esportsの盛り上がりがゲーマー以外にも波及する昨今、“映画館でesports観戦”という楽しみを提供する企業がある。全国90ヵ所でイオンシネマを展開するイオンエンターテイメントだ。

 同社は、スポーツやコンサートなどのライブ映像を別会場で上映する“ライブビューイング”を運営。2018年11月3日には、“BlizzCon 2018”を巨大スクリーンで観覧する“JAPAN BLIZZCON PUBLIC VIEWING PARTY”が開催される。

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 イオンエンターテイメントはゲーム業界で何を目指すのか。参入のきっかけや今後の目標をキーマンに訊いた。

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2018年7月1日にイオンシネマ港北ニュータウンで開催された『ハースストーン』“HCT夏季選手権”観戦会では、主催者のプレイヤーに488席のホールを提供。太っ腹。
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映画館でのライブビューイングは、ふかふかなイスと良質な音響設備のおかげで長時間に及んでも疲れにくい。騒いでもオーケーなので気軽に観覧できる。

吉留和哉(よしどめかずや)

イオンエンターテイメント プロモーション部 ライブ・エンターテイメントグループ シニアマネージャー。esportsのライブビューイングイベントに多く関わっている。

入澤考権(いりさわたかのり)

イオンエンターテイメント プロモーション部 部長 兼 ライブ・エンターテイメントグループ グループマネージャー。

――esports参入のきっかけを教えてください。

吉留3年ちょっとくらい前だと思うんですけど、“映画館の映画以外での使いかたを模索する”ような企画を担当していたんです。そのとき、たまたまesportsの存在を知りました。
 ただ、当時はゲームもesportsも知識がまったくなくて、手探りで始めていきました。

――esportsと映画館という場所がマッチしていると感じたわけですね。

吉留本当にたまたまなんですよ。いっしょに仕事をしていた人から「海外で流行ってるらしいですよ」と聞いて「へぇー、そうなんですか」みたいな。新幹線の中で。
 スマホで検索したら海外の情報が出てきて、これはおもしろそうだと。すぐに日本の情勢を調べ出しました。

――最初のイベントはどういう風に決まったんですか?

吉留けっこう勉強したんですよ。詳しくないなりに考えたのは、なぜ日本は海外と違うんだろうということ。海外ではPCゲームが人気で日本とは事情が違うとか、esportsの初歩的な知識を独学で咀嚼して、最初はスマホゲームでやりたいと思ったんですね。
 それでも(海外で行われているような)いわゆるesports的なことをやりたくて、たどり着いたのが『ベイングローリー』です。

Vainglory 5V5: Play Free Now

吉留『ベイングローリー』のジャンルはMOBA。MOBAってすごくesportsっぽいじゃないですか。

――『リーグ・オブ・レジェンド』や『Dota 2』に代表される、いわゆるesportsの定番ジャンルですね。

吉留それがスマホでできるわけです。当時はSuper Evil Megacorpさんが『ベイングローリー』をローンチしてすぐくらいのタイミングでした。
 彼らはベンチャーとしてスタートしていて、僕たちも新参者としてゲーム業界に参入しようというところ。いっしょにパートナーとしてやっていくのはすごくいいんじゃないかなと思ってアプローチしました。
 最初にやったのは『ベイングローリー』のライブビューイング。韓国でやってる試合をイオンシネマ京都桂川というところでみんなで観ましょうと。入場料は1000円で。

――とりあえずやってしまおうと。シンプルな発想ですね。前例がないからテストケースみたいなものでしょうか。

吉留そしたらですね、売り切れたんですよ。びっくりしました。ライブビューイングイベントは毎回のように大成功するとは限らないですが、すごく可能性を感じます。

――入場料1000円はどういう理由で決まったんですか?

入澤ほかのイベントとのバランスを鑑みたうえでの感覚値ですね。
 イオンシネマで舞台挨拶的なイベントを実施する場合、1800~2000円くらいが多いんですよ。ライブビューイングだったら3000~5000円くらいですかね。新しくトライするんだったら、少し安めの1000円かなと。イベントの内容しだいで価格を上げることもあると思いますが。

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2018年6月30日には『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』大会の観戦会を実施。通常のチケットは1000円で、ソフトドリンクとポップコーン付きで1300円だった。

入澤そもそもゲームの映像をお金を払って観るという発想自体が(ほとんど)ないわけです。これまでにないものを新しく作ろうとしているので、当時は見えないまま手探りでやっている感じでした。
 それでも、来場されてるお客さんの反応とかアンケートの結果とかを見ると、すごく望まれていると感じていたんですよ。

――そういった反応を受けて続けていこうと思ったわけですね。

吉留世界大会を映画館で観るライブビューイングから始めたら、来場者アンケートで「ほかの人と交流したい」という声が多かったんですね。
 その声を受けて大スクリーンで遊べるオフ会イベントも実施したら好評で、通年でやることになりました。“ベイングローリーロードショー”と名前をつけて、東京以外でも開催。これが2017年の話です。

――イベント内容はどういったことを?

