2018年11月に発売された、しゃべるネコとコミュニケーションを楽しむ『ネコ・トモ』。本作は『クマ・トモ』に続く“トモシリーズ”の2作目として発売されたタイトルだが、約2年の時を経て2020年11月19日にリパッケージされることが決定した。新要素を多数追加したパッケージ版『ネコ・トモ スマイルましまし』が購入しやすい価格(4800円[税抜](5280円[税込]))で発売され、Nintendo Switch版『ネコ・トモ』をすでにプレイしている人は無料アップデートが可能に! 大盤振る舞いとも言えるこのアップデートはどのようにして実現したのか。プロデューサーへのメールインタビューを通じて施策を探るとともに、『ネコ・トモ』の新たな魅力に迫る。

冨所弥生氏(とみどころ やよい)

『クマ・トモ』ディレクター、『ネコ・トモ』プロデューサー、『釣りスピリッツ NintendoSwitchバージョン』プロデューサーなどを務める。好きなネコのタイプは、ブリティッシュショートヘアのグレー(昔実家で飼っていた)。

プレイヤーのすべてを肯定してくれる“ネコ”という存在

―― まず、2018年にオリジナル版の『ネコ・トモ』が発売されるまでの経緯をお教えください。

冨所『ネコ・トモ』の経緯を説明するために、まず『ネコ・トモ』の前作である『クマ・トモ』の話をさせてもらいたいです。『クマ・トモ』は、女子の中である程度頻繁に語られる「愛するよりも、愛されたい」という話を聞いていて、自然体の自分を大好きと言われることは強いニーズがあるなと感じて、考え始めた企画でした。そのときの上司だった、現バンダイナムコアミューズメントの小山順一朗さんと、開発会社のアリカさんとともに、紆余曲折しながら考え、素の自分を肯定してくれるコミュニケーションパートナーとして、“親友ができちゃうゲーム”『クマ・トモ』は2013年に発売されました。

 『クマ・トモ』は国内で25万本、海外で10万本、合計35万本販売し、新規のタイトルとしては大ヒットと言える結果を得ることができたので、育休から戻って来て続編を作りたいと会社にお願いして作ったのが『ネコ・トモ』になります。『クマ・トモ』の続編も考えたのですが、『クマ・トモ』とのストーリーはちゃんと完結させたと思っていて、新作としてクマと初めましての状態からスタートするのは、「親友になったのにな……」と寂しい気持ちにもなりそうだったので、新しいキャラクターのネコを考えました。

 また、『クマ・トモ』は終始1対1の会話なので、「クマがプレイヤーさんのために料理を練習していたよ」と、別の相手から聞くような人から聞くという仕様や会話のかけあいによる膨らみを作りにくかったこともあり、複数の対象がいるといいなと考えてネコ2匹としました。2匹がプレイヤーのことを大好きでちょっとヤキモチを焼いたりする好意表現も作れるし! これだなと。

 “親友”はどことなく1対1の感覚があったため、2匹+プレイヤーで3人になった『ネコ・トモ』では“家族”としています。

おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
前作の“クマトモ”は、前作のプレイヤー“親友ちゃん”といっしょに暮らしているという設定で『ネコ・トモ』にも登場する。

――ゲームを作るにあたって、苦労したことは?

冨所『クマ・トモ』を作る際には、存在を肯定されたと感じられる仕様はなんだろう……とかなり苦心しました。自分の存在を肯定されるには、まず自分のことを理解してもらわないといけないので、いろいろと質問してくるクマに、自分の思っていることを教えてあげることで、“キズナレベル”が上がっていくという仕様にしました。関係性という、本来は曖昧なものをレベルで表現するかどうかも悩んだのですが、ゲームであるからには進捗と目標がハッキリしているほうが楽しく遊べると考えて、明確なレベルという数字にしています。

 ほかには、仲が深まっていく過程をわかりやすく表現できるように、関係性の変化を描けるシナリオを付けたいと思い、当時『テイルズ オブ』シリーズのプロデューサーをされていた吉積信さんから、やさしいシナリオが書ける方として中村誠さんをご紹介いただきまして……。言葉が心に染み込んでいくような温かい物語を書いていただきました。

