ファミ通関連の編集者がおすすめゲームをひたすら語る連載企画。今回のテーマは、名作アドベンチャー『マブラヴ オルタネイティヴ』です。

【こういう人におすすめ】

  • とにかくおもしろい物語が読みたい
  • ロボットに乗って宇宙人との絶望的な戦いに臨みたい
  • 人間として成長した気になりたい

※本稿は週刊ファミ通2020年7月2日号(2020年6月18日発売)の特集“いまこそ絶対に遊ぶべき46のゲーム”をWeb用に調整し、加筆修正したものです。

ごえモンのおすすめゲーム

『マブラヴ オルタネイティヴ』

※データはPC版のものです。

『マブラヴ オルタネイティヴ』は現代人への教材となり得る作品

 『マブラヴ オルタネイティヴ』(以下、『オルタ』)の裏ヒロインであり、裏主人公と言えるキャラクター“香月夕呼”(通称:夕呼先生)のセリフの中に、こんな内容があります。

 「“宇宙人が攻めてくれば人類は一丸になって戦う”って言ってた人がいたけど、それはおめでたい妄想だったのよ」

 本作の舞台となるのは、意思疎通不可能な地球外起源種“BETA”との戦争により、地球の総人口が10億人にまで減少してしまった過酷な世界。“平和”な2001年の日本から、戦争状態である“並行世界”の日本に移動してしまった主人公・白銀武の視点で物語が進行します。そんな滅びまで残り時間あとわずかという状態の世界でも、人間どうしの争いや、終戦後に勝者となるための思惑のもとに行動する人々の姿がリアリティー十分に描かれています。

 ゲームやエンタメ作品では、極限状態を描いたシナリオが数多く存在しますが、それらに対して「極限状態にも関わらず、あまりに登場人物に危機感がない」、「共通の敵がいるのに、人間どうしで争うなんておかしい」といった指摘を見た、した経験が皆さんにもあるのではないでしょうか? 現代の社会情勢を見るに、人類が一致団結する、あるいはみんなが危機感を持って行動をする、といったことがいかに嘘っぱちかが、『オルタ』発売以降、さまざまな事件や災害を通して、何度も何度も明るみに出てしまいました。

 『オルタ』は、いまと未来の世界を生きる人にとって一種の“教材”と言っても過言ではないかもしれません。

『マブラヴ オルタネイティヴ』は令和になったいまでも色あせない美少女ゲームの大傑作【推しゲーレビュー】_01
目的達成のためには、自分の手を汚すこともいとわない夕呼先生。惚れる。

『マブラヴ』の魅力を紐解く

 果たして、『オルタ』のいちばんの魅力とは、いったい何なのか? 登場する多数の美少女キャラクターたちなのか? 現実の戦闘機をモデルにした対BETA戦用人型兵器“戦術機”のカッコよさか? BETAとの絶望的な戦争の中で描かれる兵士たちの人間ドラマか? メインとサブを問わず、キャラクターたちに訪れる衝撃的な死の描写か? 莫大な時間とコストがかけられ生まれた、アドベンチャーの中でも稀有と言える圧倒的な演出か? シナリオを盛り上げる歌や音楽か?

 2006年の発売以降、本作の魅力について振り返る機会が何度かありましたが、現在の結論は、夕呼先生と出会えること、そして彼女の影響によって、ただの少年が一人前の男へと次第に変化していく成長ストーリーにあると考えています。

 主人公が暮らす横浜基地の副司令であり、天才物理学者の夕呼先生は、ときにはきびしい言葉で、ときには……もっときびしい言葉で、そして裏に隠されたやさしさと愛で、主人公とプレイヤーを導いてくれる師匠ポジションの重要人物。冒頭で紹介した以外にも、夕呼先生のセリフの中には多数の至言があり、何度も絶望のどん底に突き落とされる主人公に気づきを与え、すくい上げてくれます。

 プレイヤーにとっても先生であり、理想の上司であり、母のような存在で、とくに社会人にとってはブスブスと刺さるセリフが多々出てきます。例を挙げると、準備不足を嘆く主人公に対して言う「色々理由をつけて尻込みする奴は、一生結果を出せないのよ」など。準備万端のときに訪れるチャンスなんてない、という前作『マブラヴ』から一貫した内容は、忙しさや制度なんかを言い訳にして、見て見ぬ振りをしている自分にいろいろなことを思い出させてくれます。

 組織の中でどうやって立ち回るべきか、どうやってコミュニケーションをとるべきかを教えてくれる夕呼先生の言葉は、現代の社会人へのメッセージにもなっています。

『マブラヴ オルタネイティヴ』は令和になったいまでも色あせない美少女ゲームの大傑作【推しゲーレビュー】_03
決断し、行動を起こすことの大切さ。責任の取りかたなども教わりました。

『マブラヴ』シリーズの推奨プレイ順

 さて、『マブラヴ』シリーズ未プレイヤーに『オルタ』をオススメする際に、避けては通れない重要な問いがひとつ存在するはずです。それは、ループ世界、いわゆる“強くてニューゲーム”のシナリオ構造となっている『オルタ』を体験する前に、前作『マブラヴ』をプレイしておくべきか否か? というもの。

 過去、いくつかの記事で「『マブラヴ』の学園編EXTRAと並行世界に移動した後を描くUNLIMITED編を通しで1周しておきたい」などと紹介してきましたが、いまの私の結論は“否”です。

 もちろん、『マブラヴ』というコンテンツの魅力を100%、120%堪能するのであれば、EXTRAからのプレイが必須であるのは間違いありません。しかし、現在も本作をプレイしていないユーザー=さほど本作に興味がなかったユーザーに対して、「〇〇すべき」という強制はファンのエゴであり、間口を狭めてしまう結果になる危険性があります。

