スーパーファミコン後期の1995年に発売され、多くのRPGファンの支持を得た『聖剣伝説3』。そのフルリメイク作品『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』が、2020年4月に発売となった。
※※Nintendo Switch/PS4版は2020年4月24日発売。PC(Steam)版は2020年4月25日配信

 グラフィックはすべて3D化され、バトルはアクション要素の強いシステムに一新されるなど、大きく進化を遂げた『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』だが、一方で、世界観やキャラクター、ストーリーはオリジナル版を踏襲している。オリジナル版をプレイした人なら、キャラクターたちの掛け合いや、自然豊かなフィールドを見て、懐かしい気持ちでいっぱいになることだろう。

『聖剣伝説3』石井浩一氏&田中弘道氏インタビュー。オリジナル版開発者が語る、トライアングルストーリー誕生の経緯やキャラクター制作秘話_04
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『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』より。新しいのに懐かしい、を実現している。

 発売から25年経ったいまも、ファンの心に残り続ける『聖剣伝説3』。本記事では、オリジナル版にて開発の中核を担った石井浩一氏と田中弘道氏のインタビューをお届け。スーパーファミコン時代ならではの開発の苦労や、ストーリーとキャラクターが生まれるまでの経緯などをうかがった。

※本インタビューは、『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』発売前に収録されたものです。

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石井浩一氏(いしい こういち)

『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズに立ち上げから携わった後、『聖剣伝説 ~FF外伝~』を制作。以降、『聖剣伝説』シリーズの生みの親として多数のタイトルを開発。『聖剣伝説3』ではゲームデザインディレクターを担当。現在はグレッゾ代表取締役。

田中弘道氏(たなか ひろみち)

石井氏同様、『FF』シリーズに初代から関わり、ゲームデザインなどを手掛けた。『聖剣伝説3』ではディレクターを担当。現在はガンホー・オンライン・エンターテイメント執行役員。

最新ハードに合った徹底的なリメイクを

――今回、『聖剣伝説3』がフルリメイクされると聞いて、おふたりはどう思われましたか?

田中石井くんが(スクウェア・エニックスを)辞めて、僕がまだ残っていたころに『聖剣伝説3』のリメイクの話が出たときは、全面的に反対していたんですよ。石井くんがいないのにリメイクするのは考えられないな、って。それと、当時『聖剣伝説3』は突貫工事で作ったので、矛盾点や納得がいかない部分があったんです。そこにもう一度取り組むのはイヤだなあと(笑)。

――(笑)。

田中でもいまは、発売してからかなり時間が経っていますし、私もスクウェア・エニックスを退社しているので、「ご自由にリメイクしてください」、「矛盾していた部分は、どうぞよしなに……」とお伝えしました。以前『FFIII』をニンテンドーDSでリメイクしましたが、あのときもファミコンでは実現できなかったことを入れ込んだので。原作と大きく違う部分もあり、戸惑ったファンの方もいましたが、それでも、しっかりリメイクしたほうがいいなと。

――必ずしも、原作に忠実である必要はないと。

田中ファミコン時代の『FFIII』を、ニンテンドーDSの時代でそのまま作ったら、違和感しかないですから。今回の『聖剣伝説3』も、せっかく最新ハード向けに作るんだったら、そのハードならではのものにしてほしいなと。

石井自分も「(オリジナル版に)入れ込めなかった部分を入れてほしい」とお願いしたりしましたね。

――たとえばどのような部分でしょうか?

田中ローラントを奪還するくだりの矛盾ですね。“ローラントを奪還してから、ジンの力を借りる”という話だったはずが、ローラント奪還の途中で、ジンに力を貸してもらうことになってしまっていたので。

石井それと、クラスチェンジのタイミングですね。もっと早くクラスチェンジできるほうがいい、と当時から話し合われてはいたんですけど、そのままになっていて。

――オリジナル版では、風の回廊の段階では、相当レベル上げをしていないとクラスチェンジできませんでしたね。フルリメイク版では、風の回廊付近で、ちょうどレベルの条件を満たせるようになっているようです。

田中オリジナル版はレベルデザインができていないということですよね。当時、レベルデザインなんて言葉自体、ほぼありませんでしたけど(苦笑)。バランス調整という言いかたはありましたが。

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フルリメイク版では、ツェンカーを撃破する前後でレベルが18に到達するようになっている。

――(笑)。ほかに、オリジナル版での心残りが解消された点はありますか?

