「お父さんとお母さんにSNSをフォローしてもらうと炎上が防げます」

 とあるesportsキャスター志望者向け講習会で語られた一節だ。主催者は、自身もesportsキャスターとして活動するトンピ?くん(Twitter:@tonpiava)。

 esportsの花形コンテンツは熱い試合だ。試合数は増加の一途を辿っているものの、それを視聴者に伝えるキャスターはまだまだ少ない。

 業界内には後進を育成しようという動きもある。トンピ?くんは自分のノウハウを共有するため、2018年8月にキャスター志望者向けの講習会を実施した。

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講習会はeSports Studio AKIBAで行われた。

 僕、ミス・ユースケは、2019年は“育成”の年だと思っている。層を厚くしないとesportsが一過性のブームで終わるかもしれない。それは困る。

 プレイヤーはもちろん、キャスターの層も厚くするべきだ。フジテレビの鈴木芳彦アナ、文化放送の斉藤一美アナのような、すばらしい人材に出てきてほしい。

 視聴者から愛されるキャスターの登場を願って、トンピ?くんによる講義内容をまとめさせてもらった。

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トンピ?くんはオンラインFPS『Alliance of Valiant Arms』の実況で頭角を現した。いまはポノスに所属しつつ、複数のタイトルでキャスターを務めている。そんな彼に、弊社で再び講義をしてもらった。

ゲーマー以外はesportsをどう見ているのか

 本題に入る前に、まずは基礎情報を確認。そもそもesportsとは何なのか。

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 esportsとは、競技としてコンピューターゲームを楽しむこと。

 ゲーム業界外の企業からも熱い視線が注がれているのは、新しいビジネスチャンスがあると認識されているからだ。しっかりとesportsの実体を把握している企業は(おそらく)まだ少ないため、期待も込みの盛り上がりと言える。

 ゲームとは関係の薄い業界の人たちがどういう目でesportsを見ているか、何となくでも把握しておいたほうがいい。トンピ?くんの講義はそういったアドバイスからスタートした。

コミュニケーションの基本。“挨拶”を考える

 キャスター講座の初回のテーマは、基本中の基本だった。

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 いきなり、挨拶とビジネスマナーである。トンピ?くんは「キャスターとして仕事をするということは社会人。一般的なマナーを持っていることが大切です」と、強く言い切った。

 キャスター志望者には若い学生も多い。ビジネスマナーを学んだことはないだろうが、だからと言って失礼がまかり通るわけではない。

 また、礼儀は身を守る手段にもなる。素人感&子ども丸出しだと、仕事の依頼者から軽く見られることってあると思う。

 プロでも何でもない“ゲームとおしゃべりが好きな一般人”として扱われると、なあなあで仕事を頼まれてしまう。そうではなく、ビジネスの相手として接してもらい、約束ごとは文書で交わせば、後々のトラブルも防げる。

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 「キャスターは言葉を扱う仕事。気持ちのいい挨拶を大切にするべき」と、トンピ?くんは語る。

 誰だって感じのいい人と仕事をしたいものだ。第一印象で相手から好感を持たれたら、回り回って自分のメリットにもつながる。

 ゲーム内でもGLHF(Good Luck, Have Fun)やthx(Thanks)など、挨拶をするのが基本。こういったマナーがいいと勝率も上がると言われている。

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 トンピ?くんによると、そもそも基本的な挨拶ができない子もたくさんいるそうだ。

 「ごめんなさいはなかなか言えないですね。責任転嫁しちゃう人が多い。(ゲームの場合は)味方がミスをしたから負けたとか」。逆に言えば、言葉に出せるだけでそれだけ信頼を得やすいということ。

 変なプライドが邪魔して謝れないときは僕にもある。しかと心に刻んだ。

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 続いてはメールに関する指南。たいていのやり取りはメールで行われる。後になってもログを確認しやすいからだ。

 オフラインイベントなどで企業の担当者と名刺交換をし、今後の仕事につなげたいとき、最初にどんなメールを送るべきか。

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 これはよくない例のひとつ。

 自分の実績を箇条書きした後に、esportsの仕事がしたいですと結んでいる。

 “これだけのことをやってきたから、相手は興味を持ってくれるはず”という自意識が見え隠れ。姿勢が受け身で、なおかつ自分勝手だ。

 受け取った側を「ふーん」で終わらせないために、“何がしたいのか”も大切。その辺も考慮したのが下記の例。

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 丁寧な表現を心がけ、実績をメール本文に載せると冗長になるので別ファイルにまとめる。

