クラウドファンディングの成立を受けて感じた確かな手応えと今後の方針・施策

 健康を“はかる”ことで、人々の健康作りをサポートする健康総合企業のタニタが昨年、『電脳戦機バーチャロン』対応ツインスティックのクラウドファンディング・プロジェクト(※)をスタート。健康総合企業として名を馳せるタニタが、異業種ともいえるゲーム業界に参入するということで大きな話題を集めた本プロジェクトだが、2018年6月に開始した第1弾プロジェクトは、8000万円以上の支援金額を集めながらも目標支援金額には届かず、残念ながら不成立という結果に。しかし、2018年10月に実施した第2弾は、プレイステーション4に『バーチャロン』シリーズの3作品が移植されるというニュースも追い風となり、12時間足らずで目標支援金額を達成。2018年12月に、多くのユーザーの声に応える形で実施した第3弾でも目標支援金額の194%を集めるなど、結果的に大きな成功を収めている。
 最初の製品出荷は2019年11月に予定されているが、本プロジェクトの進捗具合は現在、どのような状況なのか。タニタの新事業企画推進部で、本プロジェクトを担当している久保彬子氏に話を聞いてみた。

※クラウドファンディングとは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、クリエイターや起業家がネットを通して、不特定多数の人から資金を調達する仕組み。

その後の開発状況は? 『電脳戦機バーチャロン』ツインスティック・プロジェクト、クラファン目標額達成までの軌跡と現状についてタニタ担当者を直撃_01
プロジェクト第2弾の支援者のもとに、11月に商品を届けるべく、開発が急ピッチで進められている。

久保彬子(くぼあきこ)

タニタ ブランド総合本部 新事業企画推進部
 新たな顧客層を開拓するコラボレーション商品の企画などを担当。ゲームは専門外ながら、同社・谷田千里社長からの鶴のひと声で本プロジェクトの担当者に抜擢。セガゲームス、協力企業のほか、ユーザーの声も採り入れながら、ツインスティックの完成に向けて奔走している。

クラウドファンディングの成立を受けて感じた確かな手応えと今後の方針・施策

――まずは、3度のクラウドファンディングを終えての、いまの気持ちを教えてください。

久保率直に言うと、ホッとしています。第1弾は残念ながら不成立となりましたが、第2弾で商品化が決定し、第3弾で増産が決まるなど、多くの方にご支援をいただくことができ、感謝しております。

――第1弾は不成立だったのに、なぜ第2弾を実施することになったのでしょうか。

久保第1弾のプロジェクトでは、目標金額がかなり高い設定になっていましたが、それでも1000人を超える方に、約8000万円ものご支援をいただけました。そして、終了後には多くのチャロナー(『バーチャロン』ファン)の皆さんから「もう一度チャレンジしてほしい」という声が届いており、また、この取り組みを知ってくださった企業の方から、協力の申し出などもありました。そこで、タニタでは再挑戦に向けて、小ロットでの生産対応を含め、製造コストの引き下げなどを模索した結果、第2弾の挑戦にいたったというわけです。

――本プロジェクトを実施した際の社内での反響はいかがでしたか?

久保とくに第2弾のプロジェクトのときにあまりにも早く目標金額に達成したため「欲しかったけど申し込めなかった」という社員もいました。

――再挑戦となる第2弾の発表時に、セガゲームスより『バーチャロン』シリーズ3作品のPS4移植発表も行われましたね。

久保当初は、『とある』(『電脳戦機バーチャロン×とある魔術の禁書目録 とある魔術の電脳戦機』)に対応するツインスティックを作ろうということで始動したプロジェクトでしたが、発表後から多くのチャロナーに「過去作も遊べないんですか?」という要望を多数いただいており、セガゲームスの松原(健二)社長にも、そのようなファンからの声をお伝えしていました。そんな皆さんの思いが、セガゲームスさんにしっかりと届いたのではないでしょうか。

――この移植発表が後押しをしてくれたのか、第2弾は即日で目標金額を達成しました。この結果は予想されていましたか?

