京都アニメーションによる人気アニメシリーズ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。その最新作『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の公開日となる2020年9月18日(金)が、いよいよ間近に迫ってきました。
ひとりの少女が手紙の代筆を通して“愛”の意味を知る感動的な物語が、京都アニメーションの到達点といえる圧巻の映像表現で描かれる本作。
本稿では、このシリーズがこれまでに綴ってきたストーリーをおさらい。とくに重要なエピソードの見どころなどもピックアップしてご紹介していきます。若干のネタバレも含みますが、シリーズファンはもちろん、まだシリーズに触れたことがない方も、ぜひチェックしてみてください。
なおアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のシリーズ作品は、Netflix(ネットフリックス)にて独占配信中。2019年9月に劇場公開された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』も、今回の劇場版の公開にあわせて2020年9月18日(金)から配信が予定されています。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』とは?
原作は同名小説
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の原作は、京都アニメーションによる小説レーベル“KAエスマ文庫”から出版された、暁佳奈氏の同名小説。これに一部キャラクターの設定変更やエピソードの順番の入れ替えなどを行い、再構築したのがアニメ版となっています。現在、本編上下巻、外伝1巻、完結編の計4巻が刊行されています。
あらすじ 戦争の傷跡残る大陸で
物語の舞台は、大きな戦争が終結したばかりの、とある大陸。少女兵として育てられたヴァイオレット・エヴァーガーデン(声:石川由依)は、戦場で生き抜く方法以外のことを知らず、“人の感情”というものを理解できません。
そんな彼女の胸にあるのは、ひとつの疑問。戦いの中で離ればなれになり、それから一度も会えていない戦時中の恩人、ギルベルト少佐(声:浪川大輔)が、ヴァイオレットへと最後に告げた「愛してる」という言葉の意味でした。
戦争が終わり、ギルベルト少佐の親友であるホッジンズ(声:子安武人)に、身の振りかたを世話してもらうことになったヴァイオレット。戦闘で両腕を失った彼女ですが、機械仕掛けの義手によって、以前と変わらない生活が送れるようになります。
そして彼女は、ホッジンズが立ち上げた“C.H郵便社”で“自動手記人形”として働くことを、みずからの意志で選びます。自動手記人形とは、文字が書けない、自分の気持ちをうまく表現できないといった人たちに代わり、大切な人への手紙を代筆するサービスのこと。
ちなみに義手や職業名もあって、ヴァイオレットのことを機械仕掛けの人形と勘違いする方もいるそうですが、れっきとした人間です。
ヴァイオレットが自動手記人形となることを決めたのは、郵便社を訪れた依頼人の手紙に「愛してる」という言葉があったため。感情を知らない少女は、手紙の代筆を通して人々の想いに触れ、かつて恩人から聞いた「愛してる」という言葉の意味を、学んでいくのです。
テレビアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
基本的に一話完結のテレビシリーズ
ヴァイオレットの成長が全13話で描かれるテレビアニメ(2018年放送)。彼女の過去、C.H郵便社に勤務することになる過程、彼女を取り巻く人々など、シリーズの基本となる背景も描かれます。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界を知るならば、まず視聴していただきたいのがこちらです。
軍組織で教え込まれたため、指示に従う業務ならば誰よりも正確にこなせるヴァイオレット。しかし、人々の言葉の裏に隠された想いや願いすらも汲み取って文章にしなければならない代筆の仕事は、感情を十分に理解できない彼女にとって、困難を極めます。
それでも、人の数だけ存在するたくさんの感情にひたむきに触れることで、人々が生きていくうえで“感情”がいかに大切なものなのか、ヴァイオレットはしだいに学んでいきます。それは自分自身の気持ちを理解することにもつながり、郵便社に来たばかりのころは表情ひとつ変えることのなかった彼女の顔にも、やがてさまざまな感情が浮かぶように。
テレビシリーズおすすめエピソード
前半のエピソードでの筆者のお気に入りは、第5話。14歳の王女・ドロッセル(声:中島愛)と、24歳の隣国の王子・ダミアン(声:津田健次郎)との公開恋文の内容。そしてふたりの想いの結末には、胸が温かくなること間違いなし。
そのもどかしい恋模様を両国民が身もだえしながら見守る描写も微笑ましく、視聴者も彼らといっしょに引き込まれてしまいます。そしてこの恋文の代筆は、ヴァイオレット自身にも大きな変化をもたらします。
また、第7話は、ある喪失によって物語が書けなくなった劇作家・オスカー(声:滝知史)の代筆を行うエピソード。その後のヴァイオレットのトレードマークのひとつとなる、水色の日傘を譲り受けるエピソードでもあるのですが、その過程では、胸が詰まりそうな悲しみと、そこからの救いが、感動的に描かれます。
いくつかの仕事を経て、有能な自動手記人形として世間でも評判になっていくヴァイオレット。けれど、人の想いが理解できるようになるにつれ、彼女はある苦しみに苛まれます。それは、感情のない兵器として扱われ、多くの敵兵を手にかけてきた戦時中の記憶。彼らにも、想いを伝えたい人が居たのかもしれない。
