2019年8月30日~9月2日の期間、千葉県・幕張メッセにて開催されたイベント“初音ミク「マジカルミライ 2019」”。開催初日に行われた“SEGA feat. HATSUNE MIKU Project 10周年ステージ ~最新情報もあるよ~”では、『初音ミク Project DIVA』シリーズの10年の歩みを振り返るトークショーや、最新作の紹介などが行われた。

 本記事では、セガゲームスの林誠司氏、セガ・インタラクティブの大崎誠氏のトークの模様をリポートする。

 なお、同ステージでは、セガゲームスのNintendo Switch用ソフト『初音ミク Project DIVA MEGA39's(メガミックス)』の発売日が発表され(2020年2月13日発売予定)、限定版や初回購入特典の情報、HORIが手掛ける専用コントローラの情報が公開された。商品情報については、下記の関連記事を参照してほしい。

1作目『初音ミク -Project DIVA-』ができるまで

 林氏は、“SEGA feat. HATSUNE MIKU Project”に立ち上げ時より関わっており、長くコンシューマー向け『Project DIVA』シリーズをプロデュースしてきた。大崎氏は、『Project DIVA Arcade』や『初音ミク Project mirai』シリーズのプロデューサーを務め、最新作『初音ミク Project DIVA MEGA39's』ではクリエイティブプロデューサーを務めている。まさに、シリーズの10年を語るにふさわしいふたりだ。

“初音ミク×セガ”の10年。『Project DIVA』思い出のPVとモジュール、そして未来をふたりのプロデューサーが語る_01
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セガゲームス 林誠司氏。1作目のパッケージイラストがあしらわれたTシャツを着て登場。
セガ・インタラクティブ 大崎誠氏。

 10年の思い出を振り返る……ということで、まず林氏が取り出したのは、最初に書いた企画書だという“プロジェクト♪ディーヴァ 歌姫育成計画”。そう、10年にわたって使われることになった“ディーヴァ”という言葉は、企画立ち上げ時から存在していたのだ。

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 “ディーヴァ”は、“歌姫”や“女神”といった意味を持つ言葉だ、と解説する林氏。また、アメリカのプロレス団体“WWE”では、かつて女子レスラーをディーヴァと呼んでいた……ということもあり(?)、企画書のタイトルに付けたプロジェクト名が、そのまま製品名になったのだとか。

 また、1作目の発表映像も改めて公開。これまでにも、各種イベントで何度か公開されているこちらの映像だが、その内容を見ると、製品版『初音ミク -Project DIVA-』とは、いろいろと仕様が異なっている。開発中は、ゲームがストーリー仕立てになっていたり、譜面とPVが連動する仕組みになっていたりしたが、途中で変更になったそうだ。

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 とはいえ、それらの構想は、後の作品で実現されている。たとえば、ストーリー仕立てという仕組みは、『初音ミク -Project DIVA- X』で採用されているし、譜面とPVの連動と言えば、『メテオ』(『初音ミク -Project DIVA- F 2nd』で初収録)などが印象深い。最初に描かれたアイデアは、技術の進歩やスタッフの努力によって、10年をかけて現実となっていったわけだ。

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スクラッチのメロディアイコン(星型)と、夜空を飛ぶミクの映像がマッチした『メテオ』のゲーム画面。

林氏の思い出に残る曲

 『メテオ』のPVを紹介した流れから、話題は“印象に残っている曲、PV”へと移る。林氏が挙げたのは、下記の3つだ。

恋スルVOC@LOID(『初音ミク -Project DIVA-』で初収録)

『Project DIVA』シリーズでは、モーションアクターを起用してキャラクターのモーションを収録しているが、第1作にて初めてダンスモーションを録ったのが、この曲なのだという。それまでは、「ミクさんを踊らせていいのか?」という悩みがあった林氏だが、出来上がったダンスPVを見て、「かわいい!」と手応えを得たのだそうだ。

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*ハロー、プラネット。(『初音ミク -Project DIVA- extend』で初収録)

このPVは「PSP時代の集大成のようなもの」と林氏。モーション収録には、同曲を手掛けたsasakure.UKさんが立ち会っており、ミクの手を引く役をやってもらったのだという。そう、このPVにおいて、ミクさんの前にいたのはマスターそのものだったのだ……という、大崎氏も知らなかった秘話が明かされた(マジカルミライ会場では拍手が巻き起こりました!)。

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ODDS&ENDS(『初音ミク -Project DIVA- f』で初収録)