久保第1弾の反省を踏まえて、実際に実現できそうな目標設定をしていたのですが、スタートから11時間26分で達成するとは思ってもみませんでした。続けて実施した第3弾も、目標金額の194%を達成できるなど、総勢で約3500名の方に、合計約1億3000万円以上のご支援をいただけたことは、たいへんありがたく思っています。これほどたくさんのファンの方に応援していただけるとは思ってもみなかったので、セガゲームスさんとともに喜んでいます。

――プロジェクトが成立してからしばらく経ちましたが、いまの進捗状況を教えてください。

久保現在は試作機を作り、それをもとに『バーチャロン』シリーズの生みの親である亙(重郎)プロデューサーを始め、セガゲームスさんのスタッフの方たちと、月に2〜3回のペースで打ち合わせを行っています。いま検討しているのは、スティックのボタン配置です。従来のツインスティックはひとつのレバーに対して1トリガー、1ボタンが基本となっていましたが、『とある』に対応させるには1トリガー、2ボタンにする必要があるんです。そこで、ボタンを縦に並べたり、横置きにしてみたり、内側にひとつを配置するなど、何パターンも試作サンプルを作ってはチェックするといった行程をくり返しながら、ブラッシュアップを進めています。

――確かに、ボタンの数や位置は操作性にも大きく関わってくることなので、細心の注意が必要そうですね。

久保『バーチャロン』の場合、操作感を身体で覚えている方も多くいらっしゃいます。そこで、新しいボタンを追加しても従来のプレイ感はそのままに、さらに過去シリーズ作品も遊びやすい形にすることを目標に開発を進めています。

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こちらは試作モデルの一部。三和電子と相談しながら、3Dプリンターでサンプルを製作し、セガゲームスにチェックをしてもらうという作業がくり返されているとのこと。

――筐体の大きさですが、どの程度を想定されていますか?

久保サイズは、アーケード用のコンパネ(コントロールパネル)の大きさを基準に考えていて、重さは6kg程度を想定しています。セガサターン用、ドリームキャスト用で市販されていたツインスティックと比べると、倍近いサイズになりますね。本体部分の厚みは、CES 2019に出展したイメージモデルよりも薄くなる予定です。

――それだけのサイズ、重量であればプレイ中、コントローラ本体が不用意に動くこともなさそうですね。

久保激しい操作の多いゲームですので、コントローラ本体が動いてしまわないように裏面に滑り止めも付ける予定です。また、ユーザーの方に長く遊んでいただけるよう、一定の強度を確保するのはもちろんですが、メンテナンスのしやすさも考慮した作りにもこだわっています。

――メンテナンス性を売りにされているということは、補修用パーツの提供なども考えられているのですか?

久保ユーザーの方が自らメンテナンスやパーツ交換を行うと保証の対象外になってしまいますが、スペアパーツの販売は予定しております。また、『バーチャロン』を設置しているゲームセンターの方からも、修理用部品としてのパーツ販売を期待しているという声も聞いております。

――スペアパーツが担保されているということは、長く遊びたいユーザーにとっても安心材料のひとつになりそうですね。

久保操作性やメンテナンス性はもちろんですが、一生モノの製品を目指すということで開発をしていますからね。ベース部分の素材も傷がつきにくかったり、錆びにくかったりする素材にしようと、三和電子さんと検討をしながら開発を進めさせてもらっています。

――ずばり、現時点での完成度は何%程度でしょうか?

久保着実に完成形に近づいていますが、全体からするとまだ30%程度といったところでしょうか。いまの時点で、おおまかな仕様と方向性は決まってきていますが、ボタンの配置や素材の検討、内部設計部分のブラッシュアップなど、細かな部分をこれから調整しながら進めていきます。

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1月8日〜1月11日(現地時間)に、アメリカ・ラスベガスで開催された電子機器製品の見本市、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー) 2019。タニタは同イベントにブースを出展し、ツインスティックのイメージモデルを展示。多くの来場者たちの注目を集めていた。

――そういえば、プロジェクトの第1段では、“タニタのプロジェクト担当(酒好き)が酒場放浪ツアーにご招待”などのおもしろい支援メニューがいくつかありました。あの支援はどのような理由で追加されたのでしょうか?

