スマートフォン向けアプリ『Fate/Grand Order』(以下、FGO)のサービス5周年記念企画の一環として配信された、関連アプリ『Fate/Grand Order Waltz in the MOONLIGHT/LOSTROOM』(以下、FGOW)。本作は先着55万ダウンロード限定配信だったものの、無料とは思えないボリューム&クオリティが話題となりおよそ1日で上限に到達し配信が終了。しかし、あまりの反響の大きさから、後日制限なしでダウンロード可能となった。

 そんな注目作である『FGOW』のクリエイティブディレクターであり、FGO PROJECTクリエイティブプロデューサーである塩川洋介氏にインタビュー。本作に込められた想いや制作にまつわる裏側を答えていただいた。

塩川 洋介(しおかわ ようすけ)

『FGOW』のクリエイティブディレクター。FGO PROJECTクリエイティブプロデューサーも兼ねる。ディライトワークス株式会社のクリエイティブオフィサー。(文中は塩川)

TYPE-MOON・武内崇氏との雑談から生まれた『FGOW』

――『FGOW』のお話に入る前に、塩川さんの近況をお聞かせください。2018年以降、塩川さんは表舞台に立つ機会が減りましたが、その間はいったいどのような活動をされていたのでしょうか?

塩川FGO』に関係する部分に限って説明しますと、主に3つのラインで活動していました。まず1つ目は、『FGO』の開発について。ご存知の通り、第2部以降はカノウにディレクター業を引き継ぎました。それに伴って、自分はゲーム全体の開発・運営方針に関する監修やアドバイスといった役割にシフトしています。TYPE-MOONさんとの折衝なども含め、重要な意思決定には必ず関わるようにしていますが、基本的にはカノウたちの仕事を陰ながらサポートしている形です。

 2つ目は、FGO PROJECTクリエイティブプロデューサーという立場での活動です。こちらでは、『FGO』というコンテンツをアプリ以外のいろいろな場所で多くの人に楽しんでもらうため、企画を立ち上げてリリースするプロジェクトを動かしています。例えば2018年以降ですと、4月1日限定の企画アプリやボードゲーム、VRドラマ『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』(以下、FGOVR)のPCや海外への展開などです。あとは、『Fate/Grand Order Arcade』(以下、FGOアーケード)やリアル脱出ゲームの第一弾も該当します。また、これは弊社でパブリッシングしたものですが、概念礼装の画集『Fate/Grand Order Memories』シリーズを企画したりもしました。そして、そうしたFGO関連プロジェクトの最新作が、今回の『FGOW』になります。

 3つ目は、2019年の『Fate/stay night』15周年企画です。『Fate/stay night』あっての『FGO』ということもあって、15周年という節目において『Fate』全体を一緒に盛り上げていきたいと思い、TYPE-MOONさんとアニプレックスさんと企画について協議していました。こちらでは、『Fate/stay night』のボードゲーム制作、『カプセルさーばんと』(※1)のスマートフォン移植、iOS/Android向けアプリ『Fate/stay night [Realta Nua]』の15周年記念アップデートを担当しました。

――じつは方々で活躍されていたんですね。では、本題の『FGOW』についてお伺いしていきます。まず、本作を作るに至った経緯を教えてください。

塩川おおもとの話となると、TYPE-MOONの武内崇さんとの雑談からになります。数年前のある日、武内さんとの雑談で「サーヴァントが踊っている姿を見られたらカワイイですよね」という話題が出たんです。しかし、その時点で自分はまだピンときておらず、頭の片隅に置いておく感じでした。ですが、その後も何度か武内さんから同じ話題が出まして。

――武内さんの中では、よほど強い予感があったんですね。

塩川その話とは別の流れとして、先ほどの『FGO』をより幅広く展開するプロジェクトも本格的に考え出すタイミングがきました。そのときに、武内さんのアイデアを思い出しました。そこで改めて、武内さんのアイデアをFGO PROJECTらしく実現するにはどうしたらいいか、自分の中で何がピンときていないかを熟考しました。

――なるほど。

塩川『FGO』を他のプロジェクトとして展開していくうえで、“マスター体験”というキーワードを一本のスジとして自分の中で定めています。これは、アプリゲームであれアーケードゲームであれ脱出ゲームであれ、媒体が変われど“それがマスターとしての体験であること”が重要という意味です。

