シューティングの老舗・モスが新会社を設立

 『雷電』シリーズや『カラドリウス』シリーズなど、シューティングゲームの開発で知られるモスは、2018年9月5日付でゲーム開発事業を専門とする100%連結子会社“カミナリゲームス”を設立した。発表時のリリースによると、“アンリアルエンジン4などの各種ゲームエンジンでの開発、施設向けVRコンテンツなど、より専門性を高め、ハイクオリティーで効率的なゲーム開発が可能”となっている。その真意について、モスの代表取締役であり、カミナリゲームスでも取締役を務める駒澤敏亘氏と、カミナリゲームス 代表取締役/レベルデザイナーの星野仁氏に話を聞いてきた。

駒澤 敏亘(こまざわ としのぶ)

モス 代表取締役社長。カミナリゲームスでも取締役を務める

星野 仁(ほしの じん)

カミナリゲームス 代表取締役社長/レベルデザイナー

――今回、新たに“カミナリゲームス”を設立するに至った経緯を教えてください。これまでもデベロッパーとしてゲーム開発をされてきたわけですが、あえて新会社を設立した理由や目的は何ですか?
駒澤カミナリゲームスは、“エッジの効いた独自性のある開発を”ということで立ち上げました。そもそも設立の背景には、近年、モスの業務の幅が広がってきていて、映像を開発している部門と星野が担当しているゲーム開発部門があるのですが、その境界がなくなりつつあることが挙げられます。業務が広範囲に渡ってくるのであれば、明確に部門を分けないとそれぞれの強みを活かせないと感じました。ゲームの開発なのだけど、ほとんどが映像の仕事だったり、ときにはガッツリとゲームを開発していたりと。そうなってくると人事的な評価やスタッフィングが雑になってしまうのです。

――ちょっと乱暴な言いかたになりますが、いままでちょっと雑多な感じだった業務を交通整理して、新会社を立ち上げたと?
駒澤そうですね。そういった形になります。

――星野さんは、新会社の話を初めて聞いたときの印象は?
星野社内に部門を分けてやることも可能でしたが、モスとして“広く、浅く” ではなく、リッチコンテンツの制作に特化した新しいブランド、スタジオとしてスタートすることは非常にいい考えだと思いました。約1年半前くらいから、アンリアルエンジンやUnityでもリッチなコンテンツを制作していたチームがあったので、そういったものに特化したコンテンツを手掛けていくというのは、僕自身にとっては願ったり叶ったりでした。いろいろなコンテンツを手掛けること自体は楽しいことですが、広く、浅くだけですと、やがてスタッフも疲弊していきます。モチベーションだけでは仕事ができませんし、リッチコンテンツの制作に特化させてあげたいという思いはありました。

――新会社設立にあたり、スタッフの構成はどのようになりますか? また、モスとの関係性はどのようになるのでしょうか?
星野いまはモスから転籍という形になっています。ですから、できたばかりの会社ですが平均年齢も高く(笑)、熟練の即戦力のスタッフという構成になっています。

――一方のモス側ですが、リッチコンテンツ以外の業務を行うことになる?
駒澤そうですね。単純に言ってしまうと、いままで渋滞していたというか、パズルを組み合わせるように進めていた業務をしっかりと分けて、それぞれ複数のチームを生成して、幅広い業務の中で、モスは映像系のコンテンツや受託のコンテンツをやることになります。

――社内の方々に伝えたのはいつごろですか?
駒澤2016年から、モスの社内において、会社単位のイノベーションを行ってきました。それは、業務や労務改善であったり、もともとホワイト企業なのですが、さらに白く磨きをかけようと(笑)。そうしたイノベーションの中で、お客様目線やユーザー目線といった意識改革は、すでに2年前から行ってきたわけです。会社としても、スタッフの変わっていく意識を最大限に活かせる場を作らなければいけない。そのためのチーム編成が必要でしたし、最初はゲーム開発部の中で、どういった改善をしていくかを考えていたのですが、「こういう案があるのだけど、どうだろう?」と、今年に入ってから話をしました。