久保第1弾のプロジェクトを実施した際は、高い目標金額を達成するためにはどうしたらよいか、そしてプロジェクトの取り組みをより多くの方に知っていただきたいという思いがありましたので、社員総出でできることをやってみようという話になり、あのような企画を追加しました。

――久保さんが招待する“酒場放浪ツアー”は15万円という設定価格ながら、8人もの支援者がいらっしゃいましたね。

久保これまでやったことのない取り組みであること、どうにかして達成させたいという思いで社員みな必死でした。自分でできることは広告塔としてやってみようと挑戦したものになりますが、あのような状況のなかご支援いただいた方もたくさんいらっしゃり、本当にありがたく思っています(笑)。

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こちらが、第1弾実施時の支援メニューとして用意されていた、久保さんによる支援プラン“酒場放浪ツアー”。ほかにも、タニタの一日社長権や、谷田千里社長自らツインスティックを届けに来てくれるプランなど、さまざまなリターンが用意されていた。

――第2弾では、“金のツインスティック”、“自分仕様のツインスティック”という、50万円という支援メニューもありました。こちらは、どのように企画されたのですか?

久保こちらのリターンは、いろいろな企画を出し合っている中で出てきた支援メニューですね。この金のツインスティックですが、セガゲームスの亙さんもすごく気に入ってらっしゃったんですよ。いまはどのような仕上げにするか検討を重ねているところですが、プレート部分のサンプルを見る限り、かなりいい感じになると思います。

――レバーまで金仕様ということで、ここまですごいとガラスケースにでも入れて飾っておきたくなりますよね。

久保実際に購入された方の中には、「飾って拝みます」と言われている方もいらっしゃいます(笑)。

――もうひとつ、第2弾の支援メニューに“内蔵ゲーミングデスク&チェア”がありました。こちらは残念ながら支援者0人でしたが、これはどのような商品だったのでしょう?

久保これは、私がやりたかったリターンです(笑)。三和電子さんと打ち合わせをしているときに、ツインスティックを内蔵できるゲーミングデスクがあったらおもしろいのでは、という話になりました。そこでアンティーク調の家具を作られる同じ板橋区の家具メーカーさんを紹介いただき、メニューに付け加えました。ほかにも、ツインスティックを持ち運べる専用ケースがあったらとか、いろいろと考えていましたね。

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金のツインスティック
本体、レバーともに金の装飾が施された、至高のツインスティック。50万円という設定金額ながら、限定3名の支援者を集めている。本体は金メッキ加工、レバーは粒子状の金色塗料を表面に蒸着させる方法で製作されるとのことで、どのような仕上がりになるのかも期待される。
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ゲーミングデスク&チェア
こちらは28インチモニターやスピーカー、ツインスティックが付属した、まさに『バーチャロン』を遊ぶための究極のオーダーメイドデスク&チェアのイメージ画。オールハンドメイドによる北欧家具のようなイメージが予定されていたが、残念ながら支援者は現れなかった。

――ツインスティックの専用ケースは実現したらおもしろそうですね。持ち運ぶ際はもちろん、片付けるときにも役立ちそうで、希望される方もいらっしゃるんじゃないですか。

久保最初の商品をお届けするまで約9ヵ月ほどありますので、このようなオプション品を手掛けるのはおもしろいかもしれませんね。セガゲームスさんと打ち合わせのときに、ツインスティックの試作機を持っていくことがあるんですが、専用ケースがあれば持ち運びがしやすそうですし。

――あのツインスティックを、セガゲームスさんまで持ち運んでいるんですか?

久保打ち合わせの際には緩衝材で包んで、大きめのスポーツバッグに入れて電車で持ち運んでいます(笑)。

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こちらは1996年に発売されていたセガサターン用周辺機器、“バーチャスティックプロ”。業務用筐体“ニューアストロシティ”のコンパネ部分をそのまま利用した商品ということで、サイズは横幅738mm、奥行き230mm、高さ130mm。タニタ製ツインスティックのサイズも筐体コンパネサイズに準じるとのことで、概ねこの商品に近いサイズになるのではないだろうか。

――3月30・31日にはセガフェス2019が開催されますが、今年も参戦されますか?

久保いまのところは、とくに予定はしていません。

――9月12日〜15日は、東京ゲームショウがあります。『バーチャロン』移植作の状況にもよると思いますが、こちらのイベントへの出展の検討などはされていますか?