 これは、勉強しない子どもに親が「勉強しなさい」と言うような状況に近いです。親はさまざまな経験から、子どものうちに勉強しておけば将来有利になることがわかっていますが、子どもはそれを実際に体験するまでは真に理解できないため、「勉強しなさい」と言われるほどイラついてしまう。そこに、親の愛情が込められていることもわからずに。

 そんなわけで、いまの私の結論は「どの作品からプレイしてもいいよ」となります。せっかくシリーズに興味を持った新規ユーザーに、あれこれ言ってプレイする意欲をそぎたくありません。親切心だったとしても「『マブラヴ』ファンって、なんかめんどくさいな。近づかないでおこう」と思われてしまったら負けですし(笑)、コンテンツの足を引っ張ってしまいますから。

 それに現代のオタクコンテンツにおいて、最初から2周目を描く作品は、現在は割とありふれています。最新のトレンドに触れてきたいまのユーザーは、いきなり『オルタ』をプレイしても十分に楽しめるはずですし、あとで『マブラヴ』をプレイするという、もともとのファンにはない体験を得られるという利点もあります。

 事前に前作を履修しておきたい人は、公式で新人声優が『マブラヴ』を最初からプレイする実況動画が配信されているので、それを観るのもオススメです。

『マブラヴ オルタネイティヴ』は令和になったいまでも色あせない美少女ゲームの大傑作【推しゲーレビュー】_02
いまでは珍しくないですが、テキストウィンドウがない点も画期的でした。

 もし本記事を読んでいる人の中で、『マブラヴ』シリーズのおもしろさを120%体験したいという人がいるなら、以下の順番にシリーズをプレイすることをオススメします。

  • (1)無印『マブラヴ』学園編EXTRAを全ルートプレイ
    • 最低でも鑑純夏と御剣冥夜をプレイ。彩峰慧ルートもプレイしておくと、『オルタ』に登場する重要人物“沙霧尚哉”について知ることができる。
    • マブラヴ photonflowers*』に収録されている純夏ルートの後日談『桜の花が咲くまえに』や各ヒロインの短編集をプレイしてもよい。
  • (2)無印『マブラヴ』UNLIMITED編を1周する
    • ヒロイン全員分のエピローグがあるため、5周してもよい。また、最後の選択肢でヒロインと行動を共にするほうも一度は選んでおきたい。
  • (3)『マブラヴ オルタネイティヴ』をプレイ
    • 本作もヒロイン全員分の細かな分岐があるため、ヒロインの数だけ周回プレイしてもよい。
    • 漫画版『マブラヴ オルタネイティヴ』全巻の読破もオススメ。クーデター編の裏側など、ゲームで描かれていない部分も楽しめる。
  • (4)『マブラヴ photonmelodies♮』収録の『オルタ』エピローグ後日談『かがやく時空が消えぬ間に』をプレイ。
  • (5)『オルタ』系のサブエピソードをプレイする
    • 『マブラヴ photonflowers*』収録の『贖罪』『継承』『告白』『チキン・ダイバーズ』『レイン・ダンサーズ
    • 『マブラヴ photonmelodies♮』収録の『憧憬』『再誕
    • 伊隅ヴァルキリーズの面々が好きなら『君が望む永遠』、リメイク版『君がいた季節』をプレイ。
  • (6)『マブラヴ アンリミテッド ザ・デイアフター』を全作プレイ
    • 『マブラヴ アンリミテッド ザ・デイアフター』は『オルタ』世界ではなくUNLIMITED編のその後を描いた『マブラヴ』オールスターゲーム。新作が『マブラヴ レゾネイティヴ』という名前で開発中だ。
    • 終わりなき夏 永遠なる音律』の一部キャラクターが登場するため、興味があればプレイしてほしい。
  • (7)『トータル・イクリプス』と『シュヴァルツェスマーケン』をプレイ
    • 『オルタ』の続編『マブラヴ インテグレート』に『トータル・イクリプス』『シュヴァルツェスマーケン』のキャラが登場することがわかっている。
  • (8)『マブラヴ インテグレート』に備えて“アージュ10周年記念PV”を視聴する。
    • 指向性蛋白など『マブラヴ オルタネイティヴ』と関係があると思われる『化石の歌』も興味があればプレイしてほしい。

 『マブラヴ』『マブラヴ オルタネイティヴ』『マブラヴ photonflowers*』『マブラヴ photonmelodies♮』『マブラヴ アンリミテッド ザ・デイアフター』はSteamで頻繁に半額セールが実施されているので、その機会を利用するといいでしょう。

 上記タイトルや『君が望む永遠』、リメイク版『君がいた季節』、『トータル・イクリプス』、『シュヴァルツェスマーケン』、『終わりなき夏 永遠なる音律』なども収録されている『âgeアーカイブス~20thBOX Edition~』を購入するのが手っ取り早いです。

『マブラヴ オルタネイティヴ』(Steam)の購入はこちら 『âgeアーカイブス~20thBOX Edition~』の購入はこちら (Amazon.co.jp)
ごえモン
 ファミ通.com副編集長。TYPE-MOON、『サガ』シリーズ、『マブラヴ』が好きで、スクウェア時代のSFC・PS作品に詳しい。大学生時代には引っ越しのアルバイトをしながら、その日給で必ず美少女ゲームを購入していたADV好き。スマートフォン向けゲームに毎年100万円以上課金していたが、最近は老後のために貯蓄している。

 2007年から2017年まで電撃オンラインに編集スタッフとして所属。その後、2年間所属したAppbank.netにて編集長を経験。2019年よりファミ通.comに所属し、現在に至る。