ここにきて、充実ぶりが著しいVR関連のコンテンツ。各クリエイターによる趣向が凝らされたタイトルがつぎつぎと生み出されているわけであるが、DeNAとあまたが手掛ける『VoxEl(ボクセル)』もそんな注目タイトルの1本。

 DeNAによる新しいテクノロジーに対する研究の一環として始動した本作は、ファンタジーの世界観をベースにしたステージクリアー型の謎解きアドベンチャー。プレイヤーは、この世界の住人とおぼしき謎の美少女エルとともに、フィールド上のギミックを解き明かしてくことになる。キモとなるのは、エルの動きに制約があること。エルは、重りのついた鎖で足をつながれており、歩くことがままならない。つまりプレイヤーは、特別な道具 “ワンド”を要して重力を操り、適宜エルを移動させていく必要があるのだ。

 ちなみに、『VoxEl』の開発に参画しているあまたは、ほかにVRタイトルの『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』を開発中で、このふたつのタイトルは“仮想キャラクターとのコミュニケーション”という点と、“制約”をゲームシステムに盛り込んでいるという点で共通している。両作が、“兄弟みたいな……”ということは、別の記事でも言及していることだが、“制約”というものがいかにゲームプレイのアクセントとなるのか……というのは、極めて興味深い。

 さて、そんな『VoxEl』に関しては、記者はこの夏にプレイさせていただいており、そのクオリティーの高さは体験済み。それが、同作が東京ゲームショウ2018に出展するにあたって、なぜ試遊の機会を求めて会場に出かけていったかというと、“エル役に起用された石川由依さんの声が実装されている”という点に尽きる。

 本作の詳細に関しては、詳細は以前の記事をご確認いただきたいのだが、前述の通り、“パートナー”となるエルと協力しながら、ステージ上の謎を解いて進んでいくというのが本作の流れ。本作では“仮想キャラクターとのコミュニケーション”という部分に非常に力を入れており、ゲームをプレイしていると、エルの“存在感”の大きさに得も言われぬ感情に包まれる。VRという没入感の高いデバイスであるがゆえにさらに増幅される不思議な感覚というか……。

 もともとは、海外イベント出展のために、エルの声は英語音声で収録されていたのだが、今回は、国内での『VoxEl』の展開も視野に入れて、石川由依さんをエル役に起用。没入感をさらにうながしてくれるという印象だ。エルという存在にぐいぐいと引き込まれていくのは、石川由依さんの演技力のゆえ。……というのは後知恵で、プレイ中はとにかく没頭していてそんなことを考える余地もなかったのだが。ちなみに、再プレイで思うのは、エルが足かせをかけられていることにより、より「守ってあげたい」という気持ちが喚起されること。かといって、一方的に庇護するという関係ではなくて、“知恵を授ける者”としてパートナーとして対等ということで、絶妙な関係性を築いているんだなあ……と思う。

『VoxEl(ボクセル)』は石川由依さんがエルを演じることでさらに没入感が高まる。キャラクターに褒められるのもうれしいもので……_05
とにかくグラフィックがキレイ。エルの魅力と相まって、世界観にぐいぐいと引き込まれる。

 また、再プレイということで改めて気付かされるのは、グラフィックの緻密さ。キモとなるエルの造型はもとより、背景などもしっかりと作り込まれており、“世界”が丁寧に作り込まれている。これは、より没入感を促したい……という作り手の意図かと思われるが、その効果たるやてきめんで、いつまでもこの世界に浸っていたい……と思わせる。

 それにしても、『VoxEl』で極めて興味深いのは、どのように展開するかを想定せずに開発を始めたということ。記者などの素人考えだと、ゲームコンテンツを作るときには、プラットフォームや形態をある程度確定させてから開発に着手するのが通常だと思われるが、『VoxEl』の場合はとにかく作ってみてから、どのように展開するかを模索しているようなのだ。いまは、さまざまなイベントに出展して来場者に触れてもらい、フィードバックを受けてブラッシュアップするターンのようだ(ちなみに出展バージョンの対応ハードはVIVE)。まるで長期ロケテのような……。実際のところ、愛娘を手塩にかけて育てているという雰囲気はひしひしと伝わってくる。つぎに試遊できるときはどのような変化を遂げているのか、今後の動向が気になるタイトルである。

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記者は2度目のプレイとあってサクサクゲームをプレイ(けっこう忘れていた箇所も多く、担当の方にアドバイスをいただきつつも)。が、デモ版でのボスとの戦いでは、エルを逃しながらのプレイを余儀なくされるのだが、焦りのあまりにエルを谷底に落としてしまうことに……。広報さんに笑われつつゲームプレイを終了した。焦ってしまうくらい臨場感があるんですよ! リベンジの機会は?