 それを踏まえて、「きっとダンスとマスター体験が結びついていないから、自分がピンときていないんだろう」「ダンスというものがどうやってマスター体験になるんだろうか」と引っかかりを紐解きながら企画を練っていきました。そうしてできた企画書を「あのときの話なんですけど……」と武内さんに見せたら、「そういうことです!」と喜んでいただけて。もう数年前の話になりますが、これが『FGOW』の始まりですね。

――その企画書に書かれていたマスター体験は、どういったものだったのでしょうか?

塩川いわゆるダンスを踊る系の音楽ゲームでは、観客に対してステージのうえでダンスや歌を披露していることが多いと思います。ですが、FGO PROJECTに置き換えた場合は、それはマスター体験とは言えず不自然な事だと思いました。マスター体験を重視して作るのであれば、“サーヴァントが目の前にいるマスターに対して気持ちを向ける”べきで、それを実現できたなら理想的なものが出来上がるだろうと予感しました。

 プレイヤー=マスターの場合、サーヴァントとプレイヤーはあくまで対等な関係が理想です。そんな対等な相手から、1対1の空間で“この姿は貴方にしか見せない特別もの”という、ある種の強固な結びつきの結果を形として見せてくれたら、いちプレイヤーとしてとてもうれしいだろう……それに気づけたことが、本作に向けての第一歩でした。

――そのコンセプトはダンスだけに留まらず、ホーム画面でのやり取りにも現れていますよね。

塩川そうですね。ホーム画面でのリアクションにはとてもこだわっていて、ダンスを“動”とするとホーム画面は“静”にあたる部分です。ゲームを作るうえで、この動と静のバランスを重視しました。

 『FGO』や『FGOアーケード』でもホーム画面はありますが、『FGOW』ではまた違ったかたちで提供できればと思い、違う体験を用意しようと試行錯誤しました。その結果、本作では“マスターがマシュとそれまで培ってきた信頼関係がないと成り立たない親愛表現”にコダワリを持とうと決めたんです。

――ホーム画面のお気に入りドレスを変更すると、ドレスを変更時のセリフもドレスごとに違って豪華ですよね。

塩川セリフはすべて奈須きのこさん監修のもと、用意させていただきました。自分のオススメはホーム画面のお気に入りドレスをジャンヌ・ダルク〔オルタ〕モチーフのドレスに変更した時ですね。マシュが彼女のモノマネをするところがカワイイんですよ(笑)。ほかにもタマモキャットをモチーフにしたドレスに変更すると、若干無理をして「キャットだワン♪」と言うなど、マシュのいろいろな一面が見られるのも本作の魅力かと思います。

 “under the same sky(※2)”でサーヴァントたちがさまざまな姿を見せてくれましたが、マシュとアルトリア・ペンドラゴンの基本ドレスはこれと同じものを着ています。『FGOW』と“under the same sky”のドレスを見比べてもらえると、ここでも5周年記念を感じていただけるかなと。ちなみに、アルトリアのドレスはマントを羽織っていないバージョンです。

【FGOワルツ】新たなマスター体験はどのようにして生まれたのか? 塩川洋介氏に作品に込められた想いや制作にまつわる裏側を訊く
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“under the same sky”でのマシュとアルトリア。じつは、『FGO』5周年記念特集を掲載した週刊ファミ通 2020年8月13日号での武内氏&奈須氏インタビューに『FGOW』の伏線がある。

――ゲームジャンルをリズムゲーム(音ゲー)ではなく、“Fateアンサンブルアクション”と銘打った理由を教えてください。

塩川そもそも本作は、音ゲーを作ろうとして開発したものではありません。あくまで、“マスターのためだけにサーヴァントが何かをしてくれている”という体験を作ることがメインにありました。なので、純粋な音ゲーと違って判定が緩かったりハイスコアが表示されなかったりするわけです。リズム要素はありますが、それはゲームを構成するものの1つでしかなく、あくまでサーヴァントとの繋がりを楽しむゲームを目指しています。そんな本作のゲームジャンルは何と呼べばいいのか。世の中に「コレです」と言い表すものがなかったので、自分たちで作る必要があると考えました。