 制作中で、苦労したというか時間のかかった部分としては、理解されたと思える反応を返せるように膨大な会話と分岐を作ったことです。延々とシナリオの確認をしていたことを思い出します。文字数を調べた際に、200万文字を超える量があって、RPGクラスじゃん……となりました。

 『ネコ・トモ』は、大筋の思想は『クマ・トモ』を踏襲していまして、会話をし、レベルを上げ、同じく中村さんにシナリオを書いていただいたストーリーが展開されます。ちょっと違う点としては、私が家族を持つ身になったということが反映されてか、プレイヤーとネコの間柄は、『クマ・トモ』より家族としてほどほどに独立した存在として描いています。

おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
ネコたちとおしゃべりをし楽しむことで、キズナが深まり、ストーリーが進むというゲームサイクルになっている。

―― こだわったポイントは?

冨所キャラクターがその場に存在している感覚が持てるように、合成音声を使ってフルボイスでお話しするようにしたことです。すべてを肯定する存在なので、会話内に好感度を上げ下げするような失敗のある選択肢は入れないと決めていまして、ゲームとしての攻略性が低いからこそ、ユーザーの入力にしっかり反応を返すという、ゲームのド基本を叶えるためにも、入力に反応する声は絶対に必要だと思ったんです。 

 『ネコ・トモ』では、東芝さんの合成音声ソフト“ToSpeak”を使っていて、容量が軽くなり、漢字入力にも対応して話せるようになりました。ビックリするような難しい漢字も読めるし、じつは簡単な英単語もしゃべることができます。ToSpeakのスゴい部分です。「読めないだろー」とネコにちょっと難しい漢字を教えると、見事に読み上げたりするので、「わかるのか! すごいな!(笑)」といった気持ちを感じることができます。

おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
『ネコ・トモ』では、言葉をしゃべる不思議なネコにさまざまなことを教えていく。ネコはプレイヤーが教えた言葉を使い、合成音声でしゃべる。『スマイルましまし』では、言葉の読みかたの調整ができるように。

大小さまざまな追加、改良要素でプレイヤーのスマイルもましまし!

――『スマイルましまし』ではオリジナル版のここを改善した、新たに追加したこれを楽しんでほしい、といった要素を教えてください。

冨所新機能として追加したのは “写真館”と“仕立て屋さん”です。写真館は、写真の背景、ネコのポーズや表情を自分で設定し、スタンプやフィルターを使って、より自由でかわいい写真が撮れるようになりました。自分が教えた言葉もスタンプとして使えます。仕立て屋さんではネコの衣装が作れますが、かなり自由にデザインできます! 自分の近くにいてくれる存在が、こんな服を着ていたらいいなと思うデザインを、ぜひ作っていただければと思います。

 そのほか、時代に合わせて遊びやすさも調整しました。『クマ・トモ』は、携帯するゲームの要素、短時間でも毎日遊ぶことを前提としたゲーム設計をしていました。1日30分~1時間くらい遊ぶとクマが満足して、それ以上遊べなくなる。そして日々を重ねるからこそ関係性が深まっていくという、“時間”を使ってもらう仕様だったんです。『ネコ・トモ』もニンテンドー3DSソフトとして始まった企画だったので、当初は『クマ・トモ』の仕様を踏襲していたのですが、ニンテンドースイッチは、もうちょっと集中してゲームを遊びたい気持ちになるハードだと思いまして……。『スマイルましまし』では、遊んでネコが満足した後も、“ひと休みボタン”を押すことで、おしゃべりを続けられるようになりました。

 また、ネコたちはその場にいる存在と考えていたため、会話の早送りはできないようにしていたのですが、ユーザーのプレイスタイルや遊びやすさを尊重するほうがいいと思い、早送りを導入しました。『ネコ・トモ』は会話のボリュームが多くて、ストーリーをひと通りクリアーするまでにかなりの日数がかかる作りでしたが、自分のペースで進められるようになったので、途中まで進めていた方にも、改めて手に取っていただくきっかけにしてもらえたらと思っています。

 ほかにも追加、改善した要素はたくさんありまして、「25のスマイルましましポイント」として、ネコ・トモ公式Twitter(@kumatomo_friend)などでご紹介しています!

おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
“仕立て屋さん”でオリジナルのコスチュームを作成したら、“写真館”で記念撮影。好きなポーズ、背景、表情でお気に入りの1枚を!

支えてくれたユーザーに感謝の気持ちとともに恩返しを

―― 既存ユーザーは無料でアップデートできるというところに、ユーザーを大切にしたいという思いが感じられました。

冨所よかったです! 『ネコ・トモ』は、高く評価してくださるユーザーの方がとても多く、その声がバンダイナムコに届き、感謝の気持ちをお返しする機会が得られました。支えてくださったファンの皆様のおかげです。本当はニンテンドー3DS版のセーブデータもすべて移し替えられるようにしたかったのですが、さすがに難しかった……。

 また、アップデートを無料で実施することについては、「もっといいバンダイナムコになる!」という会社の方針によるところも大きいです。自分が担当しているタイトル『釣りスピリッツ Nintendo Switchバージョン』では、発売1年後にパーティーモードをまるごと増やすアップデートを行いましたし、『太鼓の達人 Nintendo Switchば~じょん!』は発売2年後に“eスポーツトーナメント”を追加したのですが、それというのも情報が溢れかえる世の中で、バンダイナムコのゲームソフトを選び、購入してくださったお客様を大切にし、感謝の気持ちを恩返ししていきましょうという方針を会社が出しているからです。

 私たちプロデューサーは、会社からお金をもらって、よいゲームを作り、会社にお金を増やして戻すことが仕事です。作り手としてユーザーを大切にしたい、もっとゲームをよいものにしたいと思うのは当然のことですが、その企画を会社が認めてくれたこともありがたかったです。

おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
おしゃべりネコといっしょに暮らす『ネコ・トモ』の新パッケージが11月19日に発売! プロデューサーが語る“ファンへの恩返し”
ニンテンドースイッチ版『ネコ・トモ』のユーザーは、アップデートすれば『スマイルましまし』の内容が反映される。ニンテンドー3DS版は残念ながらデータそのものの引き継ぎはできないが、プレイヤーとネコの名前の引き継ぎができ、“家族レベル”に応じて素材とお金がプレゼントされる。

“トモシリーズ”はこれからもさらに進化する……!?

――ほかに、 これだけは語っておきたいということがありましたら、ぜひ!

冨所『ネコ・トモ スマイルましまし』がうまくいったら、スマホ版もやってみたいですね! 携帯するゲーム機に向いたゲームだと思っていますし……。

 また、“トモシリーズ”はプレイヤーがキャラクターに私的なことを教えるので、プライバシーを守るという観点からオンライン要素は入れてこなかったのですが、年齢が低いユーザーの方にもオンライン環境は根付いてきましたし、自分が育てた子は人に見せたくなるものですから、プライバシーは守りつつオンライン要素も入れたくなっています。

 オンラインを利用するという観点では、人工知能の能力を使った仕様も考えたいです。『クマ・トモ』のときは、オンライン環境が一般的と言い切れるほどではなく、スタンドアローンの言語解析と会話構築では、トンチンカンな返答が返ってきてしまうことが多くて、自分を理解してくれる存在としては難しいなと思って手を出してなかったのですが、最近の人工知能の能力にチャレンジしてみたい気持ちを持っています。

 『ネコ・トモ』を開発してくださったグルーブボックスジャパンさんは、ユーザーが喜んでくれる愛らしいゲームを作ることに熱心に、誠意をもってがんばってくださるので、これからもいっしょに考えていければと思っています。

―― 最後に、『スマイルましまし』の発売を心待ちしている人や、この記事で興味を持った人にメッセージをお願いします。

冨所興味を持った方は、体験版から遊んでみてくださればと思います。自分が教えた言葉をネコがしゃべるのは、何とも言えないくすぐったいおもしろさがありますよ。アップデートを楽しみにしてくださっている方は、いつもありがとうございます。これからもがんばります。

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