うるし原智志(うるしはらさとし)

オリジナル版『ラングリッサー』シリーズにおいて、ナンバリング作品すべてのキャラクターデザインを担当。今回のリメイクでも、新キャラクターの“ベティ”の原案を担当した。

 角川ゲームスより、2018年2月7日に発売が予定されているNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)、プレイステーション4用ソフト『ラングリッサーI&II』。戦術型シミュレーションRPGの雄である『ラングリッサー』シリーズの原点となる2タイトルを、フルリメイクした作品だ。本記事では、オリジナル版シリーズのキャラクターデザインを担当した、うるし原智志氏へのインタビューをお届け。約27年を経て蘇る、あのとき味わった感動と興奮を熱く語っていただきました!

約27年の時を経て蘇る『ラングリッサー』への想いとは──キャラクターデザインを手掛けたうるし原智志氏インタビュー_01

時を超え、世代を超えて蘇る『ラングリッサー』

――オリジナル版から約27年を経ての『ラングリッサー』のリメイクについて、どう思われましたか?

うるし原 最初にお話を聞いたときは、すごくびっくりしました。それは、27年経ったいまもなおファンが付いてくれているということでもあって、恵まれているシリーズだな、と。僕個人としては、とうの昔に完結した仕事というイメージがあるので(笑)、いまになってユーザーからの声が聞こえてくるのがうれしいですし、とてもありがたいです。シリーズ作品を開発していたときも、キャラクターデザインを変えようかどうかという話はしていたことがあったんですよ。やはりずっとシリーズを続けていると、どうしてもマンネリ化は避けられないですから、「どこかのタイミングでデザインを変えたらどうか、そのほうが新鮮味も出るから」と。

――それは、うるし原さんから提案されたのですか?

うるし原 そうですね。言ってしまうと、もう『III』を完成させた時点で、自分ではデザイン面でやり切った感があったんです。初代は手探りで、『II』は初代のカラーを継承しつつ出し切れなかった部分を出して、そして『III』でやりたいことを思い切りました。『III』では、デザインに関して自分からもいろいろな提案をさせてもらいましたし、やれることは全部やったという実感があったんですよ。その後、いざ『IV』を作ろうとなったときに、もうやることがないな、と(笑)。このままだと本当に出がらしのようなものになってしまうかも……という危惧を抱きながらの開発でしたね。

――新たなキャラクターデザインをご覧になってみて、いかがですか?

うるし原 最初に見たとき、オリジナル版『ラングリッサー』の色をかなり拾ってくださっているんだな、とうれしく感じました。ただ、少しだけ凪良さんが思うがままに描いた『ラングリッサー』も見たかった気持ちもあります。手探りだった開発当時とは異なり、すでにしっかりと構築されたシナリオや世界観があるので、そこから導き出されるイメージは、人によってけっこう違ってくると思うんです。ほかの方がデザインすると、どんな絵になるんだろう、どうイメージを膨らませるんだろう……というところは個人的にはやはり気になりますね。凪さんはとてもうまい方ですので、とくにそう感じました。

約27年の時を経て蘇る『ラングリッサー』への想いとは──キャラクターデザインを手掛けたうるし原智志氏インタビュー_02
凪良氏が描いた本作のメインビジュアル

――──サブキャラクターのデザインもされたようですね。

うるし原 全キャラクターを描き直すというのは、作業分量としてたいへんだっただろうなと思います。僕の場合は主人公やヒロインを始めとしたメインキャラクターしか描き起こしていないですから。作品1本あたりだと、13~14体くらい。サブキャラクターを含めると相当な数になるので、今回はかなり苦労されたと思いますよ。凪さん、お疲れ様です!(笑)。

――なるほど。キャラクター1体をデザインするのに、どれくらいの時間がかかるのでしょう?

