2020年7月17日に発売されたプレイステーション4用ソフト『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』。発売3日で全世界240万本を売り上げ、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが発売したプレイステーション4の新規IPタイトルとしては最速の売り上げを記録。

 日本でも初週20万本以上の売り上げを記録しており、世界的にも日本でも大ヒットとなっている。本記事ではこの高評価を受けて、開発を手掛けるサッカーパンチ・プロダクションズのクリエイティブ・ディレクターであるネイト・フォックス氏と、主人公の境井 仁を演じた、俳優のダイスケ・ツジ氏に、その感想や制作秘話などをお聞きした。なお、内容については本編のネタバレなどを一部含んでいるのでご了承願いたい。

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ダイスケ・ツジ

米国ロサンゼルスを拠点に俳優、声優などとして活動。『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』では、主人公・境井 仁を演じた。テレビ番組や、シルク・ドゥ・ソレイユなどの数々の舞台、サーカスでも活動している。

ネイト・フォックス

『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』クリエイティブ・ディレクター。『inFAMOUS』シリーズのゲームディレクターや、『怪盗 スライ・クーパー』シリーズのゲームデザイナーも務めた。

『ゴースト・オブ・ツシマ』主演俳優ツジ氏×開発スタッフが語る主人公・境井仁の誕生秘話。仁の人物像はどのようにして生まれたのか?_06
ダイスケ・ツジ氏
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ネイト・フォックス氏

主人公・境井 仁のキャラクター誕生秘話

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――世界のみならず、日本でも大ヒットとなっている本作ですが、日本のプレイヤーからの高評価を受けて、どう感じているのでしょうか。

ツジとてもうれしいです。発売前は、じつは緊張していまいた。果たして本当にプレイヤーの皆さんに受け入れてもらえるのか、そして日本の人たちに楽しんでもらえるのか心配で。僕は日本人ですがアメリカ育ちで、完全に日本人でもないし、完全にアメリカ人というわけでもありません。そんな中、日本の人たちに受け入れてもらうというのは自分にとってすごく大きなことです。

ネイト日本人の方々に、改めて感謝の気持ちをお伝えしたいです。本作は本物の侍になれることを目指して制作したので、日本の方々から好評を得るというのは私たちにとって非常に特別なことでした。また、時代劇というジャンルに、新たな作品を提供し、そして成功することができたと感じています。それもアメリカ人である私たちが作った鎌倉時代で、です。もちろんそのために、日本の専門家たちなどにも協力していただいたからこそ、時代劇らしさが出せたのだと思います。

――世界的にも大きなヒットを飛ばし、ツジさんにも大きな反響の声が届いたのではないでしょうか。

ツジ本作の撮影が終了した時点で、周囲からは「これでダイスケはスターになっちゃうね!」と冗談交じりに言われたりしましたが、マジメに捉えないようにしていました。ただ、発売後はそれがもう、ものすごい反響で。それまでは少なかったインスタグラムのフォロワー数が一気に13000人になったりして。とにかく素晴らしい評価がたくさん返ってきて、正直まだ圧倒されています。

――ツジさんはTwitchにて、ご自身で本作の実況プレイを生配信していましたよね。

ツジゲームプレイを配信したのは、じつはプレイステーション4を持っていない家族のために、「こういうゲームの主人公を演じたんだよ」と伝えるために始めたことでした。それを知ったファンの方々が続々と僕のチャンネルに来てくれて、視聴者数もすごく増えて驚きました。中には日本からも見てくれた人もいて、そのときは日本語でコミュニケーションをしたりもしました。

――配信中に、温泉に入る仁のお尻を見て歓声を挙げていましたよね(笑)。

ツジはい。そっくりでしたから(笑)。

――ちなみにネイトさんにお聞きしたいのですが、仁のああいった演出を入れた理由は……?

ネイト本作ではリアリティにこだわりたかったからです。温泉に入るときは、侍も裸になる。それだけのことです!

ツジ(笑)。

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――なるほど(笑)。では、実際にゲームクリアーまで体験し、プレイヤーとしての視点からツジさんは本作をどう評価していますか?

