“ハチャメチャ外科手術シミュレーター”として、2013年にリリースされるや世界中で好評を博し、家庭用ゲーム機向けにも展開された『Surgeon Simulator』。その続編となる『Surgeon Simulator 2(サージョンシミュレーター2)』が、2020年8月28日、Epic Gamesストアにて配信を開始する(ちなみに価格は2580円[税込])。

 最大4人が参加しての協力プレイに対応し、ラボを自由に作れる“制作モード”を搭載するなど、グンとパワーアップしていること間違いなしの本作だが、いったいどのような進化を遂げているのか? ここでは、『Surgeon Simulator 2』を開発するイギリスのスタジオBossa Studiosにて、シニア・プロデューサーを務めるマーク・ピック氏へのメールインタビューをお届けしよう。ゲーム内容はとてもハチャメチャだけど、質問には真摯に答えてくれています!

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_07

マーク・ピック氏(Marc Pick)

Bossa Studios『Surgeon Simulator 2』のシニア・プロデューサー

オリジナルを上回り、大きく前進させるような作品に

――まずはそもそもなぜ手術シミュレーションゲームを作ることにしたのでしょうか。極めて斬新なテーマですが、どのようなところから発想したのですか?

マークSurgeon Simulator 2013』は、2013年のグローバル・ジャムにてBossa Studiosから参加した4人のチームが開発したのが始まりでした。その時のテーマが“動く心臓”でしたので、手術がテーマになったのももっともな成り行きだったと思います。

 その後、『QWOP』などのゲームから発想を得て、あの悪名高いハンド・コントローラーが開発され、後は皆さまもご存じの展開となりました。
 『Surgeon Simulator 2013』の成功は、Bossaの強みである物理演算、楽しいながらも難しいコントロール、そしてダークなユーモアなどがうまく組み合わさり、それを世界の数百万人の方に受け入れていただけた結果だと思っています。

 『Surgeon Simulator 2013』はゲームジャムでの開発後、PC用にフル・バージョンとして開発が進められた後、商品化されました。

――今回のインタビューは『2』がテーマなので、あまりくだくだしくはうかがいませんが、きっと『2』にもつながってくることだと思うので、1点だけ聞かせてください。『1』を開発したときにもっとも注力したポイントはどの点だったのですか? また、世界中で『1』が人気を博した理由はどこにあると自己分析されていますか?

マーク『Surgeon Simulator 2』の開発をスタートする前に、まずはなぜ『Surgeon Simulator 2013』が成功したのかをチームで熟考しました。新作でのゲームプレイが(マルチプレイやキャラクターが歩き回れる環境、ユーザー生成コンテンツなどで)大きく変わる中、前作の雰囲気や楽しさをそのまま新ゲームに反映させる必要があったからです。

 そこでわかった要素がいくつかあります。まず、『Surgeon Simulator 2013』では自分がプレイするのと同じくらい、他人がプレイしているのを見るのが楽しいことです。『ニンジャ・ウォリアー』などの体力勝負のテレビ番組を見るのと同様に、誰かが非常に難しい何かにチャレンジし、成功しているのを見るのは満足のいくことです。もちろん、それがうまく行かずに失敗するのを見るのもまた楽しいですが……。『Surgeon Simulator 2013』での患者ボブの手術はいつも混沌とした目茶苦茶な状態で、試行錯誤しながらのゲームプレイとなります。その試行錯誤がこのゲームをおもしろくしているのです。

 また、世界の誰もが、医療や手術とは何か知っています。どの国にも必ず病院はあり、(ほぼ)すべての人が、その中で展開される“あまり気持ちのよくない”医療行為や目にしたくない手術などを体験をしています。そういった感情をゲーム内でユーモアに変換することで、自分のプレイだけでなく、他人のプレイを見ることにもおもしろさが出てくるのではないかと思っています。

 新ゲームでは、いままで見るだけだった他人のプレイを、4人までのマルチプレイを取り入れることでいっしょに経験できるようになっています。

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_03

――では、本題の『2』のお話を聞かせてください。今回『2』を開発するにいたった経緯を教えてください。ユーザーからの「こうしてほしい」という要望に突き動かされてのものだったのですか? それとも開発者サイドの「この要素を入れ忘れた!」との思いによるものだったのですか?

