2020年9月2日~4日まで、CEDEC公式サイトのオンライン上にて開催された日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンス“CEDEC 2020”。開催3日目となる9月4日に開かれた“『ブループロトコル』におけるアニメ表現技法について”のリポートをお届けする。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

セルルック表現と自由なカメラワークは相性が悪い

 バンダイナムコオンラインとバンダイナムコスタジオが共同で開発や運営を行うPC用オンラインRPG『ブループロトコル』。2020年4月23日~4月27日にかけてクローズドβテストが行われており、劇場版アニメに入り込んだかのような体験ができることをウリのひとつとしたタイトルだ。

 最初に登壇したのは、ビジュアルセクションリーダーの千家英嗣氏。本プロジェクトは新規IPとしてグローバル展開を前提としているため、海外産を含めた競合タイトルに並び立てるよう、日本産であることがひと目でわかるグラフィックを大きな特徴として据えていると語った。

 そのために、セルアニメーション表現を徹底的に極めるようビジュアルの開発を推し進めてきているとのこと。本セッションではその骨子とUE4での実現方法について解説すると説明した。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 ここからは、コンセプトデザインを手掛ける奥村大悟氏より、“アートスタイル概要”について解説をいただく。そもそものグラフィックコンセプトをひと言で表現すると、“壮大で精微なセルルックのゲームにする”ことだという。

 では、セルルックのゲームを作るためのアセット(制作に必要な素材データ)とはそもそもどういうものか。奥村氏自身のイメージでは、“ディティール削り目でちょっと大雑把でこじんまりしたもの”だそう。しかし、その先入観こそが本作のグラフィックにおける最大の障害となるのだという。

 その先入観を取り払うために奥村氏が用意したキーワードが“劇場アニメの世界に入り込める作品”だ。いまでこそ公式サイトなどでも大々的に打ち出されているテーマだが、奥村氏の当初の予定ではあくまで内輪向けの説明に使うためだけの言葉だったらしい。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 グラフィックの方向性が定まったところで、続いて考えなければならないのが“世界設定”について。奥村氏は最初、SFのオンラインRPGだと聞いていたそうだが、よくよく話を聞くとどうやらサイエンスの要素はあまりなく、剣と魔法と過去の超文明を中心としたファンタジー世界であることがわかった。

 そこで閃いたアイデアが、“兵士が甲冑を身に纏っているような16世紀頃の人類が、突然便利な技術を手に入れて宇宙服を作ったらどうなるのか”。そこから、本来は共存し得ないものどうしを組み合わせたらおもしろいのではないかと思い、アイディアを膨らませていったそう。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 ここまでで、おおよその世界観は定まった。しかし、問題はここからだ。これらをゲームとして動かさなければならない。セルルック表現と自由なカメラワークは、どうやら相性が悪いようだ。

 考えてみればそうだ。アニメは作り手が設定した角度からしかその世界を見ることができない。本作でやっていることは、いわばテレビの中に顔を突っ込んでアニメの世界をグルグルと見回しているようなもの。劇場アニメの世界に入り込んだような体験とは、まさに言葉のとおりだったのである。

 当然だが、そう簡単な話ではない。「セルルック表現と自由なカメラを共存させるためのスマートなやりかたは存在しない」と、奥村氏。ではどうするかといえば、小さな“アニメらしい表現”を地道に積み重ねていくのだという。

 たとえば、キャラクタークリエイトの画面。すでにテストをプレイしたり情報を追っていたりした人はご存じだろうが、画面構成はまるでアニメの設定画。あるいは、キャラクターの表情だったり、スキルのエフェクトだったりも、どこかアニメを彷彿とさせる。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 こうしたさまざまな細かい工夫が折り重なって、“アニメの中で冒険している”感を演出しているのだ。以降は、その細かな工夫について各担当者より詳しい解説がなされた。