 “アンサンブル”という言葉には、合唱や衣装の着合わせなどのいろいろな意味があります。総じて、全体としての調和や統一感を表す言葉ですね。本作はサーヴァントと気持ちを合わせることに加えて音楽的な要素も強いということで、アンサンブルがふさわしい言葉かなと。そういった意図で、“Fateアンサンブルアクション”と銘打ちました。

――最初の先着55万ダウンロード限定配信は、ほぼ1日で終了していました。現在では上限がなくなっていますが、最終的にどれぐらいダウンロードされたのでしょうか?

塩川具体的な数字はお伝えできませんが、おかげさまで多くのマスターの皆さまに遊んでいただけています。

――本作は4月1日に配信されるような1日限定の期間限定アプリと違って、いつまでもダウンロードできるものと考えてよいのでしょうか?

塩川もともとは、FGOらしい一夜限りの恩返しとして、また、「儚く消える、思い出を」という想いから、55万ダウンロード限定と考えていました。ですが、これからも遊び続けたいというお声や、気づいたときにはダウンロードが終わっていたというお声も多数頂戴したため、ダウンロード数や期間を限定しないかたちで配信を続けることを決定しました。

 今後に関しては、この先何年もダウンロードできるというところはお約束できませんが、基本的にそのままダウンロード可能にしておこうという方針にしています。

――9月8日に公開されたクリエイティブプロデューサーレターでは、もう更新がないといったお話がありましたが……。

塩川不具合の修正は行っていく可能性はありますが、ゲーム内容の更新は終幕 フィナーレの実装で終了という形です。『FGO』5周年記念特別企画として発表した『FGOW』ですが、それから1カ月が経ちエンディングを迎えたことで、我々からマスターのみなさまへの恩返しの締めくくりとさせていただければなと思います。

――では、6周年でのアップデートを期待しています(笑)。

塩川そのときは、『FGOW』とは違う何かをお届けしたいですね(笑)。

【FGOワルツ】新たなマスター体験はどのようにして生まれたのか? 塩川洋介氏に作品に込められた想いや制作にまつわる裏側を訊く

マシュの魅力を最大限引き出すゲームデザイン

――さきほどの“マスター体験”と被るところもあると思いますが、本作でマスターたちに伝えたかったのはどんなことだったのでしょう?

塩川やはり、マシュの魅力を改めて感じていただきたいという強い想いがありました。5年は長い月日ですが、その『FGO』の歴史において何が大事だったかと考えたときに、マシュの存在は欠かせないと思っています。ある種の家族やパートナーともいえるマシュの魅力を徹底的に描いて、そこに改めて気づいていただこうというのをコダワリとしてやっていました。

 これによって、5年間ともに戦ってきた人なら「次の5年間もマシュと歩んでいこう」と思い、マシュにあまり注目していなかった方も「こんなにかわいかったのか」と気づいていただけるかなと。もちろん、それによって『FGO』がより盛り上がってくれたらいいなという思いで作っています。

――彼女の魅力を引き出すうえで、どういうところに注力しましたか?

塩川やはり表情ですね。マシュは基本的には真面目でシリアスなキャラクターですが、本作ではせっかく特別なドレスを着て普段とは違う姿が見られるということで、いつもより羽根を伸ばしています。

 また、ここはマスター体験に通じる部分ですが、マシュの目線にも気を使っています。“いまこの瞬間もマスターを見ています”というように、目と目で通じ合うことが感じられるような表情やカメラワークをコダワリました。

――表情だけでなく、キャラクターモデル全体の造形もかなりこだわっていますよね。『FGOVR』や『FGOアーケード』のモデルとは別物なのでしょうか?