ツジ客観的な評価は難しいですが、あえて言うなら(いたずらっぽい笑い)……史上最高の傑作だと思います(笑)。本当に、ストーリーはもちろん、ゲームプレイ自体も素晴らしく、もう最後まで夢中になってプレイしました。広大な対馬でプレイヤーが自由に探索している感じを持たせつつも、しっかりと物語が語られるのが巧みでした。

 ただオープンワールドにするのではなく、オープンワールドの中でいかにストーリーを語るのかが秀逸ですよね。本作の主人公である境井 仁を演じられたことはもちろん誇りに思っていますが、本当の主人公は対馬自体だと思うほど、対馬での体験すべてが楽しかったです。いまは2周目を遊んでいる最中なのですが、対馬のどこへ行っても美しい風景が見られるので、まだまだ楽しめそうです。ちなみに、自分の出演していないシーンはどういう物語か知らなかったので、そういった場面はとくに楽しんで遊んでいます。

――ネイトさんはこのツジさんの感想を受けて、どう感じましたか?

ネイト嬉しい限りです。ツジさんとは、長年本作へ取り組んできました。ですから、単純にツジさんが本作を遊ぶのを見ているのが楽しかったですね。とくに仁が戦いで負けてしまったとき、ツジさんが本当に悔しそうにしているのを見てニヤニヤしていました(笑)。このゲームをいっしょに作り上げた仲間が、本作を遊んでいる姿を見られたのは、ある意味、“円環”が完結したといいますか、本当の意味での完成を見届けた気分です。

――では、境井 仁役にツジさんを起用することに決めた経緯を教えてください。

ネイト仁は侍でありながら、自らの信念で侍としての在り方を破っていくという男です。プレイヤーとしても、侍といえば、侍らしいストイックさを多くの方々が期待するところでしょう。ですが、仁役のオーディションでは、じつは焚火を囲んで食事をしているところにキツネが現れて、キツネに餌をあげるというシーンでオーディションをしたのです。仁のやさしさ、柔らかさ、人間らしさが現れるのは、その無防備な一瞬だと思ったんですよ。そこをツジさんが完璧に演じてくださったので、ツジさんに決まりました。ちなみに、キツネが仁を祠へ誘ったり、キツネを撫でたりという要素は、ツジさんの仁の演技に触発されて生まれたんです。

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――ツジさんは、具体的に仁を演じるにあたり、どこまでを担当されたのでしょうか?

ツジ顔のモデルや英語音声のほかに(演技中の)フェイシャルキャプチャー(表情の動き)やモーションキャプチャー(身体の動き)なども担当しました。ただ、我々が“クラスB”と呼んでいたムービーでは、私の担当はじつはフェイシャルのみで、身体の動きは開発が作ったもので補われています。

 僕はオープンワールドゲームが大好きなのでとくにそう思うのですが、新たなゲームを作るならば、新たな要素も必要だと思います。そういった新たな技術の試みが加えられているのも、おもしろいところです。ちなみに、ゲーム中のバトルの動作なども僕のモーションではありません。

ネイトモーションキャプチャーは、ドラマ的に重要なところで使用しています。たとえばキャラクターの人間性や、根幹に関わるような、感情がぶつかり合うようなシーンです。それ以外のアクションシーンやバトルは、剣道や殺陣の専門家たちによるものです。

 というのも、本作は刀の扱いの正確さや鋭さを重視しているので、そこは専門家に演じていただきました。また、ラッキーなことに、モンゴルの戦いかたに精通している専門家を迎え入れることもできて、荒々しい蒙古のアクションや、斬られた際の時代劇らしいやられかたをモーションに取り入れることができました。

――ツジさんが起用されることが決まり、そこからサッカーパンチ・プロダクションズの皆さんとツジさんは、どのように本作制作を進めていったのでしょうか?

