2019年11月27日に、ゲームセンターにてアーケード用シューティング『アカとブルー タイプレボリューション』の稼働が開始された。新基板“exA-Arcadia”のローンチタイトルとなる本作は、アーケード専用のシューティング&新基板用新作タイトルとして、なんと7年振りとなる最新作となる。

 同時に、大型筐体を除けばゲーセンにビデオゲーム向けの新基板が導入されること自体がまれで、シューティングゲームでは往年の名作ばかりが人気を博してきたゲーセンという空間に、偉大なる先人たちの遺伝子を受け継ぎながらも、新たな風を取り入れんと立ち上がった……ひとつの“革命”なのかもしれない。

 そんな本作は、サウンドにも大きな特徴がある。全編に渡って、『サイヴァリア』などを手がけたWASi303氏作曲のROCKサウンドを、佐藤豪バンド、Fantom Iris(ファントムアイリス)、O.T.K.という3つのバンドが生演奏でアレンジしたものが収録されているのだ。しかも、3バンドともにシューティングゲームそのものを愛してやまないメンバーで構成されている。

 久しぶりにゲーセンに最新シューティングが稼動するという、記念すべき日の夜……じつは、『アカとブルー タイプレボリューション』の楽曲を手掛けた3組のバンドとキーマンからなる“チームタイプR”のメンバーが、池袋ゲームセンターミカドに集結。なんと全15名のメンバーたちが祝杯ともに、それぞれのシューティングの音に込められた熱いゲーセン愛を語り合った。

 “音”を切り口として稼働日の夜に語られた内容は、本作がまさにゲーセンのシューティングの遺伝子を受け継いで進化した作品であることをあらためて感じさせるものだった。脈々と連なるゲーセンシューティング文化の最新の記録としてお読みいただければ幸いだ。

『アカとブルー タイプレボリューション』稼動日の夜の座談会を公開!“読むとゲーセンに行きたくなる” シューティングを復活させたメンバーが語った全記録_01
 アーケード専用作品として新生した『アカとブルー タイプレボリューション』は、前身となるスマートフォン用シューティング『アカとブルー』を生んだ開発会社タノシマスの木村浩之氏と藤岡裕吾氏が2年以上の歳月を注いで、ほぼすべてをアーケードゲームのために作り直したタイトルでもある。
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“exA-Arcadia”は、Show Me Holdingsが製造、販売する業務用向け新プラットフォーム。基板1枚で対戦プレイが可能
であったり、対応ソフトのスティック状カートリッジを4本まで挿入することで同時稼働することができるなど、購入する店舗の視点に立った仕様が大きな特徴だ。とくに、近年のアーケードゲームでは主流になっているネットワーク対応を廃し、従量課金が不要という仕様を取っており、ゲームセンターや施設の負担軽減を図っているという特徴もある。
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チームType-Rメンバー紹介 ※写真左より

・ゲーセンミカド TAIJI氏
 株式会社INH所属。イケダミノロックのマネージャーとして、日々イケダ氏とともにさまざまな施業に奔走。『ジョジョの奇妙な冒険』の作者、荒木飛呂彦先生をこよなく崇拝している。

・O.T.K. おしむら氏(文中はおしむら)
・O.T.K. nobo氏(文中はnobo)
・O.T.K. B/809氏(文中はB/809)
 YMOに憧れ、3人で24年前にテクノバンドO.T.K.を結成。かつてHMRと対バンしたLIVEで演奏した『アカとブルー』のキャラクターセレクト時の曲“カセットレコーダー”をバンドでアレンジしたことをきっかけに、本作に参加。おしむら氏がシンセサイザーや打ち込みを、nobo氏はドラム、B/809氏がベースを担当。

・Fantom iris 山王氏(文中は山王)
・Fantom iris kyo-ji氏(文中はkyo-ji)
・Fantom iris ぱっつん氏(文中はぱっつん)
・Fantom iris/佐藤豪バンド じんじゃ氏(文中はじんじゃ)
 2016年に高田馬場ゲーセンミカドにて結成されたゲーマー兼ミュージシャンによるバンド。シューターでベーシストのkyo-ji氏と、初代バーチャ勢でギタリストのぱっつん氏、キーボードのじんじゃ氏、ドラムの山王氏にて構成。