マークBossa Studiosではここ数年、プレイヤーがほかのプレイヤーが遊んでいるのを楽しんで見ている様子や、プレイステーション4版やNintendo Switch版の協力プレイモードでの反響から、『Surgeon Simulator』の続編を作りたいと思っていました。

 今回リリースする『Surgeon Simulator 2』はBossa Studiosにとって初の続編になります。

 もし『Surgeon Simulator 2013』の続編を作るなら、新しいレベルを加えただけのリリースではなく、オリジナルを上回り、大きく前進させるような作品にしたいと話し合ってきました。その考えが、ゲームに新たな制作モードを加えることでプレイヤーにもレベルを作ってもらい、それらの作品を共有できるプラットフォームの開発へと繋がっていきました。『Surgeon Simulator』のユーモアはカオスから生み出され、それを共有し合うことが最高のコメディを作り出すからです。

 この続編では、協力プレイの要素に関しては『ヒューマン フォール フラット』や『Overcooked』、『Left 4 Dead』などから、また『Portal 2』といったパズルや探索ゲームなどからインスピレーションを受けています。

 このゲームを開発する際にはバトルロワイヤルやFPSのようなプレッシャーや深刻な事態をまったく感じない、前作と同様のユーモア溢れるマルチプレイの環境を提供したかったため、『Gang Beasts』や『マリオパーティ』のような軽い競争や協力プレイができ、かつ友だちと楽しんでリラックスできるゲームをたくさんプレイしました。

――『2』を開発するにあたって、もっとも注力したポイントは?

マーク前作より大きく変わった新要素が3つあり、そのどれもが重要なポイントです。

・広く歩き回れる医療施設 - 前作でプレイヤーは腕一本を動かせるだけの存在でしたが、本作からは“四肢”のある外科医として、医療施設を2本の脚で探索することができるようになります。ストーリモードでは医療施設の秘密を探ることができます。
・マルチプレイの外科手術 - 本作からゲームに協力プレイの要素を取り入れ、4人までの外科医のチームとしてプレイできるようになりました。もちろん、ひとりでプレイすることもできます!
・制作モード- プレイヤーは本作からゲームレベルをひとり、またはマルチで作成し、作品をユーザー作成コンテンツのプラットフォームにアップロードし、ほかのプレイヤーにプレイしてもらったり、評価してもらったり、共有してもらったりすることができるようになります。

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_06

――『2』では、プレイヤー自身が外科医となって病院内を探索できるようになったとのことですが、本要素を導入した理由をお教えください。また、この要素を導入するにあたってこだわったポイントは?

マーク本作からマルチプレイが導入され、各々のキャラクターに必要なスペースを確保するには、前作のジオラマのようなスケールではゲームプレイが成り立たなかったため、キャラクターが動き回れるマルチプレイに適したスケールに“ズームアウト”する必要が出てきました。その結果、ゲーム内の医療施設をキャラクターが動き回るという設定になりました。

 この悪名高いシリーズの(気の毒な)主人公、ボブに手術するのはもちろんですが、本作からはそれ以外の医療メカニクスが導入され、プレイヤーが注射をしたり、自動販売機のような機械を使って部位を交換したり、さまざまな機械を使って容体を確認する要素が加わっています。

――協力プレイの要素を導入した理由を教えてください。また、協力プレイを実装するにあたってたいへんだったポイントは?

マーク協力プレイを導入することにした理由として、前作の『Surgeon Simulator』が、自分でプレイするのと同じくらい、他人がプレイしているのを見るのが楽しい、ということが挙げられます。前作がリリースされてすでに7年が経ちますが、いまでも『Surgeon Simulator 2013』のYouTubeやTwitch のビデオは数百万回再生されています。そこで、続編を開発するのであれば、リアルタイムに3人までの外科医の行動を見ながらプレイできるようにするのはどうだろう、と考えました。

 患者のボブを治して健康にし、レベルをクリアーするためにほかのプレイヤーと協力する必要があるのはもちろんですが、いっしょにプレイしている外科医たちが、間違って四肢を捥いでしまったり、底なしの穴に落ちてしまったり、前作と同様コントロールに苦労しているのを見るのはとてもユーモラスで楽しいことです。

 もちろん、ひとりプレイも、楽しいですよ!

 このゲームを開発するに当たり、まず前作の不器用極まりない物理演算がマルチプレイヤーでも可能であるかの検証から始めました。これは思っていたよりも大変なことでした! リード開発者のマーキーが納得できるものを開発するまで数ヵ月かかったため、そのあいだゲームのおもなメカニックスやスタイルのプロトタイプの開発が進められていました。

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_02

――4人のキャラクターの人となりを教えてください。能力差だったり裏設定みたいなものはあったりするのですか?