初音ミク -Project DIVA- f』のオープニング曲として書き下ろされた楽曲。曲が完成したとき、すでに制作スケジュールがギリギリの状態で、PVはダンス系のものになる予定だった(物語風のPVに比べれば、短いスケジュールで作れるため)。しかし、届いた曲は、聴けばわかる通り、ryoさんの想いが詰まったもの。「聴きながら泣いてしまうような曲だった。ストーリー仕立てのPVにするしかない」とスタッフは決意し、持てる力の100%以上を発揮して、なんとか間に合わせたというエピソードが語られた。

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大崎氏の思い出に残る曲

 林氏に続き、大崎氏が印象深いPVとして挙げたのは下記の3つ。

ネコミミアーカイブ(『初音ミク Project DIVA Arcade』で初収録)

大崎氏がクルマの中でよく聴いていたお気に入りの曲で、ぜひ収録したいと思っていた曲だそうだが、いざ制作するにあたって立ちはだかったのは、作るべきオブジェクトの数。「ジャケット絵の背景を再現しよう」と、デザイナーが悲鳴を上げながら作った背景は圧巻の出来。PVではほんのちょっとしか映らないところもあるが、「その部分も作らないと、それにならない」という大崎氏の言葉から、強いこだわりが見える。

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深海少女(初収録は『初音ミク and Future Stars Project mirai』。ステージにて紹介されたのは『初音ミク Project DIVA』系の映像)

「これもやりすぎ系」として紹介された『深海少女』のPV。はるよさん(モジュールデザインの担当)からは、かなりの要望があったそうだが、そのおかげでいいものになった、と大崎氏。これまでにやったことのない“海の中っぽく見せる物理計算”を実現し、ステージのオブジェクトも限界まで作り……「当時のAM2研ができることをすべてやった」というPVになっている。

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ゴーストルール(『初音ミク Project DIVA Future Tone DX』に収録)

またまた「これもやりすぎ系」として紹介。最初に作ったバージョンは、楽曲を手掛けたDECO*27さんから“華麗なるダメ出し”を食らい、何ヵ月もかけて作り直して完成させたのが製品版バージョンとのこと。なお、PVを作る際の心情については、「楽曲に対する感じかたは、100人いたら100通りある。なるべく合うようにしたいが、それが合っているのか? という不安はずっとある」と大崎氏。「でも、全力でやるしかないんです。全力でやらないと、失敗したときに反省できない」と続けた。

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モジュール(コスチューム)裏話

 楽曲に関するトークが一段落したところで、続いてモジュールの話題に。ここでは、林氏がふたつの開発秘話を語った

『卑怯戦隊うろたんだー』は3人曲なんだけど……

『初音ミク -Project DIVA- X』に収録された『卑怯戦隊うろたんだー』にちなんだモジュールは、特撮界のレジェンド、篠原保氏がデザインしたもの。「本気でヒーロースーツを作ろうぜ!」と考えた林氏がオファーしたのだという。PVに登場するキャラクターは3人なのだが、「もう、6人分作っちゃえ! ルカさんは謎の幹部にしちゃえ!!」ということで、6人のモジュールを用意。「ほぼ自分の趣味だった」と林氏は振り返った。

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篠原保氏がデザインした6人のモジュールを、中北晃二氏が描いたイラストもあった。

ハチさんの貴重なサイン

今回のトークショーに出演するにあたり、「何かないかな~」と過去の資料などを探したという林氏が、「とんでもないものを見つけてしまった」と語るモノ。それは、ハチさん(アーティスト“米津玄師”として大活躍中)のサイン! 『初音ミク -Project DIVA- extend』に収録した『結んで開いて羅刹と骸』に合わせて作られたモジュール、“ラセツトムクロ”のチェックの際に、監修を終えた証としてもらったサインなのだが、当時、まだハチさんは“米津玄師”名義では活動していない。そんな時期に、この“ハチ”と“米津玄師”が併記されたサインをもらった自分はすごいのでは!? と林氏が自慢げに語ると、会場は拍手で包まれた。

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これからもクリエイターの支えに

 最後に、“『初音ミク』で曲を作ることは、ブームというより文化になった。これはずっと続いていくもの”と語った大崎氏。“そうやって生まれてくる曲を、ゲームというプラットフォームで出していきたい”という思いは、アーケード版を立ち上げたときから変わらないという。

 初音ミクという存在は、多くのクリエイターに、才能が花開く機会を与えた。セガのゲームも、その一助となっている。『Project DIVA』に楽曲が収録されたことで、世間に知られるようになったクリエイターもいるのだから。大崎氏は「そういった、クリエイターの支えになる仕事を今後もしていきたい」と語り、トークステージを締めくくった。

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ちなみに、“初音ミク「マジカルミライ 2019」”東京会場のオープニングカウントダウンには、ミクダヨーさんも登場しました。彼女もまた、“SEGA feat. HATSUNE MIKU Project”の長い歴史の中で生み出された逸材……!