・タノシマス 木村浩之氏(文中は木村)
 株式会社タノシマス代表取締役。2015年に会社を設立し、藤岡氏とともにスマートフォン用『アカとブルー』、アーケード用『アカとブルー タイプレボリューション』を世に送り出した。株式会社クライマックス、株式会社ケイブを経て独立。

・サクセス/HMR WASi303氏(文中はWASi303)
 株式会社サクセスのAM事業部オーディオ制作部・部長。テクノサウンドによる『サイヴァリア』などのシューティング作品の楽曲を手掛け、『アカとブルー』では全曲を

 ROCKサウンドで作曲。本作ではサウンドプロデューサーとして参加バンドの楽曲を取りまとめつつ全体のバランス調整を担当。HMRのギタリストでもある。

・佐藤豪バンド/HMR 佐藤 豪氏(文中は佐藤)
・佐藤豪バンド アンドー氏(文中は アンドー)
 セイブ開発にて『雷電』サウンドを手掛けた佐藤 豪氏は、HMRのベーシストとしても活動。本座談会には、自身の佐藤 豪バンドに所属するEWI(ウィンドシ
ンセサイザー)の演奏を担当するアンドー氏と、キーボードのじんじゃ氏が参加。

※じんじゃ氏はFantom irisのキーボーディストとしても活動中。

・飯島丈治氏(文中は飯島)
 '80〜'90年代にさまざまなゲーム音楽のアレンジ演奏を行った、世界初のゲームミュージック演奏バンドS.S.T.BANDのギタリストとして活躍。本作では5面の楽曲のギター演奏で参加。

・hosplug 細井聡司氏(文中は細井)
 かつてビデオシステムにて『ソニックウィングス』シリーズの作曲からサウンドまでを担当。現在はアーティストのプロデュースや自身のLIVE活動、動画配信などに関わる。

・ゲーセンミカド/HMR イケダミノロック氏(文中はイケダ)
 株式会社INH代表取締役。ゲーセンミカド店長として日々の企画や業務をこなしながら、HMRのリードギタリストとしても活動するミュージシャンの顔も持つ。本作ではexA-Arcadia基板の販売営業からプロモーションのほか、飛び立つまでに舞台裏からさまざまに尽力。

ROCKの人間味

――稼働おめでとうございます!

木村 ありがとうございます! 7年7ヵ月ぶりに、 ゲーセンに新作シューティングが稼働することになりました。

一同 イエーィ!

WASi303 それにしても、じつはこうして皆で集まるのは久しぶりだよね?

木村 今日は『アカとブルー タイプレボリューション』稼働の記念日だから、という理由で皆に声を掛けてしまったら……こんなに賑やかなことに(笑)。 それにしても、素直にいまの気持ちとしては、まだ何も“終えた感じ”がまったくない。

イケダ ここからだからなあ。でも、記念日だから飲もう(笑)。

木村 こうして皆に囲まれていると、 本当に皆さんに助けられて、この日を迎えられたんだなあって思えてきたところです。しかし、サウンド関係者がこうして集まったわけだけれど、スマホ版の1ステージ目を作っているときは方向性が決まらなくて、何種類も作りましたよね。

WASi303 TECHNOではなく、ROCKで行きたいという木村くんのオーダーで試行錯誤したけれど、 自分としては、ハードロックの曲が作りたくて。

山王 “ブルース”がある曲って言うやつですよね。

kyo-ji まさにそうしたハードロックのビート感が、 ミュージシャンとしてはグッときましたね。 ハードロックには、人間味が加わる感覚があるんです

――『アカとブルー』の音楽を聴きながら遊んでいると、どこか曲が自分にとっての応援歌に思えるときがあります。

一同 応援歌……わかる!