今後も試遊の機会は増やしていきます

 最後に、会場にてDeNA ゲーム・エンターテインメント事業本部 ゲームコンテンツ事業部 プロデューサー(兼ゲームデザイナー・サウンドクリエイター)の永田峰弘氏にお話をうかがうことができたので、以下にご紹介しよう。

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DeNAの永田峰弘氏(左)と東京ゲームショウ2018中にエルに扮したコスプレイヤーのうに子さん。

――最新バージョンで変更された要素は?

永田東京ゲームショウ2018に出展するにあたっては、日本語対応にしています。エルの声優は石川由依さんにお願いすることにしました。いろいろと候補を探していたなかで、“いちばんハマる”ということでスタッフのあいだで意見が一致したんです。エルは、最初無感情だったのが、だんだん感情を出してくるという役どころだったので、石川さんにぴったりではないかと判断しました。今回の試遊はタームが短いので、わりとすぐに仲よくなる感じになっているのですが……。

――そのへんが石川さんは適任だったということですね?

永田石川さんは、何よりも歌が本当にうまくて(※注:ゲーム中では冒頭で歌を披露する)。歌だけは、“エルの世界の特殊な言語の歌”ということで設定していて、僕が英語の歌詞をアナグラムで“エル語”に変えて作りました。

――エルに励まされると、うれしくなりますよね。褒め上手だなあ。

永田そうですよね。あのセリフも僕が書いたんですよ。

――(その事実は聞きたくなかった……)。

永田VR空間でいっしょに冒険をしていくなかで、コミュニケーションをどうやってとっていくのがいちばん気持ちいいのかということを試した結果、“やはり褒めてもらうと単純にうれしい”という気づきがあって、褒められるタイミングでできるだけ褒めています(笑)。

――(笑)。以前お話をうかがったときは、今後試遊の機会を増やすとのことでしたが……。

永田そうですね。この東京ゲームショウ2018を筆頭に国内のイベントに続々と出展していきたいと思っています。いろいろなところで体験できる機会が増えてくると思います(※)。

※東京ゲームショウ2018後、10月10日~14日に北海道・札幌で開催された“No Maps Touch the NEW Street”に出展

――来場者のみなさんの反響はどうですか?

永田とてもいいです。試遊後にアンケートをとって、いろいろと意見をいただいているのですが、とても好評です。操作でVR慣れしていない方が「最初ちょっととまどいましたけど」とおっしゃったことはあったのですが、途中で酔ってしまったりとか、「わからなくてやめます」という方は、ぜんぜんいませんでした。30分フルでみなさん楽しんでいただいています。

――ちなみに、『VoxEl』をどのような形で世にだすか……というのは決まったのですか?

永田検討は継続中です。とはいえ、「イベントに出展した」という話がでてくると、どんどん(イベント出展の)お声かけをいただくようになっています。

――『VoxEl』の今後は、基本的にはイベントのアトラクションとして?

永田それも考えています。実際に、「そういう展開はできないんですか?」というお誘いもいただいています。そこは検討していきます。ただ、時間をかけて遊ぶゲームにはなっているので、お客様が家庭で遊べる環境に向けての配信は、基本やるつもりでいます。ただ、時期とかは未定です。

 最後に、コスプレイヤー・うに子さん(https://twitter.com/unikouni)によるエルの艶姿をお届け。コスプレを制作したのは、『牙狼<GARO>』やAKB48の衣装製作を担当したJAP工房。永田氏のこだわり(ストッキングの濃さは30デニールとか……)が随所に反映された衣装です。

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