アニメらしい表現への徹底的なこだわりとゲーム動作のためのデータ削減のバランス

 キャラクターに関する工夫について解説してくれるのは、キャラクターパートリーダーの角広昭氏だ。ここからは、より多くの専門用語が飛び交うようになっていく。まずは、以下の画像をご覧いただこう。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 これが最終的なキャラクターのルック。ここに至るまでの工程について、順を追った説明がなされた。

 まずは輪郭線。モデルデータのサイズ削減と法線編集の作業コスト低減のため、ポストプロセスの輪郭線描画をメインに使っているそう。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 具体的には、最初にモデルのアウトラインに輪郭線を描画。下の画像に赤い矢印で示されている部分は内側にあるため、この段階では輪郭線が描画されていない。

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 これを解決するため、つぎは明度差を利用してラインを描画。明度差の大きさに比例して、大きいほど濃く描画されるようだ。

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 続いて、関節などのモデルが重なる部分の描画。ここでは以下の画像のようにコントラスト差がある部分に輪郭線が描画される。

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 あごや口、耳、髪の毛など細かい部分は輪郭モデルを使用。たとえば、あごは正面から見るとデプスによってアウトラインに輪郭線を描画できるものの、斜め前方向から見ると首と重なってうまく描画できない。当初は関節と同様にコントラスト差を利用することを考えていたそうだが、鼻筋など輪郭線が不要な部分にまで描画されてしまうことがわかったため、輪郭モデルを使用することにしたのだという。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
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 続いてはシェーディングについて。境界部分はグラデーションを使わずにくっきりと、ノーマルマップはDDS圧縮によるブロックノイズが境界部分へ悪影響を及ぼすので使用していないとのこと。

 また、明暗の割合は5対5にすると逆光時にすべて影色になり、見た目が平坦化してしまうシチュエーションがあることが判明。そのため7対3で明るめの印象を表現しているそう。

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 影色については、こちらも作業量軽減やデータ削減のため、ディフューズカラーに対する影色は自動的に作成。ただ、明度を下げると濁って見える。そのため色相をずらすことで、明度は下げるが彩度をあまり下げないようにしているとのこと。

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 光をオブジェクトの背後から当てることで輪郭を明るく見せる“リムライト”は、モデルの法線を使って表現すると幅の太さが不均一になってしまったり、不要に立体感を強調したりする問題が発覚。そのため、ここではポストプロセスを用いてアウトラインに対して均一な太さで描画するようにしているようだ。

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 さて、本作を含めた多くのオンラインRPGではゲーム内時間に基づいてフィールドの様子も変化していく。ここで問題になるのが、メインの光源である太陽の位置が変わるということ。キャラクターの正面や背面から光が当たる分には問題なくても、真上から当たるとどうしても無駄な影が入ってしまう。

 そのため、肌のマテリアルにはライトの角度を50%軽減して当たる仕組みを採用しているとのこと。

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 そして、とくに女性キャラクターにとって重要なのが、髪の毛のスペキュラ(反射光)。本作では、カメラの外側に行けば行くほど、スペキュラの球が縦長に伸びるようなスタイルを採用している。

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 しかし、これを実装するにはいくつか問題があったという。ひとつは、髪の毛を均等に配置したUV展開だとひとつのマスクに割り当てられる面積が小さくなり、境界部分にピクセル感が出てしまうこと。

 解決法のひとつは、割り当て面積を増やすこと。スペキュラ部分を別UV化して、必要なフェイスを再配置、テクスチャのベイクが行われているとのこと。

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 もうひとつの問題は、スペキュラの拡縮の判定をどう行うか。本作では2方向へのスペキュラ拡縮を行なっており、かつUV上ではそれぞれの方向がバラバラになってしまっている。これを揃えること自体は可能だが、かなりのコストがかかってしまうのだそう。