WASi303 まさに遊ぶ人に寄り添って、より感情移入ができる余地が大きいジャンルが、ハードロックのひとつの特性なのかなとも思って。 なので、『アカとブルー』は“ROCK”という方向性を決めて、あとはひたすら木村くんにゲーム画面を見せてもらって、曲のテンポ構成を作っていったよね。

木村 シューティングゲームは自動スクロールなので、 プレイヤーの進行に合わせて、場面ごとの音楽の構想が詳細に設計できますから。

WASi303 たとえば、 ステージ2で曲が盛り上がるところで自機がダイブする演出も、映像と音楽が完全にリンクするように作れて。ボスや、手ごわい中ボスが出てくるタイミングで、 ちょうどカッコいいBメロやサビに曲調が展開すると、プレイヤーはすごくグッとくる。

じんじゃ これってシューティングのお家芸みたいなところがありますよね。

佐藤 シューティングゲームが好きな人には、 まさにこの演出が好きという方もけっこういると思うんです。シューティングゲームで名曲と言われる曲はいっぱいありますが、 みんなここに注力しているから、感情移入が生まれると思うんですよ。

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音に助けられて

WASi303 スマートフォン用のシューティングをゲーセンの『アカとブルー タイプレボリューション』として生まれ変わらせるうえで、木村くんから「曲の雰囲気を変えたい」というリクエストがあったんです。ここにいるみんなは音楽に関わる人たちだから、きっとわかってくれると思うけれども……「自分の曲をアレンジし直せ」と言われたときの、この辛さね!

一同 (口ぐちに)わかるわ、イヤだよなあ(笑)。

WASi303 昔のゲームの音楽や、 打ち込みの曲ならまだ大丈夫なんですけれども。『アカとブルー』のように、楽曲に生演奏を収録しているような作品だと、収録の時点で、自分の力量の限界ギリギリまで弾いたものをOKテイクとするので、さらに上を目指せと言われたら「ええ!?」となっちゃうでしょう(笑)。

kyo-ji まったくもって同意です。俺らも、すごい回数のテイクを録りましたから。

おしむら 我々も、最後の最後までテイクを重ねたものを提出しましたよ。

WASi303 ね? そこからさらに、 もう一段上を、って言われたら辛いわけです(笑)。つまり、俺が関わってしまうと「変えたい」という気持ちに応えられなくなるまで、いっそ曲を作る人ごと変えてしまって、いろいろな人に頼むべきだと。

木村 そのいろいろな人、 というのがここに集まってくれた人たちなんですが、奇しくもROCKとTECHNOのバンドが集ったので……これは“LIVE”なのではないか、と思ったんですよ。

ゲーセン筐体から自分の演奏が流れるうれしさ

WASi303 でも、 当初は誰に頼むのかも決まっていなくてね。

木村 そんな中、 イケダさんがFantom irisというバンドを急にYouTubeで見つけてきて。「これはいいなあ」という話になったんですよね。

イケダ ああ。スマホ版の『アカとブルー』が配信されてからほんの1ヵ月も経たないうちに彼らの動画を観たんですけど。ちょうど自分がギターソロで参加した3面の曲を演奏する動画だったので、「おっ、もう演奏してる?」と思って。

kyo-ji 僕はもともとシューターでもあるんですけど、『アカとブルー』を初めて遊んで3面の曲のギターソロを聴いたときのインパクトがすごかったんです。どれくらい衝撃を受けたかと言うと、「これは弾きたい」と衝動的にギターに手を伸ばしたくらいで……バンドではベーシストなんですけど(笑)。

ぱっつん ギタリストはオレです(笑)。

kyo-ji そもそも『ウルフファング』というアーケードゲームの曲を聴いてベースにほれ込んで、自分でも弾いてみようと思ったのが、楽器を始めたきっかけだったんですが、そのときと同じインパクトを感じて。3面の曲を聴いた瞬間に「これはFantom irisとしてカバーをしようかと」いう話をして。

ぱっつん 俺も「すぐやるよ」という感じでした。とにかく、曲がよくて。

じんじゃ ……ところがですよ、最初このふたりだけで話して勝手に演奏していたんですよ? ……大憤慨ですよね、まずは。「お前らふたりだけで、何やっているの」って(笑)。

山王 それを言ったら、僕も知りませんでした。YouTubeでふたりの演奏を観たときに「おお!」、って他人事みたいな(笑)。

木村 わははは(笑)。でも俺、『アカとブルー』の開発中にイケダさんのギターソロを初めて聴いたとき、「これは誰も真似できないだろう」と思ったけどね。

ぱっつん もともとテクニカル系のソロを重視して練習していたんですが、今回はまずはひたすらコピーをしてみました。アレンジとかじゃなく、まずは弾いてみるところから少しずつ。