久保いまは11月の出荷に向けて作業を進めている最中になりますが、ゲームショウは大きなイベントですので、なにかできればいいなと思っています。

――商品の出荷前に、本製品に触れられる機会はありそうですか?

久保どこかでお披露目できる機会が持てたらいいなと考えています。しかし、まずはしっかりとした製品を完成させることを目標に製作を進めているところですので、お披露目の機会については今後検討できればと思っています。

――いま、世の中ではeスポーツが大きなムーブメントになってきているので、セガさんといっしょに『バーチャロン』のeスポーツ大会も実現できると、さらに盛り上がりそうですね。

久保『バーチャロン』はeスポーツ向きのタイトルだとも思うので、そのような取り組みができたらおもしろそうですね。いまのところは、出荷体制をととのえるところまでもっていくことがいちばんの目標になっているので、つぎのステップとして、そのようなイベントの企画も考えられたらいいなと思います。

――3回のクラウドファンディングは終わっていますが、これからツインスティックを欲しがるユーザーが出てくるかもしれません。そういった方たちに対して、追加販売など、何らかの施策は考えられていますか?

久保いまのところは未定です。ただ、現時点で「買えなかった」という声も多くいただいています。まずはこれまでの支援者の皆さんにお届けすることが最優先になりますが、今後の様子を見て、前向きに検討したいと思います。

――最後に、商品の完成を待ちわびているファンの方にメッセージをお願いします。

久保このたびはたくさんのご支援をいただき、本当にありがとうございました。『バーチャロン』という、多くの方に愛される作品を快適にプレイしていただけるよう、セガゲームスさん、協力企業さんといっしょに開発を進めています。完成までもうしばらくお時間をいただきますが、期待してお待ちください。

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これまでのツインスティック・クラウドファンディング・プロジェクト実績

 タニタのツインスティック・プロジェクトは2018年2月15日、セガゲームスの『とある魔術の電脳戦機(バーチャロン)』の発売に合わせる形で、始動を発表。2018年6月の第1弾を皮切りに、第3弾まで3回のクラウドファンディングを実施。目標金額4000万円以上の大型プロジェクトの即日達成と、連続起案のプロジェクトで各4500万円以上を達成。合算すると総額1億3639万2058円を達成するなど、記録づくしの調達額を確保する結果に。

■第1弾(2018年6月8日〜7月30日)
目標支援額:2億7700万円
トータル支援額:8254万8710円(29%)
トータル支援人数:1682人
■第2弾(2018年10月18日〜11月29日)
目標支援額:4460万円
トータル支援額:4977万4767円(111%)
トータル支援人数:1482人
■第3弾(2018年12月21日〜2019年1月30日)
目標支援額:4460万円
トータル支援額:8661万7291円(194%)
トータル支援人数:2016人

※カッコ内の数値は目標額に対しての最終的な割合

『バーチャロン』3作品がプレイステーション4で蘇る!

 2018年10月18日、タニタの“ツインスティック・プロジェクト”第2弾の始動に合わせる形で、『電脳戦機バーチャロン』シリーズ3作品が、プレイステーション4で配信されることが発表された。このとき発表されたのは、『電脳戦機バーチャロン』、『電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム ver.5.66』、『電脳戦機バーチャロン フォース』の3タイトルで、いずれもネットワーク対戦に対応。今回取り上げている“XVCD-18-b 18式コントロールデバイス ツインスティック”にも対応している。配信時期や価格は現時点では未定となっているが、ツインスティックの今後の進捗ともども、続報の発表に期待したいところだ。

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 なお、セガゲームス公式サイトによると、PS4・PS Vita版の『電脳戦機バーチャロン×とある魔術の禁書目録 とある魔術の電脳戦機(バーチャロン)』のパッケージおよびダウンロード版の販売が、2019年3月21日より一時休止となっている。販売中止の理由は“諸般の事情”によるとのことで、今後の方針についてはアナウンスされていないが、本記事で紹介している“ツインスティック”への対応については、変更はないとのこと。
 『電脳戦機バーチャロン×とある魔術の禁書目録 とある魔術の電脳戦機(バーチャロン)』については、続報が入り次第お伝えする。