PLAYISMが2020年1月14日にSteamで配信予定の『Orangeblood』。世界とキャラクター、そのすべてが緻密なドット絵で描かれ、戦闘はサイドビューで展開。かつてのJRPGの血を確かに受け継いでいると感じさせてくれるRPGだ。今回、その最新版でプレイすることができたので、プレイレビューをお届けしたい。

「語られない」部分がすごい

 沖縄近海に浮かぶ人工島──という設定の街、“ニュー・コザ”。点滅するネオンサイン。空を飛ぶクルマ。決して広くない面積にこれでもかと建物を詰め込み、人々はその隙間で何とか生きているという感じ。スチームパンクな世界観を持つ作品によく見られる、あの雑多でゴチャッとした街の魅力がある。
 しかしニュー・コザには荒廃的な雰囲気はなく、バックには太陽の光と青い海。スチームパンクと現代と未来とマイアミを足して4で割ったような、なんとも不思議な世界観となっている。

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決して治安は良くないが、どこか居心地が良さそうでもあるニュー・コザの街は、ゲーム開始直後から目を奪われるドット絵マジックが満載。言葉では説明しづらい、この不思議な街の雰囲気を見事に描き切っている。

 物語の主人公となるVanillaは、名の通った紛争解決業者(トラブル・バスター)。……だったのだが、とある件でドジを踏み、連邦刑務所に拘留されていた。Vanillaは“即時釈放”、“犯罪記録の全抹消”、“20万ドル”という報酬と引き換えに、「ニュー・コザの街にある“閉鎖区画”への侵入ルートの確保」という依頼を引き受けることになる。

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結構ヘビーな仕事をしている割に、可愛すぎるVanilla。ところどころ、映画的なカッコいい台詞回しをキメてくれる。

 ニュー・コザの街での拠点となる場所を貸してくれるのが、DJのMachikoという女の子。かつてMachikoの兄がVanillaに世話になったらしく、その繋がりから連絡をとったと思われるのだが、その辺りは詳しくは語られない。

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左がMachiko。「んちゃ!」……とは言わず、語尾に“ス”が付く。

 本作を「スゴい」と感じる理由のひとつが、この「語られない」という部分だ。説明臭い描写がひとつもなく、キャラクターどうしの自然な会話から、人間関係をプレイヤーに想像させるように仕向けている。
 Vanillaはどうやらニュー・コザ出身らしいのだが、それも、今回の任務についての話を電話でしているシーンで「君の任務は“里帰り 兼 宝探し”だ」と言われていることや、Vanilla自身の「長年留守にしたが 変わってねえな 相変わらず汚ねえ街だ」というセリフから読み取れるだけ。それ以外、Vanillaとニュー・コザの街との関係は一切説明されていない。何かと説明過剰になりがちなRPGにおいて、映画的な作りが成功している珍しい作品だと言える。

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オープニングからニュー・コザへの到着までは、車で移動しながらの会話イベント。プレイヤーはニュー・コザを眺めながらキャラクターの会話を楽しみ、なんとなく情報を得ていく。時間的なムダがない、完璧な導入だ。

 しかし、現在のニュー・コザは、Vanillaの知るニュー・コザとは少し変わってしまっていた。デカいビルが建ち、そこがロシアン・マフィアの根城になり、Machikoの兄の家だったはずの“クラブ・シャングリラ”も別勢力に乗っ取られてしまっている始末。現在のMachikoが住むアパートが狭すぎることに不満を抱いたVanillaは、“クラブ・シャングリラ”を取り返すことをこの街での最初の仕事にするのだった……。

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サイドビューで展開されるガンバトル。武具にはハック&スラッシュの要素も

 戦闘はサイドビューで行われ、武器はすべて銃器類。ともに戦うことになるMachikoも銃で攻撃はするが、彼女には音楽での支援能力がある。

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戦闘画面はオーソドックスな作りだ。画面右上には、敵味方の行動順が示される。
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DJのMachikoは、毎ターン、音楽で援護してれる。効果が異なる複数の曲を使えるので、状況に応じて使い分けたい。

 ある程度攻撃するとSP(スキルポイント)がたまり、スキルを発動できるようになる。とくにVanillaの“デッドアイ”は強力で、強敵との戦闘では、いかにこのスキルを早く発動できるかがカギとなるだろう。

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“デッドアイ”は、対象はランダムだが敵単体に6回連続攻撃できるスキル。ボス1体相手なら効果は抜群!

