2018年12月1日、福岡・九州産業大学にて、CEDEC+KYUSHU 2018が行われた。本イベントは、日本最大のコンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンスとしておなじみのCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)の九州版だ。1日で40セッションほどの公演が行われ、午後からは、東京のVR ZONE SHINJUKUと、大阪のVR ZONE OSAKAにてサービス中の『ドラゴンクエストVR』の制作過程などが語られたセッション“ドラゴンクエストVRで実現した、新しい冒険の形!”が行われた。

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 登壇したのはスクウェア・エニックスの市村龍太郎氏と、バンダイナムコアミューズメントの浜野孝正氏。さらに、登壇予定はなかったものの、公演を傍聴していた堀井雄二氏が、特別ゲストとして急きょ登壇することに。なお、本セッションにはネタバレが多く含まれているので、もし体験前に内容を知りたくない人は、体験後に読むことをオススメする。

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浜野孝正氏
市村龍太郎氏、堀井雄二氏
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 『ドラゴンクエストVR』とは、VRヘッドセットを装着し、機材を背負い、武器となる装置を握って、VR世界の冒険を体験する“フィールドVR”。体験者は会場のフロアを実際に歩き回り、“戦士”ならば剣を振るい、“魔法使い”ならばメラなどの呪文を、身体を使って放つという動きの多いVRアクティビティとなっている。

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 浜野氏は、『ドラゴンクエストVR』は、まず“歩くことが大事”だと語る。ゲーム慣れしていると、“VRを装着して、考えてしまい1歩が踏み出せないそうだ。そこから1歩踏み出して「本当にフィールドを自分が歩いている!」と感じてからいよいよ体験開始、というような気持ちの流れになるとのこと。

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 本作を作るにあたり、浜野氏が市村氏に相談したところ、「『ドラゴンクエスト』ならば、剣で敵を斬る感覚が味わえるものにしてください」という要望が。ふたつ返事で、「任せてください!」と豪語したそうだが、実際にはかなり苦労したのだとか。というのも、『ドラゴンクエスト』の世界では剣や呪文で戦うのが基本。これまでのVRゲームでは、拳銃を撃つものはあるが、剣を振りかぶって戦うというものはあまり存在しなかったからだ。

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 そこで、浜野氏はリアルな剣戟VRを開発することからスタート。間合いと、剣を振るう手応えを実現するべく、さまざまな装置を開発したのだとか。なお、現在リリースされているVRタイトルのなかでも、剣で戦うゲームはいくつか存在する。ただし、基本的な動作としては、モーションコントローラーを振れば剣で攻撃ができるので、手首のスナップを活用するだけでも敵を倒せるものだ。“手応え”を追求するべく、“手首スナップ斬り”ができないようにし、思い切り剣を振るうことで、斬撃がくり出せるようになる装置を独自開発する必要があったのだ。

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 研究の結果、剣で斬った反動、盾への衝撃なども再現し、バツグンの斬り応えを実現できたはいいものの、試験段階では3キロとメチャクチャ重い装置に。『ドラゴンクエストVR』は約20分の体験だが、20分間3キロのダンベルを振るい続けるのはもはやトレーニングの領域。また、4人で体験するVRなので、人に当たれば当然ケガもしてしまうだろう。なんとか軽量化に成功したものの、堀井氏にテスト体験をしてもらったところ「剣が重い」という評価をそれでも受けてしまう。もはや見た目にはこだわらない、さらなる軽量化をほどこし、1キロに満たない重さにまでブラッシュアップしたそうだ。

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軽量化はできたが、見た目はもはやハンマーに。VR空間ではもちろん剣に見える。
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 続いては、“僧侶”、“魔法使い”が使う呪文の開発へ。当初は声に出して呪文を唱えるという動作も考えたそうだが、それよりもアクション性の高いものを目指したという。呪文の魔法陣を描いて発動、魔法陣のメニューから呪文を選択などの試行錯誤をし、結果的には呪文を選び、溜めて放つというシンプルな動作に。

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 結果、堀井氏も「呪文は気持ちよかったですね。敵にピッて杖をかざすだけで、魔法が飛んでいって」と、絶賛のアクションに。VRの空間に入ってしまうと、人間は同時に考えて動けるのが2アクション程度で限界が来てしまうのだとか。そのため、MPの概念も排除したという。