――スタッフの反応はいかがでしたか?
駒澤悩んだ人も多かったと思います。ただ、カミナリゲームスの設立はチャレンジですから、転籍してチャレンジしたいというスタッフもいれば、いままで通り、会社全体を見渡すような受託中心の業務を続けたいというスタッフもいて、最終的にはきれいにわかれました。
星野我々が勝手に「君はこっち」というふうにわけたのではなく、ひとりずつ希望を聞いたうえで振り分けが決まったので、スタッフがそれぞれ考え決めたことになります。カミナリゲームスは使用するエンジンも最新で、つねに勉強し続ける必要があります。そういう意味で「精鋭であることを望みます」という話をしたら、そういうことにチャレンジしたい人間やスキルに自信のある人間が集まりました。

モスがゲーム開発に特化した子会社“カミナリゲームス”を設立、“カミナリ”を社名に冠した本当の理由とは?_03

熟練スタッフが新会社立ち上げに参加

 モスのゲーム開発部門の精鋭スタッフ8名が立ち上げに参加しているカミナリゲームス。そのスタッフは、モス在籍時に『雷電V』や『カラドリウス』などのシューティングゲームはもちろん、開発協力としてバンダイナムコアミューズメントの体験型VRコンテンツなども開発している。業務用施設から家庭用ゲーム機向けまで、豊富な実績を誇る。

――社名の由来について教えてください。
駒澤由来ですが……覚えやすくて、インパクトがあることが前提で、じつは最初に“略して神ゲー”というのが浮かんでいたのです。モスは“雷”に縁があるんですよ。『雷電』シリーズの制作をしていて、住所も浅草雷門に近いとか(笑)。ですので、自分の中では“カミナリゲームス”にほぼ決まっていたのですが、改めて“雷”という言葉を調べてみると、おもに夢占いですが、雷は金運が高まるとか、いい意味が多かったのです。もうこれはぜひこの名前にしたい、と(笑)。

――調べれば調べるほど、いい名前だったわけですね。
駒澤そうなんですよ。それで、星野を必死に説得して(笑)。
星野最初に聞いたときは、率直に言って「あ、昭和だ」と思いました(笑)。でも印象に残るし、1回聞けば忘れない。じわじわと「あれ、いい名前だな」と思うようになりました。

カミナリゲームスが作れば、“神ゲー”になる!?

モスがゲーム開発に特化した子会社“カミナリゲームス”を設立、“カミナリ”を社名に冠した本当の理由とは?_02

 インタビュー時、社名の由来の話になると、おもむろに駒澤氏がとある資料を取り出した。それは社内向けに用意された“社名について”という資料だった。資料には、駒澤氏が“雷”を社名に入れることにこだわる以下のような理由が、つらつらと綴られていたのだ。
●パワーを集中して雷を起こす
●雷のパワーで改革を起こし、ヒットを作る
●覚えやすく、すぐに記憶に残る
●住所が浅草・雷門に近く、『雷電』シリーズを手掛けている
●略して“カミゲー”≒“神ゲー”→大ヒット!

モスがゲーム開発に特化した子会社“カミナリゲームス”を設立、“カミナリ”を社名に冠した本当の理由とは?_04

――カミナリゲームスの強みはどういったところですか?
星野いまいちばんセールスポイントにできるところは、アーケードの分野に関してはどこにも負けない経験と知見を持っているところです。モスはそもそもアーケード向けタイトルを主体としてきた歴史がありますし、僕を含め、スタッフはモス時代も評価していただきましたが、開発に新しいものを取り入れ、それをフィードバックし、レベル調整しておもしろいものに仕上げることに関しては、得意にしているスタッフが揃っています。

――いわゆるハイエンドのゲームエンジンを使用されているとのことですが、将来的に自社製のゲームエンジンを作る予定はありますか?
星野現状では考えていません。自社製のゲームエンジンにこだわることにリソースを割くよりは、アンリアルエンジンやUnityをいかに使いこなして、リッチなコンテンツをお客様に素早く届けることを目指しています。