ネイトゲーム開発というのは、最初に「こうしたい、ああしたい」というコアになるアイデアがあります。本作は、中世の日本を舞台に、侍となって旅をすることです。そのアイデアを元に、それを支えるさまざまな要素を加えていきます。その中でも、主人公というのはプレイヤーがある程度、自分自身を投影するものです。それにぴったりの主役が必要だったところ、ツジさんに出会えたのは、とても幸運なことでした。

ツジ開発中のプロセスは、さまざまなことを発見しながら進む長い長い旅のようでした。基本的には脚本家が書いたものを、それをゲームのシナリオにして、僕たちが演じます。

 ですが、演じたものをゲームに入れてテストプレイをしてみたところ、たとえばこのシーンはこのままでは使えない、またはそのシーンを別のところのシーンにしようとか、何度もくり返し調整していくんです。その中で学んだこともありますし。たくさんのモーションキャプチャーをする中で、より仁というキャラクターを作り上げていきました。

ネイトたしかに。我々としても、とくにツジさんと長い時間、ゲーム制作をともにできたのが良かったです。ストーリー展開で、どのように進んでいくのかという選択は、ツジさんが演じた仁というキャラクター性に強く影響を受けて方向性を決めることができましたから。

――ツジさんはいままでにもゲーム作品に出演したこともあるそうですが、今回のお仕事はいかがでしたか?

ツジキャラクターのボイスを担当させていただくことはあったのですが、本作は初の主役だったので、これまでとは異なる体験でした。一番の違いは、本作では自分が仁というキャラクターを作り上げた面があることです。サッカーパンチ・プロダクションズとのコラボレーションとでも言いますか。たとえば撮影の最後には、ネイトから「好きなように仁を演じてみてほしい」と言われ、シナリオに無かった会話もたくさん演じました。

ネイトそういった演技は、たくさんゲームに取り入れられています。当初のプランには無かった仁を、ツジさんのおかげで生み出すことができました。

ツジたとえばですが、竜三との最後のシーンや、その前後は、撮影の最後の自由演技によって生まれたシーンです。

――ツジさんは、境井仁という人物にどのような印象を抱かれましたか?

ツジこれは役者というより、おもにプレイヤーとして遊んだ視点ですが、本作は冥人と呼ばれる存在の誕生と、仁がどんな人物で、何を大事にしているのかが語られるストーリーだと思います。志村はゲーム冒頭で「お前にとっての誉れとはなんだ」と問いますよね。仁は最終的に、エンディングでその答えを出します。仁は対馬で、英雄のような活躍をしていながらも“誉れ”とは何か、その答えを求めながら旅をしていったんじゃないでしょうか。

 また、生き残ってしまったという罪悪感(サバイバーズ・ギルト)も仁にはあります。たとえば、父が殺されたシーンですとか、あるいは小茂田の浜で自分だけが生き残ってしまったとか。ですから、最初にコトゥン・ハーンに突撃したのは、自害するためと言いますか、自分が武士として死のうとした戦いだったと思います。ただそこで武士として死ねなかったので、武士として死ねないのであればどうするのか? ということを考えたのが仁であり、本作だと思います。もちろん基本的な答えとしては、風となった父とともに、対馬を救うための旅をする、という決断をしたと思うのですが。

 ちなみに、仁の父に関してですが、僕も父の詳しい設定は知りません。ただ、旅を通して仁は、最終的にかなり父と同じような侍になっていったのではないでしょうか。

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――そんな仁を、演じるにあたって気を付けたポイントを教えてください。

ツジ基礎的なことは、姿勢や立ち振る舞いを侍らしくする、という身体的な演技でした。それ以外ですと、僕は人生と芸術というものは不可分だと考えています。僕は本作で初めて大きな役を演じることになったこともあり、よりいいもの提供しなくてはいけないと意気込んでいました。それは作中の仁も、同じ気持ちだったと思うんです。

 序盤は自分が対馬の民を引っ張っていく存在になることに消極的で、「伯父上さえいればなんとかなる」という姿勢でしたが、最終的には仁も「やらなくてはならない」と思うようになり、民は仁を慕うようになっていきます。作品の中で何かを証明しなくてはならないという自分の意気込みと、仁の覚悟が、ある種シンクロしていたのかなと思います。

――実際に仁を演じるツジさんを見て、ネイトさんはどのように感じましたか?