田中ケヴィンのエピソードに、手を入れてほしいと言いました。ケヴィンのストーリーだけは当時、自分のものにならなくて、どういうオチを作ればいいか悩んで……。そのあたりを、追加エピソードで補完してもらいました。

――それにしても『聖剣伝説3』の主人公たちって、プロローグの段階で、かなり辛い経験をしますよね。

石井いつもよく言われるんですよ、「石井くんってひどいよね」って(笑)。でも、子どものころに見た昔の少年マンガやアニメとかって、少年や少女が、かなりの試練に見舞われる物語が多かったんですよ。たぶん自分は、そういったものに強く影響を受けてきていますね。

――当時のインタビューで、テーマは“自立”だったと語られていますね。

石井成長譚にしたかったんです。ちょうど自分自身、どう成長すればいいか悩んでいるときでしたし。葛藤を抱えたものどうしが、自分ひとりで悩むのではなく、お互いのがんばりを横目で見ながら励まし、支え合って、ともに試練を乗り越えていく……という物語を描きたいと思っていました。いっしょにいることの意味を内面から感じさせる、本当の意味でのパーティを表現したかったんです。

人も時間も足りない! 容量は……足りるのか?

――先ほど「突貫工事で作った」というお話がありましたが、『聖剣伝説3』は、どのような経緯で制作することが決まったのでしょうか?

石井覚えてないんだよなあ(笑)。

――そこをなんとか(笑)。

田中聖剣伝説2』がヒットしたので、その流れで続編を作ったと思うんですけどね。当時、何が辛かったって、スーパーファミコンはすでに世代交代の時期に来ていて、もう次世代機の発売が見えている状況だったんですね。だから、開発を長引かせるわけにいかなかったんですよ。『聖剣伝説2』のときは、ずるずると開発できたんですけど(笑)。

石井しかも、スタッフがかなり少なかったんです。確か『FFVI』の開発が終わったメンバーは、『クロノ・トリガー』に合流したんだよね。

田中プログラマーがみんな『クロノ・トリガー』に行っちゃって。スタッフの取り合いで、よく坂口(博信氏)さんとケンカしていました(笑)。

――当時、『ロマンシング サ・ガ3』も動いていましたしね。

田中締め切りは近いわ、人は足りないわでエラい目に遭いました(苦笑)。

石井ちょっとチーム数が多かったね、あのころのスクウェアは。

――ところで『聖剣伝説3』のソフトの容量は、前作から倍増しましたが(『聖剣伝説2』は16メガビットロム、『聖剣伝説3』は32メガビットロム)、容量増でできることが増えたぶん、開発も苦労されましたか?

田中容量は増えましたが、当時の制作環境(※プログラムは、アセンブラからコンパイラ環境へ変化。それにともない、メモリ空間についても、アドレス管理からオブジェクト指向に変化)の都合で、データを完成させないとロムの中にすべてのデータが収まるのかわからなくて。ある程度計算はしていましたが、本当に収まるのかドキドキしながら作っていました。

石井フィールドのお話ですが、容量が増えたことだし、「画面の切り換えは入るけれど、すべてのマップを地続きで表現しよう」と思ったんですよ。初代『聖剣伝説』では、すべてを地続きにしていたので、チャレンジしてみたかった。「でも、さすがに無理だよなぁ」と思いながらも工夫しながら作ってたら、案外できてしまって驚きましたね。

――『聖剣伝説3』はボスの数も非常に多いです。

石井最低でも3回遊んでほしかったので、主人公によって中ボスやラスボスが変わるようにしましたね。そういえば、火山島ブッカには、本来は“クラーケン”というボスが出るはずだったんです。火山島ブッカはとても長いダンジョンなのに、最後にボスが出ないのはRPGのお決まりとしてはおかしいと、たぶん皆さんも思いましたよね。当時、動くところまではできていましたが、調整しきれずお蔵入りにしたんですよ。

――リメイク版にもクラーケンは出ないそうですが、ほかのボスに関しては、3Dアクションならではのギミックが新たに用意されていますね。

石井そこは“リメイク”以上のことをしているよね。“リボーン”というか。

セリフに四苦八苦したトライアングルストーリー

――『聖剣伝説2』においては、石井さんはおもに世界観・キャラクター設定を、田中さんがバトルやデータ作りなどを担当していたそうですが、『聖剣伝説3』でも、同様に役割分担をしていたのですか?