――ちなみに、現在進んでいるプロジェクトなどはありますか?
星野『雷電V』を発売してから時間が空いているので、モスとして自社パブリッシングの新タイトルが進められないか、検討している段階です。モスの強みはシューティングゲームですが、ジャンルとしてはやはり固定されたものになってしまいます。カミナリゲームスの役目はチャレンジなので、“シューティングの殻を破った新ジャンルのゲーム”ができないか。多人数で遊べるような、それはesports的なものかもしれませんし、いままでの概念に捉われない、新しい遊びを提供するべく、本格的な開発に入る前のプリプロダクションの状態です。

――おお! そのプロジェクトは、いつごろお披露目される予定ですか?
星野遊びの特性から考えて、いまのところは家庭用ゲーム機向けに考えていますが、今回はなにせチャレンジングなタイトルですので、プリプロをやらないと極端な話、おもしろいかどうかもわからない。もちろん、おもしろくなると思っているからやっているわけですが(笑)、最新のゲームエンジンを使って、ビジュアルにしても、遊びにしても、ユーザー訴求にしても、これならいけるというものを大きくぶち上げたいと思っています。
駒澤まぁ、年は明けて、来春くらいかな?
星野そうですね。そのくらいには何らかのアナウンスはしたいと思っています。

――星野さんの中のアイデアが、徐々に形になっている感じですか?
星野いや、僕の中にはすでに確固たる形があるんですよ。ただ、駒澤や周囲にはあまり信用されていないだけで(笑)。だから、プリプロでおもしろいことを証明していく必要があります。いままでもたとえば、『カラドリウス』や『雷電V』でも、羞恥ブレイクやチアー、画面横のプレイ情報のように、それまでになかったようなチャレンジはしてきました。今回は、もっと大きく殻を破って、おもしろいものを作っていきたいなぁ、と。
駒澤企画書には、先にジャンル名があったよね(笑)。
星野ありました(笑)。言ってしまうと、どんなゲームか想像されてしまうのでナイショです。

――カミナリゲームスの目指す将来像を教えてください。
星野将来的に自社パブリッシングの可能性がないわけではありませんが、少なくともいま目指しているものは、開発のスペシャリスト集団です。モスだけの案件をやるわけではないですし、他社様と協力したり、組んだりしての開発もあると思います。いずれにしても質の高い、ユーザーの方に楽しんでいただくために、クオリティーの高いものを突きつめていくスペシャリスト集団を目指しています。理想を言えば、たとえば猿楽庁が監修したゲームなので安心して遊べますよというふうにユーザーから思ってもらえるような、「カミナリゲームスが開発に携わったのなら、おもしろいこと間違いない」と思ってもらいたい。実績もレベルも全然上ですが、プラチナゲームズさんのような会社が目標として近いかもしれませんね。「プラチナゲームズが作ったアクションゲームは、安心してプレイできる」とユーザーは思っていますよね。ぜひ社名は“カミゲー”と略していただいて、作ったゲームを“カミゲーの作った神ゲー”と感じていただければうれしいですね。
駒澤シンプルに言ってしまえば、モスがしっかりマーケティングやパブリッシングを行うので、カミナリゲームスはとにかくおもしろいものを作ってほしいですね。ゲームはおもしろくなければ、皆さんに喜んでいただけないので、しっかりと役割分担を果たしていきたい。最終的に開発力が上がり、資金力もできれば、カミナリゲームス独自の製品開発をしてもらいたいと思っています。

――“カミゲーの作る神ゲー”を楽しみにしています。
駒澤本当にそうですね。とにかくヒット作を出してください。まずは、ファミ通のレビューでゴールド殿堂から(笑)。
星野名前負けしないようにがんばります。余談になりますが、最近『Detroit:Become Human』にハマっているのですが、あのゲームにいちばん衝撃を受けたのは、アドベンチャーというゲームジャンルを進化させていると感じたことです。「こういう進化の方法が、アドベンチャーゲームにはまだあったのか」と。シューティングゲームも同じように、我々が気づいていないだけで、楽しめる要素、発展できる要素はまだあるのではないかと思っていて、最近はそんなことばかり考えています。

モスがゲーム開発に特化した子会社“カミナリゲームス”を設立、“カミナリ”を社名に冠した本当の理由とは?_01
駒澤氏(前列左)と星野氏(前列右)を囲むスタッフ。カミナリゲームスの企業理念は、“楽しんで、楽しませる”。