ネイト制作し始めた当初は、侍と言えば三船敏郎のイメージが離れませんでした。アメリカで言えば、侍=三船敏郎の、豪胆かつユーモアもちょっとあるような、そんな侍のイメージなんです。ツジさんはそういう侍も演じられるのですが、ある種の繊細さや脆さのようなものが垣間見えて、我々にとって大きく触発されるイメージでした。

 あるべき侍の姿というもの対して、その姿にどうしてもなれないところがある仁という姿を、ツジさんはみごとに演じてくださいまして、とくに破之段~離之段のあいだ(※いわゆる2章~3章のあいだ)は、仁にとって辛いことの連続でしたが、そこで感情を隠さずにストレートな仁を演じていただきました。その演技に触発されて、ストーリー展開もああいったものになったのです。

――制作中のとくに印象に残る思い出はありますか?

ツジひとついいエピソードがあります。僕はオレゴンで公演された舞台に出演しながらも、本作の収録をしなくてはいけない時期がありました。そんなときも、サッカーパンチ・プロダクションズの皆さんは、スケジュールを調整してくださって助かりました。ただ、オレゴンから、モーションキャプチャースタジオがあるロサンゼルスまで直行で飛ぶ飛行機がなかったので、シアトル経由で通う必要がありました。

 あるとき、便が遅延し、空港で一晩過ごさなくてはならなかったのですが、サッカーパンチ・プロダクションズはシアトル近郊にある会社ですから、スタッフも近くに住んでいる人が多いんです。スタッフの皆さんは忙しい中、空港までわざわざ来てくれて、そこでネイトさんが毛布を買ってプレゼントしてくれたのです。おかげで、一晩快適に過ごせました。ネイトさんの優しさや、人間性が感じられるエピソードだと思います。

ネイト舞台出演があるにも関わらず、わざわざロサンゼルスまで来てツジさんはモーションキャプチャーをしてくれました。我々ももちろん、モーションキャプチャーをする際には、シアトルからロサンゼルスに飛んで、ツジさんと同じホテルに泊まって撮影していたんです。ですので、仕事以外の時間もツジさんとはたくさん過ごしました。より良いものを作るために、1日中いっしょに過ごすという、その時間がとても良かったです。

 ツジさんといっしょにディナーを食べるために、6キロメートル以上離れたお店まで歩いたこともありました(笑)。会社務めとして、仕事としてゲームを作るのではなく、まるで学生時代の仲間たちと作品を作り上げているかのような気分でした。

ツジ僕もそう思います。本当に楽しい時間でした。

ネイトちなみに「毛布を買うだけじゃなくてホテルに泊めてあげなよ!」って皆さんも思われたかと思いますが、航空会社から「ホテルに泊まると手続きや何やらでまた大変な思いをするし、もしかしたら便に乗れないかもしれないので、空港で1泊したほうがいい」とツジさんが勧められ、空港に泊まることを決断したのを知ったので、であればと毛布をプレゼントしたのです。ひょっとしたら航空会社がホテル代をケチるための方便だったのかもしれませんが、決して毛布をあげるだけで済ませようとしたわけではありません(笑)。ツジさんは真の侍だからこそ、空港で1泊することにしたんですよね?

ツジその通りです(笑)。

――(笑)。最後に、おふたりにとっての“誉れ”とは何でしょうか?

ネイト私にとっての“誉れ”とは、たとえどんなに恐ろしくても、正しいことをやる勇気だと思います。

ツジ誉れ……ですか。難しいですね。自信を持って言える答えはありませんが、いまあえて言うのであれば、正しいことをすることだと思います。新型コロナウイルスが蔓延していたりと、いまの世界的な状況を考えると、人を傷つけず、人を貶めるようなことをせず、お互いに支え合って助け合えるような決断をするというのが、“誉れ”なんだと思います。

――本日はありがとうございました。

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