NHKによるファン参加型のアンケート番組『全○○大投票』が話題だ。
これは、公式サイトで投票を募り、キャラクターや主題歌の人気ランキングを制作。結果をもとにアニメ好きな芸能人たちが語りまくるというもの。
その濃ゆい内容に、Twitterでは毎回トレンド入りするほど盛り上がっている。
テレビ番組『全○○大投票』とは
『全○○大投票』はNHK BSプレミアムにて定期的に放送されている特番で、2018年4月の『全ガンダム大投票』を皮切りに、『全マクロス大投票』、『全プリキュア大投票』が放送され、現在は『全るーみっくアニメ』が投票を受付中(2019年11月4日まで)。
第1部、第2部に分けるほどの長時間放送や、司会の西川貴教さん始めスタジオの熱いコメントなども話題となっている。
しかし、地上波に比べれば自由な雰囲気があるBSとはいえ、“お堅い”イメージのNHKが、なぜこれほどアニメをフィーチャーした番組を制作しているのだろうか? その経緯と番組作りの裏側を直撃した。
柏木敦子氏(かしわぎ あつこ)
NHK エンタープライズ 制作本部情報文化番組 エグゼクティブ・プロデューサー。『全○○大投票』の仕掛人でプロデューサー。『十二国記』や『境界のRINNE』などNHKで放送されたアニメのほか、識者たちがアニメ作品について深く語る『BSマンガ夜話』(1996年~2009年放送)なども担当していた。
きっかけは日本アニメ100年
――まず驚いたのが、“お硬い”イメージのあるNHKで、『ガンダム』や『マクロス』、『プリキュア』シリーズなど、濃いファンの多い作品を大々的に取り上げた特番を放送できたことです。どうしてここまでアニメをフィーチャーした番組を作ることになったのでしょうか? 『なつぞら』(※)の影響ですか?
※『なつぞら』……2019年4月~9月にNHK総合で放送されていた朝ドラ。オリジナルアニメーション映像も使いながら日本アニメ業界の黎明期を描く。広瀬すず主演。
柏木 いえいえ(笑)。『大投票』シリーズの前身となる番組が最初にあったんです。
2017年に日本アニメ100年で企画した『ニッポンアニメ100』という番組でして、そこでは、日本動画協会が制作した作品データベースをもとにして投票を募り、100位までの人気ランキングを作ったんです。
そちらがご好評いただきまして、『全○○大投票』へとつながっていきました。
――『全○○大投票』としては、2018年4月に放送された『全ガンダム大投票』が初回でした。NHKが『ガンダム』特番を放送するということで、大きな話題になりましたよね。
柏木 投票を前提にした企画ですから、番組のテーマとするにはいくつか条件があります。
たとえば、幅広い世代に知名度があることや、投票先が多いこと。投票する段階で「おもしろそう、投票してみたい」と思っていただける作品でないと難しいと思いました。
その点、『ガンダム』シリーズは、作品数も多いし、話題性もあり、うってつけだろうと。
――「全MS(モビルスーツ)の中で、人気第1位は!?」と言われたら、やっぱり気になります(笑)。
柏木 ただ、『ニッポンアニメ100』のときは、動画協会さんのデータベースがあったのですが、以降は、権利元の協力を仰ぎながら、自分たちで用意しなければならなくなりました。このデータベース作りが……たいへんで(笑)。
――そうですよねえ! “るーみっくアニメ大投票”では、登場人物が1100人いるとのことで、どうやって作っているんだろうと思っていたんです。
柏木 『全ガンダム大投票』のときは、キャラクターやモビルスーツのリストを権利元のサンライズさんにかなり時間をかけて作っていただきました。
『ニッポンアニメ100』のときは作品名だけで画像は用意しなかったのですが、モビルスーツの場合は画像があったほうがわかりやすいので、このときから画像も用意するようになり……中にはカラーの設定がない機体もあったりして、その場合は白黒の画像で掲載しましたね。
投票受付中もファンの方から「これが入ってないよ」とご指摘を受けて追加したりもして、やりながら改善していきました。『全○○大投票』と言っている以上、すべての候補が挙がっていないといけないと思いますし、必死の作業です。
最新作の『全るーみっくアニメ大投票』のデータベース作りは、権利元が複数あり、『全ガンダム』のときのように権利元1社にお願いして作ってもらうというのも難しいですから、弊社のデジタルセクションで……がんばって、作りました。
――がんばって(笑)。
柏木 もちろん権利元にもチェックをしてもらっています。
リストを作っていると悩むところがおおいんですよ。「男らんまと女らんまは同一人物だけど投票先としては分けるべきか?」とか、「このキャラクターは妄想の中にだけ登場するけど、投票先として認めるか?」など、細かに権利元に相談して判断を仰いでいます。
「エクセルを使い切った」投票数は100万票超!