うるし原 正直、このくらいの時間でできる、と言い切るのは難しいですね。イメージするだけなら、ほとんど一瞬なんですよ。ただ、それをいつ形にするか。そのとき追われている仕事を優先しているうちに、打ち合わせで固まったイメージを忘れてしまい、結果的に時間がかかったりとか。完成後に見直してみて、いろいろと手を加えて必要以上に時間がかかっていたりもしますし。打ち合わせのときに変なノリで盛り上がって、いざ描くとなったときに「いや、これダメだろ……」と冷静になって練り直した、なんてこともあります。逆に締切が迫ったときは、ひと晩で仕上げたこともあるので、この時間でとは言えないですね。

――新キャラクターの“ベティ”の場合、デザインには悩まれたのでしょうか。

うるし原 ベティに関しては、事前に開発スタッフの方と打ち合わせを重ねて考えていきましたので、それほど悩まずにデザインできました。オリジナル版のときは、わりとおまかせな感じだったのに対し、今回は最初の打ち合わせの段階で「レオタードっぽい見た目の衣装にしましょう」、「マントは長すぎないように、小さめの鎧も付ける」など、かなり細かい部分まで詰めていましたから。ただ、オリジナル版の絵にどれくらい寄せるのかという点では、少々悩みました。寄せすぎても、寄せなさすぎてもまずいので。

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うるし原智志氏原案の新ヒロイン“ベティ”

――デザインの自由度が減るという面では、もどかしく感じる部分があったのでは?

うるし原 いえ、そういったことはなかったですね。今回のようにキャラクター1体を描く場合だと、しっかりとしたオーダーをいただいたほうが、あれこれ悩まずに描けるので、個人的にはやりやすいし楽なんです。逆にキャラクターを複数描く仕事の場合、オーダーによって全部を細かく決められてしまうとツラいんですよ。自分の中での整合性や全体バランスが取れなくなってしまうので。

オリジナル版『ラングリッサー』シリーズ開発当時の逸話

――オリジナル版開発当時についてお聞かせください。ゲーム関連では初の仕事ということで、何か苦労された点はありますか?

うるし原 数を描かなければいけなかった、というのは確かにありますが、逆に言えばそれくらいのもので、苦労らしい苦労はなかったですね。当時のスタッフの方々もとてもよくしてくださって、こちらのやりたいようにやらせてもらいました。リテイクらしいリテイクもなかったんですよ。自分がラフレイアウト案を提出すると、「わかりました。これでいきましょう」と。作品全体のカラーリングなども含め、とにかく自由でしたね。

――デザインコンセプトなども、割とすんなり決まった感じなのでしょうか。

うるし原 当時はキャラクターイラストをセル画で作っていたタイトルが少なく、自分もアニメ畑の人間だったということもあって、「アニメっぽいキャラクターを全面に出していけばおもしろいんじゃないか?」と考えました。ほかのRPG作品とも大きく差別化できますし、“アニメチックな表現”をコンセプトに据えました。ただ、派手さを意識しすぎたためか、当時のスタッフに「モビルスーツみたいな鎧ですね」なんてことを言われたり。自分としては全然そんなつもりはないのに(笑)。逆に、ファンタジー系の作家さんに、「レオタードを着ている鎧デザインは斬新」と言ってもらえて励みになったこともありました。僕個人が考える“(エセ)ファンタジー”なので、賛否両論な意見をたくさんいただいた記憶があります。

――オリジナル版のイラストを拝見すると、やはり鎧デザインが特徴的ですね。

うるし原 鎧が左右非対称のものが多く、それが特徴のひとつにはなっていますね。単に左右対称に描くのが面倒だっただけなのですが、後になってそれによる弊害も出てきてしまって。イラスト1枚だけならいいのですが、パッケージや版権イラストのほか、『III』などで入れたアニメパート作成のときに余計に面倒になってしまったという(笑)。むしろそのへんは苦労と言えるかもしれません。

――お話を聞いていると、終始楽しんで仕事をされていた印象です。

うるし原 そうですね。とても楽しんでやらせてもらっていた仕事でした。そのときそのときで、やりたいことをやれていたと思います。『ラングリッサー』だけでなく、ゲーム全般がそんな感じだったかな、と。知人からは、「それはお前が人の言うことを聞かないからだよ」と辛らつな言葉をもらったりもしましたが(笑)。確かに、自由すぎたかなというところはあります。僕の描いた絵に合わせてキャラクター設定を修正してもらう、なんてこともありましたから。

――うるし原さんから、シナリオなどのゲーム内容に提案を出されたことはありますか?

