2019年7月16日に、ゲーム・アニメ・声優の専門校であるバンタンゲームアカデミーにて、『BanG Dream!』(以下、『バンドリ!』)製作総指揮を務めるブシロードの木谷高明氏による講演会が開催された。

 木谷氏は、“現在を突き抜くメディアミックスコンテンツの道”をテーマに、現役学生に向けて『バンドリ!』の魅力を維持し続ける手法や、戦略・展望などについて語った。以下では、本講演会のリポートをお届けする。

『バンドリ!』製作総指揮・木谷高明氏の講演会リポート。「負けたら死ぬ。その覚悟がないと“ヒット”は出ても、“大ヒット”は出ない」_01
『バンドリ!』製作総指揮・木谷高明氏の講演会リポート。「負けたら死ぬ。その覚悟がないと“ヒット”は出ても、“大ヒット”は出ない」_02
最終的な参加者は69人となった。

『バンドリ!』ライブで声優が実際に楽器を演奏するという新たな試み

 まず『バンドリ!』とは、キャラクターとリアルライブがリンクする次世代ガールズバンドプロジェクト。2017年1月に放送されたアニメ『BanG Dream!(バンドリ!)』に続き、同年3月にはスマートフォン向けリズムアドベンチャーゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下、『ガルパ』)もリリース。『ガルパ』は、2019年3月に2周年を迎えた。

 最初の話題は、この『バンドリ!』のプロジェクトが立ち上がった経緯について。きっかけは、とあるライブを鑑賞した木谷氏の部下の報告だった。そのライブで、声優の愛美さんがギターで弾き語りを披露。声優が楽器を演奏するということ、キャラクターにそこまで合わせてくれたんだという驚きで、会場からどよめきが起こったという。

 ライブから帰って来た部下が、この出来事の報告とともに「愛美さんにガールズバンドをやってほしいです」と進言したため、音楽コンテンツの可能性を感じていた木谷氏は、のちの『バンドリ!』となるプロジェクトを始動した。

 プロジェクト始動にあたって最初に始めたのは、“楽器が弾ける声優を探す”こと。だが、当然のごとくなかなか見つからない。とくに、リズムをコントロールするベースとドラムを演奏できる声優がまったく見つからずに苦労したという。

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楽器の練習には時間もかかるし無理だという声もあったそうだが、木谷氏は「実現させないと、このコンテンツが成り立たない」とのことでプロジェクトを進行。

“音楽”はコンテンツをつなぐ

 『バンドリ!』のプロジェクトが立ち上がった段階で、1年後にライブをやるということは決められていた。「世間にウケたからアニメやゲームに展開しよう」というわけではなく、最初からメディア展開を考えていたという。木谷氏いわく「10数億円かけて展開するつもり、負けたら死ぬ覚悟で始めました。そういう覚悟でやらないと“ヒット”は出ても、“大ヒット”は出ない」とのこと。この発言からは単なる“ヒット”作ではなく、“大ヒット”にかける木谷氏の情熱・執念が感じられる。

 声優たちによるリアルライブについて、「年1回でいいのではないか」と言われることもあるそうだが、それに対し木谷氏は「年1回だけのライブだとあのクオリティーは保てないんです。ライブが一番の練習です」と答える。逆に、プロジェクト稼動後は、本人たちから「もっとライブを増やしてくれ」と言われることもあるそうで、継続して練習することがクオリティーの維持、向上には必要不可欠ということだった。

 また、ライブやイベントなどはコンテンツをつなぐ役割をしている。たとえばアニメだと、1期の反響を受けてからの2期の制作・放送には早くて2年はかかるが、音楽コンテンツの場合はライブを開催することでそのあいだをつなぐことができるのだ。

 木谷氏は、「音楽じゃないコンテンツでも、音楽の要素を入れないといけない。そうしなければ、あいだをつなぐものがないからコンテンツがもちません」といい、制作期間などでどうしても空いてしまう期間をつなぐ役割を担う“音楽”の必要性を語った。

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ニュースは自分で作り出すもの

 『バンドリ!』は、SNSにも力を入れているとのことで、『ガルパ』公式Twitterのフォロワー数は140万人を越えている。これは日本のアプリゲームでは4番目にあたる多さだという。毎日発信することや、チャンネルの場合は、動画をマメに更新することが大事だそう。