――流れとしては、そうして作ったデータベースをもとに投票を受け付けて、集計が終わってから番組を制作するという順序ですか?
柏木 そうですね、途中経過を見ながら番組の構成を考えます。結果発表番組は生放送なのですが、そこで流す紹介VTRを準備しないといけなかったりするので、ある程度見通しをつけて、一方で集計は続けながら、一方では同時進行で制作も進めます。
――集計自体はインターネット経由でデジタルですから、わりと簡単に行えるのでは?
柏木 別の部署にお願いしており、最初は意図しない混乱もあったのですが、投票システムは回を重ねるごとによくなっています。
混乱というのは、最初は投票いただいたデータをエクセルで管理していたのですが、あれって約100万行以上のデータは入らないらしいんですよ。
それで、投票数が100万を超えて、パンクしてしまって。
――エクセルが満杯になるほどの投票が!
柏木 現在は改善されています(笑)。本当に熱いコメントを多くお寄せいただいていて、アニメを紹介する際も、番組側であらすじを説明するより、寄せられたメッセージを使ったほうがおもしろいんですよ。
スタッフもみんなアニメが好きですから、あらすじは我々でも書けるのですが、あえて控えめにして、ファンからのコメントをなるべく多く使うようにしています。やっぱり、リアルタイムで観た方のコメントは、いま書こうと思っても絶対に書けないものがあるんですよね。
そうそう、『全るーみっくアニメ大投票』にも、たくさんの投票とコメントお待ちしています!
――これまでは『ガンダム』や『マクロス』といったシリーズものというカテゴリーでの投票でしたが、今回は“高橋留美子作品のアニメ”という枠なのですね。
柏木 『全ガンダム大投票』を放送した後に、「2019年はいくつか放送したい」となりまして。
2019年は最初から複数回を放送するという予定になっていました。複数やるのであれば、同じパターンで続けるのもなんですから、いろいろなことをやってみようと。
これまでとは違うジャンルで、ガンダムやマクロスがどうしても男性のアニメファンがメインだったので、「女性のアニメファンも楽しめるような内容を」と考えて、こういう特集はどうかなと考えました。
――人気キャラクター部門で1位になるのは、個人的には『めぞん一刻』の管理人さん(音無響子)か、『うる星やつら』のラムちゃんかなと思いますが……。
柏木 ふっふっふ。さて、どうでしょう(笑)。
――気になりますね!
――近年はNHK FMで『今日は一日 ○○三昧』でアニソン特集の番組などを放送されていますが、最近は内部にそういった方が増えたりとか、昔と変わっている感じはありますか?
柏木 いえ、じつはNHKでアニメを取り上げたり放送したりというのはずいぶん昔からやっていて、最近数として増えているとは思いますが、SNSなどの普及でみなさんが独自で反応してくれる頻度が高まっていると思うんです。
「NHKがやっている」と皆様が発信してくれますので、目にする機会が増えているのではないかと感じます。
とくにNHK BS2(現・BSプレミアム)では昔からやっていたのですが、そのころは“知る人ぞ知る”という感じだったのが、みなさんに気がついていただけるようになったということかもしれないですね。
――なるほど。ちなみに、“全テレビゲーム大投票”なんて番組、作りません?
柏木 あっはっは。それはまた、リスト作りがすごくたいへんそうですね(笑)。
――確かに(笑)。
放送予定
- 『発表! 全るーみっくアニメ大投票』
- BSプレミアムにて2019年11月16日 18:30~22:00放送予定