 そして、基本的にはお願いする立場なので、下手に出る意識は持っていたほうがいい。メールを読んでもらう(読ませる)ことは、相手の時間を奪う行為だからだ。

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 これらの内容は企業の新人研修用の資料も参考にしているとのこと。

 「メールもesportsです」。ネタみたいな締めだが、的を射ている部分もある。大切なのは相手(対戦相手、チームメイト、ビジネスパートナー)のことを考えたうえでの行動だ。

 また、挨拶のきっかけとして、名刺があると便利。こちらは学生時代のトンピ?くんが初めて作った名刺。

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SNSで炎上を防ぐカギは“お父さんとお母さん”が握っている

 “SNSの発言について”は第1回講義のハイライトだと思う。ビジネスマナー研修では詳しくは教えてもらえないところである。

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 企業がキャスターやゲーマーにオファーを検討する際、まずSNSアカウントをチェックして人柄を探る。挨拶の項ともかぶるが、誰だってまじめでクリーンな人と仕事がしたい。

 SNSには人の本性が出やすいと思う。僕の場合、「Twitterでの発言は荒いけど、会ってみるといい人」みたいな評価は信用したくない。それは猫をかぶっているだけではないのか。

 ネットはリアルと地続き。どちらも穏やかで愉快な人がいい。言葉づかいには気を付けようという話である。

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あまり記事に載せたくなかったので、差別発言の例はぼかしています。

 当然、差別発言なんてもってのほかだ。ここは強く言っておく。

 キャスターのように人前に立つ仕事だからダメなのではなく、そもそも差別発言をしてはいけない。

 もししてしまったら丁寧に謝罪。「過去にしていたかも」と自信がない人は、今後使わないように気を付けよう。

 Twitterでは“ツイートボタンを押す前に下書き保存して後で見直す”みたいなワンクッション置く方法も有効。

 トンピ?くんのやりかたには思わず膝を打った。

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 お母さんとお父さんにSNSをフォローしてもらう。すばらしい。要はイキった発言を見られたくない人に見張ってもらえばいいのだ。変な発言で両親を悲しませてはいけない。

 ちなみに、トンピ?くんはイベント出演の当日になるとお母さんから応援のLINEメッセージが届くとのこと。おばあちゃんも彼の活動を応援していて、イベント出演時の写真を見せたら喜んでくれたそうだ。いい話。

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 重要なのは、“自分は責任を背負っている”という自覚を強く持つこと。ちょっとした発言が、自分だけでなく他人に不利益を与える可能性もある。

 SNSでの発言=世界に向けた発信だ。たとえ冗談だったり不確かなことだったりしても、それを信じる人もいる。仮に企業の公式アカウントが世間を混乱させた場合、担当者の処罰や損害賠償に発展してもおかしくない。

 とくにTwitterは条件反射的に投稿しがち。ツイート前に一度思い留まるのが賢明だ。キャスター志望者に限った話ではないが。

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 トラブルのリスクがあるとはいえ、SNSはうまく使えばすごく便利。フォロワー数を重視する企業も多いため、トレンドをとらえた発言はブランディングの一助になる。

 クレバーな立ち回りはゲーム外でも有効だ。Twitterのアナリティクス機能でウケた言動を確認するなど、自己分析しながらSNSを活用しよう。

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目先のことだけでなく、3年後の自分をイメージする

 これまでの内容をまとめるとこうなる。

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 ふつうだ。当たり前のことだが、意外とできていなかったりする。

 「お行儀よくしなさい」というより、自分の行動が世間に与える影響を気にしてほしいのだろう。いずれはプレイヤーに向けた講習会も開きたいそうだ。

 人間的な魅力があればファンが増える。ファンが増えればスポンサーのビジネスチャンスが広がる。スポンサーが喜べばサポートが手厚くなる。シンプルにお得。

 「目先だけを見るのではなく、自分が3年後にどうしているかを考えてほしい」と、トンピ?くんは語る。

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次回は技術的な方向へ。とはいえ、トンピ?くんは「挨拶や人間性さえしっかりしていればお仕事はいただけます」と言っていた。

 キャスターもプレイヤーも、他者が足元にも及ばないレベルの圧倒的な実力者だったら、悪童でもいいのだと思う。そういう態度に魅了される人もいる。

 ただ、中途半端な実力のやつがイキっているのは見ていて切ない。若者にはそうなってほしくない。「まじめなほうがお得だよ」と伝えたくて、この記事を書いた次第である。