 2019年2月には、CD6枚を同時にリリース。これに関しては「6枚同時リリースは正直賭けでしたが、6枚すべてがオリコンウィークリーシングルランキング10位以内にランクインしました。ニュースにもなりましたね。ニュースはあるものじゃなくて作り出すものです」と伝えた。

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 現代の世の中についても語った木谷氏。「2000年頃と現在を比べると、人間が受信できる情報量はそんなに変わっていないのに、情報量が格段に増えています。情報すべてはまともに受信できないので、いまを生きる人たちは無意識のうちに頭をなるべく使わないようにしていると思いますね。その結果、流行っているものにのることになる。ヒットさせるなら圧倒的にしなければならない」とのこと。

 世の中が保守的になっているため、消費者は新しいものに飛びつくのにとても慎重になっているのだ。そのことを踏まえると、いまの時代は「ヒットでは続かない。大ヒットにしないと残らない」ということだ。

 また、「ヒットさせるのに一番大事なのは“時代性”」と木谷氏は語る。木谷氏が好きだという歴史ものを例にして「歴史好きの人しか楽しめないような作品も、いま風のアレンジを加えることで、より多くの人が楽しめる大ヒット作品になる可能性がある」と分析した。

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熱くなれるのが絶対条件、冷静になるのが必要条件

 講演会のラストに行われたのは、学生からの質問に木谷氏が回答する質疑応答。

 最初の質問は、「コンテンツ作りにおいて、プレイヤーが求めているものをどう調べるか」というもの。これに対し、木谷氏は「仮にアンケートを実施したとする。そこに書かれたものを作ったとして、それはどんなにがんばったとしても現状における最適解でしかない」と回答した。マーケティングを元にしたコンテンツは“ヒット”は出せても“大ヒット”は出せないので、“大ヒット”を出すには潜在需要をくみ取ったものか、自分自身で需要を作り出すことが必要ということだ。

 つぎに、「ゲームをデザインするにあたって気を付けるポイントと、ありがちなミス」について聞かれると、木谷氏からは「いろいろな知識を持っている人間はヒットを出しにくい」との意外な答えが。これは、知識が豊富な人全員に当てはまるというわけではなく、知っている作品を避けているうちに、どんどん脇道にそれてマイナーな方面へと行くことが多いからだという。

 「世にあるコンテンツは何かをモチーフにしたもので、本当に創造されたものはない。いい部分を吸収して、堂々と王道を行けばいい」とアドバイス。

 「『ガルパ』のアーケードゲームは出ないのか」という質問には、「そういう話があるものの……あったほうがいいですか?」と木谷氏が学生に聞き返す。ほとんどの学生が挙手していたことから、「検討します」とうれしいコメントも。

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木谷氏に直接質問できる機会とあって、学生たちも緊張気味。

 あるVTuberを人に広めるための活動をしているという学生から、「人に広めるために力を入れている部分」を聞かれると、毎日知恵を出すこと、計画にする必要はないが目標を決めることが大切だと答えた。Twitterや動画のチャンネルに関しては、マメにつぶやいたり、動画をアップしたり……継続し続けることが大事ということだ。

 続いて、「学生のころに何をして、何を考えていまの職に就いたか」という質問。「まあ女性と縁がなかったですね。でも営業成績が上がるとモテるんですよね」と笑いを誘いつつ、「学生のときに考えていたことやしていたことがいまにつながっている」と言い、「熱くなること、冷静になること、どちらも必要ですが、熱くなれない人は、新しいものを生み出せない。熱くなることが絶対条件だとすると、冷静になるのが必要条件」とまとめた。

 ちなみに、木谷氏が“自分で作品を作れる”と気づいたのは38歳のときだそうで、学生に向けて「自分の特技や潜在能力に気づいていない人がほとんどです。家系をさかのぼれば何百人の血を引き継いでいるわけだから、いろいろな可能性がある」と学生たちを鼓舞した。

 質疑応答が終わると、「新しいものが出ないとエンタメは衰退してしまうので、ぜひ皆さんの手で新しいものを生み出してほしい」と学生へメッセージが送られた。

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 最後に、「ブシロードは、舞台に力を入れています。デジタルの影響力や価値が下がっているので、非常に可能性があると思っています。いままで視覚的に変化しなかったものが、プロジェクションマッピングのおかげで20、30シーン作れるようになって、視覚的に退屈じゃなくなっている。これから男性も観に行くようになりますよ。そして、舞台はどんどん立体的になると思います」と、ブシロードの今後の展望を語り、講演会を締めくくった。