吉留たとえば即席チームを組んでカジュアルなトーナメント。実況・解説も入れて、どれか一戦を大画面に映して。負けちゃった人は観戦してもいいし、暇になった人同士で遊んでもいい、みたいな。

――ベイングローリーロードショーという名前がいいですね。

吉留Super Evil Megacorpの方に命名していただきました。ロードショーには“巡回興行”みたいな意味もあるらしいので、各地の映画館で遊ぶということをイメージしやすいですよね。ロードショーシリーズとして、うちでブランディングしたいくらいです(笑)。

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コミュニティと力を合わせることが大切

吉留1~2年の間は『ベイングローリー』とがっつり組んで、ノウハウを積んでいきました。可能性から確信を持つようになってきたので、ほかのゲーム会社さんとも今年(2018年)に入ってから案件を増やしています。

――『ベイングローリー』のつぎは何のイベントを開催したんですか?

入澤具体的な案件で言うとウェルプレイドさんとの協業ですね。Supercellさんの『クラッシュ・オブ・クラン』(以下、クラクラ)を使ったウェルプレイドリーグです。

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“クラッシュ・オブ・クラン × WELL PLAYED LEAGUE”公式サイト

吉留2018年1月に『クラクラ』のライブビューイングをイオンシネマ板橋で実施しました。料金設定は1000円でしたね。
 Pontaさんというコミュニティリーダーの協力もあって、150人くらいにご参加いただきました。いやー、すごかった。コミュニティの力が大切と何となくわかってはいたんですけど、まざまざと見せつけられた感じです。

――2018年7月1日の『ハースストーン』もそうでしたけど(※)、コミュニティリーダーと協力することが増えていくのでしょうか。イオンシネマとしては場所を貸すのが中心のような。

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吉留イメージとしてはまさにおっしゃる通りで。先ほどのPontaさんのすごさを見て、仮説が実証された感があったんですよ。我々が下支えする方向性を深掘りしたほうがチャンスがあるんじゃないのかなと。
 僕らは映画興行会社を25年もやってきています。お金を払ってゲーム映像を観るだけなら通常のビジネスの延長線上なので、社内でも理解は得やすいんです。
 でも、それとは違う要素が、ゲーム業界、とくにesportsの興行にはあるんだなと見えてきました。

――それが、自分たちでゲームを楽しんでいるコミュニティの存在だったわけですね。

吉留極端なことを言えば、映画館のスクリーンに映す映像は何でもいいのかもしれません。誰がそれを企画するのか、呼びかけるのか、そこで集まった人は何をしたいのか。そういう考えかたが重要なんだろうなと思ってるんですよ。
 ゲームを愛する方々に我々の映画館を使って遊んでいただく。そういう仕組みを作れたらいいなと思っています。

――映像を観る環境としてはトップクラスですからね。僕は初めて映画館で大会を観戦したとき、イスのよさに感動しました。

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入澤esports大会の会場というと、ずらーっとパイプイスが並んでいるイメージがありますけど、5時間6時間とかかる試合も多いですから、たいへんですよね。

――ずっと座っていても疲れない。シンプルだけど重要なポイントだと思います。さて、ウェルプレイドさんの案件は今後も続くんですか?

吉留業務提携というような形で、2018年9月から『クラクラ』のウェルプレイドリーグ、全11戦のライブビューイングが動いています。

――チケットはおいくらですか?

