『ファイナルファンタジーVII リメイク』(以下、FFVII リメイク)体験版でいちばん記憶に残ったのは“単管バリケード”だった。

 単管バリケードとは、鉄パイプでつないで人や車両が入れないように塞ぐ設置物。工事現場などで見たことがある人も多いと思う。記憶に残らないくらい自然に溶け込んでいるものだ。

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単管バリケードとはこういうやつのことです(千葉県で撮影)。
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キャラクターをモチーフにしたものもある。千葉県のご当地キャラ・チーバくんが群生しているみたいでかわいい。

 『街角図鑑』という本を読んで以来、路上で見かけるものが気になっている。マンホールやパイロン、車止め、のぼりベースみたいな、そういうやつ。

 ゲームを遊んでいても同様だ。気にならなかったオブジェクトって意外とある。

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攻略本ではなく、『街角図鑑』片手にゲームを遊ぶ。名著なのでみんなも読もう。

神羅カンパニーはコスト意識がしっかりしているみたい

 『FFVII リメイク』は2020年4月10日発売予定。僕はオリジナル版を高校生の頃に遊んだ直撃世代である。待ちきれなくて体験版をダウンロードした。

 体験版ではゲーム冒頭のシーンをプレイ可能だ。舞台は神羅カンパニーが保有する壱番魔晄炉。魔晄炉とは星の生命エネルギー“魔晄”を電力などに変える施設のことで、現代における発電所のようなもの。神羅カンパニーは資源の独占を目論み、世界各地につぎつぎと魔晄炉を建設・運用してきている。

 星を守るため、反体制組織アバランチは魔晄炉の爆破作戦を決行する。アバランチに傭兵として雇われたクラウドが、列車で壱番魔晄炉の最寄り駅に到着するところから、本作はスタートする。

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戦闘は3Dアクション。オリジナル版からの変化をかみしめる。

 チュートリアル的に操作方法を学び、警備兵を倒しながら駅構内を進む。階段を上ると資材を囲むように単管バリケードが設置されていた。

 目にした瞬間、うれしくて「単管バリケードだ!」と声を上げてしまった。最先端の技術を駆使する天下の神羅カンパニーだって単管バリケードで資材を管理するのだ。何だか親近感を抱いてしまう。

 いま単管バリケード好きにおすすめしたいゲームNo.1は間違いなく『FFVII リメイク』だ。

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モノタロウで大量発注して同じ光景を自宅に再現したい。

 『街角図鑑』によると、支柱部分も鉄製の“MA スタンド”というタイプだ。重いので安定性は抜群。華美な装飾はなく、単管バリケードとしてはスタンダードな部類である。

 儲けているからといってムダに高いものを使ったりはしない。大企業だけあってコスト管理の意識が高いのだろう。感心。

伍番魔晄炉の最寄り駅=ターミナル駅説

 こういう光景はリアルで見たことがある。そう思うと、急に「ここは駅なんだ」という実感がわいた。

 最初は“RPGにおけるダンジョン”という認識だったが、内装を気に掛けたら見えかたが変わる。僕らが日常的に利用する駅とよく似ているのだ。

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パイロンも気になり始めた。倒れているのはズイホー産業の“ユニ・コーン”に似ている。いや、でも頭に突起がないから、セフテックの“カラーコーン”に白いテープを巻いたものかも。V字型の反射材がついたものはセフテックの“スコッチコーン A”っぽい。
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改札はテーマパークの出入り口によくあるタイプ。ひとりが通過するごとに、がしょんとバーが3分の1回転する。両サイドの2機は作りが違う。台車での搬入用だろうか。
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バッグ、ヘアトニック、カメラの広告ポスター。バッグのキャッチコピーは“Elegance(エレガンス)”と“雅”である。リアルで販売してほしい。
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RPGの駅描写を見て「ほほう」と声をもらす日が来るとは思わなかった。