イケダ 自分たちがギターを始めたころはいわゆるバンドブームで、 まさに「この曲を弾きたいから練習しよう」という文化があってさ。

 3面のギターソロは、 鼻歌を歌って考えて「これがいちばんいいかな」と思ったフレーズを弾いたものだったんですが、 弾きながら「そんな同じ衝動を感じてもらえる若い奴らが現れたらうれしいな」、なんて思っていたんです。そうしたら、わりと早い段階で演奏しているふたりがいるんだから、まずそこに目がいきますよね。

kyo-ji いちシューターとしてもうれしくて、「ゲームセンターのプレイもLIVEなんだ」と言う感覚が、遊ぶ人に伝わるといいなと思いながら
アレンジしました。

ぱっつん LIVEをしているときに、 楽しんでくれるお客さんを見ているときが、ミュージシャン側としてもすごく幸せなことなんです。ゲームセンターとLIVEといえば、僕はゲームもギターも父親の影響で始めているんですよ。

父親がゲーセンのゲームが大好きで。だからアーケードゲームに自分の弾いた曲が使われるというのは、最高の親孝行なんじゃないかなと。

kyo-ji 巡り巡っていまアーケードゲームに戻ってこられて、 俺らもゲームセンターにちょっとでも恩返しができてよかったなって思ってます。

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世界初のゲーム演奏バンドの血

おしむら 我々もFantom irisさんが演奏する『アカとブルー』トリビュートアルバムを聴かせていただいたりしたのですが、「こんなの絶対できないぞ」と(笑)。

 もともと、 自分たちのLIVEで、「好きだ」という理由で『アカとブルー』の“カセットレコーダー”という曲を演奏させていただいただけだったのですが、それがご縁でゲーム基板にも自分たちの演奏が使われるなんて、たいへんなことになった(笑)。なので参加させていただくならば、「まったく違うところをやらないと」と強く思いました。

nobo 僕らはライブ活動をさせていただく一方で、これまでに音源を残した事はなく、レコーディング自体が今回初めてなんです。

おしむら O.T.K.の活動は24年目なんですけれども、くり返し聴かれるという想定のものを作らねばならないというプレッシャーに、去年の年末から襲われていて。しかも……うちのバンドって、“ROCK”の要素がないんですよ。なので、どうやってほかの『アカとブルー』のROCKに近づけていくかというのが難しかったですね。

B/809 ベースって弦楽器です。ROCKと言えば弦楽器だと思っているので、ベース担当の僕はすごく責任を感じたんですよ。O.T.K.でROCKを出すと言ったら弦を持っている僕しかいないだろうと思った。

 しかし、なかなかギターの音色には勝てないわけです。いろいろと曲作りを何とかがんばって近づけて、ふだんやらないようなベースソロまでやったりして……なんとか自分の中のROCKを振り絞ろうと

WASi303 O.T.K.さんの中で、 いちばん最後まで悩んでいましたよね。でも、新しいベースソロが届くたびに、荒れ狂う印象が増していったのが、俺の中ですごくよくて……もう、「好き!」って(笑)。

一同 (笑)

おしむら でも、やはり5面のアレンジの際には、ギタリストが不在である点が致命的に感じるようになりました。やばいぞと思っていたときに、ふとした飲み会で元S.S.T.BANDの飯島さんにお会いするという奇跡が起きまして。

 「ギタリストとして5面の演奏に参加していただけませんか」とお話をしたら「いいよ」と言っていただいて、それでアレンジの方向性、ガラッと変わりました。

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アンドー えっ、飲み会で出会ったんですか!

nobo ええ。 その後、 飯島さんから「弾いてみた」というファイルが送られてきたんですが、それをメンバー全員で聴いた瞬間、すご過ぎる演奏にやられまして。電気ムチを喰らったような感覚でした。ギターが、もはや武器なんです。機関銃や斬馬刀になるときもありますよ。

おしむら イメージしていたギターリフがもの
すごいことになって返ってきたんです。飯島さんのライブに行くとわかりますけど、本当に蜂の巣にされたりとか、そんな感じなんですよ。

