芸能界屈指のゲーム好きとして知られる女優の本田翼さんが、日本テレビ系で毎週土曜日に放映中のバラエティー番組『マツコ会議』に6月6日、13日と2週連続でゲスト出演。同番組でスマートフォン向けのマルチプレイゲームを開発中であることを発表し、大きな注目を集めたのはご存じの通り。詳細は、下の記事をご覧いただきたいのだが、番組内での本田さんのコメントによると、本田さんはイチからゲーム開発に携わっているそうで、キャラクターデザインのベースとして、イラストを描いたり、さまざまなアイデアを出しているという。しかも、その開発をサポートするのは日本マイクロソフトだというのだ。

 日本マイクロソフトはなぜ、本田翼さんとタッグを組むことにしたのか? 日本マイクロソフトのゲームビジネスを取りまとめる、ゲーム&エンターテインメント営業本部本部長の米倉規通氏にお話を聞いた。

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米倉規通氏

日本マイクロソフト
ゲーム&エンターテインメント営業本部本部長
2001年にマイクロソフト株式会社に入社。Xbox 360のころより、Xboxの事業に関わる。いまは、同社でMicrosoft Azureを中心としたゲーム業界向けビジネスを担当している。

マイクロソフトの技術で本田翼さんの夢を後方支援

――改めて、本田翼さんと日本マイクロソフトがコラボしてゲームを作ることになった経緯をお教えください。

米倉2019年2月に、本田さんがLINEモバイルのCM発表会に登壇されたときに、ご自身の夢のひとつとして、「ゲームを作りたい」とおっしゃっていたんですね。それを当社のスタッフが見ていまして、「お手伝いしたらおもしろいことになるのではないか」というのが、そもそものきっかけになります。

――フットワークが軽いですね(笑)。

米倉マイクロソフトでは、“地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする(Empower every person and every organization on the planet to achieve more.)”という企業ミッションを持っているのですが、その見地から見ても、本田さんの夢をサポートするのは、会社としてやるべきことだとの思いもありました。そこで、ダメ元で本田さんにご連絡させていただいたところ、当社とゲームを作ってみたいと言ってくださって、そこから話が進んでいきました。

――マイクロソフトさんが、本田さんとコラボというのは、正直かなり意外でした。

米倉そうですね。少しビジネスライクな話に聞こえてしまうかもしれないのですが、私が日本マイクロソフトでのゲーム事業を担当していて、いちばん切実に思うのは、“マイクロソフトは日本のゲーム業界におけるプレゼンス(存在感)がぜんぜん足りない”ということでした。

 ご存じの通り、マイクロソフトではXboxというプラットフォームを展開しているのですが、日本ではいささかきびしいチャレンジングな状況が続いています。一方で、マイクロソフトはWindowsがありWordやExcelなどのビジネスアプリケーションでゲーム会社様のビジネスをお手伝いし、Visual StudioやGitHubなどの開発ツールで開発のサポートを行い、Azureのクラウドパワーでゲームのバックエンドを支えています。ゲームメーカーさんへの貢献という意味では、ある程度の存在感はあるとは自負はしているのですが、なかなかそれがうまく伝わっていないのでは……との思いもありました。

――そこに本田さんが?

米倉いまゲーム業界でいちばんインパクトのある方のひとりである本田翼さんにご協力させていただくことで、本田翼さんの夢の実現を支援することができ、同時にゲーム業界に対しても私たちの活動を発信していけるのではないかと考えました。

――いずれにせよ、多面的に判断されたということですね。

米倉そうですね。これは私個人の想いでもありますが、ゲーム業界に貢献したいと強く思っています。対ユーザーさんはもちろんのこと、ゲームメーカーさんやゲームプラットフォーマーさんも含めて、マイクロソフトだからこそできることというのはたくさんあるのに、それをなかなか届けられていないなと実感していたので、そこに対する貢献という意味で、今回のプロジェクトは意味があると信じています。

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米倉氏への取材はMicrosoft Teamsにより行われた。

――プロジェクトがスタートしたのは、いつごろからだったのですか?

米倉2019年5月末から6月頭くらいに本田さんご本人が直接会って話を聞きたいと言ってくださいまして。そこで、私自身が思っていることをお伝えするのに合わせて、本田さんがどのように関わりたいのかうかがったんです。自分でクリエイティブに参加したいのか、それともキャラクターとしてゲームの中に入りたいのか、タイアップのような形で関わりたいのか、“ゲームを作りたい”と言っても、幅広いですからね。