塩川はい、モデルを流用しているということはありません。開発も別のチームが行っていて、ゼロから、このプロジェクトのために作っています。

――3Dモデルにありがちな、肩から脇にかけての関節の破綻が一切ないのは驚きました。とくに脇の美しさは、リリース後しばらくSNS上で話題になりました(笑)。

塩川そこは、グラフィックチームが並々ならぬコダワリをもって作ってくれました。とりたててそこにコダワルよう指示したわけではないのですが(笑)。単に着替えさせただけに見えないよう、ドレスごとにしっかりと作り込むことによってマシュの実在感を表現したい……と表向きは語っていました。その裏で、自分がコダワリたいという担当者のフェティシズム的な職人魂があったのかもしれないですね。

【FGOワルツ】新たなマスター体験はどのようにして生まれたのか? 塩川洋介氏に作品に込められた想いや制作にまつわる裏側を訊く

――スマートフォンのゲームにしては、非常にリアルな人間の脇でした。

塩川まさに筋肉の動きといったところまで含めてコダワリ抜いています。画面が小さいのでわからないかもしれないですが、気づく人は気づく……という感じでいいと思っています。

 あとは、マシュだけがという話ではないですが、品質という意味でのクオリティ追求はものすごく頑張っています。例えば、「サーヴァントが3Dになりました」というところでいうと、『FGOVR』や『FGOアーケード』ですでに大きなリアクションをいただいています。そんななかで、「スマートフォンだから相応の品質でいいよね」という気持ちで作っても、ユーザーのみなさまに想像以上の驚きを与えることはできません。

 今回、キャラクター1人を大きく表示しているというところもありますので「とにかく接写に耐えうるつくりにしよう」と決め、カメラも「こんなにキャラクターに寄っているゲームは、ほかにないんじゃないか」というぐらい密な距離まで寄るようにしています。本作では、そういう部分をほかの『FGO』の3D作品との違いとしてディレクションしました。

――そのせいか、最高品質の画質で遊ぶとスマートフォンがけっこう熱くなります。

塩川本当は、『FGO』が遊べる端末すべてに対応できるのがベストだったのですが……。そこはどちらを取るかという選択で、高いクオリティを追いかける方向を選びました。

――そのクオリティがないと脇の話題も生まれなかったでしょうし、英断だと思います(笑)。

塩川ありがとうございます(笑)。可変解像度に対応しているので、iPadなどの大きい端末をお使いいただければ、ほぼほぼ実物大のマシュの顔を見ることができます。それでモデルが劣化するような作りにはしていないので、タブレット端末をお持ちの方はぜひ遊んでみてください。

――ちなみに、マシュはダンスがとても上手ですが、いつの間に練習していたんでしょうか?

塩川これは、『FGOVR』でマシュがダンスの練習をしていまして。そのときはだいぶぎこちない感じでしたが、いまではこんなに上手になりましたね。

――なるほど! 『FGOVR』でのトレーニングが『FGOW』に生きているんですね。

塩川……という話だったらステキですね(笑)。『FGOVR』のダンスも改めて注目していただけると幸いです。

【FGOワルツ】新たなマスター体験はどのようにして生まれたのか? 塩川洋介氏に作品に込められた想いや制作にまつわる裏側を訊く

作家やイラストレーターが一丸となって作り上げた楽曲たち

――2017年末に放映されたアニメ『Fate/Grand Order -MOONLIGHT/LOSTROOM-』(※3)とのかかわりは、いつごろから考えられていたのでしょうか?

塩川今作のシナリオは奈須さんが担当されていますので、奈須さんが描く『FGO』の全体像のなかで予め設計されていたところだと思います。

――本作は『FGO』の時系列でいうと、どのあたりで起こった出来事なのでしょうか?

塩川公式設定としては第1部が終わって1.5部が始まる前で、アニメ『Fate/Grand Order -MOONLIGHT/LOSTROOM-』の直前ぐらいになります。

――マスターたちは、アニメの前にロストルームのことは知っていたんですね。

塩川まだある意味平和だったころのカルデアのお話ですね。『FGOW』リリースのタイミングで『FGO』内で記念クエストを配信しましたが、そのプレイ条件が“第1部 終局特異点クリア”なのはそのためです。

――なるほど。ちなみに、語り部であるミス・クレーンは何者なのでしょうか?