うるし原 内容に関しては、ほぼないですね。僕に発注が来る段階では、すでにシナリオなどの全体像が固まっていて、変更は難しいんですよ。シリーズのナンバリングが進む中で、少しずつ自分からも提案していく、といった感じでした。ちなみに、そういったいくつかの提案は、『ラングリッサー』よりも後発の『グローランサー』で活かされていたりします。

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――オリジナル版当時の開発環境は、どういったものだったのでしょう?

うるし原 『ラングリッサー』に関しては、開発現場をほとんど知らないんですよ。開発会社だったメサイヤにも1~2回くらいしか行っておらず、行ったときも会議室で打ち合わせをするだけでしたから。開発陣がどんな環境で何をしているのかを見たことがないんです。初代のときは、僕も経験ゼロで本当に何もかもわからない状態でしたし、落描きでもいいから、叩き台になるような絵が欲しいとスタッフにお願いした覚えがありますね。グラフィッカーやマップデザイナーの方々それぞれが描いてくれた主人公のラフ絵などを持ち寄って、その中から選ぶといったことをしていました。ですから、初代の絵はスタッフのラフ絵を参考にしているところが多く、いま見直してみると、なぜこのようなデザインにしたのかわからない、思い出せない部分もあるんですよ(笑)。当時、『ロードス島戦記』のアニメ制作を手伝っていたのですが、そのときに僕が絵の影響を受けていた結城さん(※結城信輝氏。アニメ版『ロードス島戦記』では、キャラクターデザイン・総作画監督を務めた)のカラーなども加味されていたりしますので、わりと奇跡的なバランスでできあがっているイラストでもありますね。

――いま、同じオーダーで初代『ラングリッサー』のデザインをなさった場合、まったく異なるものになる可能性もありますよね?

うるし原 当然といえば当然なのですが、全然違うでしょうね。それが27年ではなく、たった数年だったとしても、違う絵を描いていると思います。そのときの空気感や、そのときにしか描けないものがありますから。ですから、改めてイラストを見直すとおもしろいんですよ。あのときはこういうことをやりたがっていたのか、と。あと、昔の絵だけに若さを感じますね。年を取ると、あまりバカや無茶をできないというか、どうしても保守的になってきてしまうんですよ。常々それはよくないなぁと思いながら仕事をしているのですが。『ラングリッサー』をやっていたときは、いつ終わってもいいや、くらいの怖いものなし状態だったので、絵の勢いが違う。いまだったらできないであろうことを、平気でやっていますね。そのぶん、スタッフにも迷惑をかけたと思います(笑)。

――ゲームだけでなく、イラストを描くための環境も当時とはかなり変化してきています。その点で、今回何か感じられたことはありますか?

うるし原 『ラングリッサー』制作時は、すべてセル画でイラストを描き起こしていました。現在の主流はデジタルですが、描き直しがいくらでもできてしまうので、密度が細かく丁寧な絵が作れる反面、自然と全体が“丸く”なってしまいがちなんですよね。どちらがいいとも言えないのですが、基本的に修正ができない……。ぶっつけ本番の勢いがあるぶん、セル画には独特のインパクトがあるとは思います。ですから、今回の仕事をさせてもらっていたときは、オリジナル版を遊んでいたユーザーさんから、「こうじゃない、これは違う」と言われるかもしれないという怖さがありましたね。

――貴重なお話の数々、ありがとうございました。最後に、ファンの方々へメッセージをお願いします。

うるし原 デザインが一新され、グラフィックも高精細になり、かつての『ラングリッサー』を知らない人でも楽しめるような作品になっていると思います。これを機に、シリーズのファンになってくれる方々が増えることを望んでもおります。シリーズ立ち上げに関わっていた人間としては、ここから次世代の『ラングリッサー』を展開していければ、とてもうれしいですね。

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