――ああ、たしかに。

米倉そうすると、本田さんのやりたいことは本当にゲームを作ることだったんですよ。フルスクラッチで、全部自分でやりたいとおっしゃるんです。

 もしかして、テレビ番組を見て勘違いされている方もいらっしゃるかもしれませんが、今回のプロジェクトでは、日本マイクロソフトがゲームを作るというわけではありません。日本マイクロソフトの役割というのは、あくまでも本田さんが夢を叶えるためのサポートです。お忙しい時間の中で効率的に業務をこなしていただくためにMicrosoft Surfaceのデバイスを使っていただいたり、Microsoft Teamsをお使いいただくことで、オンラインでの打ち合わせや、簡単な確認をチャットで行ったり、資料を共有したりリモートワークを支援したり……。

 日本マイクロソフトがゲーム業界に貢献するというところの延長線上で、本田さんの夢を後押ししているのが、このプロジェクトでのマイクロソフトの立ち位置となります。開発に関しては、私たちは一切関わっていないです。ゲームの原案、キャラクターデザイン、ゲームシステム設計、バランス調整など、すべて本田さんが行っています。ゲームの中身に対して、日本マイクロソフトは適宜アドバイスはしていますが、ゲーム制作にかかるプロセスや意思決定はすべて本田さんですね。

――後方支援に近いイメージですか?

米倉そうですね。“日本市場でXboxがシェアを獲得するために、本田さんを使ったエクスクルーシブ(独占)タイトルを出す”といった記事も拝見しましたが、決してそういう話ではないです(笑)。あくまでも彼女の夢を日本マイクロソフトができる全方位のサポートで支援するのがスタンスです。じつは、本田さんの中には、他社のプラットフォームで作りたいという話もあったんですよ。

――あら!

米倉それでもいいと、私は考えていました。私自身は、先ほどもお話したように、Xboxを売るために本田さんをサポートしたいと思ったわけではないので……。もちろん、Xboxで出してくれたらうれしいことは間違いないのですが、本当にやりたいことは、ゲーム業界に対して日本マイクロソフトが全方位でゲーム業界に貢献し、ゲーム業界を盛り上げたいというのが私の想いでしたので、本田さんが選ぶプラットフォームが、Xboxから見たら競合と呼ばれる企業各社のハードウェアだったとしても、私はサポートするつもりでいました。

――開発自体は別の会社が担当しているのですか?

米倉そうです。当然ですが、本田さんはゲーム開発のプログラミングができるわけではないので、彼女が考えたキャラクターやゲームストーリーに対して、実際に手を動かしてプログラムを組み込む作業は、開発会社さんにお願いしています。ここでもマイクロソフトの製品をご提供していまして、たとえばMicrosoft Azure PlayFabというゲームの開発や運営周りをサポートするサービスを使って、ゲーム開発を進めていただいています。ゲームの中身に関する打ち合わせは、本田さんと開発会社のほうで蜜にやり取りをして進めていただいております。

――実力のある開発会社さんを起用しているのですね。

米倉そうですね。実際のところ、“限られた期間と予算の中で、本田さんの想いを聞いて、ある種手足となって動いてくれる開発会社さんというのは、なかなかたいへんだと思います。本田さんとの相性もあります。本来の業務でお忙しいでしょうし、プロジェクト自体もいろいろな事態が想定されますし、そういう環境下で最後まで支援してくれる会社を……ということで、複数の開発会社さんに相談をさせていただきました。

――あら、水面下でそんなことが!

米倉覚えているのは、去年の東京ゲームショウのとき、複数のゲーム会社さんが一同に幕張に介しているタイミングでしたので、当時幕張メッセの会議室で、お打合せをさせていただきました。そこから何度も話し合いを重ね、最終的に1社のゲーム開発会社のご縁に繋がりました。

――そのときすでに、ゲームの概要は定まっていたのですね。本田さんはテレビ番組で“空から銃を撃つ”みたいなことを口にしていましたが、まさにそういうゲームになっているのですね?

米倉そうですね。ゲームの中身に関しては、私の立場から勝手に話すことは難しいのですが、概要はテレビ番組でもお話しされていた通りです。2組に分かれて戦ういま流行りの非対称のマルチプレイですね。実際に開発も順調に進んでおり、すでにプロトタイプで、テストプレイも行っています。本田さんの作ったキャラクターがモバイル上で動いていますよ。プロジェクトが立ち上がってから1年以上が経過していますので、試行錯誤を経て、いろいろと悩みながら徐々にいまの形に落とし込まれているところです。

――本田さんもゲームにはお詳しいので、意思の疎通はしやすかったのですか?