マーク『Surgeon Simulator 2』はイギリスのスタジオが開発しているため、その舞台も20世紀半ばのイギリスに設定されています。プレイヤーが動かせるキャラクターも人種のるつぼであるイギリスが反映されています。

 ゲーム内キャラクターの4人、ヘザー、マイロ、カマルとペニーはみんなBossa Labs医療施設の新人研修医です。トレイラーなどでの彼らの表情からもうかがえるように、彼らは(準備の整っていない)“Surgeon Simulatorトレーニング・プログラム”に入ったばかりのルーキーもルーキーですが、ボブの治療のためにはどんなに困難な挑戦にも協力し合い、果敢に立ち向かっていく仲間でもあるのです! このゲームには、誰もが外科医に挑戦できるというメッセージも含まれています(笑)。

 この4人のキャラクターの誰を選択してもその能力に変わりはありません。友だちどうしでマルチプレイを楽しむ折りにキャラクターの能力の有無で争わないようにするためと、制作モードを使う際にその難易度に差をつけないためです。どのプレイヤーにもお気に入りのキャラクターがいるようで、みんなキャラクターにゲーム内でアンロックされた帽子や指輪、手袋や研究所のコートなどの衣装を着せ替え、楽しんでいるようです。

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_08
左からカマル、ヘザー、ペニー、マイロ。皆さんBossa Labs医療施設の新人研修医。

 ちなみに、ボブは前作の『Surgeon Simulator 2013』から登場している患者で、その容体がよくなる兆候はありません。ボブのストーリーと、なぜ彼がこの状況に陥ってしまったのかは『Surgeon Simulator 2』のおもなミステリーにも関わってくるストーリーです。プレイヤーは医療施設を探索しながら、このトレーニング・プログラムが始められた奇想天外な背景と、ボブの関与を知ることになります。このストーリーは『トゥームレーダー』や『ミラーズエッジ』でその名を馳せたリアーナ・プラチェットが担当しており、カオスな物理演算のゲームプレイにさらなる突拍子のない展開を添えています。

 このゲームのストーリーやキャラクターの背景などに興味のある方は、こちらのページ(英語)をご参照ください。

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_01
マーク氏が主人公だという患者のボブ。ボブには大きな謎があるようだが……。ストーリーは『トゥームレーダー』や『ミラーズエッジ』を担当したリアーナ・プラチェット氏が担当しているとのこと。何とも贅沢な……(失礼)。

――そのほか、『Surgeon Simulator 2』で、「前作と比べてここは進化から注目してほしい」というポイントを教えてください。

マーク本作から加わった大きな要素が制作モードです。このモードを使うことで、プレイヤーは『Surgeon Simulator 2』の開発チームがストーリーモードを制作したのと同様のツールを使い、思い通りのレベルを制作することができます。このモードはひとりでも4人同時でも使うことができ、制作された作品はUGC(ユーザー作成コンテンツ)のプラットフォームに上げることができます。プレイヤーたちは、それらの作品をプレイし、評価し、優れた作品を勧めることができます。この制作モードがうまく機能すれば、ストーリーモードをクリアーした後でも、さらにクレージーで、カオスなレベルが際限なくプレイできるようになります。

 このツールの開発は、7年前にリリースされた『Surgeon Simulator 2013』を支え、シリーズを成功に導いてくれたコミュニティにゲームの“鍵”を渡すことでもあり、非常に楽しい作業でした。このツールを使って、開発チームだけでなく、『Surgeon Simulator』のコミュニティも、ソロプレイ、協力プレイ、競争プレイなどの要素を取り入れながら、とても革新的な作品を作っています。

 作品の中には、ボブの頭をボールにしたボーリングレーンや、海賊船、マリオに出てくるようなお化け屋敷や、実際に動かせる宇宙船、『Overcooked』のようなスタイルで、病気のボブがつぎからつぎへと手術台に出没するレベルや、オリンピックのような手術の競争もあります。我々がいちばん気に入っているのが、“ルーブ・ゴールドバーグ・マシン”(※)のような作品で、プレイヤーがボタンひとつをひとつを押すと、ドミノのようにつぎからつぎに問題が起こり、それを解決していく作品です。

 この制作ツールの開発中に楽しみだったのが、プレイヤーが一体全体どのような作品を制作するかを想像することでした。通常、開発者はゲームリリースの前にそのゲームがどのような経験をユーザーに提供するのか予想できるものですが、このゲームに関しては、リリース後に何が起こるか、そしてどのような奇想天外な作品が作られるのか想像できません。

※ふつうにすれば簡単にできることを、あえて手の込んだからくりをたくさん用いて、つぎからつぎへと連鎖していくことで実行する機械・装置。アメリカ合衆国の漫画家ルーブ・ゴールドバーグが発案。

今後DLCで新レベルやチャレンジ、キャラクター向けの装飾品などの提供を計画中

――先日行われたベータテストの反響をお教えください。印象的なフィードバックなどありましたか? また、そのフィードバックを受けて、「ここは変えようかしら」といった点などはありましたか?

