ファミ通関連の編集者がおすすめゲームをひたすら語る連載企画。今回のテーマは、シミュレーションアドベンチャー『十三機兵防衛圏』です。

【こういう人におすすめ】

  • ミステリーやSF、ロボットものなどのジャンルの物語が好き
  • ヴァニラウェア作品が好き、あるいは気になっている
  • おっさん。1985年に思春期を過ごしているとなおよし

※本稿は週刊ファミ通2020年7月2日号(2020年6月18日発売)の特集“いまこそ絶対に遊ぶべき46のゲーム”をWeb用に調整したものです。

小山太輔のおすすめゲーム

『十三機兵防衛圏』

  • プラットフォーム:PS4
  • 発売日:2019年11月28日
  • 発売元:アトラス
  • 価格:9878円[税込]
  • パッケージ版:あり
  • ダウンロード版:あり
  • 『十三機兵防衛圏』公式サイト

『十三機兵防衛圏』プロモーションムービー#04

 1985年。

 部活はレギュラーから外れてやる気もなくし、仲のいい友だちとつるんでゲームセンターによく通った。ファミコンはすでに流行っていたが、アーケードのほうがまだまだ魅力的な時代。資金は親の財布からくすねていた。

 通っていたのは三茶や学芸大、都立大、そして等々力の店などだ。等々力のFUN FACTORYには、ときおり鷹宮のような長いスカートを穿いた女子高生数人がたむろしていた。当時ゲーセンで女性を見かけることは珍しかったのでボーッと眺めていたら、「何見てんだよ」とスゴまれ、へんな笑顔になってヘラヘラしたことを思い出す。そのとき自分たちがプレイしていたのは『ロードブラスター』だったか。いやそれは、三茶の白鳥の上のゲーセンだったか。もう何もかもが曖昧だ。

 15歳、受験もあったはずだが、けっきょくいまも覚えているのは、英単語でもLDゲームの解法でもなく、そんなどうでもいいちょっとしたことばかりだ。

 「サイフには最低20000円入れておけば、たいていのデートは切り抜けられる」なんてまことしやかなノウハウが、当時読み始めていた『Hot DogPress』に書かれていたのを覚えている。そこには女の子をどうモノにするかの話ばかりが書かれていた。そういう、中学生が真に欲する外の世界の秘密は、真偽はさておき、ラジオか雑誌が運んできていた。インターネットが普及するはるか昔の話だ。

 だから雑誌ばかり買っていた日々でもあった。思春期の性的な妄想も、性的でない妄想もみんなそれで慰撫していたのだと思う。新しい雑誌が出ると、とりあえず買っていた。米米クラブのおっさんが表紙を飾っていた『Tokyo Walker ZIPANG』という雑誌も創刊号からしばらく買った。でもZIPANGという部分が取れ、毎号買うようなものではなくなっていった。

 『バラエティ』という雑誌には、当時熱を上げていた原田知世がたくさん載っていた。知世(呼び捨て)に夢中になる一方で、その雑誌から糸井重里や赤瀬川原平、荒木経惟などに触れ、そこからさらに白夜書房やパルコ界隈などを読み散らかしていくようになる。とはいえ『ビックリハウス』はすでに終刊間近。『ヘンタイよいこ新聞』の単行本だけ辛うじて購入した。後にこれは『MOTHER3』の取材で職権を乱用し、イトイ氏にサインを書いてもらった。

 それから『BOMB』や『DUNK』など、A5アイドル雑誌が全盛の時期でもあった。9割アイドル、1割がエロ。でもじつは8割がエロの『The SUGER』という雑誌が好きだった。早田じゅんというライターが書くテキストに心酔していたからだ。いまでも自分が何かをセンチメンタルに綴るときは、当時の早田氏に近づけているか自問している。

 当時は少女マンガに目覚めたころでもあり、『別マ』をよく読んでいた。湘南を舞台に尾崎的な世界をくり広げたりなどの話を読みながら、なぜ自分はそういう切なさと無縁の、ただのゲーム好きで雑誌好きのボンクラ中学生なのか身悶えていたようにも思う。だからバイクにも憧れたが、所詮は金のない中学生。駐車場で、先輩に跨らせてもらった原付は、アクセルを急に開きすぎて即ウィリー。3秒でボンクラもろとも横倒れした。不良でもなんでもない坊主には、当時流行っていた籐かごの安い自転車がお似合いだったのだ。

 そうだ、グループデートでとしまえんに出かけ、帰りの夜にその自転車にふたり乗りしてなんとなく送ることになった女の子がいた。多摩川べりを行きながら、その子と音楽の話で盛り上がり、雰囲気に飲まれて告白をした。笑顔でありがとうと答えてくれたものの、それ以上近づきも遠ざかりもせず、卒業までただの友だちのまま過ごした。ただ一度、奮発してメタルテープを買い、気合いを入れて選曲し、ラベルに丁寧にレタリングまでして作った自作のカセットテープをプレゼントしたつもりだったが、相手から後日、「ありがとう、なかなかよかったよ」と返された。いま思えば、あの笑顔はテイのいい断り、もしくは急にそんなことを言われても困ったな、ということだったのだろう。当然だ。自分だって急すぎたと思っていたのだから。

 何もかも冴えない時期に、ゲームと雑誌、それから拾ってきた小さな白黒テレビの中で何かをゆっくりと育てていた。親に隠れて観ていた『オールナイトフジ』では、とんねるずが業界用語をこれ見よがしに電波に乗せてはしゃいでいた。オトナになったら、そういう軽やかさも身につくのかななんて思っていた。だが、現実はお金をたびたびくすねていたことが親にばれ、家族会議でしこたま親父にぶん殴られるような具合で、それ以外はとくにドラマもない、どこにでもいるモジモジした中学生男子として日々をやり過ごしていた。

 ゲームの内容について語ろうとすると、ネタバレばかりになる。さらに至るところで、すでに知り合いの錚々たる皆さんがこのゲームをさまざまな角度から論じている。それには敵わない。だから自分に言えるのは、ただひとつ。あれから幾星霜、殴られた親父も鬼籍に入ってすでに10年以上が経ち、いつしか妻も子もあるおっさんとなった自分だが、このゲームをプレイすると一瞬でここまでダラダラと書いた時代に心を持っていかれる。『十三機兵防衛圏』は、それくらいあの時代の何かがギュッと詰め込まれているゲームだ。複雑でメロウな物語、淡く美しい背景、そして心地よいサウンドをすべて味わい尽くしながらも、同時にどこかプレイは上の空。あのときのあのキラキラしたような、地に足の付かないような、妙に据わりの悪い気分に否応なく引き戻され、理由のよくわからない嗚咽をしたくなるほど切なくなるのだ。

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