石井だいたいそうですね。ただ、「こういう感じのゲームにしたい」という考えが自分の中に強くあったので、『聖剣伝説2』のころから、田中さんにいろいろ言って、困らせていました。『聖剣伝説2』に関して言えば、皆でワイワイ遊べるマルチプレイアクションにしたい、熟練度システムを取り入れて、派手な技を入れたい、と言ったり。

――では、『聖剣伝説3』については?

石井「クラスチェンジシステムを入れたい」とか、「物語は、トライアングルストーリーにしたい!」とか。主人公キャラクターをしっかりと立たせたフリーシナリオ的なものを作りたかったんですよね。

――以前のインタビューで、『ロマンシング サ・ガ』のフリーシナリオの原案は、石井さんが考えたものだとおっしゃっていましたね。

石井そうなんです、でも『聖剣伝説』1作目の開発が遅れたので、『ロマンシング サ・ガ』の開発には参加できなかったんですけど(笑)。だから、「自分でフリーシナリオを作るなら、どう作るだろう」というのを試してみたかったので、田中さんにお願いして、メインテーマに据えました。

――キャラクターが6人いて、自由な組み合わせで冒険できるなんて……そこからストーリーを作るのはたいへんそうです。

田中6人から3人を選ぶとなると、組み合わせは20通りですが、20通りものパターンで物語を作るのは無理だなと。

石井敵の3勢力のどこが残るのかという分岐や、ラスボスなどは変えられたけど、主軸のストーリーは基本的に一本道にせざるを得なかったね。

田中それで、たとえばケヴィンを主人公にしたとして、その物語に対する仲間の反応を5人分用意しなければいけないわけですけど……最初は、マルチシナリオ的な分岐やセリフの語尾だけを変えるという形も考えましたが、それだとキャラクター性が出ないんですよ。しかたがないので、ひとつのセリフに対する反応を各キャラクター分、まるごと用意しました。いまだったら、AI的な処理などでいろいろできそうですが……。

――考えるだけで気が遠くなりそうです。

田中場合によっては、誰かがボケたセリフを言ったとして、それを無視して進行するシーンもあります(苦笑)。そうせざるを得なかったんですよ。

石井本当は、デュランとアンジェラ、ケヴィンとシャルロット、ホークアイとリースに関して、“ほかの人よりもちょっと気にかけている”という、淡い恋心の描写を入れたかったんだけど、それを入れる余裕もなく。

――そう、25年前の週刊ファミ通のインタビューを見たところ、「男女の混成パーティなら、もうひとつの意味の三角関係になることもあるかも」と書いてあったんですが……ならないですよね(笑)。アンジェラやホークアイに関しては、それらしきセリフが残っていますが……。

石井やりすぎると、押し付けになってしまいますしね。結果的には、ユーザーさんが、いろいろと想像できる余地があってよかったかもしれませんね。

――ちなみに、キャラクターのセリフは、どのように考えるのですか?

田中『聖剣伝説2』のときもそうでしたが、キャラクターと自分を同化させて考えます。結城信輝さんが描いたイメージイラストと、石井くんが用意したキャラクター設定を見ながら、キャラクターが自然と喋り出すのを待って。でも、『聖剣伝説2』はメインキャラクターが3人でしたけど、『聖剣伝説3』は6人でしたから。多重人格になるにも限界がありました……。

――田中さんを始め、当時のスクウェアの皆さんは、システム面も考えつつストーリーも担当するという、マルチな働きかたをされていますよね。とてもすごいと思います。

石井あのころは、みんないろいろなことをやらざるを得なかったんですよね。

田中僕は本来は、シナリオには関わらないようにしていたんですよ、システムで手一杯だったので。まあ、『聖剣伝説2』では好きに書かせてもらいましたけど、この『聖剣伝説3』でシナリオ作りには懲りたので、以降は関わらないようになりました(苦笑)。

石井もったいないですよ。僕は田中さんのセリフ回しが好きなので、また見たいですね。

――もう一度、人格を増やしていただいて、ぜひ書いていただきたいですね……!