WASi303 俺、飯島さんのレコーディングシーンも語りたいです。「すげえ音が撮れたので、これでオッケーです」って言ったら、「ちょっと待って、ここから音を作るからと」いきなりエフェクターをつなぎ変え始めて……もっといい音になるんかい! って度肝を抜かれました(笑)。

kyo-ji あの、じつはFantom iris結成の“きっかけ”になったのは飯島さんなんです。

木村 え!? そうなの?

kyo-ji もともと僕とドラムの山王は敵対するバンドに所属していて。ライブハウスで出会うたびに、「お互い気に食わない奴だな」と思っていたんですよ。

山王 kyo-jiは、“バンギャ”と呼ばれる女性ファンをはべらせていて、「この野郎!」と思っていました。でも、あるときアーケードゲームミュージックの話で盛り上がったんです。

 その中で、飯島さんの「『U.S.Navy』のアレンジ版の演奏がすごくいいよね」と強く共感して。'80年代から'90年代のゲームミュージックのバンドブームの中で、「ひとりだけものすごいROCKな人がいる」みたいな。そんな話をして、ちょっと仲よくなったんです。

――飯島さんの演奏が、 仲を取り持ったのですね。

アンドー 不思議な縁ですね。

飯島 縁と言えばさ、アーケードゲームから自分の演奏が流れるのは『アカとブルー タイプレボリューション』が初めてだったんです。これまでいろいろな作品でアレンジに関わってきたけれども、みんな家庭用ゲームばっかりだったので。

木村 ほ、本当ですか!?  すごい! 稼働日に知ることになるなんて。世界初のゲーム演奏バンドの血が入ったゲームってことですから!

飯島 アーケードに入るのは初めてです。佐藤 豪氏の“その場の空気を描く効果音”─稼働日の夜だからなのか、 本作のために集った皆さんに、不思議な縁を感じてしまいます。残るは佐藤豪バンドの関わり方ですね。

WASi303 豪さんには、 今回効果音をお願いしてしまっていたのですが、 僕が2面の曲を作ったときには、すでに豪バンドのアンドーくんが吹くEWI(ウインドシンセサイザー)が鳴るイメージがあったので、気づけばマストでお願いしていました。爽やかな曲なんです。

アンドー ありがとうございます(笑)。

木村 イメージ以上に爽やかで、2面の抜け感とぴったりでしたから。それにしても、ライブでも幾度となく『アカとブルー』の演奏をしてきたHMRのベーシストでもある豪さんですが、今回は自分のバンドで参戦するわけですよ。

佐藤 すでに効果音制作として内部にいたから、Fantom irisとO.T.K.の音を知っていたんですよね。だから、後出しジャンケン的なところなんですけれども、「爽やかなロックを担おう」とコンセプトを決めました。佐藤豪バンドでは1面、2面、 そしてエンディングを担当しています。あとは、効果音ですね。

――ちなみに、名作縦スクロールシューティング『雷電』は曲もROCKで心に沁みますが、効果音も強烈で忘れられません。

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山王 コイン投入時の音とかですよね!

佐藤 そうですね。 セイブ開発という会社は、『雷電』のサウンド制作の時点ですでに効果音を大事にしていたんです。 ぶっちゃけ、「曲が聞こえなくていいから、爆発音をでかくしろ」と言われていたくらいで。

 当時は若干理不尽だな、と思っていましたが、 開発を進める中で、「確かに効果音は音楽よりも大事かもしれないな」と思うようになりました。 なので『アカとブルー タイプレボリューション』もセイブ開発時代からコンセプトはあまり変わっておらず「派手にカッコよく、気持ちよく」ですね。

――『雷電』シリーズの効果音思想が、そのまま本作に受け継がれているのですね。

木村 今回、 僕が実現したかったのは雨や風、滝の音といった、背景の音なんです。スクロール型のシューティングに限りますけど、そういう背景の音が入っているシューティングって、僕が見た感じでは、あまりなくて。

WASi303 シューティングって基本的に自然の音は入らないんです。 でもおもしろい話があって。4面に出てくる大型戦艦のエンジン音が、 ずっと「ゴーッ」という音で鳴っているんですが、サウンドの調整をする中で、BGMが聴こえにくいと木村くんから指摘があり、効果音をカットしたんです。