米倉そこはもう。驚きました! 私もXbox 360のローンチのときからゲーム業界にいさせていただいていますが、私なんかよりもぜんぜんゲームのことに詳しいです(笑)。よく雑談でほかのゲームの会話なんかもしますよ。“ゲーム愛”があってすごいです。本田さんでとくにすごいと思ったのは、自分の作りたいゲームのイメージを色で表現したことがあって、表現の仕方がアーティストだなと感じました。

 あと、今回私がこのインタビューでひとつお伝えしておきたいことがあるんです。今回本田翼さんがゲームを開発中であることを発表させていただいて、ファンの皆さんからとてもいい反応をいただいて、すごく期待値が高まっているのはうれしく思っています。ただ、一方で、本田さんにとっては初めてのゲーム製作であり、経験豊富なゲームメーカーが製作するAAAタイトルとは違います。従いまして、AAAタイトルと比較しての評価はちょっと酷かな、と。ですので、ファンやユーザーの皆さんには、ゼロからがんばっている本田翼さんを理解し応援してもらいたいなと思っています。

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東京ゲームショウ2019の開幕式にゲスト出演したときの本田翼さん。幕張メッセではそんなことがあったのですなあ。

――今回モバイル向けに配信されるとのことですが、ビジネスモデルとしては基本プレイ無料なのですか? それとも買い切りになるのですか?

米倉そこは議論したポイントです。本プロジェクトは、ある程度サービス型のゲームを展開していこうというのは、ベースとして決まっていました。そのランニングコストを稼いでいかないと倒れてしまうので、そこはシビアに考えないといけないところではありました。

――夢とは言いつつも、やはり地に足をつけて展開していかないと……ということですね。

米倉はい。本田さんが趣味で作ってリリースして、それで終わりだったらいいのですが、そうではなくて、できればたくさんのゲームファンに長く遊んでもらいたい。そのためには、当然コストが掛かってくるものもあるので、そういった点も視野に入れてアドバイスをさせていただいています。

――モバイルでの基本プレイ無料ですと、幅広い展開が必須になってくるかと思うのですが、ワールドワイドでの展開となるのですか? それとも日本向けに?

米倉本田さんは、まずは、日本のユーザーに向けたものをしっかりと作りたいとおっしゃっています。ただ、本田さんは日本だけには留まらずに、アジアでも人気があるとうかがっていますし、実際にプロジェクトを発表したあとも、マイクロソフトのアジアオフィスのスタッフから、「もしアジアでやるんだったらぜひ手伝うよ」といった話は来ています。私としては、アジアに向けて発信していくのは悪いことではないと考えています。グローバル企業として世界に発信していくお手伝いもできるので、そのあたりは視野に入れて、本田さんと相談していきたいですね。

――そのへんは、マイクロソフトの強みですね。

米倉ちなみに、本田さんのゲームのバックエンドを支えているMicrosoft Azure PlayFabには、自動翻訳の機能があるんですよ。世界中の人がオンラインゲームでいっしょに遊ぶときのハードルって、時差もありますが、何よりも言語じゃないですか。まだまだ翻訳クオリティーの面では試行錯誤が続いていますが、ボイスで話した言葉がテキストに変換され、さまざまな言語に翻訳されるというサービスが、Microsoft Azure PlayFabにはすでにそなわっているので、「このタイトルでできたらいいですよね」という話は本田さんとはしています。この機能を実装して、世界中のファンの人たちがハードルなく遊べるようになったら、マイクロソフトがサポートする意味もさらに出てくるのではないかと考えています。

――今回、本田翼さんのアプリが成功することによって、いろいろなジャンルの方々がマイクロソフトの開発ツールなどを使って、「こんなゲームが作れます!」というモデルケースになればいいですね。

米倉そうですね。私たちも企業ですので、冒頭でもお伝えしたように、本田さんとタッグを組むことで、幅広い人にマイクロソフトのゲーム業界での価値やプレゼンスを広めていきたいと考えています。それを受けて、多くの方が、「同じようにマイクロソフトの力を使って何かやりたい」と思ってくださったら、それはうれしいことですし、そういったことをくり返しながら、マイクロソフトの技術を活用して、ゲーム開発をする方の支援をし、そしてゲームをプレイするユーザーがさらに楽しめる世界を作っていければと考えています。

――せっかくの機会なのでうかがいたいのですが、本田さんのタイトルのXbox Series Xで展開するといったことは考えているのでしょうか?

米倉現時点においては、すでに発表されている通りモバイル向けで作っています。将来的にはXboxやプレイステーションといったプラットフォームでもリリースを……というふうに話が広がっていければいいなと、個人的には思っています。

――楽しみにしています! リリースは2021年春とのことですが、タイトルの詳細発表は、いつくらいを想定していますか?

米倉この先の展開は、本田さんと話し合いながら決めていきます。本田さん自身もYouTubeで“ほんだのばいく”というチャンネルをお持ちですし、これから夏に向けて、デジタルにはなると思いますが、ゲーム業界でもさまざまなイベントが開かれると思うので、しっかりとタイミングを考えていきたいと思っています。キャラクラーのラフスケッチとか、開発会議の様子を収めた映像とか、素材としてすごくいいものがたくさんあるんですよ。とにかく早く、皆さんに見ていただきたいですね。

“ほんだのばいく”