 壁にはポスターが張られ、ベンチも券売機も時刻表も路線図もある。完全に駅だ。現実にあったらレンガ造りのレトロな駅舎として話題になりそうである。

 路線図と時刻表には興奮した。僕は路線図を眺めるのがわりと好きなのだが、まさか『FFVII リメイク』で路線図を楽しめるとは思わなかった。しかも細かく作り込まれているからたまらない。

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行先表示器によると、つぎは21:18発の普通列車で、そのつぎは21:30発の急行列車。
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ちゃんと時刻表にも載っている。30分発の表示の横には“E(EXpress:急行)”マーク。細かい。

 18分発の普通列車も30分発も、行先はSector 5。伍番魔晄炉の最寄り駅と思しきその駅は、路線図の右上に記されていた。

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乗り換え駅だ!

 Sector 5は4本の路線が乗り入れるターミナル駅だった。きっと利用者数も多いだろう。通勤時間は混雑しそうだ。頭の中で想像が加速する。

 この部分を担当した背景スタッフさんが路線図・時刻表好きだったらうれしい。路線図を見ながら語り明かしたい気分である。

目に浮かぶ従業員の生活

 駅を抜けると壱番魔晄炉に到達する。壱番魔晄炉は駅直結。従業員からしたら通勤しやすい環境だ。

 僕には見えた。見えてしまったのだ。雨が降ったら屋根があるところだけ通って勤務先に向かう従業員の姿が。

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雨が降っている中、小走りで屋根があるところに駆け込む人のイメージ。

 ここで、はたと気づいた。アバランチの活動ってものすごく重くないか。

 言ってしまえば、思想のために人々の生活基盤・魔晄炉を破壊する反体制組織だ。エネルギー供給が断たれたら間接的に命を落とす一般人だっているかもしれない。純度100%、混じり気なしのテロ行為である。純テロ。

 いや、知ってはいた。1997年に発売されたオリジナル版の頃から基本的なストーリーは変わっていない。ただ、当時高校生の僕は、街中のNPCにリアルな気配を感じなかった。目に入っているだけで、住人のことを深く考えたことはない。だから、ことの重大さをいまいち実感できなかったのだと思う。

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昔は背景を見てもスルーしていたが、いまは気になって仕方ない。この世界に住む人々の存在が感じられるから。

 『FFVII リメイク』では、しっかり描かれた単管バリケードや路線図などから、それを日常的に利用する人々の姿がぼんやり浮かんできた。魔晄炉で働く人も、魔晄エネルギーの恵みを享受して生活する人も、実際はたくさんいるはずなのだ。

 自分たちの活動で、一般人のささやかな暮らしがどうなるのか。アバランチのメンバーだって想像が及ばないわけではないだろう。現代の倫理観に照らし合わせると、忌避すべきテロ行為。それでも成し遂げたいと願う、執念にも似た意志が彼らにはある。僕の中に重い決意が染み込んでいく。

 「単管バリケードがリアルでおもしろいなー」と、はしゃいでいただけなのに。

想像の幅を広げてくれた単管バリケードにありがとう

 正直に言うと、僕は精細な3Dグラフィックにそれほど魅力を感じないタイプである。

 どちらかと言うとシンプルなグラフィックのほうが好きなのだ。見えない部分を想像できるから。頭の中で補完するのは楽しい。

 『FFVII リメイク』はその真逆。隅から隅まで、何ならゲーム進行とは無関係の部分も描いてやろうという気概を感じる。だからこそ想像が膨らんでいった。

 RPGは物語を楽しむジャンルでもある。舞台背景やキャラの心情を想像すれば、物語はより深く心に入ってくる。『FFVII リメイク』の精細な描写を目の当たりにした僕は、目には見えない一般人の生活が心配になってしまった。

 全然知らない一般人のことも気にかけながら遊ぶ『FFVII リメイク』。これはおもしろい。漠然とゲーム内の指示に従うだけでは、この感情には気づけなかったと思う。単管バリケードと路線図に感謝したい。

 気がかりなのは、破壊された壱番魔晄炉の従業員の今後だ。職にあぶれないことを祈るばかりである。

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