2019年11月23日、九州は福岡にて開催された技術カンファレンス“”CEDEC+KYUSHU 2019”。

 本稿では、サイゲームスの平岡徹也氏、森田竜成氏が登壇したセッション“「最高のコンテンツを佐賀から世界へ」~クオリティと信頼性~”の模様をお伝えする。

 平岡氏と森田氏は、佐賀にあるサイゲームスの佐賀デバッグセンターで働くお二人で、平岡氏はそのセンター長、森田氏はデバッグチームのリーダー。このセッションでは、そんなおふたりから“デバッグという仕事のやりがいとは何かか”が語られた。

 また、サイゲームスでは佐賀に新たなセンターを建設中で、そこでは300人超が働くデバッグセンターや、新たな試みであるクリエイティブセンターも新設されるという。そちらもあわせてお伝えしていこう。

サイゲームスが佐賀県に500名規模のデバッグ&クリエイティブセンターを建設! デバッガーのやり甲斐は“ユーザーの信頼を得ていくこと”にあり【CEDEC+KYUSHU2019】_01
サイゲームス佐賀デバッグセンター センター長 平岡徹也氏。1999年よりデバッガーとして様々なプラットフォームのコンシューマーゲームソフト開発に携わる。2012年デバッグチームリーダーとしてサイゲームスに参画。現在は、佐賀デバッグセンターでセンター長を務め、2022年度までに300名の雇用を目指し最高のチームとするよう奮闘中。
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サイゲームス佐賀デバッグセンター 森田竜成氏。佐賀大学 理工学部知能情報システム学科 卒業。在学中の2017年にサイゲームスでのアルバイトを経験後、翌年にサイゲームス佐賀デバッグセンターの第1期目の社員として新卒入社。入社1年目の新人ながらプロジェクトリーダーを任されるようになる。

2020年に佐賀に500人規模の新拠点が完成! 300人体制のデバッグセンターに、次世代アーティスト向けプロジェクトを進めるクリエイティブセンターも

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 サイゲームスでは現在、佐賀デバッグセンターの新社屋を建設中で、2020年4月に完成予定とのこと。デバッグ業務は現在だと1フロアで100名強で行っているが、新社屋は500名が働ける規模となっており、そのうちデバッグセンターでは300名ほどが勤務する予定だという。

 佐賀デバッグセンターのデバッグ業務はソーシャルゲーム、電子コミック、VR、カウントフリー、新機種端末、ガイドラインなど多岐にわたり、もちろん自社のコンシューマーゲームも扱っていく。

 東京のデバッグチームと中継を繋いで連携できるようにしているほか、業務に集中できる環境と同時に休んだり業務外で部活動をしたりなども整えているという。さらに佐賀の地元のイベントなどにも積極的に関わって地域貢献も行っていくということだ。

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 ここで、サイゲームスデザイナー本部デザイン1部のイラストチームマネージャーである六倉千尋氏が登壇。佐賀の新社屋には佐賀クリエイティブセンター(仮)も設立されることを明かした。

 佐賀クリエイティブセンターはサイゲームスでは初めての“クリエイティブのみの独立組織”になるそうで、次世代アーティスト向けのプロジェクトや講義を設けるという。九州でアーティスト分野で活動したいという人にとって、注目の場所となりそうだ。

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サイゲームスデザイナー本部デザイン1部のイラストチームマネージャーである六倉千尋氏。
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デバッガーの仕事はユーザーの信頼を得ていくこと

 デバッグセンターでの取り組みについて、センター長である平岡氏からまずは、“そもそもデバッグの仕事とはどういうものか”が紹介された。

 デバッグという言葉自体はシステム開発だと“不具合を見つけて修正するところまで”を含めるが、ゲーム開発においては不具合を見つけて開発チームに報告するところまでを指すことが通例で、サイゲームスのデバッグセンターでもそこは同様。

