東京のVR ZONE SHINJUKUと、大阪のVR ZONE OSAKAにて、『ドラゴンクエスト』シリーズを題材にしたVRアクティビティ『ドラゴンクエストVR』がサービス中。戦士や僧侶、魔法使いといった冒険者になりきれるとあって、連日多くのファンで賑わっている。

 その人気の秘密やVRコンテンツの歴史について、VR ZONEの事業を手がける小山順一朗氏と濱野孝正氏に聞いた。

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VR ZONE SHINJUKUの店舗外観には、スライムがあしらわれている。

小山順一朗氏(こやまじゅんいちろう)

『機動戦士ガンダム 戦場の絆』や『アイドルマスター』などを手掛け、現在はVRに注力する。Projects iCan 研究所 所長。

濱野孝正氏(はまのたかまさ)

『ドラゴンクエストVR』のプロデューサーを務める。絵本のプロデュースを行ったことも。Projects iCan 研究所 所員。

“VR=ヘッドマウントディスプレイ”ではない

――“VR ZONE”のプロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか?

小山 それを説明するために、まずは私が取り組んできたVR事業についてお話しします。VR自体は昔からやっていたんです。二子玉川に“ワンダーエッグ(編註:旧ナムコが運営していたテーマパーク。2000年に惜しまれつつも閉園)”という遊園地があったのはご存知ですか?

――はい。懐かしいですね!

小山 そこに、『ギャラクシアン3』という360度のスクリーンを備えた、最大28人乗りのアトラクションがありまして。アトラクションの中全体にCGを生成する“ポリゴナイザー”というものを、『ギャラクシアン3』用に作ったんです。

――それがVRにつながっていく?

小山 いえ、これ自体がすでにVRですよ。VRというのは、“ヘッドマウントディスプレイをかけて見るもの”という意味ではありませんから。

――これも“VR=バーチャルリアリティ”の1種であると。そういう意味では、小山さんが手掛けられた『機動戦士ガンダム 戦場の絆』もそれに近いですね。

小山 そうです。2012年にはパルマー・ラッキー氏(編註:Oculus社の元CEO)に掛け合い、できたばかりのOculus Riftをもらいまして。これを使って、『戦場の絆』を遊んでみたら、ゲームセンターの筐体と同じ感覚で遊べました。こういったアトラクションやゲームを開発することで、VRに関する知見が蓄積されていったんです。

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Oculus Riftの最新モデル(画面はOculus Rift公式サイトより)。

――VRに対するアンテナを張り続けていたんですね。

小山 はい。こうやって、事業としてもやっていけるのではないか、とノウハウを溜めていきました。しかし、ほんの数年前であっても、VRで使うのがどんな機械かというのがお客様に知られていなかったですし、“VRは酔う”というイメージを持たれている方もいました。そこでまずは実験として、2016年、お台場にVR ZONE Project i Canを作りました。“VRは本当に人を呼べるのか”ということを実証するためのもので、9タイトルを半年ぐらいで開発したんです。

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かつてお台場にあったVR ZONE Project i Can(現在は運営終了)。

濱野 やりましたね。たいへんでした……。

――同時に9タイトルも!?

濱野 そうです。

小山 それで、半年で約37000人のお客様……いえ、被験者を動員しました。

濱野 そうですね。これは研究ですから(笑)。

――おふたりは、研究所の所長と所員ですものね(笑)。

小山 はい(笑)。ありがたいことに、お台場のプロジェクトは成功しました。ただ、お台場に来てくださったお客様というのは、ガジェットや新技術に対して好奇心が旺盛な方々が主でした。そういった方は、好奇心を満たすと「もういいや」となってしまう。テーマパークとしてはそれではダメで、リピートが大事なんです。

“リア充は偶数”の法則

小山 あとは、ゲームセンターがいま、とんでもない状態になっていまして。

――悲しいことですが、店舗が減っていますよね。

小山 そうなんですよね。その要因として大きいのは、ゲームセンターから“リア充カップルが消えた”ということなんです。

濱野 本当に、ごっそりいなくなりましたね。

小山 昔、『東京ウォーカー』にはデートコースの中にゲームセンターが入っていたんですよ。でも、いまはもう入っていないんです。

――なぜ、そうなってしまったのでしょう?

小山 これは、ショッピングセンターの乱立と関係があると考えています。大型のショッピングセンターには、必ずゲームコーナーがあるじゃないですか。そういったショッピングセンター向けのゲームセンターって、基本的にはファミリー向けですから、クレーンゲーム機、メダルゲーム機、シールプリント機、キッズカードゲームといったゲーム機がテンプレート的に置いてある……という状況になっちゃったんですよ。

――確かにそうですよね。『鉄拳』とかは置いてなさそうな……。

小山 こういうファミリー向けのゲームセンターに、若者がデートで来るかと言うと来ないんですよ。じゃあ、そういうリア充はどこに行ったの? というと、たとえばナイトプールとか、そういう場所に行っているんです。

――いわゆる、“インスタ映え”しそうなところへ……。

小山 そうです! ホテルのプールに5000円も払うんですよ!