 すると、BGMは聴きやすくなったけれども……「物足りない」ということになって。

木村 カットしたら、“雰囲気”がなくなったんですよ。だからこそ、プレイヤーが“そこにいる空気感”を活かすためにも、 効果音は重要だったんです。

佐藤 やっぱり、効果音って意識しなくても聞こえてくる音なので。聞こえなくてもないと成立しないと言うのはけっこうあるものですから。

――ゲーセンでシューティングを遊ぶときは、椅子を引いて腰掛けるところから、すでにゲームが始まっているような空気感があります。

kyo-ji 椅子を引いてコインを入れるとコクピットに入る感じがしますよね。

おしむら まわりの世界がコクピットになって、隣りで遊んでいる人は、まるで名もなき同僚になる……そんなイメージですよ。

アンドー なんだか同じ空で戦っているような感じさえあって。

ぱっつん その感じも、ゲームセンターならではの感覚で好きなんですよね。

佐藤 いまの時代のシューティングだからこそ、効果音については実践してみたかったことを詰め込みました。そうした空気を感じてもらいたくて

木村 自分も15年この業界でゲームを作ってきましたが、この話は、ものすごく勉強になりました。

さあ、ゲーセンへ行こうか

WASi303 僕たちが提供しているのは空気なんです。そこにこそ価値があるのでお金を払ってゲームも遊ぶし、ライブも見に来てくれるわけで。 だから根源はいっしょなんですよね。ゲームセンターもライブも全部いっしょ。

木村 同じものを好きな人が集まる場の臨場感や、体で浴びる音の振動ってありますよね。

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――お話をうかがって、まさに本作の音のコンセプトがROCKとLIVEなんだと納得しました。

WASi303 ……俺のROCK感の原点って「作った曲を友だちに聴かせたい」という気持ちなんです。仲間内で俺は“テツ”と呼ばれていたんですが、「テツの曲はわからないな」と言われると、「わかんない? どこが?」って気持ちが高まって。

 いつかこいつが感動でガタガタ言うような曲を作りたいと感じる。つまり、自分が好きなものを伝えて、わかってもらいたい。そのハートこそが、ROCKなんですよ。

木村 いまの時代に、こうしてアーケードの取材をしているじゃないですか。それだってすでにROCKですよ。ROCKのファンっておもしろくて……好きか嫌いかしかないんです。「俺が好きなものを、 お前も好きだろう?」と思う気持ち。それを表現するのがROCKだと僕も思う。

kyo-ji もともと体制側に対する反発するものがROCKの原点なのだと思うんです。だからカウンターカルチャーとして意思表示を見せたいという気持ちもすごくあって。

WASi303 アーケードゲームシーンがゲーム業界のメインカルチャーだった時期があったけれど、いまはむしろ、カウンターカルチャー寄りになっているかもしれない。 だからこそ、ROCKサウンドとして見せたいなという気持ちは強かったのかもしれないね。

木村 新作アーケードゲームとして今日稼働し始めた『アカとブルー タイプレボリューション』ですが、音だけでなく、その存在自体、ゲーム業界にとってはわりとROCKな立ち位置ですから。

――ゲーセンに、新基板のローンチタイトルとしてシューティングが稼働するわけですからね。

木村 ええ。なぜいまゲームセンターに新作が少ないのかというと、 それは……出す人がいないからです。じゃあ、出さないならば出せばいいだけだと。ゲームセンターの楽しさをもう一度伝えたいだけなので、そのために僕らはこんなふうに集まって、 皆本気で楽しみながら、お客さんを楽しませるものを作りました。

WASi303 '80年代のゲームセンターって、店に行くだけですごいゲームがあるような気がしていたし、店内に並んだゲームからはいい曲が流れてくるような気がしていて憧れたよね。

自動ドアが開いて、目当てのゲームまで小走りする感覚……! ね? 俺、じつはこの業界に入りたかったのは、ゲームセンターで新作シューティングとレースゲームの曲が作りたかったからなんですよ。

