PLAYISMが、2020年2月18日にSteam版を配信した『ジラフとアンニカ』。本作は、記憶をなくしたキュートなネコ耳少女“アンニカ”が、美しいスピカ島を探索していくアドベンチャーだ。敵を倒すという行為は存在せず、ボス戦はリズムアクションが展開するなど、全体的に癒される作品となっている。包み込まれるような優しい島の雰囲気と、どことなく切なさを感じる物語も見どころだ。

 atelier mimina開発により、4年の歳月をかけて作られた『ジラフとアンニカ』は、厦門国際アニメマンガフェスティバルゲームコンテストで最優秀ゲーム金賞を受賞するなど、発売前から期待が高まっていた。今回は製品版を遊んだプレイレビューで、その魅力の一端をお届けしよう。

温かい住人たちと底抜けに明るい少女

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 記憶を失って、自分がどこにいるかもわからなくなってしまったネコ耳少女のアンニカ。彼女は、自分を知っているという謎の少年・ジラフの頼みを聞き、島にある“星のかけら”を集めることになる。記憶がないといっても、アンニカは非常に楽観的。悲壮感や、思い悩むような場面はまったくないので安心だ。島の住民の頼みを積極的に聞いて叶えてあげるよい子で、どこまでも前向きな明るさがまぶしい。

 島の住人たちも、そんなアンニカを快く受け入れてくれる気のいい人ばかり。南国のリゾート地を思わせる美しい風景のスピカ島に住む人々は、心までも美しい。嫌な住人がひとりもいないので、こちらも気持ちよく彼らの頼みを聞いてあげたくなる。とくに、個人的に好きなのがセーブさんだ。彼女(?)はゲーム中のセーブを担当しているキャラクターで、新しい場所やダンジョンにつくたびに違うセーブさんと出会える。セーブさんに出会うホッとするし、彼女たちの能天気な会話も愛しくなってくる。

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ゲームを記録してくれるセーブさん。セーブポイントなのに、とてもキャラが立っていて個性的だ。

 セーブポイントひとつとってもアンニカに対して好意的で、キャラクターたちが前向きなので遊んでいて心が沈むこともない。癒されるようなゲームを求めている人にも安心してオススメできる“優しい世界”が魅力のひとつだ。

 それは、島にある“星のかけら”を巡ってアンニカと対立する魔女・リリィですらも同様。敵であるはずの彼女も、どこか憎めないコミカルなキャラクターになっており、徹底してイヤな人間が出てこないように配慮されているように感じた。

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行く先々でアンニカに立ちはだかるリリィ。彼女とアンニカの関係は、物語の重要なキーとなっている。

 もちろん、アンニカ自体も魅力的な少女として描かれている。彼女は好奇心が旺盛で、島にある多彩な物や人々に対して素敵なリアクションを返してくれる。テキストも調べたものによって細かく変わるので、彼女の反応が見たくてついつい棚や本などを調べてしまうことも。

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何かを調べた時の反応がいちいちカワイイ。これだけは絶対に伝えておきたい。

 メインストーリーでは、漫画のコマ割りを使った演出が入るのも大きな特徴。漫画を読むようにストーリーが語られるので、キャラクターどうしのやり取りや置かれている状況も理解しやすい。細かい表情や大袈裟な動きなどが漫画的な表現で描かれているので、CGだけで表現されるよりもアンニカたちの愛くるしさが伝わってくる演出になっている。

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ひとつのコマのなかでも、ボタンを押すごとに新しいセリフや絵、擬音などが描き込まれていく。リアルタイムで描かれていく漫画を読むような感覚だ。

アクションアドベンチャーとしても優しめ

 ゲームとしてはアクションアドベンチャーなので、ジャンプで崖をわたったり、パズルのようなスイッチを押したりといった謎解きやアクションも存在している。ダンジョンにはアンニカにダメージを与えてくるオバケもいるが、こちらから攻撃することはできずにやり過ごすことが基本だ。

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 とはいえ、難易度に関して言えば、この手のジャンルにしてはかなり優しめ。理不尽すぎる謎解きもなく、ダンジョンをクリアーするごとに解禁される“ジャンプ”や“ダッシュ”などの新しいアクションを使っていけば、先へ進められる。スイッチを使ったパズル的な謎解きも、あまり難しくはなかった。