石井ちなみに、『聖剣伝説3』で試したトライアングルストーリーの3勢力の構成が、後の『FFXI』の世界を構成するベースになっていたと思っています。タイプの違う3つの勢力と、相対する勢力やそれらの中道に位置する勢力などを、「『FF』に置き換えたら、こうなるかな?!」と自分の頭の中でイメージしながら世界作りをしていったのが『FFXI』なんですよ。『FFXI』に登場する中立国“ジュノ”が、『聖剣伝説3』の“城塞都市ジャド”と名前が似ているのは、そういうわけです(笑)。当時、「『FFXI』って、『聖剣伝説オンライン』だよね」という人がかなりいたんですが、それはある意味では正解だったというわけです。

リースはもともと、ぽっちゃり系だった?

――『聖剣伝説3』といえば、6人の主人公たちの個性がデザインからも伝わってくることが特徴ですが、衣装などは、どのように決めていったのですか?

石井主人公のデザインはすべて自分で描いて、それを結城さんに渡しました。キャラクターの性格が出るようにポージングも考えて、結城さんはそれをしっかりと踏襲してくれましたね。設定やイメージが頭の中で明確だったので、自分でキャラクターをデザインするのはすごく楽しかったです。たとえばリースは「髪型はこうして、リボンを付けよう。そしてこのリボンは母親の形見にしよう。この肩パッドはどう見ても無理があるけど、まあいいか(笑)」という感じで。

――デザインから設定が生まれたりもしたんですね。それにしても、主人公の中でも、リースはとくに人気のキャラクターになりました。

石井当初、アンジェラは細身だけど色っぽいデザインにしていて、その対照に位置したリースは、健康的なぽっちゃり系の女の子として描いていたんですよ。結城さんから上がってきたのは、すっごくスリムで胸のないイラストだったんです(笑)。でもそのおかげで、リースが想像以上にすごく人気になったんですけどね。

――リースの凛々しい立ち絵は、いまも印象に残っています。

石井辛い試練のプロローグを経ても、凛とした意志の強さがにじみ出ているところも、人気の理由かなとは思っています。

――結城さんが描かれたリースのイメージイラストからも、悲痛さは伝わってきます。

石井当時、結城さんはゲームに関わるのも初めてだったし、ゲームもほとんど遊んだことがなかったそうです。だからでしょうか、楽しんで描いてくれていたイメージがありますね。

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イラストレーターの結城信輝氏が描いた、主人公それぞれのプロローグを表現したイメージイラスト。当時、この絵を見ながら「どの主人公で始めようかなあ……」と悩んだ人も多かったことだろう。

ファンに愛される『聖剣伝説3』

――おふたりにとって、『聖剣伝説3』はどのような存在でしょうか。

田中とにかくたいへんで、ゲーム開発の現場としては『聖剣伝説3』で燃え尽きた感じが自分としてはあります。ただ、そのぶんファンに愛されるタイトルになったのかなと。

石井こうしたい、ああしたいという考えをたっぷりと盛り込めたおかげで、非常に思い入れの深いタイトルになりました。

――そんな『聖剣伝説3』が、いよいよ生まれ変わって『聖剣伝説3 トライアルズ オブマナ』として発売されます。本作に対して、ひと言お願いします。

石井体験版をプレイした人が、リースやアンジェラのセクシーな画面写真をアップしているのを見たんですよ。それを見てね、やる気が強まりました(笑)。

――強まったんですか(笑)。

石井いま風になったな、って(笑)。いい意味での色気が出ていているよね。まあ、それは置いておいて、『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』のグラフィックは、昔スーファミで遊んでいたとき、勝手に脳内で思い描いていた3Dの姿に近いんじゃないかな。3D化は絶対無理だと思っていたので、開発スタッフはがんばってくれたと思います。本当にお疲れさまでした!!

田中本作はもう、リメイクというよりは、完全新作みたいなものだと思っています。『聖剣伝説3』にインスパイアされた、新しいタイトル。当時を懐かしむというよりは、新鮮な気持ちで皆さんといっしょに楽しみたいですね。

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本記事を読んで、「フルリメイク版はもちろんだけど、オリジナル版も久しぶりに遊びたくなった」という人には、好評発売中のNintendo Switch用ソフト『聖剣伝説コレクション』がオススメ。シリーズの初期3作が収録されている、お買い得なソフトだ。
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『FFIII』は30周年!

 2020年は、『聖剣伝説3』25周年のアニバーサリーイヤーであると同時に、『ファイナルファンタジーIII』30周年の年でもある。そこで、石井氏&田中氏に、『FFIII』についても語ってもらった。その模様は、下記の記事にて紹介しているので、ぜひチェックしてほしい。