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夜のプール(海)で水遊びをしている男女のイラストです。

濱野 夜に営業してるだけでね(笑)。

――確かに(笑)。

小山 ということで、つぎなるVR ZONEは、ターゲットをリア充にしましょうと。バンダイナムコグループとしても、そういった層が取れていなかったので、そこが取れるのは大きかったんです。VRなら、そんなに広い場所を使わずに、かつ“超体験”ができる。

――広いと土地代も半端じゃないですしね。

小山 だからVRは都合がよかった。でも、リア充の人たちは、VR自体に興味はない。だから、“生きているうちに体験したいと思ってもできないことを、全身で味わえる絶叫エンターテインメント”というわかりやすいコンセプトを置いて、若者たちを惹きつけるようなPVを作ったんです。

――“さあ、取り乱せ。”というVR ZONEのキャッチコピーもその一環と?

小山 はい。場所については、リア充がもっとも多く集まるところ、という理由で新宿にしました。それで、蓋を開けてみたらたくさんの人が来てくれたのですが、来場者の方々に「PlayStation VRって知っていますか?」って聞いてみても、誰も知らない。「あ~プレステね~。子どものころ遊んだよね!」という感じで。Nintendo Switchなども知らないんです。

――なるほど~……。でも、そういった層が来てくれているわけですから、狙いが成功しているということですよね。

濱野 そうですね。

――そういった方たちは、どうやってこの施設を知ったんでしょうか?

小山 テレビ番組に取材をしてもらったことがあって、その番組を観て知ったという方がいました。あとは口コミやSNSなどですね。

濱野 1回来てくれた人が、友だちを連れて、また来てくれるパターンが多いんです。

小山 複数で来る方は、だいたい、偶数なんです。リア充は偶数で生きております!(笑)

――リア充は偶数の法則(笑)。

小山 『エヴァンゲリオンVR』は最初、3台だったんですよ。初号機、弐号機、零号機の3席で。そうしたら、ふたり組が多くて、いつも1席開いちゃっていたたんです。これは非常によろしくない。

濱野 そうすると、空いている席におひとり様を入れたりするわけです。でも、そもそもおひとりの方は全来場者の7%ぐらいしかいなくて。だいたいグループでいらっしゃるんですよね。というわけでカヲル君のMark.6を追加して、4席にしたら余らなくなりました(笑)。

――なるほど(笑)。ちなみに、VR ZONE SHINJUKUって、外国人の方が多いですよね。

濱野 多いですね。とくに平日に。

小山 外国人の方は、全体の3割ぐらい。平日だと5割ぐらいになりますね。「ロボットレストランに勝とう!」と堀内(バンダイナムコアミューズメント取締役の堀内美康氏)が言っていたので、その目標は叶えられたかなと。

“こうなるハズ”の不思議

――さきほど“VR酔い”の話が少し出ましたが、そもそもVR酔いというのは、なぜ起こるのでしょうか?

小山 簡単に言うと、三半規管が止まっているにも関わらず、画が動いているせいで、目の感覚と体の感覚にズレが生じ、そのせいで気持ちが悪くなってしまうんです。

――とすると、そのズレを減らせば、酔いづらくなる?

小山 その通りです! たとえば前に進むときに風を当てるとか、そういった工夫を積みかねることによって、ズレを少なくするようにしています。

――へぇ~。でも、“前に進むときだけ風を当てる”というのは制御がたいへんでは?

小山 いえ、それがそうでもないんです。ずっと風を当て続けておけば、必要なときだけ、プレイヤーの方が“勝手に風を感じてくれる”んです。

濱野 ずっと風は出ているにも関わらず、目で見た感覚で、必要なときだけスイッチが入るんですね。

――そうなんですか!? 人間すげえ。人間がいままで暮らしてきた経験として、こうなったらこうなるはず、という部分が出てくると。

小山 そう、そのスイッチが入るんです。たとえばVR ZONEには、『極限度胸試し ハネチャリ』という、空を飛ぶ自転車のアトラクションがありますが、あれも風は出しています。最初はいろいろと細かく風の制御をしたんですが、その調整はなんの意味もなくて、最大で吹かしていれば、飛んでいるときの風も、地面を走っているときの風も、シチュエーションごとに都合のいいように解釈してくれるんです。人間は曖昧なアウトプット装置の塊なんですよ。

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『極限度胸試し ハネチャリ』。足漕ぎグライダー“ハネチャリ”を漕ぎまくって大空を飛ぶ!

――は~、なるほど。でも、そう言われればそうですね。

小山 こういうのを、“クロスモーダル現象”といいます。たとえば、風が吹いたら冷たいとか、かわいい子を見たらいいにおいがするとか。そういった、人間の入力とアウトプットがグチャグチャにクロスしちゃうんですね。本当は風が吹いていないのに吹いているように感じたり、『サマーレッスン』の宮本ひかりが近づいてくると、女子高生っぽい感じがするみたいな。そういうことが、VR ZONEでは起きているわけです。それを意図的にやっているものもあるし、意図的でないのにそう感じてもらっているものもあります。

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『サマーレッスン』の宮本ひかり。