吉留いまのところは入場料1000円で。2000円のチケットもあって、そちらにはドリンク飲み放題とポップコーン食べ放題が付いてきます。

入澤わいわい楽しくカジュアルに参加してほしいですね。映画と違って静かにする必要もないですから。むしろ声を出してもらったほうがいい。アルコールもいいと思います。

吉留先ほどの『ハースストーン』の深夜イベントでも、軽く飲んでいる人は多かったですね。

――お酒を飲んでいいというだけで、リラックスした雰囲気になるといいますか。あれは最高でした。

吉留ベロベロになる人もいなくて平和に終わりました。映画館という場所柄もあるんですかね。

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深夜の『ハースストーン』観戦会は軽食や飲みものの持ち込みはオーケーだった。

炉端の集いならぬスタバの集いが実施のカギ

――最近は『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)の施策も始まってますね。こちらはPC版ですが。

入澤現段階では、とにかくチャレンジして、案件をたくさんこなして、知見を溜めるのが大事だと思っています。どういったことならユーザーに受け入れてもらえるのか、わからないことも多いです。失敗も成功もあります。成功の法則はまだまだ確立できていないですね。

吉留PUBG』に声をかけさせていただいたきっかけは、そうですね、人気がすごいというのがありますね。

――めちゃくちゃシンプル。

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『PUBG』は日本のみならず世界各地でプロリーグが実施されている人気タイトル。ライブビューイングには出場チームのファンの姿もあった。

吉留PCゲームでもやってみたいという気持ちはずっとあったんです。『リーグ・オブ・レジェンド』なんかもいいですね。『PUBG』は2017年の暮れに正式サービスが始まって、飛ぶ鳥を落とす勢いで。

――まずは日本での大会を主動しているDMM GAMESさんに話をしたわけですか?

吉留いえ、いちばん最初は開発のBlueholeさんに会いに行ったんですよ。

――いきなりですか。

吉留そのときは日本にオフィスすらなかった頃だと思います。すごい人気だからアプローチしてみようと思って調べても、公式の情報が全然出てこないんですよ。いろいろな人に頼み込んで、何とかつながりを作りました。
 まだ日本で大々的な活動をしていない頃に会いに行ったら、DMMさんのほうで動くことを聞いて、そこからDMMさんに話に行きました。

――行動力がすごい。

吉留あんまり気にせずドアをノックしちゃうタイプです。

入澤2017年7月かな、韓国に視察に行ったんですよ。esports系のスタジアムを見てみたくて。その最中にも単独で、「ちょっとBlizzardさんに行ってきます」ですから。

――行動力!

吉留あのときはBlizzardさん、日本になかったんですもん。これはチャンスだと思いましたよ。『ハースストーン』もあれば『オーバーウォッチ』もある。一度は話をしてみたくて、何とか伝手をたどって紹介してもらったんです。
 そのときは「日本にオフィスがないからすぐには難しい」という話でしたね。でも、日本にオフィスを作る計画があると聞いて、「作った暁にはいちばん最初に行きます」とだけ残して帰ってきました。
 で、日本にオフィスができたと聞いたら、すぐに連絡しました。約束は覚えていますと言っていただいて、そこから具体的な話が始まりました。

――それだけラブコールもらったらBlizzardさんも一目置きますわ。

吉留あの頃から、Blizzardさんは日本国内でのコミュニティ作りを大事にしたかったみたいでしたね。
 『ハースストーン』で何かやりたいと相談したら、メーカー公式でやるのは難しいと。外資系だからというのもあるのかな、グローバルに話を通さないといけなくて、Blizzard主催だとフットワークが重くなる。
 でも、コミュニティ主催の観戦会みたいなものだったら。彼らにはもともとオフ会を推奨する“炉端の集い”というカルチャーがあります。それなら可能性あるんじゃないですかいうことで、コミュニティリーダーをご紹介いただきました。実施までスタバで3回くらい話をしたと思います。

――炉端の集いならぬスタバの集いが実施のカギだったと。

入澤そこから、7月1日の横浜の観戦会にたどり着いたという感じです。

――その人が主催のahirunさんだったわけですね。

吉留『ハースストーン』内におけるahirunさんのプレゼンスはすごいですよね。炉端の集い開催者としてBlizzard本社に呼ばれるくらいですから。
 最初、映画館での完成会は「500席の会場を30人で使う贅沢感を味わってもらいたい」という企画だったんですよ。いきなり大人数を集めるのは難しいので。その代わり、その30人には特別なプレミア体験をしてもらって「映画館よかったよ」と発信してもらう。導火線に火をつけるイメージでやりたかった。でも、ahirunさんが強力すぎてですね(笑)。いきなり250人も集めちゃった。

――日中のイベントならまだしも、深夜の有料イベントなのに。ところで、どうしていちばん大きいスクリーンを使ったんですか?

