インディーゲームをサポートする、Indie MEGABOOTHのCEOであるケリー・ウォリック氏は、長きにわたってインディーゲームシーンに関わってきた。ここでは、そんな彼女に、改めていまのインディーゲーム市場に対する感想と、日本のインディーゲームクリエイターの課題などを聞いた。

ケリー・ウォリック氏

Indie MEGABOOTH CEO

――いまのインディーゲームシーンに対する思いを教えてください。

ケリーいまインディーゲームでいちばん大きな問題点はディスカバラビリティ(発見性)があります。たくさんのインディーゲームタイトルが溢れていて、ユーザーさんが見つけづらくなっているんです。そのため、クリエイターさんもより目に付きやすいグラフィックだったり、斬新なゲーム性を心がけるようになっています。一方で、新しいプラットフォームが増えていまして、露出の機会も増えています。機会があればチャンスを掴むことができるチャンスはあるとは言えるでしょうね。

――Indie MEGABOOTHは今年8周年とのことですが、そのあいだにインディーゲームの成熟は進みながらもタイトルが増えてきて、ディスカバラビリティが大きな問題になってきているということですね?

ケリーそうですね。Steamひとつとっても年々リリースされるタイトルは増えています。UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンが増えることによって、開発の敷居が下がっているという現状もあります。そのぶん、ディスカバラビリティは問題になってきていると言えます。ユーザーにおもしろいゲームをレコメンドするキュレーションへのニーズは高まっていますね。

――タイトルが増えるのはいいことだと思いますが、埋もれてしまうのは残念ですね。

ケリーまあ、ゲームが増えることはポジティブなこともある反面、ネガティブなこともありますね。いいことは、より多くの人がゲーム業界に参入できることです。そのため、思ったことのないようなクリエイターが、思ったこともないようなゲームをリリースします。そのゲームに対して資金を投資したりパブリッシュする企業も増えています。いいゲームが世に出る機会が増えるんです。その反面、新しいゲームが出てくることで埋もれるタイトルが増えますが、それはゲーム業界に限ったことではありません。音楽業界にしてもテレビ業界にしてもコンテンツが溢れていますよね。今後の方向性としては、ユーザーがよりダイレクトに楽しみたいコンテンツを提供することなのかもしれません。たとえば、全員が満足できるようなコンテンツではなくて、それぞれの好みにマッチした、よりニッチなゲームを届けるようにするとか……。広く一般に向けたゲームではなくて、特定の層にがっちりとハマるようなタイトルが求められているのかもしれません。

「日本のインディーゲームクリエイターはもっと自信を持つべき」。Indie MEGABOOTHの代表ケリー・ウォリック氏が語る【BitSummit 7 Spirits】_01

――ケリーさんは、ここ数年BitSummitにも関わっていますが、日本のインディーゲームシーンに対してはどのような感想をお持ちですか?

ケリーとてもいい印象を持っています。皆さんとても前向きですよね。さらに、BitSummitのようなすばらしいイベントがあって、日本のより多くのインディーゲームを多くの人に届ける機会もある。会場をふらっと歩いただけでも、それまで思いつかなかったような斬新なゲームがたくさんあって、日本のインディーゲームの雰囲気を肌で感じることができます。ちなみに、BitSummitの大きな意義として、海外からお客さんがいらっしゃって、日本のインディーゲームに触れられるということがあります。良質なゲームにインスパイアを受けて、よりよいゲームを作るモチベーションになるというポジティブなサイクルができるようになるといいなと思っています。

――日本と西洋のインディーゲームクリエイターを比較して、日本人クリエイターのすぐれていると思う部分と逆に足りない部分を教えてください。

ケリー日本のゲームのすぐれているところは、とても創造的であることです。考えつかないようなゲームが多くあります。たとえば、去年のBitSummitに出展されていた、シャンプーボトルがコントローラーになった『シュココーココ』にはびっくりしました(笑)。イマジネーション溢れる自由なタイトルが作れる点はすぐれていますね。

――ああ、ああいうのはなかなか欧米にはない発想ですかね。

ケリー逆に、もっと力を入れられるのではないかという点は、ゲームの磨きですね。西洋のゲームクリエイターは、ゲームを自分のコアビジネスとして位置づけているので、ゲームをきちんと作ってきちんと磨きをかけています。自身の作をリリースして、お金を稼ぐということを前提にしているので、多くの人に買ってもらえるように磨きをかけているのです。いまの私の印象ですと、多くのインディーゲームデベロッパーは、趣味として作っているので、そこまでかっちりやる必要はないと思っているのかもしれません。出して、人に楽しんでもらいたいという発想ですね。もう少し磨きをかければ、より多くの人に遊びたいと思ってもらえるのではないでしょうか。

――“磨きをかける”というのは興味深いですが、具体的にはどのような作業なのですか? デバッグということ?

ケリーそうですね……表現が難しいのですが、粗い部分をもっと丸くする作業とでもいいますか……。全体的にもっと流れをよくして、全体的に見やすくする、きっちりした作りにするなど、いくつか例を上げられるのですが、ゲーム開発において、9割が開発で、残りの1割が完璧にするプロセスです。少しずつ完成度を高める行為ですね。市場に問うにあたっては、その1割がすごく難しい部分で、そこをきちんとすることが、プロセスが“磨きをかける”ことです。

――なるほど。大切な1割ということですね。

ケリーそして、日本人のクリエイターがもうひとつがんばれるのは、もう少し自分の作品に自信を持つこと。

――ああ!

ケリーもっとプロモーションに力を入れて、自分の作品のよさを知らしめるべきです。そういう意味ではBitSummitのような機会を通して、いろいろな人に遊んでいただいて、前向きなフィードバックをもらって自信をつけるのがいいかもしれませんね。

――そんなに日本のクリエイターって自信がない感じですか?

ケリー自信というか、日本のインディーゲームの開発者と話をしていると、謙遜する人が多いですよね。日本のインディーゲームデベロッパーは多くの場合、自分の作品が完璧に満足できるようになるまではリリースしないのに対して、西洋のデベロッパーは試作品の段階からどんどん世にだしてフィードバックをもらっています。

――ところで、ケリーさんが印象に残っている日本のインディーゲームって何ですか?

ケリーああ、それは難しい質問ですね! ……(しばし沈黙の後)初めて『Downwell』のことを見た日はいまでも覚えています。すごいと思いました。あとは、さきほどお話した『シュココーココ』。そして、最近だと『RPGタイム!~ライトの伝説~』がとてもクリエイティブだと思います。

――最後に、日本のゲームクリエイターにひと言お願いします。

ケリー海外のゲームファンは日本のゲームとゲームクリエイターのことがとても好きです。インディーゲームのコミュニティーはとてもグローバルで親しみやすいものなので、ぜひ参加してみてください。

「日本のインディーゲームクリエイターはもっと自信を持つべき」。Indie MEGABOOTHの代表ケリー・ウォリック氏が語る【BitSummit 7 Spirits】_03