自分が奪ってきたものの重たさに今更になって気づいたヴァイオレットは、多くを奪ったのと同じ両手で、人の想いを手紙に綴るという矛盾に、引き裂かれそうになるのです。
物語後半ではヴァイオレットに変化が
そんな彼女が、どのように自動手記人形としての自分を受け入れられるようになるのか。これが描かれる第9話のクライマックスは、彼女の歩みを見守ってきた者ならば、涙なしで観ることは難しいでしょう。
続く第10話も、作中屈指の名エピソード。依頼人の娘であるアン(声:諸星すみれ)の、母親への想い。そして、母親・クラーラ(声:川澄綾子)の、娘への深い愛情には、息を呑む映像演出も相まって、胸を大きく揺さぶられるはず。
人の想いを理解し切れなかったころのヴァイオレットでは、この依頼を最後までやり遂げることはきっと出来なかったことでしょう。そのことを思えば、ヴァイオレットの変化にも改めて感動させられます。
終盤には、再び戦争の傷跡と向き合うことになるヴァイオレット。これを乗り越えた彼女は仲間たちに勧められ、届くことはないかもしれないと知りながら、ギルベルト少佐に宛てた手紙を初めて書きます。そこに綴られたつぎの言葉は、彼女がこの物語で手にしたものの大きさを、何よりも雄弁に伝えてくれたのでした。
「私はいま、“愛してる”も、少しはわかるのです」
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン:スペシャル』
テレビアニメの第4話と第5話のあいだにあった、ある物語を描く『ヴァイオレット・エヴァーガーデン:スペシャル』。初出はBlu-ray&DVD第4巻に収録された“Extra Episode”ですが、前述の通りNetflixでも視聴が可能です。
ヴァイオレットがオペラ歌手のイルマ(声:日笠陽子)から受けた依頼は、恋文の代筆。この依頼の裏には、戦場から帰らないイルマの恋人、フーゴへの想いがありました。そして彼女との交流が、ヴァイオレットの“愛”についての学びのうえで、少なくない影響があったであろうことも明らかになります。
まだ感情表現に乏しいころのヴァイオレットだからこその、かわいらしくて笑ってしまうような行動も、見どころです。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』
2019年9月に劇場公開が行われた外伝は、ヴァイオレットとの出会いによって人生が大きく変わっていく、ふたりの少女の物語です。
望まぬ生き方を押し付けられ、生きることに絶望している貴族令嬢のイザベラ(声:寿美菜子)と、身寄りのない少女・テイラー(声:悠木碧)。ヴァイオレットがイザベラの教育係として、彼女が通う女学校を訪れたことを切っ掛けに、まったく別の人生を送るはずだったふたりの未来が、繋ぎ止められます。
物語のキーワードは“名前”。すべての人に当たり前のように存在する名前。しかし、大切な人を思い浮かべるとき、名前は、その人にとってだけの特別な意味を持ちます。ときとしてそれは、辛い毎日を乗り越える希望にすらなる。
イザベラ、そしてテイラーにとっての特別な“名前”。その意味を知ったとき、温かい感動が観る者の心を震わせます。
劇場サイズにあわせた画面構成で描かれる抑制の効いた映像には、テレビシリーズにも増して美しく描き込まれたキャラクターたちの感情描写も相まって、うっとりしてしまいます。
ふたりの少女の秘めた想いが、繊細で美しい映像と音楽で綴られる本作。外伝と銘打たれてはいるものの、ヴァイオレットの物語の欠かせない1ピースとして、ぜひ多くの方にご視聴いただきたい作品です。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』Blu-ray(Amazon.co.jp)『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は2020年9月18日(金)公開
2度の公開日延期を経て、ついに公開される『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。
届かなくていい手紙なんてない――これはシリーズで幾度となく登場する、作品を象徴する重要な言葉です。
多くの出会いや別れを経て、人々の“想い”の大切さを知り、この言葉の意味を心から理解できるようになったヴァイオレット。彼女は人々の喜びや悲しみに寄り添い、手を差し伸べることのできる、心やさしい女性へと成長しました。
そんな彼女の“愛”を知る物語は、果たしてどんな結末を迎えるのでしょう? さらに磨きが掛かるであろう映像美にも、期待が掛かります。
戦争の傷跡も薄れ、新たな時代の到来が迫る世界で、ヴァイオレットの最後の物語が、始まろうとしています。
作品情報
- タイトル:『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
- 公開日:2020年9月18日(金)
スタッフ
- 原作:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』暁佳奈(KAエスマ文庫 / 京都アニメーション)
- 監督:石立太一
- 脚本:吉田玲子
- キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
- 世界観設定:鈴木貴昭
- 美術監督:渡邊美希子
- 音楽:Evan Call
- アニメーション制作:京都アニメーション
キャスト
- ヴァイオレット・エヴァーガーデン:石川由依
- ギルベルト・ブーゲンビリア:浪川大輔