佐藤 今日ひとつ夢が叶ったじゃない。

WASi303 しかも飯島さんが俺の曲を演奏してくれるんだぜ? 昔の自分にこの日が来ることを教えてやりたい(笑)。ゲームを遊びにわざわざゲームセンターに来て100円使ってくれた人になんて、 もう10000円くらいの体験をさせてあげたって足りないよ。

 忘れられないんだけど、俺らでHMRのライブを演奏するときにさ、イケダが「来てくれた人たちがどれだけ楽しめるかというのを、 僕たちは追求しようぜ」という話をしたじゃない? ほんとに……そうだよなあ。

イケダ やっぱり楽しかったな、と思ってほしいよね。 ライブもそうじゃないですか? 今日来てよかったなと思ってもらいたい。

木村 お客さんを楽しませたいんですよ。それに、今回自分は、ゲーセンで働くオペレーターの人に、まず楽しいと思ってもらいたかった。どうしてかっていうと、オペレーターさんが「楽しい」と感じたなら、 それはその先にいるお客さんにも必ず届くからです。

 だから、起動時に「おはようございます!」ってキャラクターが店員さんに話しかける、なんて機能も入れたりしているんですよ。

じんじゃ 知らなかった……私、じつはちょっと前までゲームセンターが怖かったんです。なんだか100円を入れるという行為自体にも、とてつもなく高いハードルを感じていて。ゲーセンの新作も多くはないし。でも、そんなふうにお店の人がいて、お客さんが通うというゲームセンターの文化自体が、これまでゲーマーとしての自分の中になかったから、見えていなかっただけかもしれないですね。

イケダ いっぺん来てみればいいんだよ。ゲーセンへ。

WASi303 『アカとブルー タイプレボリューション』って、チュートリアルがすごく充実していたり、「遊んでくれてありがとう」とかって、席を立つ瞬間までプレイヤーに親切だったりとかしてさ。そういうのも含めて、ゲーセンならではの空気があるから。

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木村 何かきっかけがないといけないじゃないですか。そのきっかけを今日、世に出せたんじゃないのかなと思っています

――今日は記念すべき稼働日の夜の取材で皆さんが集まってくださいましたが、「音楽を作りたい」と言って、こんなに仲間が集まってくれることも、なかなかないですよね。

木村 僕がいちばん驚いています。飯島さんまで来てくださって。

イケダ 俺も驚いているよ。

kyo-ji 実際、いまゲームセンターでみんなが楽しんでいるシューティングってなんだろうと振り返ると、20年以上前の『グラディウスIII』や『バトルガレッガ』だったりします。

 だから、願わくば今日生まれた『アカとブルー タイプレボリューション』も、20年後とかに「曲が好きで演奏したいんだよね」と思うプレイヤーが現れてくれるのが、僕らにとっては、いちばんうれしいんです。

WASi303 俺なんかの曲で、みんなありがとう。

木村 俺なんかと思っているのはWASi303さんだけです(笑)。

 

 ゲーセンに憧れて、ゲーセン文化を受け継いで最新シューティングを世に送り出したチームタイプR。『アカとブルー タイプレボリューション』は、ゲーセンミカドを始めとするゲーセンで稼働中なので、遊びたくなったら、さっそく100円を握りしめてゲーセンへ腕を試しに行ってみては? 
 また、本稿はサウンドチームによる座談会となったが、2020年2月16日日曜日に開催予定のLIVE“ゲームとテクノがスキ!”には、チームタイプRのメンバーからHEAVY METAL RAIDEN、そしてO.T.K.が参戦予定。『アカとブルー タイプレボリューション』の楽曲演奏も予定されているので、最新のゲーセンシューティングの音を全身で体感できる貴重な機会となる。興味のある方はこちらもチェックしてみよう!

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細井氏が率いるHOSOIBANDと、アーケードゲームミュージックカバーバンド・O.T.K.、『雷電』の鋼鉄爆音公式ゲームミュージックバンド、HEAVY METAL RAIDENが贈るライブイベント“ゲームとテクノがスキ!”。2020年2月16日、小岩ライブシアターオルフェウスにて開催予定だ。※チケットなど詳細は下記のリンクを参照
ゲームとテクノがスキ! LIVEチケット購入サイト
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