2018年8月22日~24日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2018”。最終日となる8月24日には、ディライトワークスが、『Fate/Grand Order』(『FGO』)や、『Fate/Grand Order Arcade』(『FGOAC』)に関するセッション“ディライトワークス流、プロジェクトマネージャー入門 ~FGO PROJECTを支える制作進行テクニック~”を行った。

『FGO』のアップデート&制作はどのように進む? 制作進行を支える“プロジェクトマネージャー”という仕事【CEDEC 2018】_01

 このセッションでは、『FGO』を筆頭とする“FGO PROJECT”のプロジェクト進行についての解説と、ディライトワークスにおける“プロジェクトマネージャー”という役職についての説明が行われた。登壇したのは、『FGO』プロジェクトマネージャーチームのリーダーを務める芦田夏希氏と、『FGOAC』などのプロジェクトマネージャーを担当する戸田圭祐氏だ。

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芦田夏希氏(左)、戸田圭祐氏(右)
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 まずは、芦田氏からプロジェクトマネージャー(PM)という役職についての解説。一般的なおもな業務はプロジェクト進行を統括する役職だが、実際の業務としてはメンバーの選定、予算管理などなど多岐に渡り、これは会社によって作業範囲が大きく違うという。

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 ディライトワークスでのPMの仕事は、チームとスケジュールの管理がメイン。コストはプロデューサー、タイトルの品質はディレクターがまとめ、3つのセクションのリーダーが、開発メンバーたちを統括するという座組になっている。

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 『FGO』では、さらにグラフィック、企画、エンジニアの3つの大きなチームと、その他のチームに分かれ、それぞれにディレクターの立場でさらにリーダーが立てられている。制作の流れの基本は企画チームが考えたものを、グラフィック&エンジニアチームが制作していく。その中でPMは、各セクションのリーダーを相談しながら、スケジュールやクオリティに問題なく進むように管理していく。

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 PMは、ユーザーにいいものを届けるために、どうするのがいちばんいいのかを考えて作業を割り振るという。たとえば新しいコンテンツを追加する際に、もし告知よりも実装が遅れてしまっては、PMの居る意味はない。もし問題があった場合は、作業の優先度を変更させたり、予備に取っておいた期間を使うなど、割り振りを考えていくそうだ。問題が起きないように、または問題が起きた際に対応を考える“軍師”のような存在といったところか。

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 話し手は戸田氏に代わり、続いては『FGOA』のPMの仕事について。ディライトワークスの構成は、基本的に『FGO』同じく、3つのリーダーの下に開発チームがいる構成。大きな違いは、開発や運営などを担当しているセガ・インタラクティブと、おもに監修を担当しているTYPE-MOONの、2社とのやり取りが入ること。

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 質問や素材提供など、どちらとのやり取りもすべてPMが1度聞き、それから作業を適材適所に割り振っていくという。もしセガ・インタラクティブ側からTYPE-MOONへの監修依頼があったとしても、まずPMがその依頼を聞くという仕組みだ。『FGOA』は昨年に、“来年の夏に稼動を開始します”と発表したため、それに間に合うように期間ごとに目標を決めて取り組み、間に合うように進めたとのこと。開発担当のセガ・インタラクティブとは、毎月ミーティングをくり返していたそうだ。

 苦労した点としては、スマートフォン用ゲームである『FGO』とは違い、『FGOA』はアーケードタイトル。ゲームセンターで試遊をしてもらうロケーションテスト(ロケテ)で、プレイヤーからの意見を聞きつつ開発を進めるのが、アーケードタイトルの通例だ。意見を反映したバージョンを開発するとともに、平行してつぎのロケテで使用するバージョンも用意しないといけないため、複数の開発ラインが動いていたそうだ。その中で、いかにTYPE-MOON側へ負担を掛けずに進めるのかが大変だったと、戸田氏は語る。

 また、アナログゲームである『Fate/Grand Order Duel -collection figure-』(『FGOD』)の事例も紹介された。『FGOD』は企画をすべてディライトワークスが行い、カードなどのデザインは『FGO』開発スタッフが担当。アナログゲームとしてのルールなどのブラッシュアップはワンドローが行った。そして、ANIPLEXがゲームに使用するフィギュアの制作を担当。こちらもすべての作業をPMが統括し、目標を決めて作業を行った。とくにフィギュアの制作には、素材提供などを迅速に行っていったことで、問題なく進めることができたそうだ。

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 『FGOA』と『FGOD』の狙いは3つ。ひとつは、小さなチーム編成にすることで、どのような方向に進めばいいいかの意思決定を早くすること。ふたつ目は、ディライトワークスで監修してから、TYPE-MOONに見せることで、TYPE-MOON側の負担を減らす=開発スケジュールを早くすること。そして最後は、進捗管理をPMに任せることで、情報の煩雑化が防げるといいうこと。何か問題が起きたら、PMに聞けば解決するというわけだ。

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 ふたたび芦田氏に話し手は変わり、ここからは制作進行における基本的なテクニックが解説された。まずは基本中の基本ではあるが、すべての作業を“タスク化”すること。どんな些細な作業も、必ずタスク化することで、問題があった場合はすぐに分かるそうだ。そしてこれは、メモやスケジュール表に書いておくだけではダメだという。すべてのタスクを、すべての人間が見れるようにすることで、全員の進捗を分かるようにすることで、問題も発見しやすとのこと。それを見ることで、ミーティングあった際にも、事前に何を話せばすぐに分かるので、時間短縮にもつながるのだとか。

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 そしてPMでさらに重要なのはコミュニケーションについて。PMとはコミュニケーターであり、人と人とのやり取りを円滑に進めることが最大の任務だと、芦田氏は語る。情報整理するのはもちろんのこと、時にはキツい言い方の要望をオブラートにして円満なやり取りにしたり、説明の足りない言葉に、情報を付加するといったことも行っているそうだ。

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 最後には、あらゆるタスクを自分のことだと考えて動くのが、PMの基本だとコメントし本セッションは終了。筆者はここまでのトークを聞いて、プロジェクトマネージャーとはゲーム作りにおける役所のような存在なのだろうと感じた。読者のみなさんも、『FGO』の裏側でこういった役職の方々が活躍していることを、今回感じられたのではないだろうか。

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ちなみに“CEDEC 2018”で配布されたコチラのプロジェクトマネージャーガイドブックも、ディライトワークスが制作した。