塩川「主のいないサーヴァント」と言っていますし、サーヴァントであることは間違いないでしょうね。もちろん、彼女にもしっかりとした設定が用意されており、それを踏まえての語りになっています。

――“閻魔亭にいたお夕”、“鶴の恩返しの鶴”などと考察するマスターもいらっしゃいます。

塩川まぁ、crane(鶴)と言っていますから、そういう考察もあるでしょうね。本名かはわかりませんが(笑)。

――ドレスも彼女が織っている説も……。ちなみに、彼女がほかの機会で登場する可能性はありますか?

塩川さぁ、どうでしょう。それは、神のみぞ知るというところかと。

――ちなみに、楽曲やドレスのモチーフとなっているサーヴァントは、どういった基準で選定されたのでしょうか?

塩川モチーフの候補はほかにもたくさんいましたが、前提として時系列的に違和感がないよう“第1部終了までに登場したサーヴァント”に限定し、その中でクラスや登場タイミングなどを意識して配分しています。また、どのサーヴァントにも多くのファンがいらっしゃいますから、今回はこれまで『FGO』ではあまり出番の多くなかったサーヴァントも意図的に入れています。その結果、このようなラインナップになった形ですね。

 ドレスのデザインに関しては、基本的にはドレスのモチーフとなったサーヴァントを描かれているイラストレーターの方へお願いしています。モチーフのサーヴァントの色がしっかりと出ていてステキですよね。

――踊りや楽曲の方向性は、ロマニのアイドルオタクという性質を意識して作っているのでしょうか?

塩川たしかにアイドル的なことへの傾倒が強い感じの楽曲が多いようにも思いますが、そこは、ノーコメントで。

――武内さんや作家さんが本作にどのようにかかわられたのか教えてください。

塩川モチーフとするサーヴァントが決まったからといって、ただ普通に曲を使っても『FGO』らしいマスター体験を得られるものにはなりません。本作はシナリオが多いコンテンツではありませんが、それでも『FGO』らしい世界観を感じていただきいたいという想いが前提としてあります。そのため、サーヴァントのドレスや楽曲のテーマを決める段階から『FGO』のライター陣にも参加いただいています。

 そこで「曲調はこんな感じ」「歌詞のキーワードはコレ」といった意見をガッツリと出してもらい、それを元にドレスのイラスト制作や、あわせてアニプレックスさんの方で振り付け、作曲、作詞など、それぞれの担当者に割り振られていきました。最終的にそれを組み合わせることで、どこかしらにそのサーヴァントらしい何かを感じていただけるものになったかなと思います。

――隠し要素としてアルトリア・ペンドラゴンがパートナーとして登場しますが、これはどういった意図で実装したのでしょうか?

塩川これまでお話したとおり、基本的にはマシュとの絆を確かめるゲームなので、マシュがメインであることには変わりありません。なので、アルトリアは物語がエンディングを迎えたあと、ゲームを気に入ってまだまだ遊びたいなと思っていただけた方に向けてのやり込み要素です。

 あとは「最初に武内さんが想像していたのはアルトリアが踊る姿だろうな……」と思ったからでもあります(笑)。武内さんがこんなに熱心に思うくらいですから、ファンの方にも喜んでいただけるに違いないと。

――なるほど(笑)。アルトリア登場時に開放される楽曲が“THIS ILLUSION”(※4)で、『Fate』ファンとしても感慨深いものがありました。この曲がスタッフロールにないのはネタバレ防止ですか?

塩川はい。ただし、アルトリア開放後にエンディングを改めて見ると、スタッフロールに追加されているんですよ。

――それは気づきませんでした!

塩川先日発表がありましたが、各曲のフルバージョンが聴けるCDも発売されます。新たな書き下ろし楽曲も入っていますので、ぜひ手にとっていただけたらと思います。

――アルトリアでプレイするときに注目してもらいたいポイントはありますか?

塩川アルトリアでもマシュと同じ曲をプレイできますが、せっかくですのでお互いの表情の違いも見ていただきたいですね。振り付けは同じなのですが、アルトリアらしいニュアンスの表情をしていますよ。

――マスタースキルを使用した際はマシュと回転が逆になりますが、これはなにか意図があるのでしょうか?

塩川同じスキルでもせっかくなので何か違いを出したかったという理由で採用しました。

【FGOワルツ】新たなマスター体験はどのようにして生まれたのか? 塩川洋介氏に作品に込められた想いや制作にまつわる裏側を訊く

――現時点で判明していない隠し要素はありますか?