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 続いては、VR空間での演出について。まず、敵を剣で攻撃した際のリアクションだ。当初はアクションゲームのように、攻撃して敵を吹き飛ばしたら、攻撃がヒットした正面に敵が吹っ飛んでいったそうだ。しかしこれは、主観で見ると、かなり違和感を抱くのだとか。バットでボールを打つ、ラケットでボールを打ったときのように、振った方向に敵が飛ばないと手応えがなく、プレイヤーも知らないうちにストレスになってしまうそうだ。

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 また、『ドラゴンクエスト』らしい冒険を楽しむためには、危険な旅に出てもらう必要がある。通常通り『ドラゴンクエスト』をプレイしてもらう場合ならば、感動的な物語や、強敵とのバトルなどで楽しんでもらうのが基本となる。しかしVRで楽しんでもらうべきポイントは“プレイヤーの体験”だ。

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 たとえば体感型のレースゲームでは、切り抜けられるか分からない危険な状況でも、基本的にアクセル全開でブレーキを踏むことはないそうだ。しかしVRの場合は、危険と判断すると脳が勝手にブレーキを踏んでしまう、という反応の違いがあるそうだ。ゲームであるとは分かっていても、身体を躊躇させてしまう“体験”なのだと、浜野氏は語る。

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 それを『ドラゴンクエスト』の世界に落とし込む場合、何を再現すれば良いのか浜野氏が相談したところ、市村氏、堀井氏から「ルーラで空を飛び体験をしてみたいよね」との提案があり、ビル4階の高さまで飛ぶというルーラの演出が加えられたそうだ。しかし、実際サービス開始ギリギリまでルーラは導入されなかった。浜野氏は身体を動かさずに映像だけで飛ぶ体験を得られる演出が酔いの問題にもつながることから、導入を躊躇していたそうだ。しかし、市村氏、堀井氏の熱い要望により、映像のスピードに工夫を加え実装が決定。

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 実際にルーラの体験を入れたところ、かなりプレイヤーの反応がよく、現在では「ルーラをもう1度味わいたい」とリピーターが発生するほど、『ドラゴンクエストVR』の目玉のひとつになっているそうだ。

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また、目の前に岩石が落ちてきて、反射的に身構えてしまうというシーンも。

 また、透明な床を歩いて魔法陣に向かうというシーンがあるが、プレイヤーの視点からは空を歩くようなドキドキ感が体験できる。東京のVR ZONE SHINJUKUでは、このシーンのフロアにたまたま空調設備があるので、冷たい空気が流れ、それを風と感じて本当に高い場所を歩くかのような感覚になるのだとか。こういった“身体が反応してしまう”演出こそ、VRらしい没入感を深めるポイントになっているのだ。

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ちなみにテスト段階では、うっすら見えもせず完全に透明だったそうで、市村氏は「まるで“カ〇ジ”でした(笑)」と、その恐怖を語っていた。
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 プレイヤーどうしの協力関係も、重要な要素のひとつ。戦士は前衛、後衛の魔法使いと僧侶がサポートという関係を持たせることで、リアルなパーティプレイを実現させた。これにより、「ホイミください!」、「敵来ました下がって!」など、プレイヤーどうしの会話をさせたかったのだという。ちなみに女性プレイヤーは戦士になる人が多く、男性は後衛が多いのだとか。

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ちなみに、イメージ的には盾を持ってかばってあげるほうが「カッコいい!」と思われそうなものだが、実際はホイミで回復してあげたほうが好感度が高いそうだ。
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 20分の体験の中に物語を詰め込むべく、どんなストーリー展開にするのかも大きく悩んだポイントだと、濱野氏は語る。そこも市村氏に相談し、『ドラゴンクエスト』らしい冒険のワンシーンを切り取るよりも、王様から依頼を受けて、魔王を討伐。そして王様に報告という、いかにも『ドラゴンクエスト』な物語の流れとなった。この一連の流れこそが、没入感を最も高める点だったと振り返ると、堀井氏も「重い装置を背負っていることを忘れるほどでした」と、『ドラゴンクエストVR』の世界に没頭したことを語っていた。

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物語の中で危機に陥る体験者たち。そのピンチを救うとある人物に、歓声やら「結婚して!」というような声もあがるそうだ(笑)。
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 セッションの最後には、浜野氏より『ドラゴンクエストVR』が体験できる施設のアピール。ただし九州には体験できる施設がないので、「九州ではやらないんですか?」と、市村氏からのツッコミも。「できるだけがんばります!(苦笑)」との発言も飛び出し、本セッションは終了となった。

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