入澤夜中で全部空いていたので、どこでも使えたんです。せっかくだから贅沢をしてほしいなあと。試写会とかでもあまりやらないんですけどね。

――提供するものの違いですかね。試写会はぜいたくというより少人数しか見られないプレミア感も大事でしょうし。

吉留あの後に、ahirunさん=石油王説が流れたと聞きました(笑)。あんな場所を使うなんて、どれだけ資金力があるのかと。

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『ハースストーン』イベントでは豪華なラウンジも開放されていた。疲れたらここで休んでもオーケー。来場者は待遇がよすぎて不安だったのかもしれない。

C4 LANのようなイベントを映画館で開催したらおもしろいのでは

――『ハースストーン』イベントは少人数想定だったんですよね。イオンシネマさんほど名の知れた企業なら、大きく打ち出したほうが効果的と考えてもおかしくないと思うのですが。

吉留大きく打ち出すのもボトムアップも、両方やるべきだとは思います。ただ、コミュニティ目線の草の根活動のほうが、いまの段階では大事だろうなと。

入澤もちろんタイミングを見計らって時期が合えば「イオンです!」と名前をアピールするのも必要でしょう。慎重にやらなきゃいけないなとも思ってますね。

――僕からすると、企業の人がコミュニティ目線を大切にしてくれるのがすごくうれしいんです。前に軽くお話ししましたよね。

吉留「急に外の企業が入ってくると嫌がる人もいる」ってやつですか。しましたねー。

――それを『ハースストーン』ライブビューイングのリポート記事内に書いたら、いい反響があったんですよ。

吉留それはありがたいですね。くり返しになりますけど、わりと大きな看板を背負った企業がesportsみたいな若い業界に入ろうとすると、「流行の言葉に金のにおいを感じた大人が、僕たちの好きな世界を踏み荒らすんだろ。知りもしないくせに」みたいに思われる。それは嫌なんです。
 そんなことするつもりは全然ないですから。ほんとに。映画館はゲーマーにとって楽しいツールだと思います。どうぞ楽しんで使ってくださいという気持ちが強いです。
 ただ、esportsが産業として成り立つには、大人の力も必要。きちんとしたエコシステムを作っていかないといけないのも事実です。その日が来るまでは、縁の下の力持ちもいいんじゃないかと。

入澤まだまだお客さんの気持ちも、やりかたも、勉強中です。私たちはしっかりやっているつもりでも、コミュニティに届かないこともある。どんなにリッチなコンテンツを提供しても、ユーザーが求めていなかったら意味がない。(ゲームの人気は)一般的な知名度や売上本数では図れないところもあるんだろうなと。

吉留遊んでいる人の数はそんなに多くないけれども、ひとりひとりの愛情が深いゲームはあるでしょうし、逆もあるかもしれません。まだまだ勉強しないといけませんね。

――「すごく人気のゲームを映画館でやればいい」みたいな感覚がひとり歩きすると危険なわけですね。

吉留今後もライブビューイングは続けていこうと思ってるんですけど、それ以外に映画館を使ったゲームの遊びかたを研究したいんですよね。
 何をしてほしいかと考えたら、やっぱりいちばんはゲームを遊んでほしい。見るのも楽しいんですけどね。映画館を、みんなでゲームを遊ぶ場所にもしたい。C4 LAN(※)というイベントがありますよね。ああいうのを映画館でできないものか。最近はそんなことも考えてます。

(C4 LAN:参加者が好きなゲームやハードを持ち寄って好きに遊ぶ、LANパーティーと呼ばれるタイプのイベント。詳細は下記の記事を参照してください)

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イオンシネマがesportsライブビューイングを続ける理由を訊く「映画館を使ってコミュニティを支えたい」_10

――まさか映画系の関係者からC4 LANの名前が出るとは。その企画いいですね。

吉留さすがに3日間ぶっ通しは難しいので、やるとしたらオールナイトイベントですかね。10スクリーンくらいあって、部屋ごとに違うゲームタイトルを一晩中遊びましょうとか。
 東京ゲームショウみたいな大型イベントの裏でやるのもいいですし、定期的に開催するのもいい。とにかくですね、映画館を使って遊んでもらいたいんですよ。

――まさにコミュニティの場。ゲームもするし、試合も観るし、集まってだらだら雑談するし。そういう場として機能するのが理想的であるわけですね。

吉留メーカーが用意してくれるものだけじゃなくて、ユーザーが自分たちで遊びかたを企画して使う場所にしてほしいなと思ってます。

入澤esportsの試合はたいてい配信されますから、試合を観るだけなら映画館に行く意味はあまりない。それでもライブビューイングに来てくれた方の満足度が高いということは、みんなで集まって観ることを楽しまれているんだろうなと。雰囲気に満足して、また来ていただく。
 これは本業で直面している問題解決のヒントになるとも考えているんですよ。

――本業というと、映画ですか?