 そのため、テクスチャのインポート時に各ハイライトの重心を判定。そこからの距離によってUVを移動することでハイライトの縮小を行う方法が採られている。具体的には、以下の画像のような仕上がりに。スペキュラの境界部にノイズはなく、すっきりとした見た目に。カメラを引いてもしっかりとディティールを残すことができている。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 つぎは、アニメの設定画のようなレイアウトについて。そもそもどのように作成しているかというと、複数の座標で撮影したデータを2Dテクスチャとして使用。それらを切り抜き、1画面内に重ね合わせることで完成するのだそうだ。

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 キャラクターの衣装部分は、差分モデル作成のコスト削減のため1個のアセットで済ませているという。たとえば、下の画像では上着に対してグローブの長さは4段階で固定されていて、干渉する部位を非表示にすることで差分を出している。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
ただ消すだけでは太さの違いに対応できないので、接続部分に絞り骨を入れて、モデルどうしが干渉しない仕組みになっている。

 最後に、キャラクターの表情について。画面内に大量のキャラクターが同時に表示される都合上、データ削減のためブレンドシェイプ手法は使わず、骨で対応することがプロジェクト初期に決まっていたという。

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トータル150本もの骨を使って表情が作られている。
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完成した表情。目や口などのパーツを異なる組合せで活用することで、約25種類の表情を取り揃えている。

エフェクトをあえて透過させないことでアニメらしい表現に

 エフェクト表現について解説してくれるのは、エフェクトパートリーダーの平山英輔氏および杉山和也氏。まず話題に挙がったのは、“不透明による見た目表現”。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 アニメらしい表現のために不透明なエフェクトを目指したものの、ゲームとしては視認性が低下するという問題があった。これを解決するために導入されたのが、カメラ距離によるエフェクトの距離消し処理。カメラが特定の距離に来ると自動的にカメラに近いエフェクトは消えていくため、視認性を保つことができる。

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 また、一般的にアニメで使われているエフェクトは特定のパターンがループするように作られているが、ゲームでこれをそのまま使うとプレイヤーに単調な印象を与えてしまう。

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 そこで、テクスチャに歪みを加える“フローマップ”とマスクとなるテクスチャの明暗をもとに消し込みを行う“ディゾルブ”のふたつを組み合わせて、ループ感を感じさせないアニメ的な消し感を表現しているという。

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 さらに、モデルの法線がどれだけカメラに向いているかを数値化する“フレネル”を用いて、メッシュの形に沿って色を塗り分けることで、角度によって異なる見えかたをするように工夫されている。

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 続いては、“頂点移動マテリアルの活用”について。まずはこちらの画像を見てもらいたい。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
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『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 キャラクターがくり出した斬撃のモーションが、どの角度から見ても違和感なく表示されているのがわかると思う。もしこの斬撃モーションが2Dで表現されていた場合、真横から見るとただの線になってしまうはず。

 そこで本作では、下画像のようにベーグル状のモデルを作成し、斬撃のアニメーションに合わせて先端部分がつぶれるように設定してあるのだという。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
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 これを踏まえて先に見せたゲーム内の画像を見ると、このベーグル状のモデルの外周に沿って斬撃のエフェクトが映し出されているのがよく分かるはず。

 そして、最後の仕上げとして重要なのが、全体的な色調整や画面にグラデーションをかける処理、さらに攻撃に対するフレアなどさまざまな特殊効果を加えること。

 こうした仕上げの処理は昨今のアニメのハイクオリティな絵作りに大きく寄与しているなくてはならない工程で、“アニメの撮影処理の再現”を目指す本作においては必須のものと考えていたという。

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 ここではとくに、“パラ”と呼ばれる、セル画のべた塗りの平坦な印象を緩和するために絵の上からグラデーションをかける処理について解説された。

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 上の画像は、説明のために該当するポストエフェクトの強度を10倍にしたもの。画面上部にかかっている青いグラデーションがパラだ。パラの挙動は汎用性のために太陽を基準として、サンフレアと連動する形にしているという。