塩川さすがに、もう全部出切っていますね。どちらかと言えば攻略方法のほうが奥深くなっていて、やり込み勢の方々がどこまで記録(スコア)を伸ばしてくれるかは気になっています。

――高記録を狙うコツがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

塩川譜面には、密度が高いところと薄いところの波がありますよね。スキルの効果時間は“拍”でカウントされているので、譜面の密度が高いところでスキルを使うと効率が良くなります。最終的には、譜面の濃淡を見極めてプレイするのがコツでしょうね。

――高記録を出すと数値が黄色く表示されますが、これはどういった意味があるのでしょうか?

塩川制作サイドが考える理論値の一歩手前ぐらいの記録になると黄色く表示されます。なので黄色になったら、ほぼやり尽くしたと思っていただいて大丈夫です。

――それが上限ではないので、さらに上を目指すこともできるんですね。

塩川そうなります。また、マシュとアルトリアでスキルの効果が違うので、サーヴァントを切り替えたら記録が伸びることもあるかもしれません。

――APもなく無限に遊べるので、『FGO』のメンテナンス中などにプレイできるのがいいですね。いつまでもやり込めます。

塩川ゲームデザイン的な細かい話になってしまいますが、『FGO』のバトルでは難しいことを考えずタップしているだけで遊べるような仕組みになっています。それと同時に、編成やスキル使用順などを考えて戦略を建てられる深みも用意されています。

 『FGOW』も基本的な思想は同じで、何も考えずに画面をタップしているだけで遊べるように作りました。ですが「このドレスであのポーズが見たい」、「高記録を出したい」といったことを考え始めると、じっくりやり込めるようにしています。ゲームデザインとしては、そうした部分でもさりげなく『FGO』らしさが根付いているように考えていました。

――最後に『FGOW』をプレイしてくれたマスターたちにひと言お願いします。

塩川『FGO』も6年目に入りました。そんなタイミングだからこそ、本作で改めてマシュというキャラクターの魅力を再認識していただけたらという想いで本作を世に送り出しました。

 こんなにもかわいいパートナーがいっしょに居続けてくれる旅路はステキなものだと思いますので、ぜひ『FGOW』を遊んで“これから『FGO』でマシュとともにずっと歩み続けていこう”と思っていただけたら幸いです。これからも、『FGO』『FGOW』ともどもよろしくお願いします。

【FGOワルツ】新たなマスター体験はどのようにして生まれたのか? 塩川洋介氏に作品に込められた想いや制作にまつわる裏側を訊く

※1 カプセルさーばんと……対戦型タワーディフェンスゲーム。PS Vita版『Fate/hollow ataraxia』に収録されていたミニゲームの移植版。
※2 under the same sky……2020年5月から7月にかけて展開した5周年企画で、全国47都道府県の地方新聞にその地方をイメージした特別衣装のサーヴァントのイラスト広告が掲載された。
※3 MOONLIGHT/LOSTROOM……2017年12月31日の大晦日に放映された特別番組“Fate Project 大晦日TVスペシャル2017”内で公開されたアニメ。
※4 THIS ILLUSION……PC版『Fate/stay night』の主題歌。以降の関連作品で、さまざまなリミックスがされている。

『FGOW』の全23曲を収録したCDが12月9日に発売

【FGOワルツ】新たなマスター体験はどのようにして生まれたのか? 塩川洋介氏に作品に込められた想いや制作にまつわる裏側を訊く

 『FGOW』の楽曲全23曲を余すことなく収録したCD『Fate/Grand Order Waltz in the MOONLIGHT/LOSTROOM song material』が12月9日に発売。価格は3500円[税抜]。

 CD化にあたり、新たに書き下ろし楽曲を5曲収録。ジャケットイラストはNOCO氏が描き下ろしている。

【商品概要】

  • 発売日:2020年12月9日(水)
  • 価格:3,500円[税抜]
  • 品番:SVWC-70495~70496
  • 仕様:CD2枚組+ブックレット
  • 初回仕様特典:NOCO氏描き下ろし特製三方背ケース
    ※商品の特典および仕様は予告なく変更になる場合がある。
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