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両手を振ってスキップしながらジャンプするモーションもカワイイ。何度も書くが、アンニカは本当にカワイイ。

 ジャンプができない序盤に足を踏み外して溺れる。後半の即死系トラップに引っかかるなど、失敗してアンニカが力尽きてしまうこともあるがペナルティーは存在せず、リトライも早めで復帰自体のストレスもなし。復帰する場所も直前の足場やチェックポイントなので、“溺れそうな水中の宝箱を回収してから力尽きて岸辺に戻る”といった人の心がないプレイも可能だ。もっともアンニカがかわいそうなので、あまり危険な目には合わせたくないが……。

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 この手のジャンルが得意な人ならば、ラストダンジョンのギミックでもあまり手ごたえを感じないくらいのバランス。アクションアドベンチャーの知識がない人や苦手な人でも、操作のヒントが看板で示されていることが多いので安心だ。

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トロッコに乗ってアクションシューティングのように進むギミックも、ブレーキをかけながら狙いをつけられる。ギミックが物語の進行を阻害するほど難しくはないので、先に進めず詰まることもないはず。

 逆に、物語の進行に必要なアイテムを探すときのヒントは少な目。自力で探す場面も多いのだが、個人的にそこはあまり気にならなかった。なぜなら、スピカ島のなかを隅々まで探索していれば見つかるし、そもそも探索すること自体が楽しいゲームだからだ。ダメージを与えてくるオバケもダンジョン内にしか出ないので、探索中に敵にやられるイライラ感もない。

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アンニカは歌の本を調べると歌い出し、太鼓を見つけると叩きたがる。彼女の行動を見るだけで幸せな気持ちになれるので探索も苦にならない。

 戦闘が存在しないゲームだが、ダンジョンの奥ではボス戦が発生する。とはいえ、相手を傷つけるようなことはない。ボス戦は、相手の攻撃をリズムアクションで受け止めるミニゲーム形式になっており、やはりどこまでも優しい世界なのが本作のよさだ。

 リズムゲームの難易度はEASY、NOMAL、HARDの3段階から選べて、NOMAL以上はそこそこの難易度。ボスを倒したあともリズムゲーム手帳からリトライできるので、ストーリーを進めるだけならEASYで遊んでも問題はない。

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ねこ絵集めなどのやり込み要素も!

 メインストーリーの進行とは無関係のサブクエストも用意されている。ひとつは“ねこ絵”集め。これは、島の各地に隠されている“ねこ絵”を入手して集めることで、特殊なアイテムがもらえる収集要素だ。

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 ねこ絵をすべて集めなくてもゲームを進めることは可能だが、セーラー服や水着といったアンニカの見た目を着替えられる服が手に入る。ちょっとした恩恵もあるので、積極的に探していくほうがオトクだ。なお、ねこ絵がある場所はノーヒントではなく、怪しげなマークが露骨に書かれていることが多い。困ったときは地面や水の底を見てみるといい。

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 ほかにも、島の住人から「●●を持ってきてほしい」といった依頼があることも。住民の依頼を解決することができれば“光るナゾの紙片”という収集アイテムが手に入る。これもメインストーリーとは関係ないが、気が向いたら探してあげるといいことがあるかもしれない。

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 ちなみに本作はゲーム内で時間が流れており、特定の時間帯で起きるイベントもある。島のあちこちにあるベッドで寝ると朝か夜まで時間を経過させることができるので、困ったら寝てみるのも手だ。もっともゲーム内時間の流れ自体が早いので、その場で待つことになってもあまり困ることはない。

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 本作のクリアーまではだいたい5~6時間。4時間以内でもクリアー可能で、アクションアドベンチャーとしてのボリュームからすると小粒にまとまった作品だ。隅々まで探索して、すべての要素を極めたとしても10時間以内には終わるだろう。だが、物語も探索もギュッと詰まっているので個人的な満足度は高く、物足りなさを感じることもなかった。

 最後まで遊べば、全体を通して貫かれている穏やかな雰囲気と、切なさを感じるアンニカの断片的な記憶の理由もわかり、まるでひとつの絵本を読み終わったときのような優しい気持ちになることができた。朝から昼、昼から夜になることで切り替わる音楽も耳に心地よく、ゲームバランスも丁寧に整えられている印象だ。風光明媚なスピカ島を観光する気持ちで、気軽に遊んでみてほしい。

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