マーククローズドベータは非常にうまくいきました。開発チームとして、ファンや実況者、配信者などが仲間たちと楽しそうに大笑いしながらマルチプレイをしているのを見るのは何よりも嬉しいことです。いままでの努力が報われたと感じる瞬間でもあります。この期間だけで、12万6000時間分の動画が作られ、視聴されています。この3年間開発してきた我々にとって、それはかけがえのない経験でした。

 本作の重要な要素が制作モードとUGCであるため、ベータでのプレイテストでは、コミュニティにたくさんのレベルを作ってもらい、リリースに繋げたいと思っていました。この点は思惑通りにいきました。ベータ期間中にも素晴らしい作品がたくさん制作されており、8月27日のリリースではBossaのデザインチームが作ったレベルとともにコミュニティが制作した数多くのレベルをリリースすることができます。

 『Surgeon Simulator 2』にはもちろんQAチームがいますが、ベータ期間はゲームを“現実的な荒波”に置き、多くのプレイヤーに同時にプレイしてもらうことで、実践的なテスト環境で検証することができます。今回はレベル・デザインに関するさまざまなデータを収集できただけでなく、リワードのバランスやサーバーの状況、バグ・リポートなどを確認をすることができました。また、コントローラーとなるキーボードのマッピングの変更など、いままでプライオリティーを下げていた変更点をリクエストに応じて引き上げ、リリース版に向けて組み入れることができました。

 ベータ期間はじつはまだ始まったばかりです。このインタビューを受けているいまも、プレアクセスを開始すべく、最終調整を進めています(プレアクセスは8月22日にスタート)。すでにベータ版から大きく改善された状態であり、正式リリースにまでにはさらに改善していきたいと思っています。

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_04

――1作目はコンソール展開がありましたら、『2』ではいかがでしょうか? また、このあとDLCなどの展開は予定されていますか?

マークいまのところ、開発チームはEpic GamesストアでのPCリリースに全力を傾けています。けれども、ファンからは早くもほかのプラットフォームで『Surgeon Simulator 2』をプレイしたいという要望が届いており、そういった機会が作れたらよいとも思っています。ですから、まったくないとは言い切れません!

 リリース後に無料のアップデートやDLCで『Surgeon Simulator 2』のプレイヤーに新レベルやチャレンジ、キャラクター向けの装飾品などを提供していくことは計画しています。『Surgeon Simulator 2』はリリース後もずっと友だちとプレイしていただけるゲームになってほしいと思っています。

 また、ゲームに少しづつ新たなメカニクスを加えて行き、もっと複雑で新しいレベルを作成できるようにしていきたいとも思っています。たとえば、シェフのアップデートをすることで、プレイヤーがあの不器用極まりない物理演算で料理をするのはどうでしょう? 将来的には、物理演算ベースのカオスという要素とマルチプレイ要素を変えることなく、手術だけではない世界を提供できたらと思っています。

――では、最後に『Surgeon Simulator 2』を楽しみにしているファンに向けてのメッセージをお願いします。

マークファミ通.comの読者の方々、このインタビューを読んでいただき、また、今週新ゲームをリリースできるまでにBossa Studiosをサポートしていただき、どうもありがとうございます。この3年間はクレージーとしか言えない開発期間でしたが、世界に誇れるゲームをリリースすることができそうです。8月27日には、皆さまも3人のフレンズたちと『Surgeon Simulator 2』のカオスな世界を楽しんでみてください。このゲームは皆さんがいっしょに大笑いできるように作られています。2020年に世界が必要としているのは、みんなで心から笑うことではないでしょうか?

『サージョンシミュレーター2』のキーパーソンに聞く。協力プレイや制作モードなどで、前作をさらに上回るハチャメチャぶりに_05

[2020年8月27日午後8時30分]『サージョンシミュレーター2』の国内での配信日は2020年8月28日になる模様(きっと時差の関係)。配信開始をお楽しみに!