 また、“戦ってはいけない敵”も登場する。明らかに強く、現状では勝てない相手だ。こういう場合に“いかに回避するか”も、本作のゲーム性のひとつとなっている。

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右方にいる黒い物体が敵シンボル。一定範囲内に近付くと感知し、こちらを猛追してくる。

 フィールド上に徘徊する敵シンボルと当たると戦闘に入ってしまうので、当たらないようにやり過ごしていく。円形になっている地形がある場合はそこを利用して、おびき寄せてから逆側から迂回すればなんとかなる。
 また、フィールド上で決定ボタンを押すことで、銃を撃つことが可能。これが敵シンボルに当てると、一定時間スタンさせることができる。迂回できる道がない場合は、この方法で切り抜けよう。

 RPGと言えば武器防具の買い替えだが、本作の武器防具はショップでの購入以外に、フィールド上にランダム配置された“ロックされたクレート”を解錠することでも手に入る。Common、Uncommon、Epic、Unique……といった感じのレアリティ段階があり、入手の際にはある程度のランダム性があるようで、ハック&スラッシュの一面も持っている。

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Epicの品は、攻撃力に劇的な差がある逸品。“ロックされたクレート”は、敵を倒すと手に入る“フラグメント キー”を消費して開けることができる。
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街中にはリサイクルマシーンがあり、ショップ以外でも、要らないアイテムはこれでを使って売却・換金できる。
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戦闘不能になると、直前のチェックポイントからの再開か、安全な場所まで戻るかを選択できる。チェックポイントは大抵ゴミ捨て場で、ぐったりしたVanillaがクレーンで運ばれるさまはカワイイ(画像は拡大図)。

美少女JRPGというドレスを着た、ドット絵という最新技術の楽園

 このゲームの主役は、ニュー・コザの街そのものである、と感じる。もちろん、物語の主人公はVanillaだが、Vanillaですら、ニュー・コザという大皿の上の1調味料に過ぎない。雰囲気に完璧にマッチした、落ち着いたBGM。うるさすぎない程度の街の喧騒も、“音”で、さりげなく入ってくる。ニュー・コザという街は“生きている”。

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筆者が特に「スゴい」と感じた食堂。この画像だけでは伝わりづらいが、入口で食券を買い、食事を受け取り、席で食べ、お皿を返すといったアクションがすべてドット絵で丁寧に描かれるのだ。食堂内ではなぜか演歌的なBGMが流れており、ニュー・コザに親近感を覚えてしまう。
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本編には関係ない部分も、凝りに凝っている。イスに座れたり、屋上でゴルフボールが打てたり、トイレは流せたり。寄り道せざるを得ない!

 90年代は、ドット絵のRPGが多く発売されていた。しかし、ドット絵が全盛だったあの時代でも、ここまでの物はなかったかもしれないと感じるほどに、本作のドット絵は凄まじい。「ドット絵=レトロなんて、誰が決めた?」と言わんばかりに、かつてのドット絵を超えようという気概を感じる。筆者には、本作のドット絵は“最新技術”に見えるのだ。

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ゲームが少し進むと、ファストトラベルも可能になる。現在やるべきことや、向かうべき目的地を教えてくれたりと、90年代にはなかった機能も取り入れられている。

 本作『Orangeblood』は2020年1月14日リリース予定。“2020年”と聞くと、80~00年代を生きた者にとっては未来極まりない数字だ。それこそ、「そのころにはクルマが空を飛んでいてもおかしくないんじゃないか……」と夢見てもおかしくないほどだったが、残念ながら、まだドローン程度に留まっている。

 『Orangeblood』の舞台は、我々の世界とは異なる歴史を辿った199X年……という設定だが、どこか、我々の世界の90年代の香りも感じる。ドット絵がそう感じさせるのか、あるいはキャラクターデザインであったりするのかもしれないが、とにかく2020年を目前に、とてもいい世界を見せてもらった。ドローンしか飛ばせていないリアル現代の不甲斐なさを嘆きつつ、架空だけど魅力的な『Orangeblood』の世界に、“ifの90年代”を感じてみてほしい。

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