 ここで問題点がひとつ。これらのエフェクトは、常時表現したいわけではないのだ。具体的には、建物や洞窟などに入った際に、太陽を基準としたこれらのエフェクトを表示するわけにはいかないということ。かといって、そうした太陽の光が届かない場所をすべて洗い出して手動で設定を変更するのは労力がかかりすぎる。

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 そこで、プログラマーに頼んで“カメラが日陰に入ったことを検知するシステム”を作ってもらったのだとか。これによって、日向と日陰でエフェクトの入り方を切り替えられるようになったそうだ。

手描きをせずに“手描き感”を表現するための工夫

 最後は、背景パートリーダーの長尾弘子氏より、背景についての解説がなされた。ここでのメインテーマもやはり、アニメ表現を目指すためにゲーム内でどのような工夫が行われているのか、ということ。

『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】

 たとえば、背景アセットは物理ベースのマテリアルを使用しているが、フォトリアルになりすぎないようにテクスチャの情報量を整理している。とはいえ、モデリングを大雑把にはせず、形状自体はフォトリアルなものと同じように作り込まれている。

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 また、テクスチャーはアニメテイストを目標とはしているものの、手描きで仕上げようとすると時間がかかりすぎたり、作業者のスキルによってクオリティにバラつきが出てしまうという問題があった。

 そこで、テクスチャー作成のメインツールをPhotoshopからSubstanceに変更。マテリアルやフィルター、ジェネレーターをSubstanceで共有することによって、クオリティのバラつきが少ないテクスチャーを手早く作成できるようになることを期待したとのこと。

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 こちらは、NGが出た樽オブジェクト(右)と、それを修正してOKとなったもの(左)。その違いがわかるだろうか。追い求めたのは“手描き感”。NGのものは色コントラストが強く、線もシャープに描かれているので写実的に見えてしまう。

 そこでコントラストを弱め、シャープフィルタを外し、さらに共用のブラーフィルタとモザイクフィルタをかけることで、手描きっぽいにじみ感を表現。無事にオーケーとなったとのこと。

 また、テクスチャー制作で気を遣うのはオブジェクトのエッジ部分の描きかただという。現実よりもエッジ部分を強調し、エッジラインは全体的に均一に入れすぎないように気を付けているそう。物の歪みを表現したり、あえて途切れやムラを付けることで手描き感を表現している。

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 プレイヤー目線では当たり前に存在している背景にも、制作過程には数々のこだわりがある。ここでは、草原マテリアルについて解説がなされた。

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担当者がアニメの背景美術を研究し、アニメ表現に近づけるために必要な条件をリストアップしたもの。
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こちらは、それらの条件が満たされていない状態の草原。
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1番の条件のみクリアーするとこんな感じに。手前側と奥側で草地の色がかなり違ってくる。
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さらに2番目の条件も加えるとこうなる。ここまででもぐっとアニメの背景らしくなっている。
『ブループロトコル』小さな“アニメらしさ”が積もり積もって、劇場アニメに入り込んだような体験を生む【CEDEC 2020】
そしてこれが完成形。手前側の草にハイライトが追加され、動画で見ると風が手前から奥に向かって吹いていることを感じられるようになる。

 背景パートの解説を最後に、“『ブループロトコル』におけるアニメ表現技法について”のセッションは終了となった。記者は本作のクローズドαテストおよびクローズドβテストに参加している。もちろん、漠然と“グラフィックがすごい”と感動したし、カメラをぐるぐる動かしながら遊んでいたが、改めて制作のこだわりを聞くと、そのすごさが明確になったような気がする。

 いまは、このセッションで聞いたことをゲーム内で実際に見てみたくて仕方がない。ここまで読んでくれた『ブループロトコル』プレイヤーの皆さんも、次回テストの際にはもう1度このセッションのことを思い出して、細かい表現について確かめながら遊んでみるのもいいだろう。俄然、次回のテスト、そして正式リリースが楽しみになってきた。