前作を遊んでくれた方が喜ぶネタは意図的に入れていますので、探しながら旅をしてもらえるとうれしいです。

『オクトパストラベラー 大陸の覇者』開発者インタビュー
前作経験者なら、八つ子のトラベラーストーリーは必見!
『オクトパストラベラー 大陸の覇者』開発者インタビュー
たとえば、旅人のひとり・マイルズは、前作のサブストーリー“聖火騎士マイルズ”で活躍した。

――サービス開始後に、改めて旅をするのが楽しみです! 旅人と言えば、シチュエーションを切り取った前作譲りのイラストも印象的です。

横山これも浅野のオーダーです。旅人のイラストはすべて、生島(直樹氏。『オクトパストラベラー』のキャラクターデザインを担当)が時間をかけて監修をしています。

――生島さんには、週刊ファミ通2020年11月5日号(10月22日発売)の表紙も描いていただきました。

浅野今回の表紙イラストはかっこいいですよね。『オクトパストラベラー』は、地に足のついた世界観を大事にしているので、イラストも過剰な演出をしない形で描いてもらっていました。でも、このキービジュアルはボスを大きく描いていて、巨悪に挑む雰囲気が出ている。地に足をつけつつも、少しずつ、演出的な新しい『オクトパストラベラー』像を生み出せていると思います。

――本作では、これまでとは違った雰囲気のイラストが見られるかもしれませんね。最後に、今後のアップデート情報をお聞きしたいです。

横山メインストーリーについては先ほどお伝えした通り、1、2ヵ月のペースで追加します。新しい旅人は、それよりも短いペースで定期的に実装する予定です。ファンの方が喜んでくれる旅人も用意していますので、ご期待ください。

浅野『大陸の覇者』については、自分もいち旅人としてプレイするのをとても楽しみにしています。あと『オクトパストラベラー』の家庭用の展開については、情報をお出しできるまでまだもうしばらく時間がかかりそうです。ごめんなさい。家庭用ゲームファンの皆様につきましては、『ブレイブリーデフォルトII』のほうも注目していただけると嬉しいです。

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