入澤そうです。映画もいっしょなんですね。いまはすぐにBlu-rayが出ますし、何ならネット配信でもいいわけです。

吉留いままでの映画館は、送り手が作った“映画”というコンテンツを、受け手が一方的に受け取る場所だったんです。映画館のいちばんの価値は“ファーストウィンドウ”。最初に観られるということですね。
 昔はとくにそうでした。そのときにやってる映画は映画館に行かないと観られない。だから、わざわざ行く。これからはそういう時代ではなくなっていく可能性もあります。そうなったときに映画館の存在価値は何なのか。

入澤たとえば、ファーストウィンドウがネット配信になったとき、同じ楽しみを持った人が集まる場所みたいな価値が大切なんだと思います。
 ゲームのコミュニティの人たちはそれがもっと顕著です。同じゲームが好きな仲間が集まるとより楽しめる。それは発見でしたね。映画もゲームも、集まって好きなものを満喫する場として映画館を活用していきたいんです。

吉留そこに、映画館を新しい場所にするチャンスがあると思います。コンテンツを好きな人が集まって楽しむ。あるいはそこでコミュニケーションを図ったり、友だちを作ったりする場所にするイメージを持っています。映画を観るついでに友だちにも会うみたいな。
 esportsのオフラインイベントに目を向けると、まさにそういう場になっている。そういう価値を作り出さないと、将来的にはジリ貧になっていく可能性もあります。
 仲のいい友だちといっしょに夜通し試合を観て、人によってはそこで友だちを作って、朝になったら眠いなとか言いながら楽しそうに帰る。ああいう経験をしてもらって、(『ハースストーン』の深夜観戦会を開催した)イオンシネマ港北ニュータウンが思い出の地になっていたらうれしい。そういう人をどんどん増やしたら映画館の価値は上がっていくんじゃないかな。

入澤イベントを体験すると記憶に残りますよね。映画も同じで、リビングのテレビで観るのと映画館で観るのでは感覚が違います。
 体験記憶っていうんですかね。子どもの頃にお父さんと映画館で観たドラえもんが記憶に残ってる、みたいな人も多いと思います。「そう言えば隣りの人がすごい泣いてたな」とか、雰囲気も含めて体験記憶として残る。
 esprotsのイベントも、ひとりでPCで観るのとみんなで集まるのでは、楽しさの方向性が違うと思うので。引き続き、そういう楽しさをユーザーといっしょに作り上げていきたいですね。

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“お金を払ってトップの試合を観る”という市場を作る

吉留今後の話として、ライブビューイング市場はちゃんと作らないといけないと思ってるんですよ。
 いまのesports市場はスポンサーやメーカーのお金に依存しているように感じます。よく言われてることですけど。

――プロモーションの一環としての無料イベントが多いですからね。

吉留本当は、リアルのスポーツと同じように、お金を払って観戦する市場があるべきだと思うんです。“お金を払ってトップの試合を観るという感覚”を浸透させられたら、もっとすそ野は広がります。興行市場を作るとしたら、映画館はインフラとして使いやすいと思うんですよ。
 一般ユーザーの支持のもとで興行市場の収益がトッププレイヤーに還元されて、BtoCも含めた健全な構造ができて、初めて「ゲームでちゃんと食べていけます」と胸を張れるんじゃないかな、と。

入澤無料で観られるストリーミング映像で興行をするとなったとき、お金を支払うのは少し違和感があるかもしれません。でも、映画館は1000円2000円を払って“いい環境で観る”ための施設というイメージがありますから。

吉留興行市場のすそ野を広げて、その一部をプレイヤーやメーカーさんに還元すれば、しっかりしたエコシステムができあがる。プロの収入が明確になれば、プロを目指す人は安心するだろうし、それを応援する家族も増えると思うんです。
 プロに手が届かなかったり引退した人は運営側で働くみたいな流れができれば、産業としてリアルスポーツに近づけられるかもしれない。
 いまみたいに、大きな会場で無料イベントを続けるのは、どこか無理している感じがあるなあ、と。

――どこかがお金を負担しているわけですからね。正しいお金の循環とは少し違うのかもしれません。

入澤いまはプロチームも(esportsに参入する)企業さんも増えていますよね。その人たちも同じことを考えていると思います。スポンサード頼りのビジネスだと成り立っていかない。スポーツビジネスと同じように、お金を払ってすばらしい試合を観る感覚を浸透させたい。

吉留おごった言いかたをすると、うまく業界全体に貢献していきたいんですよ。素敵な未来を実現するためにも、私たちの映画館をもっと活用してほしいですね。