 デバッグチームは開発チームの隣に寄り添っているような関係性で、バグ報告と再チェックを繰り返していく。

 開発チームから「バグが修正された」という連絡がきても、そこを再度調べ検証し、それに影響されて新たなバグが発生していないかも丹念に調べていく。

 バグがなくなるまでそうした流れを繰り返していくわけで、根気と責任感が必要な業務とのことだ。

 そして、その取り組みは“ゲームを最高の品質にすること”には欠かせない。“ゲーム開発におけるリリース前の最後の砦”という意識をしっかりと持って取り組んでいるということだ。

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 2018年の4月に入社し、現在はデバッグチームのリーダーを務めている森田氏は、デバッグという仕事は“キャラクターを壁に向かってひたすらにぶつけ続けている仕事”とか、“地味な作業を誰と会話することもなく黙々とやっている”というようなイメージを持たれているし、森田氏自身も入社前にはそう思っていたところがあったが、実際に働いてみるとまったく違うものだったと語る。

 バグを見つけるにはゲームについて考えることやテクニックが必要で、ただ漠然と同じことを繰り返すようなチェックはいまはやらないのだそうだ。チームメンバーとデバッグの方法について相談することが必要で、チーム内外でコミュニケーションを取っている。前述の“黙々と”というイメージとは異なっていたという。

 また、サイゲームスのデバッグチームにはデバッガーを10年やっているベテランの人がいたり、とあるゲームの世界大会で優勝したという人も働いていたりと、ゲーム好きな人ばかりなので、昼休み等はゲームの話題で溢れかえっているとのこと。

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 「ユーザーからすると、ゲームにバグがないのは“当たり前”なんです」と語る森田氏。

 ……開発者の人が聞いたら耳が痛くなりそうな言葉だが、デバッガーの仕事はバグをなくしてゲームのクオリティを高め、そのような“当たり前”を提供することにある。

 そうして、ユーザーからの信頼を得ることにあるので、つまり「デバッガーの仕事はユーザーから信頼を得ていくことだ」と語った。

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 実際のデバッグ業務の内容はというと、おおまかにふたつあるという。ひとつは“チェックリストを使ったデバッグ”で、ゲームの仕様書どおりにゲームが動くか、チェックすべきポイントや手順をまとめてそれをひとつひとつ見ていくというやり方とのこと。

 もうひとつは“フリーデバッグ”で、ユーザーのように自由にプレイをしてバグを探すという。

 だが、ただ遊ぶのではなくチェックリストではバグが見つからなかったところでイレギュラーなプレイのしかたなど、アドリブを効かせたチェックをしていくのだそうだ。

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以前サイゲームスから提供されていた『LINEペーパーダッシュワールド』というアプリ。ここで交互にペットをタップし続けると……2体のペットの画像が重なってしまった。こういうバグを見つけるのに決まった方法はなく、経験がものをいう。

 もうひとつサイゲームスのデバッグチームが行う重要な仕事が“ゲームの改善点を伝える”というもの。

 デバッガーが「このボタンの配置は使いづらい」とか「本当にこの仕様で問題ないのか?」など、プレイ中に感じた違和感を開発のエンジニアやプランナーに伝えるのだという。

 たとえば、ゲーム中ひとつしか手に入れられない貴重なアイテムや装備が店で売れるようになっていたとき、それはバグではなく仕様の一部と言えるものではあるが、ユーザーに不利益を与えるものとして報告するのだという。

 このようにサイゲームスのデバッグチームはゲームがきちんと動くかをチェックするのと共に、ゲームの快適さやおもしろさを保証する一助にもなっていて、森田氏はまだ新卒から2年目ではあるが自分の意見が採用されてゲームに反映されたこともあり、バグをなくしてクオリティーを高めることも含め、とてもやりがいのある仕事と感じているとのことだ。

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 センター長の平岡氏が再び登壇。

 平岡氏は自身も過去にデバッグチームのリーダーをしていたことがあり、遊んでくれるユーザーをイメージして取り組むことの大切さややり甲斐を感じたのだという。

 平岡氏は「よりバグのない最高のゲームを届けるために、デバッグ職を専門に働いてくれる人を増やして、さらに品質を高めていきたい、デバッグからゲーム業界を盛り上げていきたい」と語る。

 「誰のためにゲームを作っているのか、デバッグをするのか、ということを考えたときに、すべてはユーザーのためであり続けたい」と、講演を締めくくった。

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